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7-2:放浪民の宴

 長老とともに皆のところへ戻ると、宴会の準備はすでに整っていた。薬草サラダや焼き魚、野鳥の丸焼きといった料理の数々が、松明の輝きに煌々と照らされている。会場はニレの大樹を起点に広がっており、中央部分は踊りや歌を楽しむための自由な空間となっていた。


 宴会の参加者の中には、怪我人や病人もいた。中には眠っているのか、気を失っているのか曖昧な者もいて、宴どころではないように思えたが、


「彼らは彼らで楽しむから、問題ない」


 と長老は言い張った。


「動ける者が世話をし、彼らに不自由させないようにする。今夜の宴は全員参加だ。これは我々にとって、重要な儀式なのだよ」


 エイレナと長老の間に座らされたクロトールは、席に着くなり、自分に対して注がれる人々の好奇の視線が気になり始めた。その居心地の悪さに思わず顔をしかめていると、隣に座るエイレナが髪を揺らしながら、からかうように話しかけてきた。


「気づいたようだな、クロトール。人々は先ほどからお前の話でもちきりだぞ。皆が英雄の到着を心待ちにしていたのだ」


「大げさだな。単に帝国人が珍しいだけじゃないのか?」


 クロトールが言葉をいなすと、席の左側にいるフェリックスが、すかさず茶々を入れてきた。


「恥ずかしがるなよ、爺さん。エイレナが嘘をつくと思うか? ここの皆は”帝国人”じゃなくて、あんたに興味があるんだ。とりわけあんたの剣の腕前についてな」


「彼らはあなたから戦い方を教わりたいのですよ」


 と口にしたのは、フェリックスの隣で行儀よく座るミアだった。


「さっき男たちがそう言っているのを聞きました。彼らは森の危険から仲間を守るために、剣術を学びたがっているのです」


 すると、ここで一連の話を聞いていた長老が、気まずそうにせき払いした。


「まあ、そういった話はひとまず後にしないか? そろそろ宴を始めよう」


 長老は杯を手に立ち上がると、喧噪に満ちた会場で声を張り上げた。


「静かに! 食ったり騒いだりする前にまずは口を閉じろ」


 その一声で、辺りは水を打ったように静かになった。リーダーの指示に従う放浪民の即応性は、帝国の軍隊にも引けを取らなかった。会場がしんとする中、長老は仲間に向かって大声で語りかけた。


「今日の悲劇は家族を奪い、傷つけた。明日以降も命の保証はなく、同様のことが繰り返されるかもしれんが——私がいつも口にしている言葉を覚えているな? 死ぬのが明日でも百年先でも、我々が行き着く場所は同じだ。肉体は魂を捕らえる器でしかなく、解放を知った魂は、喜びに歌い、踊る」


 長老は杯を頭上にゆっくりと掲げた。


「悲しむ必要はない。我々放浪民は、長年そうして生きてきたのだから。今日の宴が見えない家族、旧友、そして新たな仲間を喜ばせますように。乾杯!」


 彼が最後の台詞を言い終わると、それまでの沈黙が嘘だったかのように大騒ぎが始まった。会場は多くの宴の例にもれず、歌えや踊れのお祭り状態で、料理は皆の胃袋の中へ次々と消えていった。子供たちは最初こそ沈んだ面持ちでいたが、いつまでも馬鹿騒ぎする大人たちを眺めているうちに、やがてその輪に加わった。


 クロトールはそんな彼らの様子をぼんやり見ていた。放浪民はさながら鉄のような民族だ。仲間の死を嘆きはするが、長くは引きずらない。土地を持たない彼らの、独自の死生観がそうさせるのだろうか。


「それで、クロトール。先ほどの話だが——」


 再び席についた長老が、きまりの悪い態度でもごもごと言った。


「稽古についての相談だ。お前の剣術を私の家族に教えて欲しい。もちろん報酬は払う。お前が並の剣士ではないことは、皆が承知しているからな」


「確かに、この爺さんの腕前は並じゃない」


 フェリックスはクロトールの実力を素直に認めた。


「なんであんなに剣が上手いんだ、爺さん? 帝国の審問官は、そろいもそろって武芸の達人なのか? それともあんただけが特別なのか?」


「いや、そのどちらでもないさ」


 クロトールは首を振って答えた。


「全ての審問官が武芸に秀でているわけではないし、私の経歴だって、一部を除けばいたって普通だ」


「我々はその“一部”が気になるのだ、クロトール」


 エイレナが笑みを浮かべて口を挟んだ。


「お前は自分の素性を語ろうとしないな。神殿で手当てを受けていた時もそうだった。だが、当時に比べて我々はだいぶ親しくなったし、共有できる秘密が少しはあってもいいのではないか?」


「回りくどい言い方をするんじゃない、エイレナ。今のはもっとシンプルに言えるだろう?」


 長老がうんざりした様子で意見した。


「“お前の過去を教えろ”だ! どうだ、クロトール? 分かりやすいだろう?」


「少々礼儀に欠けるが、悪くないな。簡潔明瞭だ」


 クロトールは焼き魚から、頭と骨を抜き取りながら答えた。目の前に置かれた川魚はこれまで見たことがない種で、皮は分厚く、骨が多かった。余分な部分を取り除き、食べられる状態にするには時間がかかりそうだ。


「いいだろう。この魚と格闘している間、私の身の上話を聞かせてやるとしよう」


 全てを語り終える頃には、魚は食べ頃になっているはずだ。クロトールはこれまで語ることのなかった自分の過去を話し始めた。

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