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第5章 街の盗賊

挿絵(By みてみん)

 まだ日がそう低くならないうちに、ロングウィとクラドナとの州境に位置する街、チェスターに辿り着くことが出来たエリィとストラグルは、宿に部屋を取ると夕食のために街へと繰り出した。


「せっかく、アークムからチェスターくんだりまで来たんだ。何かいいものを食べようぜ」

「チェスターのほうが、ずっと都会なんだぞ。我々がアークムくんだりからチェスターまで出てきた、と言うべきだ」

「どっちでもいいよ」


 ストラグルとエリィは、並んで会話をしながらチェスターの中央通りを歩いていた。

 チェスターは、外壁で囲まれた街という、比較的小規模ながらも典型的な都市で、主だった道は全て石畳で舗装されている。外壁などなく、土がむきだしの道が当たり前であるアークム村とは全く様相が違っていた。靴底が石畳を踏む乾いた音が、エリィには新鮮で心地いい。


「おい、あんまりきょろきょろするなよ。田舎者だと思われるだろ」

「何が? 私たちが田舎者なのは事実なんだから、別にいいだろ」

「俺まで一緒にするなよ」

「私はチェスターには何回か来たことがあるが、いつ来ても凄いな」

「何が」ストラグルは呆れた顔をして、「チェスター程度で驚いてたら、これから通るクラドナなんてどうなるんだよ。クラドナの州都のベッケニアを見たら、腰を抜かすぞ」

「お前、ベッケニアに行ったことがあるのか?」

「そりゃ、あるよ」

「どんななんだ?」

「ま、ざっと言って、このチェスター三個分くらいは都会だね」

「チェスター三個分?」


 驚愕の表情でエリィが叫ぶと、


「でかい声出すなよ! 恥ずかしい」


 ストラグルは周囲を見回した。


「凄いな。このチェスターだって、アークムとは比べものにならないくらい大きくて、大勢の人がいるっていうのに、ベッケニアは、この三倍かー……なあ、セントリーア州都のセントリアネスには?」

「さすがにセントリネアスは行ったことがないな。でも、話には聞くぞ。それはもう、とんでもないらしい」

「とんでもないって? 具体的に、どんなふうに?」

「そりゃ……とんでもないんだよ」

「とんでもないのか?」

「ああ、そうだ」

「とんでもないかー……」

「まあ、その分、危険だとも聞くな」

「危険って? 街の中に魔物でも出るのか?」

「そんなわけあるか。ヤバい連中が多いってことだよ。盗賊とか。盗賊ギルドの規模は都市の大きさに比例するからな」

「盗賊ギルドか。アークムには縁のない話だな」

「あんなド田舎に盗賊ギルドなんか作ったって、盗むものが何にもないからな」

「言えてる」

「納得すんなよ――おっと」


 ストラグルは脇に一歩引いた。会話しながら歩くうちに歩調がゆるまっていたため、後ろから来た人の群れにぶつかったのだった。エリィも一緒に避け、二人のすぐ脇を人の波が抜けていく。


「――ちょっと待った」


 ストラグルが腕を伸ばした。その手は通り抜けようとしたひとりの男の手首を掴んでいる。男の手は、エリィの懐に伸びようとしていた。男は抗ったが、そのままストラグルに腕を背中に回された。それを見たエリィが、


「おい! 何をしている――」

「こういうのに気をつけないと駄目だぞ」

「えっ?」

「こいつ、スリだぞ」

「……えっ?」エリィは自分の懐に手を入れた。

「盗られちゃいないよ。直前で俺が気付いたからな。さて、それじゃ、警備騎士団に行こうか」

「ま、待ってくれ……行く、行くから手を離してくれ」


 腕を極められたままの男が懇願する。


「駄目だ」

「おい、離すくらいいいだろ」


 エリィが言ったが、


「甘い。俺がこの手を離した瞬間、こいつは逃走するぞ。そうなったら、盗賊ギルドに逃げ込まれちまう」

「……けっ」


 苦々しい顔で男が舌打ちした。


「とりあえず、脇に寄ろうぜ」


 男の腕を極めたまま道の脇に移動するストラグルのことを、道行く人たちが怪訝な表情で横目に見ていく。


「あ、ああ……」エリィも道の脇に寄ろうとして、「――あっ」通行人と体をぶつけてしまった。エリィとぶつかったのは、マントを羽織り、頭にフードを被った小柄な人物だった。


「ごめんなさい」


 エリィが詫びたが、その人物は振り返りもせず通り過ぎていく。


「――待った!」


 ストラグルが突然、男の手首を離して、エリィとぶつかった人物に手を伸ばす。同時に小柄な人物も足を速めたため、ストラグルの手は僅かに届かず、かろうじてフードを掴むに終わった。フードが取り払われ、中から空色の長い髪がこぼれだした。


「女――まだ子供?」


 エリィとぶつかった人物――小柄な少女――は、一瞬だけ振り返ると、マントからフードを外して走り去った。


「待て!」


 ストラグルが追いかけたが、少女の小さな体は、すぐに雑踏に紛れて見えなくなった。


「どうした?」

「エリィ! やられたぞ!」

「えっ? やられたって……」エリィは懐をまさぐって、「……ない!」

「やっぱりか! あの小娘……」


 ストラグルは手に残されたフードを握りしめる。このどさくさに紛れて、スリの男も姿を消していた。


「ストラグル……すまない」


 申し訳なさそうな顔と声で、エリィが近づいた。


「で、いくらやられた?」

「……全部」

「全部……? も、もしかして、全額持って来てたのか?」


 エリィは黙って頷く。


「寺院から持って来たのと、あの黒髪野郎からもらった分も?」


 これにもエリィは頷いた。


「はあ……」

「だ、だって、宿に置いておくと不用心だと思って……」

「そんな大金を持ち歩くほうが不用心だよ! そのために信用出来る、いい宿屋を選んだんだぞ!」

「すまない……」

「というか、あいつからもらったのは金貨二百枚だろ。そんな重たいものを、わざわざ持ち歩いてたってことか?」

「実は……宿で白金(プラチナ)貨に両替してもらったんだ。少しでも持ち運びやすいようにと思って……」


 白金貨一枚は金貨五枚に相当する。そのため、ヴォルトレイドからもらった二百枚の金貨は、白金貨に両替すると四十枚へと大幅に量を減らせる。


「ストラグル、どうしよう……」

「とにかく、ギルドに行くぞ」

「盗賊ギルドに?」

「ああ、そうだ。あの小娘、一刻も早くギルドに身を隠したいはずだ。現行犯を押さえられかけたうえ、俺に顔まで目撃されたんだからな」


 ストラグルは走り出し、エリィもあとに続く。


「ギルドの場所は?」

「知ってる。俺みたいな商売してるからには、そういう事情には詳しくないといけないからな」

「……」

「何だよ」

「お前を連れてきて、よかった」

「何言ってんだ。ついてきてもらってよかった、だろ。急ぐぞ!」



 チェスターの盗賊ギルドは、大通りから何本も抜けたさびれた通りの一角にあった。


「ここがそうなのか? ただの小さな酒場だぞ」

「当たり前だろ。鍛冶屋や商人のギルドじゃないんだぞ。盗賊ギルドが大っぴらに看板掲げてるわけないだろ」


 半分壊れかかったドアを荒々しく開けてストラグルは中に入り、エリィもその後ろに続いた。


「話がある」

「……ご注文は」


 何日も拭いていないような薄汚れたカウンターの向こうで、酒場の店主と言うにはほど遠い、人相の悪い男がストラグルに答えた。中にいるのは、その男ひとりだけ。客の姿は見られない。


「そういうのいいから。お仲間に面通しさせてもらいたい」

「何のことですか。うちは酒場ですが」

「だから、いいんだって。こんな時間に客がひとりもいない酒場があるか。俺は分かってるの。ついさっき、やられた。こっちに落ち度がなかったとは言わない。だがな、盗られたのは俺たちの全財産なんだ。おまけに、狙われたのは、こんな都会のことは右も左も分からない初心(うぶ)な田舎娘だ。そんなやつを標的にして心が痛まないのか? お前らも“筋の通った商売”をしてる自負があるなら、せめて半分でも返してもらいたい」

「ですから、何のことだか――」


 激しい音がした。ストラグルがカウンターを叩いた音だった。エリィは体をすくめたが、酒場の男は微動だにしない。叩かれた衝撃でカウンターの上に積もっていた埃が舞い上がった。


「何だ、騒がしい……」


 店の奥から、もうひとり男が出てきた。恰幅のよい、カウンターの中にいる男に、さらに輪を掛けて悪い人相を顔に貼り付けた男だった。


「あんたがボスかい?」


 ストラグルが睨み付ける。カウンターの男は恰幅のよい男に近づき、小声で耳打ちをした。


「ふん、あんたみたいなおっかなそうな男に“仕事”を仕掛けるとはね。うちの連中にも度胸のいいやつがいたものだ」恰幅のよい男は、カウンターにいた男を奥に下がらせると、「で、どんなやつだった?」

「女だ」

「女?」

「ああ、まだ子供だった。青くて長い髪をした」

「……ふっふふ」

「何がおかしい」

「お前さん、運がなかったな」

「どういう意味だよ」

「そいつにやられたなら、ここに来ても無駄だよ」

「何? 無駄って、まさか、あの小娘“モグリ”なのか?」

「正確には、抜け盗賊(リーヴァー)だよ」

抜け盗賊(リーヴァー)? あの歳でか?」

「あいつ、まだこの街にいたのか。それとも、帰ってきたのかな。……ふっ、後ろのお嬢さんが、わけが分からんて顔してるぜ。説明してやれよ」


 男の言葉に、ストラグルはエリィを振り向く。男が言った通りの顔をしていた。


 盗賊(シーフ)を名乗り、仕事をするもののほとんどは、「盗賊ギルド」に所属している。ギルドに所属することのメリットは、“仕事”の途中で追われても、ギルドに逃げ込めばかくまってくれるということと、冒険者パーティについていく仕事を斡旋してくれることだ。冒険者たちが入り込む地下迷宮(ダンジョン)には、その行く手を阻む様々な(トラップ)が仕掛けられていることが常で、また、狙うお宝も頑丈に施錠された宝箱の中にしまわれていることが多い。盗賊(シーフ)は、そういった罠の存在を察知、解除し、また宝箱の鍵を解錠する能力にも長けているため、地下迷宮攻略に欠かせない職業(クラス)であり、冒険者たちから重宝されている。常識的に、盗賊をパーティに加えないまま地下迷宮に冒険に入ることは自殺行為に等しい。また、盗賊は身軽な体術を生かして、本職の戦士には及ばないものの、常人を遙かに超える戦闘能力も持っているため、十分にパーティの戦力として数えることも出来る。

 ギルドに所属することはメリットばかりではない。所属している盗賊は、街での仕事や冒険の戦利品から、ある程度の“上がり”をギルドに収める決まりとなっている。これを怠ったり、意図的に誤魔化したりする所属員には、ギルドからの制裁が待っている。

 表向き(盗賊ギルドがそもそも表向きの組織ではないのだが)ギルドへの所属は任意ということになってはいるが、それをまかり通している盗賊ギルドはひとつもない。ギルドに無所属のまま“盗賊行為”を行うものにも、ギルドは刺客を差し向ける。「勝手に“シマ”を荒らすのは許さない」ということだ。


「そういう、無所属で盗賊をしているやつを“モグリ”、それと、もうひとつ」ストラグルはエリィに対する説明を続け、「ギルドから除名された、または自分の意思で抜けた盗賊を“抜け盗賊(リーヴァー)”というんだ。この抜け盗賊は今後一切、ギルドの“シマ”での仕事を禁止されるんだが、それでも仕事をやめないやつにも、ギルドは刺客を差し向ける……だろ」


 ストラグルは恰幅のよい男を向いた。


「兄ちゃん、詳しいね。冒険者かい?」

「違うよ。で、その青い髪の小娘が、抜け盗賊だっていうのか」

「ああ」

「抜けたのか? それとも、除名か?」

「両方だ」

「両方? どういうことなんだ」

「どうにも持て余したんだよ。あの“ディープダウン”は」

「ディープダウン? それがあの小娘の名前か?」

「大人しそうな顔して、とんでもねえやつだったぜ。あいつは、二年ほど前にここの門を叩いたんだ。名前を名乗らなかったんで、当初は所属番号そのままの“163号”と呼んでいた。あいつは冒険者パーティ専門の盗賊を希望した。実際、飲み込みが早くて腕は立つやつだった。だがな、ひとつ問題があって……」


 男は“ディープダウン”について話し始めた。

 当時の呼び名“163号”は、冒険者パーティに加わって地下迷宮に潜り、そつなく仕事をこなしていた。だが、数箇月ほど経って仕事に慣れてくると、次第に変化が見られるようになってきた。とにかく地下迷宮の深くまで下りようとするのだ。通常地下迷宮は、深度が深くなればなるほど、得られる宝の価値は上がるが、そのお宝が保管されている宝箱の鍵も、それに比例して複雑化し、高度な解錠技術を要するようになる。また、地下迷宮の深度に比例するものは宝の価値だけではない。出現する魔物の強さ、仕掛けられた罠の威力も高くなる。さらには、当然のことながら、潜れば潜るだけ地上に帰るための帰路も長くなるため、冒険者パーティは、自分たちの実力に見合った深度、確実に引き返せる深度までしか潜らないのが鉄則だ。だが、


「163号のやつは、とにかく深く潜ろうとする。パーティのリーダーの制止も聞かず、『もう少しだけ』を連呼してパーティを付き合わせていたらしい。パーティとしては、帰路にも未作動の罠が仕掛けられている可能性があるから、盗賊を置いて帰るわけにもいかない。それで、危険な目に遭って、這々(ほうほう)の体で帰還するパーティが続出した。そんなことが続けば当然、163号を斡旋したこっちにクレームが来ることになる」

「それで、“深く潜る(ディープダウン)”」

「言い得て妙だろ」ボスは一度笑みを浮かべて、「もちろん俺たちは注意した。『実力をわきまえろ』と。まあ、注意なんて大人しいものじゃなく、恫喝だったがな。でも、あいつは何を言われても涼しい顔をしてたぜ。そういった意味でも大したタマだったよ、あのディープダウンは」

「それが続いて除名に? だが、実際に生きて帰ってきたなら、それ相応の宝を持ち帰ってきていたはずで、比例してギルドの“上がり”も結構なものになっただろ。除名するには惜しい人材だったんじゃないか?」

「まあ、そうだな。だが、二箇月ほど前に、またディープダウンをあるパーティに斡旋した。そこでもあいつは例の如く、深く勝手に潜っていったらしいんだが、そのときのパーティの構成が悪かった。メンバーの中に、貴族の坊ちゃんがいたんだよ」

「貴族の坊ちゃんが冒険者に? どこの馬鹿貴族だ?」

「そいつは言えねえ。こっちも立場があるからな。英雄譚なんかが好きで、冒険者に憧れてる道楽息子だったらしい。で、その親父も親馬鹿なものだから、息子の夢を叶えさせてやろうと、お抱えの騎士に付け焼き刃の訓練をさせただけで、知り合いの冒険者パーティに加えさせてしまった。そうと知っていれば、こっちも信用の置けるやつを斡旋したんだが、何を格好付けたのか、その坊ちゃんは自分の身分を隠していたんだ。親父のほうからは、『よきに計らってくれ』とギルドに事前通達が来ていたんだが、坊ちゃんが名乗らなかったもので話がすれ違っちまったんだな。そのパーティにはディープダウンがつくことになった」

「それで、トラブルが」

「ああ。話によると、その坊ちゃんも、どんどん潜っていくディープダウンに面白がってついていったらしい。他のメンバーが止めるのも聞かずにな。で、坊ちゃん、見事に深傷(ふかで)を負ってしまった。パーティに同行した僧侶(クレリック)の治癒魔法だけでは完治させきれず、地上に戻ってからより腕のいい僧侶の手で、やっと一命を取り留めたという始末だった。おまけに、傷を負ってから治癒魔法をかけるまでに時間がかかったため、ぼっちゃんの顔には傷が残る羽目になっちまった」

「それは、貴族の親父が怒っただろ」

「そりゃ、もう」男は一度笑って、「悪いことに、その坊ちゃんが自分も調子に乗っていたことを棚に上げて、『盗賊にそそのかされて深く潜ってしまった』なんて言い出したものだから、親父さん大激怒よ。斡旋した盗賊を引き渡せ、とか言い出してな。あの勢いだと、何かしらの罪状を付けて処刑しかねない勢いだったぜ」

「で、引き渡したのか?」

「そうしようとした連中もいた。とにかくディープダウンを目の敵にしている派閥があった。どこもそうだとは思うが、うちのギルドも一枚岩じゃないんでね。その派閥は、今までのような、連中に言わせれば『チンケな商売』はやめて、王侯貴族に取り入って、暗殺なんかを商売の中心にしようとしている」

盗賊(シーフ)ギルドじゃなくて、暗殺者(アサシン)ギルドになっちまうな」

「ディープダウンは腕が立つんで、その派閥からスカウトされたんだが、にべもなく断っちまったという過去があってな。そんな連中にとっちゃ、貴族のご機嫌を取って、かつ、気に入らないディープダウンを亡き者に出来る。一石二鳥、渡りに船の話だったろうぜ。俺は反対した。これでも盗賊の矜持は持っているつもりだ。俺たちもやむを得ない場合は殺しもやるが、あくまで盗みという目的を達するための手段だ。殺しが盗みの上位に来ちまったら、あんたの言う通り、俺たちは暗殺者になっちまう。それだけは呑めねえ。だから、ディープダウンを除名してこの街から、いや、ソルスタロン全土から追放するということで納得させたんだ。派閥も、貴族の親父さんもね。こう見えても、いちおうここのボスなものでね。発言力はそれなりにある」

「こう見えてもっつーか、盗賊のボス以外の何者にも見えないよ、あんた。絶対に転職(クラスチェンジ)は無理だね」

「嬉しいね。この商売に骨を埋めるつもりなんでね」恰幅のよいギルドのボスは、にやりと笑うと、「ま、正式に除名の処分を下す前に、ディープダウンはさっさとここからいなくなっちまった。除名と同時に“抜けた”んだよ。そういうことなんでね。もうあいつ、ディープダウンはギルドの管轄外なわけだ。しばらく姿を見なかったから、もうとっくにソルスタロン国外に出たものとばかり思ってたんだが……」

「そうか……。で、その、ディープダウンが立ち回りそうな場所に心当たりはあるか?」


 盗賊ギルドのボスは首を横に振って、


「知らねえ。あいつは、まあ、あいつに限らず、盗賊なんていうのはみんなそうなんだが、ギルド内に仲間なんてものはいねえ。仕事をしてギルドに金を入れているうちは、プライベートで何してようが誰も干渉しないのさ」

「そうか……。なあ、ギルドもディープダウンを捜すんだろ。抜け盗賊(リーヴァー)のくせに、こうしてあんたらの“シマ”で仕事をしたんだ」


 それを聞くと、ボスは腕を組み、難しい顔をして、


「まあ、そうなるな」

「どうした? 煮え切らない顔をしてるぞ」

「正直言うと俺は、もうあいつには関わりたくねえ。ほっとしてたんだ。あいつがいなくなって」

「トラブルメイカーだったからか?」

「それもあるが……こんなこと言えた筋合いでも柄でもねえがな、俺は、あいつにはなるべくまっとうな道を歩いてもらいたいと思ってる」

「盗賊を辞めてほしいってことか」

「そうだ。抜け盗賊(リーヴァー)になっても、盗賊としての技能を生かして、冒険者パーティ専門の盗賊になるやつは大勢いる。地下迷宮(ダンジョン)の罠や仕掛けを解除するのが生業で、“盗み”はやらない。だから、“モグリ”という扱いにもならない。そうなりゃ、ギルドも手が出せない」

「ああ、そういう連中はいる。“斥候(スカウト)”とか言ったりするな」

「あいつを除名してから、他の地区のギルドから、それらしい“モグリ”を見た、なんて話も聞かなかった。この業界、横の繋がりは強いからな。それで安心してたんだ。どこかのパーティに拾われて、その、斥候にでもなってるんだろうなって」

「だが、戻ってきた」

「なあ、あんたら。ディープダウンを見つけたら、仲間に加えてやってくれんか?」

「はあ? 仲間?」

「あんたら、冒険者なんだろ」

「さっき、違うって言ったろ!」

「そうなのか。じゃあ、説得してくれ。もう盗みはやるなって。どこかのパーティで斥候でもやって暮らせって。それだけの腕は十分にあるはずだ」

「どうして俺たちがそこまでしなきゃならねえんだよ」

「この話、俺は聞かなかったことにする。だから、ギルドがディープダウンを捜し回ることもない。ギルドの誰かに“仕事”をしてるところを目撃される前に、あんたらが引き取ってくれると助かる」

「なあ、どうしてあんた、そこまでディープダウンに肩入れするんだ?」

「さあ、何でだろうな。あいつがいると調子が狂うんだよ。ギルドに入会なんてさせなきゃよかったって、いつも後悔してた」


 ボスは、いっそう難しい顔になった。


「どうして?」

「……娘に似てる。これじゃ、ありきたりか?」

「娘って、もしかして」

「ああ、死んだよ。腕のいい盗賊だった。冒険者パーティに参加してな。魔物との戦闘で不覚を取ったらしい。死因が罠の解除の失敗じゃなかったのは、盗賊としての矜持は果たしたと言っていいんじゃないか、褒めてやってもいいんじゃないかって、俺は思っている……。俺の言うことはもうない。ほら、もう帰れ。客が来ると邪魔だ」


 ボスはストラグルとエリィを追い立てた。夕暮れどきとなり、酒場が賑わい始める時間のはずだったが、ボスの言葉とは裏腹に、薄汚れたこの酒場に客が訪れる気配は一向になかった。

次回、ディープダウンを捜索するエリィたちの前に、あの男が。

「第6章 再会」

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