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赤子にあやとりやろうぜって言うようなものでは



 着替えた主様の姿に、ほぅ、と私は思わず感動の吐息を漏らしていた。



「素敵です、主様! 特に襟の辺りが大きく開いていて素敵な胸筋が見える上に、それだけでは終わらず腹筋の上の方まで見えるところが! あと帯のように巻いている布でくびれの位置をグッと締めてる事で主様の腰の細さが強調されてて垂涎物です!」


「あまり嬉しくは無いな」


「私はすっごく嬉しいですよ!」



 襟から胸元に掛けてが大きく開いている、ゆったりしたデザインの長袖。

 下は裾がゆったりと開いているズボンであり、帯のように巻いている長い布がハイウエスト状態でスタイルの良さがめちゃくちゃ出ている。

 くるりと通した帯の端が垂れ下がっていて、動く度にズボンの裾と共に揺れるのが堪らない。

 仕上げに、首元がばっくりと開いているからか金に大粒の宝石を使用したチョーカーネックレスを身に着けていて、光の反射でキラキラ輝いている。

 全てが全て似合いまくっていて、課金もせずに色んな衣装を見せていただけるとか私の幸運値ってカンストでもしてるんだろうか、とちょっと思う。


 ……体のラインが見えるのに服自体はゆったりしたラフな感じを醸し出してるから、自宅での私服感があって最高! ひゃっほう!


 ちなみに私は下乳が出る感じのミニタンクトップにミニスカートという大分露出度高めの服装へと着替えている。

 胴体部分はドラゴンが混ざった事によるコルセット状態になっていて、骨みたいな部分がゴツゴツしいものだから、そこはもう出した方が見ていて違和感が無い、と言われてしまった。

 ゴツゴツした飾りが無ければ服の下に隠せたのだが、ゴツゴツした飾りが下から主張するとデザインが台無しになるという惨状になったのだ。

 それもあって、とりあえず丈が短いミニタンクトップ。

 おっぱいのサイズがアレなものだから下乳が出ているけれど、具の部分は隠れているので良しとしよう。


 ……それにしてもまさか、主様が手ずから再び私の髪を整えてくれるとは……。


 長いウェーブの髪をハーフアップに纏め、大きなリボンを結んでくれた。

 私としてはめちゃくちゃ嬉しいし興奮するのでハッピーだったが、セクハラしまくりな眷属相手にどうしてこうも良い対応をしてくれるのだろう。

 私が主様の着替えを手伝ったからそのお返し、という感じでも無い。

 まだ丸一日がようやく経過したくらいの付き合いしかないが、それでも主様がそういうタイプじゃない事くらいはわかる。



「……主様は、どうして私の髪を結んでくださったんですか?」


「髪を弄る、というのは暇潰しに良いからね。自分の髪となると、長さがある場合その度に視界に入って来て不愉快になるんだけど」


「あ、成る程ー」



 何だか主様の髪がスポーツマン並みの短髪状態になっている理由がわかった気がする。

 つまり私の髪は丁度良いオモチャ扱い、というわけだ。

 こう思ったのがバレたら殺されるかもしれないが、子供がお人形の髪を整えてあげるような感覚、なのかもしれない。

 自分の髪を弄るのも楽しいけれど、やっぱり他人の髪の方が自由度高くて楽しい、というのはあるだろうし。



「さて、では行こうか」


「はい! 行く前に一つ質問良いですか!」


「何かな」


「主様に私が殺された時ぶちまけた血溜まりとか肉片とか脳漿とかで泉の周辺がぐじゃっとなってるんですけど、あれって放置して大丈夫なヤツですか!?」



 この肉体は再生するけれど、新しく生える、という感じの再生の仕方だった。

 肉片がもぞもぞ戻って来て修復、という感じでは無いのである。

 まあすぐ近くにあった肉片なんかは分解して再構築に用いられた感もあるが、血液なんかは大概そのままの為、大分鉄臭い感じになってしまっている。

 そもそもキメラの血って放っといて大丈夫なんだろうか、みたいなのもあるし。



「キメラの場合は放置しておいて問題無い」



 見せた方が速いかな、と主様は言い、バヂリという音と共に黄色い光を放ち、消えた。

 否、うっかり見逃すくらい素早い動きで地面を蹴り、私の血痕やらが残っているすぐ近くの木を蹴り倒したらしい。

 幹に思いっきり蹴りを入れられた木は、蹴りを入れられた部分からブスブスという焼け焦げた音と臭いを放ちながら地面に倒れる。



「キメラは日の光に、一応弱い。一応がつく程度しか効果は無いけれど、キメラの体内から出てしまった血液などは別の話だ」


「ウワーッ! 何か私の肉片とかがじゅうじゅう焼ける音立ててません!?」


「キメラの残骸、と言えるかな。まあこういった肉片や血液なんかの場合、日の光に当たれば焼けて消滅する。この森では日差しが少ないけれど、それでも時間による角度次第で消えただろうね」



 確かに、思った以上によく焼けている。

 熱した鉄板の上に垂らした水滴がじゅうじゅう音を立てて沸騰して体積を減らして消えていく、アレを見ているのに近い。

 肉片も熱した鉄板の上に落とした氷のように、溶けるように崩れて消えていく。


 ……んー、しかし見てると、何だろうな、この感覚。


 日の光によって私の体の一部だったものがこういう消滅の仕方をしているのを見ると、アンデッド系の化け物になったんだな感がとても強い。

 いやまあ、人殺して食ったり殺されて復活したりをしておきながら何言ってんだという話だけれど。



「ちなみに、さっきその木を蹴り倒したのは、その方が目で見て理解しやすいからですか?」


「そうなるね」


「お気遣いありがとうございます!」


「気遣いというよりは実物があった方が僕の説明が楽になるからだけど」


「それでも私にわかるよう説明をしようとしてくださったのが嬉しいです!」



 そう告げれば、まあ良いか、と主様は肩をすくめる。

 質疑応答では無い会話のラリーを私とするのが面倒、というわけでは無いはずだ。多分。





「そういえば、さっき聞こうと思って忘れてたんですけど」


「暇だから好きに聞いてくれて構わないよ」



 質問を短い間に連続すると嫌がられると思って間を開けたが、やはり主様は同じような光景が続く森に嫌気が差していたらしい。

 確かに、一時間も二時間も似たような景色の中を黙々と歩くというのは、山登りが大好きです! という人じゃないと厳しいだろう。

 目隠ししたまま柱に手をついてひたすらずっとぐるぐる歩いてろと言われるのと同レベルに苦行だと思う。苦行を超えて拷問な気もするが、慣れていない人からすれば変化が少ない諸々はすべからく拷問みたいなものだろう。



「何でも聞いてくれ」


「えっ何でも聞いて良いんですか!? 主様の性感帯とか好みのタイプとかも!?」


「…………」


「骨の髄から凍えるような冷たい侮蔑の視線ありがとうございます!」



 ヨダレを垂らしながら喜びのままに感謝を告げたところ、面倒臭そうに溜め息を吐かれた。



「……キメラの体は性的な事柄に敏感では無いから、性感帯も何も無いよ。性感帯のように興奮するというなら、それは気分に左右されるものだ。そもそもキメラは性行為が出来ても子供を作る事が出来ない。だから子孫を残そうとしての、それらの手順をこなしやすくするシステムが不要なんだ」


「性的興奮が強いと受精しやすくなるけど、そもそも受精云々が関係無いからそれを促す機能も停止してるみたいな事です……?」


「そうなるね」



 ……勿体ねーーーーっ!


 いやしかし、だからこそ、の部分があるではないか。

 性的興奮だとか性感帯云々が無いからこそお触りを許されているんだとすれば、寧ろ有り。

 いざそういう雰囲気になった時は気分的な興奮に促されて普段全然な部分も感じるようになると想像すれば、そういう事が起きない可能性の方が高くても想像すると超興奮する。

 何だろうこの一粒で沢山美味しいみたいなヤツ。


 ……キメラって最高だな!



「あ、性的な事柄に敏感じゃないって事は、殺される時に痛みが無いのもソレです? キメラってその辺が酷く鈍いとか?」


「キミの髪を結ぶ際に軽く引っ掛けたら、痛いと言っていなかったかな」


「あれっ、そういえばそうですね?」



 あの瞬間は確かにちょっと引っ張られたような痛みがあった。

 しかし骨が軋む程の力で首を掴まれた時とか、思いっきり頭をパァンされた時とかの痛みは無い。



「どういう事なんでしょう、コレ」


「キメラの痛覚には個人差がある。衝撃だとか触れた感触だとかは痛覚と別物だけどね」


「そういえば衝撃は普通にありました!」



 成る程別物。



「僕は痛覚が完全に皆無なタイプだが、キミの場合は激痛に関してだけ痛覚が無くなるんだろう。軽口で痛いと言って笑える程度なら感じる、といったところかな」


「笑っていられない痛みの場合、その痛みを感じない、と……えっめちゃくちゃ良いですね!?」



 ガチでヤバい痛みは感じないながらも、ちょっとしたスパンキング程度ならちゃんと感じるというわけだ。

 私はそこまでハードなマゾじゃないが、軽度のマゾである自覚はある。

 つまり丁度良いくらいの痛みを感じれるというのは、最高なのではなかろうか。

 それはちょっと、という痛みを感じないで済むって超ありがたい。



「個人差によっては生前と同じような痛覚のまま、というのもあるからね。多少鈍ってはいても痛みは感じる、という場合もある。その辺りは完全にランダムだよ」


「確かに材料が別な時点で同じ味のお菓子が出来るとは限りませんもんね! 最高の仕上がりに作ってくださってありがとうございます!」


「…………キミは本当に頭がおかしいな」



 何故か本気の声のトーンで溜め息を吐かれた。



「普通、キメラ化される前に交流があったとかならともかく、そうでも無いのにそういった態度を取れるなんて早々見ないよ。眷属キメラは主キメラの近くに居る事が多いけれど、支配されているという感覚がある事が不愉快なのか、嫌々従っている、という場合が多いからね」


「支配されてる感覚があるからこそ喜んで従うんですよ! 特に主様みたいに素敵な方に仕えられるなんて最高! 私の普段の行いが常に世界を救っていたとかじゃなかったらあり得ないんじゃないかってくらいに幸せイベントばっかり! ひゃっほう!」



 主様はこちらを無言で見つめてから、感情の無い顔で再び前を向いていた。

 何なんだろうこの未確認生物、って感じのお顔をしていたが、私からすれば沢山の表情を見る事が出来て最高にハッピー。

 世のオタク達が異世界に憧れまくる理由がわかる気がする。

 私も多少の憧れはあったわけだが、まさかここまでにハッピーイベントが大量発生しているとは思わなかった。



「ああ……あとは好みのタイプ、だっけ。好みのタイプだとかは無いよ」



 思い出したように、主様はそう告げる。

 もしや、先程の私の問いの両方に答えてくれるつもりなんだろうか。



「眷属としての好みなら、僕を不愉快にさせず、傍に居させるたけの価値があるかどうか、だろうね。僕は飽き性だから、飽きればすぐに処分するつもりだ。当然ながら物への執着も薄いから、不愉快と思えば飽きていなくとも処分する。肝に銘じておくように」


「それじゃあいつでも目新しく思っていただけるよう私らしさ全開でいきますね!」


「不愉快と思われるような行動は慎んで欲しいと言ったんだけどな」


「私の調子に乗りまくった質問にちゃんと答えてくれたのが嬉しいんですよ! そりゃあもうテンション上がっちゃいますよね!」



 例え不愉快と思われようが、自制心少な目で行こうと今決めた。

 あんな質問に真面目に答えてくれるとか最高過ぎる。

 そんな対応されたら誰だって調子に乗っても仕方がない。



「で、結局本題は?」


「そうでした!」



 律儀に答えてくれるところだとか低く響く声だとかについうっとりして精神がどっか違うところにトリップしていた感じだったけれど、本題は別にあったんだった。

 いっけねえいっけねえ、主様の素晴らしさで疑問も何もぶっ飛ぶところだったぜ。

 まあ聞こうと思ってたのはさっきのと別ベクトルとはいえ結局は主様関係なので、完全にぶっ飛んだりはしないだろうけれど。



「人間の私が殺された時もそうでしたけど、首を掴んだ時とか、あと私の肉片消す為に木をへし折った時? に、何かバチバチした音してますよね? 何だかこう、猫だましやられる感じの。あれって何なんですか?」


「キメラは人間と魔物を合成した産物なんだよ」


「それは覚えてます!」



 ハァ、と溜め息を吐いた主様は、歩くスピードを一切落とさないまま言う。



「キミはファイアドラゴンと鉄食いヤギ。僕の場合は氷羊と稲妻オオカミ」


「あっ、もしやあの猫だまし的なのって稲妻!?」


「そういう事になるね」



 成る程、通りで猫だましみたいな何かだと思ったわけだ。

 目の前で雷の火花が散ってるようなものだから、そう思った。



「木が焦げてたのも、アレは雷がそこに直撃したようなものだからって事だったんですね! 瞬間移動もソレですか!?」


「キミの場合、見ようと思えば瞬間移動じゃない事くらいは見分けられるんじゃないかな」



 ドラゴンが混ざってるんだし、と主様は言う。

 どうやらこの世界におけるドラゴンは、他の魔物とは一線を画すレベルの凄い存在らしい。

 まあ確かに一般的な漫画家と漫画の神様は漫画家である部分は同一でも明らかに格が違うもんな。そういう事か。どういう事だ。でも私にはこれがしっくり来たのでこの説で通す。



「て事は、瞬間移動では無い?」


「稲妻オオカミは雷自体がオオカミの姿を取ったような魔物だ。雷鳴と共に現れる。そして雷撃と共に姿を消したり現れたりする、と言われている」


「んーと……存在自体が肉体系じゃなくて、雷で構築された魔物、って事です?」


「おや、意外にも理解が速いな」


「光栄です!」


「褒めてはいない」


「私が嬉しいと思えば褒め言葉です!」



 それにまあ、想像出来ないわけでもない。

 水で出来た魔物とかならゲームでもラノベでもわりとよくあるイメージだ。

 何なら存在自体が炎だから握手で火傷を、とかもある。

 そう考えれば、雷で構築されている魔物が居ても何らおかしくはあるまい。



「要するに、稲妻オオカミは存在自体が雷だから、音を置いて移動する事が出来るわけだ。消えたり現れたり、というのは目視不可能なスピードで移動している結果だね。雷で出来ているにしては、混ざった僕の足や尻尾は獣らしいものだけれど」


「素敵です!」


「そうかい」



 めちゃくちゃ興味が無い感じの声でそう返されたが、返事をしてくれる辺り主様は優しい。

 既に複数回殺されておいて優しいと言うのはちょっとアレだが、死因に関してはわりとこちらにも非があるので、はい、そういう事です。

 あともふもふでシュッとした尻尾や足はマジで素晴らしいので、そういう状態になった事に大感謝だ。

 雷で出来た尻尾とかも見てみたい気がするが、そうなるとこっそり触れようとした瞬間に焦げ死ぬ気がするのでちょっとリスクが高過ぎる。

 いや、もふもふ状態でも主様の機嫌次第な部分があるのでどの道リスクは高いのだけど、主様はわりと面倒臭がりという事もあって見ない振りをしてくれるのがありがたい。何の話だっけ。



「とはいえ、普通の稲妻オオカミは生き物というよりも自然そのもの……現象に近い魔物だから、普通は雷鳴と共に発生して近くに居る獲物を狩ったらさっさと消えるのが通常だね」


「とりあえず主様は雷レベルのスピードを出せるってのがわかったので私は嬉しいです!」


「僕としては、感情で静電気が発生する事も多々あるのが面倒という感じだが」



 感情によってバチバチするとか超有名な宇宙人系だっちゃヒロインのようでめちゃくちゃ良い。

 言ってもネタが通じないだろうから言わないけれど。



「それで、氷羊っていうのは?」


「毛が氷のように冷えている羊。僕のツノや目はソレ由来だよ」


「成る程反転目に横瞳孔」



 目が草食系だったしツノも羊っぽいなとは思っていたが、マジで羊が混ざっていたわけだ。

 悪魔系だとヤギイメージ強い時があるので羊系の亜種悪魔とかの可能性も考えていたのだが、普通に羊系だったらしい。



「もしかして、お体を拭いた時や着替えの際に触れた時、やたら冷えていたのも?」


「氷羊が混ざった事によるものだね」


「成る程!」



 水浴びだった上に私との会話で結構な時間が経過していた為、それで体が冷えていたのかと思っていたが、単純に混ざっている種族の特性だったらしい。

 そういや私も結構体温高めになってるもんなあ。

 人間だった頃はどちらかというと体温低めな方だったのだが。


 ……人間だった頃って言っても、三日も経過してないんだけどね!


 異世界に来てからの時間がめちゃくちゃ濃厚。

 いや、二泊三日の海外旅行とかだと許される限りの時間を使って全力であちこち行くわけだし、そう考えると非日常的に考えてこの濃厚さは通常なのか? どうだ?



「氷羊の毛は冷えている事もあり、家畜として飼われている事も多いよ。夏用の衣服に使うから」


「羊毛を!? って思いましたけど、毛がひんやりしてるなら羊毛なのに涼しいのか……」



 確かに触れた時に涼しさを感じる系は、夏場の肌着とかで売られていた覚えがある。

 夏場に羊毛なんて自殺行為としか思えないが、ひんやりするタイプの羊毛であれば夏場に着る服のデザインに新しい風を吹かせる事だろう。

 見た目的に暑そうというのはこの際気にしないでおく。


 ……氷羊なんて魔物が居るくらい常識扱いの世界だったら、違和感だって持たない可能性あるもんな!


 日本人からすればお箸でご飯食べるのは普通でしょ、みたいなものだ。

 外国の人からすると二本の棒で何やってんだ、という感じらしいけれど、日本からすればそれが日常なので仕方がない。



「確か魔力があるなら人間以外全部動物、でしたよね。魔物って聞くと家畜に出来るのか心配なんですけど、問題無いんです?」


「家畜となっている氷羊なら問題は無い。というのも、精神的に穏やかかどうかによって毛の温度が変わるんだ。精神的に追い詰められているようなら、ガンガン毛の温度が下がってゆく。触れた人間の皮膚が剥がれるくらいには」


「…………つまり?」


「野生の氷羊には近寄らない方が良いという扱いだ。穏やかに暮らしている家畜であれば、触れても心地良い冷たさとなるけどね」


「成る程!」



 野犬には近づかない方が良いけど、しつけされた飼い犬は触れるよ、みたいな事だろう。

 確かに牛なんかも野生になると一気に手がつけられなくなると聞くし、育ち方というのはあらゆるものを左右するんだなあと実感する。



「尚、穏やかに暮らしていても氷羊はそれなりに低体温の為、真夏だろうが氷羊が寝ていた場所には氷が張る」


「低体温どころじゃなくないです!?」


「加えて暑さによって受けるストレスが高い事から、涼しい地域でしか飼育不可能。結果的に北の方で育てられる事が多く、特産品扱いになる事も多い」


「寒冷地の作物を常夏の島に移植しても枯れるヤツだ……」



 耐性が強い苗同士を掛け合わせて品種改良すれば移植可能になるかもしれないが、そのままなら適した土地に植えないとMURIなヤツ。

 ハイビスカスがロシアで咲いてるイメージ無いよね、みたいな事だ。



「…………ふむ」


「主様?」


「この辺りから、人の気配がするね。気配というよりは人が行き来する痕跡かな」



 立ち止まった主様につられて、私も地面へと視線を向ける。

 見れば、確かに先程まで歩いていた獣道とは違い、人間が踏み固めたような痕跡があった。


 ……人間の気配、って感じだ。


 ここまで来やすいようにと草や枝を踏みしめ、邪魔な枝を折り、草を刈った痕跡がある。

 周囲を見れば草がまばらになっていて、採取でもしたのかな、といった状態。



「まあ薬草摘みなら深く来てもここまでだろうし、ここから先に行っても魔物が多い上に燃え盛る砂漠に出るだけとなれば、これ以上進みたくも無いだろう」


「燃え盛る砂漠、本当にただ燃え盛ってるだけって感じでしたもんね……」


「人里に近い位置なら観光名所でもあるけどね」


「成る程」



 確かに砂漠とかは観光名所と言えるだろう。

 ガチで砂漠を行脚せよとか言われたらマジ無理と返すだろうが、砂くらいはお土産に持って帰りたい気持ちもある。砂漠行った事無いから砂の持ち帰りが違法かそうじゃないかは知らないけれど。



「さて」



 くるりと振り返った主様は、こちらを見てにっこりと笑みを深くした。



「ではもうすぐ人里という事で、キミにはやるべき事がある」


「私に? 着替えの手伝いですか?」


「確かにそろそろこの服にも飽きて来たが、そうじゃないな」



 見た方が速い、と言った主様は、その姿を変化させた。

 羊のツノが消え、反転目である黒い部分は通常の白目となり、尻尾は消え、獣の足は人間らしい足へと音も無く変化していく。



「このように、人への擬態をしない事には人里には出られない。わかるね?」


「いやもうタイミング無くて言えなかったんですけどやっぱりそうなりますよね!?」



 だって洞窟で鉢合わせた男女二人に化け物扱いされてるんだもの。

 このビジュアルのままで人里に出たらパニック映画の導入状態にしかならないだろうけれど、あの、キメラ初心者にはいきなり擬態しろと言われても困ります。



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