7-4:放浪民の宴
エイレナから意味ありげな視線を送られると、フェリックスは神妙な面持ちで彼女にうなずいてみせた。クロトールはそのわずかなやり取りを見ただけで、二人が複雑な事情を共有しているのだと悟った。
「もう気づいてるだろうが、俺にはリベロニア人の血が流れている。出身もそこだ。向こうに家があった頃、あの場所は自由の名に恥じない都市だった。誰もが政治に無関心な統領に頭を悩ませてはいたが、それでもいい時代だった」
フェリックスの語りはさながら老人の回想録のようで、彼の外見と比較すると、ひどい違和感があった。
「リベロニアでは武闘大会が開かれてることがあって、俺もよく参加してた。剣術じゃなく、弓術部門でね。たまに優勝することもあったけど、親父はそれを快く思ってなかったな。賞金を持ち帰る度、でかいカエルを踏みつけたような顔でこっちを見てきたから」
「なぜだ? 子供が立派なことをすれば、喜ぶのが親というものだろう?」
クロトールが疑問を口にすると、フェリックスははにかむように笑って、
「なぜなら親父は鍛冶屋だったからさ」
と答えた。
「自分が剣を売って商売しているのに、息子に弓を使われたら面白くないだろう? それに、親父は俺の能力不足を心配してた。俺には鍛冶場で働く体力も、やる気もなかったから。同じ血を引いているのに、どうして素質は引き継がれなかったんだろうな?」
フェリックスの口元から再び笑みがこぼれた。彼にとって父親との関係は、話したがらない過去の中で、唯一価値あるものなのかもしれない。
「それでも、将来的には家業を継ぐつもりでいたさ。弓はちょっとした気晴らしで、いずれはやめるつもりだった。あのまま何もなければ、俺は腕の悪い鍛冶屋として一生を終えていたんだろうな。でも、そうはならなかったんだ」
そこまで言うと、フェリックスは席から立ち上がり、逃げるように背を向けた。
「悪い、これ以上は無理だ。後はエイレナかミアに聞いてくれ。俺は風に当たってくる」
肩越しに言い残すと、フェリックスは明かりの届かない場所へ消えてしまった。彼の平穏だったはずの人生に何が起きたのかは、結局分からずじまいとなった。
クロトールが話を打ち切られて呆気に取られていると、不意にミアが横から話しかけてきた。
「フェリックスの過去を知りたいですか、クロトール? 必要なら教えますが——」
「やめろ、ミア」
それまで無言を貫いていたエイレナが、有無を言わせぬ口調でミアを制止した。
「これはわたしたちが好きにしていい問題ではない。世の中には法のあるなしに関わらず、許されないことがあるのだ。お前は今後、それを学ばなければならない」
それからエイレナはクロトールの方を向いた。
「誤解しないでくれ。これは嫌がらせではない。ただ、我々の口からは言えないというだけの話だ。わたしがフェリックスと初めて会った時、彼はひどく動転していて、会話もろくにできない状態だった。素性を明かしてくれたのは何年も経った後だ。同じ歳月を待てというわけではないが、物事にはそれぞれ適切な時期というものがある。本人がその気になれば、いつかお前に直接話すだろう」
エイレナの主張はもっともで、反論の余地はなかった。クロトールは深くうなずき、これ以上は詮索しないと決めた。
「確かに、互いを知るにはもう少し時間が必要かもしれない。私とて、過去を洗いざらい話したわけじゃないからな」
クロトールはエイレナの顔色をうかがいながら話を続けた。
「それなら仮に今、あなたの過去を尋ねたら怒るか、エイレナ? 誤解しないでくれ。あくまで仮定の話だ」
「わたしの過去は、お前やフェリックスほど複雑ではない」
エイレナは感情の読めない表情で、淡々と答えた。
「つまり仲間の中では一番退屈で、期待するだけ損ということだ」
それ以降、宴会の場で誰かの昔話が掘り起こされることはなかった。散歩を終えたフェリックスが戻ってくると、一行は他愛のない雑談をしたり、今後の予定について話し込んだりした。会話は夜が深まり、皿の上の料理がなくなるまで続いた。その間、放浪民の長老は仲間の輪に留まり、最後まではしゃいでいた。
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