巨乳な初物好き
鳥籠と小鳥とやらを呼びに行った執事を待っている間に、私と主様は着替え終わった。
主様は白いシャツに袖を通し、鮮やかなエメラルドグリーンのベストを重ねる。
ベストはボタン部分がひし形のエメラルドで出来ている上等な物だ。
上着はシンプルな白いジャケットを羽織っており、下はジャケットに合わせた白いスラックス。
靴は艶のある革靴であり、暗闇でも場所がわかりそうな程にピカピカとした光を放っていた。
……あの首飾り、主様の胸筋と肩幅を強調するから最高……!
主様の首にはアスコットタイがボリューミーに巻かれており、ベストに先端を差し込んでいる事もあって丸みのあるラインを描き、しかしそのボリュームに負けない主様の胸筋が主張を強める。
つまり上半身のボリュームがマシマシで大変性癖。
しかも両手の人差し指と薬指にはゴツイ指輪がセットされており、気品が漂っている貴族という気配が凄い。
服装や装備品だけでも相当に金持ちだというのに、主様自身の威厳や立ち姿が加わった瞬間、顔パスでそこらの舞踏会に入り込めそうなくらいには貴族している。
日本語がおかしい気もするが、そのレベルで完成度が凄いのだ。
……全体的に白いってのもあって花婿感出てるし、でも花婿ってよりは貴族って感じが強くて、もう言語が吹っ飛ぶくらいには主様が素敵過ぎるって事しかわからないレベルだよ……!
こんな素敵な存在が白馬にでも乗ってようもんなら誰もが腰砕けになってへたり込むだろう、というくらいには主様の周囲が輝いて見える。
ちなみに私の方もこの屋敷に合わせてなのか、舞踏会に出られそうなドレスだった。
上はデコルテが大胆に露出されたデザインであり、縁には金糸で細やかな刺繍が施され、光沢のある白い布地が映えている。
肩にはつけ外し可能なケープカラーを纏っているのだが、肩をカバーしつつデコルテは晒し、その上でケープカラーと服の隙間にある谷間を見せつける、という素敵デザイン。
刺繍が細かい上と違って下はシンプルで、ふわりと広がったラインが素敵なドレススカート。
腰回りに細かいフリルがついており、シンプルなスカートの上からは薄い透け布が重ねられている。
……透け布自体もこれといった模様は無いけど、一枚重ねるだけでふわっと感が強まるんだなあ。
二の腕までを覆う長い白手袋を嵌め、髪は少し斜めになるよう調節された三つ編みハーフアップ。
何なら下ろしてある部分の髪は軽く巻かれ、真ん中から左右に分かれて毛先がくるりとした螺旋を描いており、こんな爆乳が花嫁みたいなドレス着て階段降りてきたら惚れるだろうなあ、と思う。
完全に他人事の思考だが、そう思わせるくらいには気合いが入っていた。
まあ主様は気分で気合いを入れる方なので、時々こういう気合いの入った格好をする時はあるのだが。
……今回に関しては、執事の一言で不愉快になったからこそ、気合い入った格好にしよう……ってなったのかな?
そこまではわからないが、白色がお揃いのようでテンションが上がる。
花嫁、と言うにはドレスが普通のドレス感あるし、金糸の飾りも相まってどちらかというと聖女とかそっち系のドレスっぽいが、まあ、うん。
キメラと、そして私自身と正反対過ぎる清廉さのドレスだが、こういうのもたまには良いだろう。
普段は露出が多くて特徴的なデザインが多いので尻込みしてしまう気持ちが無いではないが、主様のチョイスと思うだけでこの世のどんな服装よりも価値が高い。つまり問題は何も無しなのでヨシ。
「失礼致します。鳥籠様達をお呼びしましたので、貴賓室へ案内します」
「そうかい」
言い、主様が扉を開けて廊下に出る。
それについて出れば、廊下に立っていた執事は私と主様をチラリと見、ニコリと微笑んだ。
「では、こちらです」
……今の視線、銀は使ってないようだっていう視線だよなあ。
そういう、少し違うかもしれないが値踏みするような目というのは、主様がめちゃくちゃ嫌がる類のものだ。
しかし多少の冷気を纏いつつも口を噤んでいる辺り、何かを言う程では無いらしい。
……医者に対しては結構な煽りを見せてた気がするんだけど。
まあ、医者に対しては主様にとって許容出来ない何かがあったんだろう。
今回はギリギリ許容出来る範囲、という事か。
・
エントランスを通って貴賓室へ案内される際、相手は貴賓室ではなく、エントランスで私達を待っていた。
「久しぶりではないか、諦観者。そして初めまして、だなァ? 変態」
「よっしゃ巨乳だーーーーーっ!」
にんまりとした三日月の笑みを浮かべた、恐らく鳥籠だろう女性を目にした瞬間、私は反射的に拳を天へと突きあげていた。
それもそのはず、相手は素敵な巨乳だったからだ。
……しかも昔のドレスとかでよくある、上乳を大胆にぽよんと露出してるタイプだヤッターーーーッ!
胸の丸みを素敵に強調するデザインのドレスというのは、人間が生み出した物の中でもかなり上位に君臨する物だろう。
それが見られる、そして盛ってるわけじゃなくてマジの乳だという気配がするのでテンションはうなぎのぼりに昇ってゆく。
……にんまりした笑みもサドっぽくって良いね良いね!
彼女は、胸元を大胆に露出したドレスを着ていた。
胸元にはフリルが用いられており、尚且つ腰をコルセットでキッチリ締め上げているのもあり、胸のボリュームが素敵に強調されている。
袖は黒いパフスリーブの長袖で、肘辺りから裾に向かってぶわりと広がるシルエット。
コルセットから下はかなりボリュームのあるドレススカートだったが、よく見れば何層にも重ねられているようだった。
……一番上だけ見ると、コルセットに似合うシンプルなミニスカートって感じなんだけど。
しかしその下には何層にも布が重ねられ、シンプルな布かと思えば長さが違うプリーツとなり、かと思えばどれだけ重ねられているのかと思うようなフリルが床まで伸び、彼女の足が見えない程に覆っている。
加えて、スカートを支える土台であるはずのクリノリンがそのボリュームあるスカートの上から重ねられていた。
しかも見た目と匂いからして、確実に鉄製。
ドレスが多種多様な、しかし暗い色合いの赤と黒で統一されている事もあり、何とも言えない重苦しさがある服装だ。
……でも、何か、この薄暗い屋敷と雰囲気は合ってるんだよなあ。
綺麗に切り揃えられた前髪に、くるりとウェーブしているサイド、そして下ろされている長い髪は毛先が細やかなウェーブを描いていた。
フリル付きの黒いチョーカーが首に巻かれていて、檻のようにも見えるクリノリン付きドレスを着用しているというのに、彼女からは囚われている感が全く無い。寧ろ囲う方なのだろう、という気配が滲み出ていた。
艶のある、しかし重たさもある黒い髪。
笑みの形に歪んでいる灰色の瞳はどこか鋭さもあり、160センチにも満たない身長だろうに、気品に近い威圧感が漂っている。
……いや、だけどこれ、多分、気品じゃないな?
主様という真に気品ある存在を知っているからこそ、気品じゃないなと気付く。
どちらかといえば、得体のしれない、それこそ牢屋を前にした時のような圧迫感、というのが近いのではないだろうか。
いや、牢屋なんて目の前にした事無いから知らないけれど。
「いやあ良かったよ巨乳が居てくれて! 執事も筋肉ありそうだし胸筋も結構ミッチリ詰まってそうで良いけど、それはそれとして良い感じに谷間が強調されたおっぱいも最高だよな! ところでアンタが鳥籠で合ってる?」
「何だお前……」
一気に距離を詰めたところ、ドン引き顔で後ずさりされた。
手に持っているフリルで装飾された黒と赤の扇子で口元を隠すくらいにはドン引きされた。
……んお?
西洋風のこじゃれた扇子だなあと思って見てみれば、彼女の手は光沢のある黒に覆われていた。
否、手袋のように覆っているのではなく、手自体が硬質な黒で出来ている。
鉄の香りからすると義手のようにも見えるが、球体関節が無いのにぬるぬると普通に動いている辺り、これが素手なのだろう。
まあ相手がキメラと考えれば、不思議では無いか。
「ま、我が鳥籠で合ってるよ」
閉じてある扇子の先で口元を隠したままではあるが、鳥籠は目を伏して溜め息混じりに砕けた口調でそう告げた。
長い睫毛が影を作っていて、実に色っぽい。
「キャージュでも鳥籠でも、好きに呼べ」
「じゃあ巨乳って呼んで良い?」
「良いわけねェだろふざけんなよ女ァ!」
「うお」
鳥籠が牙を剥くように表情を荒立たせて叫ぶと同時、何故か私の動きが止まった。
いや、動きが止まったというか、動けなくなった感じだ。
足や手は動くのに、一歩も進む事が出来ない不思議な状態。
「ったく、しばらくそうやって大人しくしてろ。我は女が嫌いだ」
「おいおい勿体ない事言うなよ! 私は大好きだぜ! まあおっぱい大きいかどうかってのはデカいけどな! おっぱい大きくてもデブは却下だ! あと男もヒョロいのは却下! ムキムキ系巨乳であれ!」
「言いたい事はわかるのだがなァ……」
ハー……、と鳥籠が溜め息を吐き、扇子を持った手を振るように動かす。
手首の先をカクンと動かしただけの動きだったが、それと同時に再び私は自由に動けるようになった。
「あ、動ける。今の何だったの?」
「我が許可するまで出られぬ檻を用意してやったまでよ」
ふん、と鳥籠は鼻を鳴らす。
「我は女が嫌いだが、貴様のような正直者は嫌いでも無い」
それに、と呟いて鳥籠はにんまりとした、最初と同じように目と口を三日月にした凶悪な笑みを浮かべた。
「先程の言によれば、我の敵にはならなそうだしなァ?」
「ちょっと意味わかんないんだけど何の話してんの?」
「我が女を嫌う理由は、面倒だから、という話だ。生前から初々しい初物の男を口説いたり無理矢理襲ったりしてお初を頂いていたのだが、そういうのは大抵相手の男の近くに居る女がやいのやいのと喧しくてなァ。お初ではなくなった時点で興味など無いから好きにすれば良いだろうに」
「成る程初物好き」
男で言うなら処女厨みたいなものか。
そういう系が多い癖に男性向け同人誌っていきなりステーキばっかなの、どうなんだろうな。
いきなりぶち込める時点でお相手さんは相当に慣れてるし、そこに至るまでの段階でとっくに大興奮状態に陥ってるだろ。
少なくとも処女でその反応は無いし、仮にあったとしても相当にオモチャで開発しまくった末の姿だと思うよアレ。
「あとアレだ、狙っておった初物が他の女のせいで初物じゃ無くなる」
「あー、初回限定だもんなお初ってのは……」
拘りがある方からするとド地雷なのか、そういうの。
私は自分の性癖に一致してる相手ならソレで良いので、お初かそうじゃないかというのは考えた事も無かった。
主様は多分お初じゃ無かっただろうし、そりゃお初が貰えたなら嬉しいところだが、それはそれとしてお初な主様も微妙に解釈違いみたいな部分があるジレンマよ。
まあ結局のところ、好みのビジュアルしてれば新品だろうがそうじゃなかろうが良いんだけど。
元々私は本とかも中身が問題無ければ普通に中古で買う時が多かったので、その辺はあんまり気にしない派だ。
「まあその辺は安心しろよ! 私は基本的にムキムキや巨乳しにか興味無いからな! 引き締まり過ぎた筋肉じゃなくって良い感じに脂肪の厚みもある肉厚筋肉が最高! そして殿堂入りの最推しは主様だ!」
「そういえば我は二年経過から半年くらいで処分されるのではないかと思っておるのだが、そのくらいに処分される予定とかはあるのか?」
「あるわけないだろこの野郎! 賭けた分以上に負かしてやるからなテメェ!」
「いい加減にその見苦しいやり取りをやめろ」
主様はこれでもかと顔を顰めながら、どこまで下品に成り下がる気だ、と零した。
うーむ、確かにドレス姿の爆乳と巨乳がする会話じゃなかったのでちょっぴり反省。
「それと、先程から覗いている者が居るようだが」
そう言った主様が指差した方向には、扉があった。
その扉は僅かに開いており、視線を下に向けてみれば、扉を少し開けてこちらの様子を窺っているきょろりとした大きな瞳と目が合う。
「おお、アルエット。何だ、大人しく待っておれと言ったのに耐えられなかったのかァ?」
「だって何か、俺を置いて楽しく話してるみたいだったしさー……」
おいでと鳥籠が鉄の指で手招きすれば、少年は鳥籠の隣へとやって来た。
最初は見慣れないこちらを警戒してかそろそろとした動きだったものの、すぐに慣れたのか堂々とした足取りになり、不満げに頬を膨らませてぶすくれながらそう呟く。
「何だあァ? お前寂しかったのかよォ! そうならそうとさっさと言えってんだよなァ!」
「うわ、ちょ、髪の毛ぐしゃぐしゃにすんのやめろよ! 別に寂しくなんかねーし!」
「ギヒッ、そういうところが我に可愛がられるところだってわかってねェんだもんなァ? よォーしよォーし、後でたァっぷりと可愛がってやろうなァァ?」
150センチくらいの、それこそまだギリギリ小学生だろう少年は楽し気に笑う鳥籠によってわちゃわちゃと顔を揉まれていた。
明るいオレンジ色の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱され、まだ柔らかいのだろう頬を指先で揉むようにもにもにと捏ねられ、時折そういう意図が含まれている手付きで頬や耳の辺りをなぞられている。
しかし一見すればただのスキンシップでしか無い辺り、手慣れてんなあ。
「甘ァく、甘ァァく、だけど乱暴に可愛がってやるからなァ? アルエット。お前、甘やかされるだけよりもちょォーーーっと雑に乱暴に扱われるぐらいが好きなんだもんなァァァ?」
「そ、そんなわけねえだろ! っていうかそもそも撫でられるのだって別に好きじゃねえし!」
「ほお、そうか。じゃあここまでにしておこう」
「え」
ああこれは見本のようなツンデレだなあ、という少年のセリフに、鳥籠は一瞬にして冷めたかのようにピタリと止まった。
「んじゃ、一旦貴賓室で椅子にでも腰掛け、落ち着いて話そうではないか。ん? どうした、アルエット。行くぞ?」
「あ、ああ、うん……」
突然過ぎるスキンシップの終了に少年はどこか物足りないような表情をしつつも、自分から言うのは恥ずかしいという自我くらいはあるのか、何も言えないままもぞもぞと上着のボタンを指先で弄っている。
でも少年、お前は気付いてないけど、そんなお前を見る鳥籠の顔、めちゃくちゃ凶悪かつ嗜虐的だからマジで色々気を付けた方が良いと思うぞ。
まあ他人の性癖に口出す気無いから言わないけど。




