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7-1:放浪民の宴

 その日の夕方、湧き水のそばで一人<誇り>の手入れをしていたクロトールに、何者かが近づき声をかけた。


「きれいな剣だな。そいつはどこで手に入れたんだ、クロトール?」


 その声の主は、一行が救出した放浪民の長老だった。皮製の服を着込み、常に裸足で歩く彼の肌は、長年の屋外生活によって干しイチジクのようにしわしわになっていた。


「同じ質問を敵からもされたな。当時のことは正直、あまり思い出したくないが」


 クロトールは肩をすくめて答えた。今述べた”敵”というのは、異端者のルキウス・アルコニウス・ノガタスのことだ。戦場で目にした奴の不愉快な笑みは、今も脳裏に焼き付いている。下手をすると、今後悪夢となってつきまとってくるかもしれない。


 長老は、そんなクロトールの心境を十分に理解していた。彼は先の戦いで仲間を失った、悲劇の当事者だったからだ。


「なら言わんでいい。さっきの言葉は忘れてくれ」


「いや、大丈夫だ。この剣は湖の貴婦人からもらった物で、名を<誇り>という。貴婦人については知っているか?」


「ああ、知っているとも。彼女とはもう長らく会っていないがね」


 長老は流暢な帝国語で答えた。この老人は長い人生の中で、役立つ言語を少しずつ学んでいったようだ。<黒鉛の森林>には隠者や犯罪者などの訳あり者も暮らしており、そのような者たちとの商取引は、放浪民にとって貴重な収入源で、言語を習得する動機の一つにもなっているのだ。


「あの湖は、帝国人の村に近すぎるからな。村の連中は我々を襲ったりしないが、積極的に関わろうともしない。互いに距離を取った方がいいと分かっているからだろうな」


「クー・ファディルの隊長は、あなた方を無害な連中だと言っていた。少なくとも、敵とは見ていなかったな」


 クロトールが話すと、長老はほっと安堵の息を吐き、


「それを聞いて、少し気が楽になったよ。近頃は敵が多くて参っていたところだ」


 と述べた。彼の言う”敵”には当然、森の戦士も含まれていた。


「困ったもんだ。争いを避けようにも、連中の方から仕掛けてくるんだからどうしようもない。我々と奴らには同じ血が流れているが、考え方はまるで違う。今日の出来事でそれを確信したよ」


 腕に巻かれた包帯の位置を正しながら、長老はつらつらと思いを語った。その怪我は戦闘の際に負ったもので、傍目に見ても痛々しい。負傷した放浪民は彼に限らず大勢いて、命を落とした者も少なくない。


「ところで、クロトール。そろそろ皆のところに戻らないか?」


 辛気臭い話題に嫌気がさしたのか、長老が少し声色を変えて尋ねた。


「いつまでもこんな場所にいたら、お前の仲間が心配し始めるぞ」


「確かに、ここには長居しすぎたな」


 クロトールは手入れを終えた<誇り>を鞘に収め、立ち上がった。


「それなら一緒に戻ろう。ちょうど腹が減ってきた頃だしな」


「おお、空腹ならちょうどいい」


 そう言うと、長老はきれいな歯を見せて笑った。農耕暮らしに縁がなく、穀物を滅多に摂らない放浪民は、帝国人と比べて歯の状態が驚くほど良好に保たれているのだった。


「風に乗って運ばれてくる匂いに気づいたか? お前たちの旅の安全と、亡くなった者たちの冥福を祈って、今夜は宴だ。存分に楽しんでくれ」



***



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