巨乳と恋バナ
水、というか温泉の中だが、水中だと浮力の関係から立ちっぱなしでも体力消費が無いところが素晴らしい。
まあどのみちキメラである以上は体力消費なんて気分の問題なのだけれど。
……ここの温泉が結構深いってのも良いよな!
生前はともかくとして今の私は高身長の部類だし、主様も相当に高身長。
その為、立ちっぱなしでも肩まで浸かれるというのは中々に嬉しいものだった。
ここの温泉は子供達が遊んでたりする浅い部分、大人たちが座ったり出来る深くも浅くも無い部分、大人たちが立ちながらボードゲームやってたりする深い部分、そして今私達が居る高身長じゃないと結構キツイくらいには深い部分、という感じになっている。
外側から中心に向かうにつれて深くなっていく仕様の為、周囲には人が居ないので大変快適。
温泉とはいえ日本とは違って本当にプールみたいなものなのか泳いでる人がちょいちょいこの辺の近くにやってくるが、マイペースに泳いでいる人が多くてこちらに声を掛けてこないのは良い事だ。
いや巨乳のお姉さんとかであれば是非とも交流したいところだけれど、あんまりにも距離感が近いと主様が途端に不機嫌になりがちなので。
「ここまで良い温泉だと、フルエンの中心にあった自然温泉も気になってきますねえ」
「地元民でもあんまりオススメはしないわよ?」
「え、それは何で……ってアンタどちら様!?」
「温泉好きな地元民♡」
語尾にハートが見えそうな声色でウインクをして見せたのは、巨乳の女性だった。女性は長いピンクの髪を後ろで一纏めにし、バレッタで留めている。
泳ぎ慣れているのか、下に足はついていないようだが問題無く浮いていた。
……というかこれ、着痩せしてこの巨乳だな……?
私は巨乳好きであり、デブは論外だが胸が大きい分には大きいだけ嬉しいタイプ。
そして彼女は現在谷間を見る事が出来ない、胸元が覆われているホルターネックタイプのセパレート水着を着用している。
肩を見せつつも胸を布で覆っているこの水着、胸の大きさを強調するようで意外にもちょっぴり着痩せするのだ。
それでもわかる巨乳であり、私の本能が目に見えるよりも巨乳だと告げている。
これは良い出会いだなとテンションが上がるのを感じるが、うっかりテンションのままに体温を上昇させて周辺の水温を上げたりしないよう気をつけなければ。
「二人は観光? ご夫婦かしら?」
「えっ!? そう見える!? そういう雰囲気に見える!?」
「違いますよ」
「ラシー様のそういうところ大好き……」
対他人用の好青年モードで爽やかな笑顔のまま一刀両断され、私は少し身を屈めてお湯に沈んでぶくぶくと息を吐く。
どうせ一時的な会話くらいしかしないんだから夫婦扱いでも良いじゃないかと思うが、こういうところがバッサリしているのもまた主様の魅力的な部分だから仕方がない。
機嫌が良ければとても良い思いをさせてもらえるし、機嫌が良い時じゃなくとも唐突な理不尽や暴力以外ではかなり上等な暮らしなので文句も無いし。
……主様自身がそういうのを好むからって理由で私も普通に上等な宿屋のお世話になれたりするもんなあ。
めちゃくちゃ養われているし、そもそも主様の存在やビジュアルや性格が大変好みなので文句が出るはずもなかった。
激痛相手には痛覚死んでるから理不尽や暴力でダメージを負うわけじゃないのも大きいだろう。
まあ宿屋に関しては良い寝具がある部屋だろうと睡眠を必要としない身なので、朝まで主様の寝顔をただひたすら凝視し続けるだけの場所だが。
「えーと……じゃあ旅のお仲間とか、そういう感じかしら?」
「まあそういう感じかな。私がラシー様に惚れ込んでるっていうか……うん、そういう感じ」
「あら! あらあらあら! そういう感じなのね!?」
頬を薔薇色に染め、巨乳な彼女は青い瞳をキラキラと輝かせてきゃあきゃあと少女のようにはしゃぎ始める。
「どういうところに惚れたとかってあるの!?」
「えー、相手が居る前で聞く? まあ私はラシー様の目の前でも気にしないから良いけどな! ちなみに惚れた理由はあまりにも顔が好みだった事による一目惚れ」
「キャー! 素敵! そこから一緒に旅に出るようになるなんてとっても素敵だわ!」
「そうだろそうだろ! いやあお姉さん話がわかるな!」
ちゃぷちゃぷと水面に波を立たせながら盛り上がる。
やはり異世界の壁があろうと年頃の女は恋バナに盛り上がるものなのだろう。
……まあ私の場合は途中から性癖話になっていく上にテンションが男向けエロによくあるいきなりステーキ系だから長続きしなかったけどな……。
いきなりステーキがどうとかいうのは友人に言われた事だ。
何でか恋バナからちょっとした夜事情に話がシフトしていった辺りでお仕舞いになるんだよなと言ったらそう告げられた。
確かに私が会話に参戦して話し始めるとついていけないって感じの顔される事は多かったが、まさかノリが違うとは。
……実際、女性向けのエロって耽美な美形が多いんだよな。
耽美な美形も良いけどどいつもこいつも肉が薄っぺらで勘弁してくれよって気分になる。
あっコレは相当にガチだなっていう男向けというかゲイ向けみたいなヤツの方が好みの筋肉してたりするので、うん、結果的に男向けの好みと認識されるのも仕方がない、かもしれない。
でも一応今は性癖じゃなくて主様についてを語ってるだけなので一般人相手でも大丈夫、の、はずだ。
……異世界ならわりと通じるかもしれないし!
今まで出会ったキメラ達との会話からすると通じないだろうけど。
その辺の人間よりも倫理観のネジが外れてるだろうキメラの癖にどいつもこいつも性癖部分で案外まともなのはどういう事だ。まったく。もうちょっと自分に正直になれば良いのに。
自分に正直になった結果が自称姉みたいな状態だと思うと、それはそれで危ない気はするが。
「まあ私も出来たらもっと深い仲になれたらなーとかは思うけど、夫婦じゃなくてもラシー様のお傍に居る事は出来るし良いかなーってのはあるんだよなあ。幸せだし。あとめちゃくちゃ好み。見た目も性格も好み。生活なんて殆どお世話になってる」
「頼りになる相手が居るなんて素敵! 私も好き……って言うにはまだよくわかってないけど、幼馴染が居るのよね。向こうも結構私の事を好きで居てくれるみたいだし、私も傍に居て楽しいし、彼が他の人にデレデレしてるとイライラしちゃって……」
今日も彼が観光客に案内を頼まれてデレデレしてたのが嫌でリフレッシュしに来たの、と彼女は苦笑して肩を竦める。
「嫉妬するなら既に結構好きだと思うけど、言い切れないの?」
「だって、彼ってば、こう……情けないっていうか、頼りないっていうか。いざって時には誰よりも頼もしい動きをしてくれる時もあるんだけど、普段はてんで駄目なんだもの。何をしても失敗するっていうか。誰かと仲良くするのはとっても上手だから、対人系のお仕事では上手くいってるみたいだけどね」
「そういう情けないところを見てると何だかなあって感じになるとか?」
「んー……仕方ないわねこの人は、って思っちゃう。だから恋なのか庇護欲なのかわかんないの」
ハァ、と彼女は眉を下げて溜め息を吐いた。
「向こうは向こうで私が他の人と仲良くしてたらわかりやすく嫉妬するし、時々天然で皆を誘う事もあるけど、二人でどこかへ行くって状況なら私だけを誘う事が多いし……」
「完全に脈ありでは?」
「でしょう!? そうよね、そう思うわよね!? なのに決定的な言葉は無いのよあの人ったら!」
「おお、鬱憤が凄い」
幼馴染の煮え切らない態度に鬱憤が溜まっていたのか、彼女は腕をぶんぶん振り回して水面をばちゃばちゃと揺らす。
まあ確かに煮え切れない態度、それも幼馴染となれば共に過ごした分だけむずむずしていた部分もあっただろう。
……煮え切らないって事は、煮物でいうところの生煮え状態みたいなもんだしなあ。
煮え切らない態度という事は、生煮えばかりを食わされているのと同じくらいにはストレスを感じる事もあるだろう。
私はそういう時に結構自己解釈で勝手にスッキリしたりガンガン問い詰めてハッキリさせたりしてしまうが、そうじゃないタイプは黙々と生煮えを食らうしかあるまい。
幼馴染と言うなら数年から十何年くらいの付き合いがあるんだろうし、それだけの間生煮え対応をされたら見ず知らずの観光客と恋バナした末に鬱憤が爆発するのも致し方なし。
まあ私としては水面に拳が叩きつけられる度に彼女の巨乳がたぷたぷ揺れて浮き沈みをしているのが最高に眼福だから好きなだけ爆発してくれって感じだが。
……いやあ、目の前にこんな素敵な光景があったら幾らでも愚痴を聞けちゃうな!
ただ黙々と愚痴を聞かされるのは面倒だが、目の前に素敵な巨乳がたぷたぷしていて水面に浮いたり沈んだりしている光景が広がっているなら是非も無い。
胸元を覆うタイプの水着なので谷間が見えないのは残念だが、こういうタイプだからこその乳袋感も魅力的なのでヨシ。
谷間からしか得られない栄養もあるが、胸元が覆われていてもわかる巨乳だからこその栄養だってあるだろう。
おっぱいさらけ出してるよりも巨乳セーターの方が好きって人ならわかるはずだ、この良さが。
「盛り上がっているところに水を差すようで申し訳ないのですが」
口を挟んでも面倒になるだけだと判断してか他人の顔でスルーしていた主様が、そう言いながらお盆を持って泳いでいた人をさっと手を挙げて引き留める。
お盆の上に瓶に入ったドリンクを乗せている人に対し、少ない会話とジェスチャーの後に酒を二つひょいと片手で取って硬貨を渡し、片方の酒を私の方へと手渡してから主様は女性の方を見た。
「何か飲まれますか? 奢りますよ」
「えっ!? いえ、流石にそこまでしてもらうのは……私、ただ愚痴ってただけだもの」
「そう仰らずに」
にこ、と主様は好青年モードの優しい笑みを浮かべる。
「観光地で使うお金は楽しい時間に払う対価ですから、使うだけ楽しい思い出を買うのと同じ事です。何より、妻ではないとはいえ、同行者であるジージエが楽しそうでしたし」
その言葉に思わず周囲のお湯を熱湯にしてしまいそうな程の歓喜が襲ってくるが、しかし主様としては普通に違和感のない無難な言い回しをチョイスしただけなんだろうなあという冷静な私の意見も襲ってくる。
が、それよりも強めに襲ってくるのは目の前での素敵なワンシーンにドラマの名シーンを見たようなテンションになってる女性の肩パンだった。
「……! ……!」
「うん、うん、アンタも一緒に今のラシー様の言葉に目をキラキラさせて感激して言葉が出ないくらい喜んでくれるのは嬉しいけど肩叩くのは待って。噛み締めたいのに吹っ飛ぶんだよ」
「ごめんなさいね、つい」
じゃあジュースを、と恥ずかしそうにはにかみながら頼んだ彼女に頷きを返し、主様はジュースの瓶を手に取ってその分の代金を支払う。
特にそれ以上買う予定が無いのを察したのか、温泉客用のドリンク販売員だろう人もすいすい泳ぎながら去って行った。
泳いでいるのを見ると面白い光景に思えるが、まあスポーツの観戦とかでもビールのお姉ちゃんとか居たりするのでそれと同じようなものだろう。
身近な例えで言うなら新幹線の中でよくある販売員。
……あ、この酒ジュースみたいで美味いな。
いただきますと言ってから飲めば、ふわりと芳醇な香りが口内へと広がった。
ドラゴンが混ざっているせいかアホ程アルコールが強い酒じゃないとアルコールや酔いを感じる事が出来ないのだが、この酒はそもそもの度数が低い気がする。
まあ程良い温水くらいの温度とはいえ、温泉で下手に強い酒を飲んだら最悪死人が出る危険性を考えて、という事だろう。
味からするとフルーツ系なので、飲みやすさから結局カパカパ飲みそうだが。




