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5-2:クー・ファディルにて

 道の先から流れてくる灰の混じった空気が、目や喉に不快な痛みを生じさせる。その後も進んでいくと、やがて立ち昇る黒煙の中にクー・ファディルの外観が浮かぶように現れた。村は大規模な火災に見舞われたらしく、焼け落ちた見張り台や防柵、ちりぢりになった太陽の旗などが確認できる。


 村の外観を眺めていたフェリックスが、後方からクロトールに問いかけた。


「どうする? ここからだと、村の詳しい状況を確かめられない。中に敵がいたら、俺たちが近づく前に矢が飛んでくるぞ」


 彼の言う通り、二人の現在地は村より低地で見通しが悪かった。村の内部を安全に探るため、クロトールはあれこれ考えた。一番高い木に登ってみようか? いや、そんなことをすれば目立って標的になるだけだ。しかし、他に確かめる方法はありそうにない。


 村の門から誰かが姿を現したのは、ちょうどその時だった。敵かもしれないと一瞬身構えた二人だっが、幸い相手は水桶を運ぶ非力な村人だった。


 あの村人から、中の様子を直接聞けるかもしれない。そう思ったクロトールは、機会を逃すまいと村人に近寄り、声をかけた。


「すまない、あなたはこの村の住民か?」


 振り向いた村人は、こちらの姿を見た瞬間、驚きに息を詰まらせた。村人の顔を見たクロトールも、同様に息をのんだ。


 それは偶然の再会だった。彼女は以前、湖へ案内してくれた村人のうちの一人——小太りの女だったのだ。


「あなたはあの時の! 生きていたのね?」


 女は驚嘆の声で叫んだ後、安堵の息を吐いた。


「あの後、朝になるのを待って湖へ戻ったんですよ。あなたを探さなくてはと思って。でも、結局何も見つけられなかったんです」


「運良く助けられたんだ」


 とクロトールは言った。


「おかげで今も生きている。あなたも無事なようで何よりだ」


 小太りの女は微笑を返したが、その表情はなぜか頼りなく、悲しげだった。それを見たクロトールの頭に、嫌な予感がよぎった。


「無事なのは家族の中で私だけです。夫はもうこの世にはいません」


 と女は答えた。それを聞いたクロトールは、やはりそうか、と顔をこわばらせた。こういう時の嫌な予感は、大抵当たるものだ。


「あなたの家族に何があったんだ?」


「私の後ろに目をやれば、すぐに分かるでしょう」


 小太りの女は力なく首を振ると、焦点の定まらない目を虚空に向けた。


「夫は炎に巻かれて死にました。夜中までは生きていたけど、長くはもたなかった」


「気の毒に。他の家族はどうなった? あなたには確か、息子がいたよな?」


 女はうなずき、鼻をすすった。彼女の目が潤んでいるのは、辺りに漂う煙のせいだけではない。


「息子は夫を助けようとして、火傷を負いました。私は彼のために水を汲みにいくところなんです。治療の順番が回ってこないから、傷口を冷やすことしかできない」


「手当てが必要なのか?」


 ここでクロトールは、背後で聞き耳を立てていたフェリックスと顔を見合わせた。


「どうやら、我々の力が必要とされているようだぞ、フェリックス。以前私を助けたように、村人を助けてやってくれないか?」


「何だって? <永遠の夜明け>は気のいい慈善団体じゃないんだぞ」


 フェリックスは拒否したが、女の泣き顔を目に入れると、気まずさに頭をかいた。


「仕方ないな。戻ってエイレナに相談してみよう。でも、彼女が許可を出すかは分からないぞ」



***



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