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赤のキメラは今日も主様に興奮してます!  作者:
大きくも無い診療所
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お医者様



 昼頃、流石に室内に居るのも飽きた、という主様の主張により外を軽く見て回る事となった。

 しかし一応は町っぽいとはいえ、随分閉鎖的かつ平凡な風景が広がっている。

 どこを見て回っても代わり映えしない田舎っぷりに、主様の機嫌がゆっくり下降しているのがわかる。

 服屋はド定番かつ農作業用の地味系ばっかりだったし、本屋に至ってはド定番どころか数か月前の新刊がようやく入荷したばかりと聞いて一気に機嫌が下がっていた。

 田舎特有のレアな発掘品があれば良かったかもしれないが、総じてショボい品揃えだったらしく、一向に機嫌が向上しない。

 まあ、ジロジロと横目で見て来る住民は居ても、馴れ馴れしく話しかけてこないだけまだマシのようだが。



「……ふむ」


「主様?」



 ピタリ、と立ち止まった主様に首を傾げれば、首元のスカーフがひらりと揺れた。

 私の服装は現在、袖無しの詰襟黒シャツに、ミニ丈の真っ赤なジャケット姿。

 下は白い短パンに、ガーターベルトで吊られた黒いニーハイ。腰の回りにはまるで前開きのスカートのように裾が広がっているジャケットと同じ色の布があり、仕上げに首にはシンプルな白いスカーフ。

 髪は首の後ろで一つに括った上で、下の方を緩く一つに結んであるという仕上がりだ。



「このまま立ち去るのも何だし、少し顔を出してみようか。聞き覚えがある名前だ」


「え、え、何がですか!?」


「キミはこれに関しては全く持って学習しないな。聞き耳を立てろ」



 呆れた目をこちらに向けながら、主様は指先でトントン、と自身の耳を叩いて見せた。

 それに成る程と頷き、人間らしい形状に擬態している耳を澄ませる。

 擬態していても能力は据え置きなのがキメラの良いところだ。



「あら、何を話してるのかしらね、あの人達」


「知らないわよ。それにしても随分派手だこと。お金持ちなのかしら」


「そうなんじゃない。ところで聞いた? ほら、酒屋の三件隣のお家、お婆さんが入院してたでしょ?」


「ああ、もう歩けないかもって言われてたお婆さん?」


「そのお婆さんが診療所から帰ってきたらそりゃあもう元気に歩いてるのよ! さっきなんてようやく好きに動けるからって農作業までしてたの!」


「まあまあ、それ本当!?」


「本当よ本当! この目でちゃあんと見たんだから!」


「そういえば前に足を農具でやっちゃった息子さん居たじゃない?」


「居た居た居た! あの子ね! まだ年若いのにこれは片足が駄目になっちゃったんじゃって言われてたわよねえ」


「足の指が完全に千切れかけてたから、足はどうにかなっても指が駄目で農作業しようにも踏ん張れないかもって噂になってたし」


「その息子さん、問題無く足の指も治ったんですって! あの診療所で!」


「へえ……数年前に町の外れで診療所開いた時はどうなる事かって思ってたけど、案外腕が良いのかしら」


「挨拶にも来ないし、いざ話すと随分小汚い感じというか……あら、こんな事言っちゃ失礼ね、おほほ」


「仕方ないわよ、いつでも白衣がよれてるし、無精ひげまで生えてるし」


「丁度村のお医者様がポックリ逝っちゃったもんだから病気とかどうするんだって思ってたけど、腕が良いなら良いわねえ。昔から関節痛やらで苦しんでた人も結構元気になってきてるみたいだし」


「言い方がちょっと失礼な事もあるけど、慣れれば結構楽しいみたい。そもそも子供の反抗期乗り越えてるんだからご老人からすれば可愛いもんよねえ」


「最近じゃ顔出す人が多いって事で若い子がお手伝いに行ってるみたいだし、私も困った時は顔出してみようかしら」


「あら良いじゃない! その時はどんなだったか教えてちょうだいよ!」


「あのお医者様、お名前何だったかしら」


「メディクス先生よ、メディクス先生! お医者様になる為に生まれてきたような名前だわね」



 うーむ、凄い勢いでマシンガントークというか、おばさま方の井戸端トークが止まらない。

 小気味いいラリーというか、凄いテンポよくポンポンと誰かが発言するので会話が全力でノンストップ。

 おほほほほと楽しそうな笑い声を遠くで聞きつつ、はて今の会話が何だろうと首を傾げる。



「ここに来るまでにも、メディクスという名前を何度か聞いた。ソイツの顔を見に行こうじゃないか」


「興味がおありなんです?」


「顔見知りの可能性が高いからね。丁度キミがそんな感じの事を言っていたし、この町を見て回るよりは暇潰しにもなるだろう」



 はて、私が言っていたのってどれだろう。

 結構好き勝手発言してるので、一体どれについてを指しているのかよくわからん。





「昼時は診察時間外だ。緊急じゃないなら帰れ」



 診療所に一歩入った途端、受付に出て来た男が嫌そうに顔を顰めてシッシッと手で追い払うかのようなジェスチャー。

 毛先がピンク色に染められた長い金髪という中々にギャル味が強めの髪色だが、その目は睨み付けるようなマゼンタ色の三白眼であり、目の下には隈が刻まれている。

 しかも右目には医療用眼帯が装備されている為、見えるのは左目だけ。

 無精ひげが生えている口元は不機嫌そうにへの字を描いており、白衣を着ていなければ医者とは思わないだろう風貌だった。

 否、風貌以前に態度が既に医者らしさゼロなのだが。



「あーっ! メディクス先生ってばまた患者さん相手に!」


「げ」


「げ、じゃないですよ、もう!」



 ごめんなさいうちの先生が、と申し訳なさそうに眉を下げて謝るのは、ゆったりとしたカーディガンを羽織った若い女性だった。



「私はお手伝いで来ているクーラです。こちらがうちの診療所の先生であるメディクス先生。その、態度とかはちょっとアレですけど、お医者様としての腕は抜群なんですよ!」



 グ、と握り拳を作った笑顔のクーラに、メディクスと言われた医者は白衣のポケットから煙草を、現代を生きた私からすると見慣れた形の巻き煙草を取り出した。



「クーラちゃん、俺煙草吸ってきて良いかね」


「 先 生 !」


「へいへい冗談だよ」



 八割方本気だっただろうメディクスはとても小さな舌打ちを零して煙草を仕舞った。

 それを見て、まったくもう、とクーラが溜め息を零す。


 ……お、カーディガンでわかりにくいけど彼女、中々にきょにゅ……いや、平均か? どうだ? 平均と巨乳の間みたいな気配、か……?


 私は巨乳派なので上の下ならば巨乳判定を出すが、彼女は絶妙に中の上くらいに見える。

 着やせするタイプならば服を脱いだ場合また違うのかもしれないが、私は私の性癖センサーを信じているので、多分中の上くらい。

 つまり絶妙に範囲外。惜しい。せめてもうちょっとパッドなりを詰めて盛ってくれていれば大興奮だったのだが。

 私は自分がソレを認識しない限り虚乳もまた巨乳と認識出来ると思っているので、別に盛り乳でも豊胸手術によるものでも構わん派である。デカい乳は良いものだ。私だってこの爆乳後天的なモンだしな。



「それで、ええと……村の人じゃないですよね? 旅の人ですか?」


「ええ、そうなんです!」



 ペカーッという百点満点な笑みで主様はそう返した。

 実に眩しい直射日光な笑顔だが、それが百パーセントの作り物で出来ていると知っている私からすると、うん、いやでもわかってても素敵な笑顔なんだよな。

 素とは違うからこその良さがある。



「随分評判が良い、と町で噂になっていたので、少し見てみたいな、と思いまして! それにメディクスという名前の医者が居ると聞いた時、もしや、とも思いましたから」


「もしや、って?」


「知り合いの方かもしれない、と。実際、大当たりだったようです。ね、()()のメディクスさん?」


「…………お前、そこは知らない振りを通せよな……」



 ぺっかぺかな笑顔を向けられたメディクスは、ハァアアア、と深い深い溜め息を吐いた。



「ま、知り合いなのは確かだが」


「えっ、じゃあ何で知らない振りして追い返そうとしてたんですかメディクス先生! 失礼ですよ!」


「あのなあクーラちゃん、俺はこういう性格だから人付き合いが得意じゃないってのはわかるだろ。この性格のせいで俺はあちこちを渡り歩いてるんだ」



 ポケットから再び煙草が取り出され、火のついていないソレを咥えたメディクスが頭をガシガシと掻き、長い髪の毛先が揺れる。



「そもそもコイツとはそんな良い付き合いはしてないし、隣に居る女の子についてはまったく知らない。偶然で鉢合わせる確率の方が少ないんだから、必然的にソックリな別人と思うべきだろ」


「そ、そうかもしれませんけど……」


「……で、何か用かお前。気まぐれに顔見せたってだけならとっとと帰れこの飽き性。()()()()のヤツは居ないがな」


「そんな面白くもないジョークを聞きに来たわけではないんですがね」



 嫌味な笑みVS揺らがぬ笑顔が見えない火花を散らしておられる。

 クーラも不穏な気配を察したのか、おろおろ気味だ。



「え、ええと、メディクス先生?」


「ああ、うん、とりあえずコイツらの相手するからクーラちゃんは休憩入って良いよ。入院してる老い先短いのも寿命が延びたって退院したからゆっくり食事でもしてきな」


「メディクス先生ってばまたそういう事言って!」



 もう! とクーラは頬を膨らませたが、いつものやり取りなのか、先程のおろおろした様子に比べて気分が落ち着いたようだった。



「それじゃあ、私は一旦町の方でご飯食べてきますね。あ! でもメディクス先生! いつも言ってますけど、またあの人が来た時は教えてくださいよ!?」


「あー、タヴーフな。つかアイツも大分オッサン……ってか俺より年上だぞ。全身刺青だし。あと死別してるとはいえ妻帯者だ」


「で、でも、こう、顔を合わせるとドキドキしちゃうし、目を見ると何も考えられなくなるし、あの笑顔を見ると……」


「んなもんは宝石見て心奪われるのと変わらないよ。恋じゃなくて物欲だ。アイツに惚れるよりも町で良い恋人探した方が良いんじゃないか。クーラちゃんならすぐに良い恋人が見つかるさ」


「メディクス先生の意地悪!」



 言い、拗ねた様子でクーラは奥へと戻って行った。

 何やらバタバタと音がしていたが、間もなくして裏口から出て行ったのか、気配が遠ざかってゆくのを感じる。



「ハー、ったく趣味の悪い……」



 メディクスは口の端を歪めてガリガリと頭を掻いた。



「いや、アイツに惹かれるってのは趣味が良いからこそなのかもしれないがね」


「そんな事はどうでも良いだろう?」


「俺からすればお前の方がどうでも良いよ、()()()君。マジで何の用だ。つか本当に誰だその女は。一応聞くけどただ同行してるだけの人間じゃないだろうな」


「人間と同行したとして、何でわざわざキミのところまで連れてこなければならないんだい?」


「お前外面良いから稀にあるだろ。ま、お前の場合は執着ゼロな分あっさり検体に寄越してくれるところは話してて楽だが。で、人間じゃないなら眷属か?」


「あ、うん!」



 いまいち喋るタイミングも話題も無いなあと思っていたが、問われたので右手をピンと挙手して答える。



「キメラ名は()()で、主様の眷属やってるよ! 好きなタイプは筋肉と巨乳! 嫌いなタイプは不潔とデブと薄らハゲ! ちなみに好みの筋肉は脂と肉のバランスが取れてるムキムチな筋肉! 要するに主様みたいなタイプが好みです! 個人的にはマゾ寄りなので上から目線で強めに言われるのも好き! そしてお前は服の上からでもわかるガリヒョロ系だから好みの対象外だ! 胸元が開いた服着てて谷間見えるのは良いがそれでもわかるガリヒョロ感ってお前絶対あばら浮いてるだろ対象外にも程がある! もっと肉食って筋トレしろ! 解散!」


「何だコイツ。珍しく愚キメラでも作ったのかお前」


「確かに脳内がどうかしていて言動もいまいち知性や理性が感じられないけれど、一応これでもまともだよ。気持ち悪さに目を瞑れば使い勝手も良い」


「諸刃の剣って言うんじゃないか、ソレ」



 人の自己紹介に対して何て態度だこのガリヒョロ系ロン毛め。



「あー、まあ良い。とりあえず眷属キメラって事だな?」


「おう!」


「ならちょっと診察でもしとこうかね」


「コッ」



 髪をぐしゃぐしゃと掻き回し、火のついていない煙草を咥えたまま、一歩を踏み出した瞬間までは普通だったはずだ。

 しかし次の瞬間、頸動脈に違和感を感じると同時、気付けば私は横転していた。

 わあ診療所の床ひんやりしてるぅ。


 ……じゃなくて何が起きたんだよ!


 痛覚が無いので何が起きたかはわからないが、頸動脈の位置に何か鋭いものを刺されたのだけはわかった。

 そう思いつつ確認の為にガリヒョロの方を見れば、その姿が変化している。

 毛先がピンクとなっている長い金髪、隈があるマゼンタ色の三白眼、トレードマークの白衣などはそのままだが、しかし全く違う姿となっていた。

 眼帯が外された右目には目玉が無く、ぽっかりとした眼孔が覗いている。

 そこからどういう内容量なのか不明な茨がずるりと這い出ていて、ガリヒョロの髪を、腕を、胴体を、足を、全身をぐるぐると、まるで抱きしめるかのように巻き付いている。

 最早そういうオシャレな飾りかと思える仕上がりだ。

 そしてもう一つの違いは、左手。

 先程までは普通の手だったはずなのに、その左手が明らかな異形と化していた。

 手の甲辺りまでは普通だが、指が無い。

 しかし指の代わりに、五本の注射器が宙に浮き、まるで指のように位置している。

 名称は知らないが、差す時に押す部分が可愛らしいハート型だというのに、中に入っている液体は随分と禍々しさ満開だった。

 だって明らかに原色系の色合いしてる。

 アレは明らかに人体に有害ですよと公言しているレベルのアウト薬品じゃないだろうか。

 何をどうしたらあそこまでハッキリした、それこそゴムボール系に使用されそうな原色の液体を注射器にセットしようなんて思うんだ。

 いや、それ以前に指が注射器な時点で異様だが、コイツもキメラのようなので多少ビジュアルが変なくらいは許容範囲内としておこう。



「な、な゛、あ」


「まだ発声出来るとは随分頑丈だな」



 マジで私は何を盛られたんだ。いや、注射されたんだ。

 正直言って痛覚無いから良いけれど、痛覚あった頃は物理的に痛いのはスパンキングまでしか無理だった為、注射器系は地雷も地雷だったのが私である。

 媚薬のお香でほわわわーんなあへあへ状態は全然オッケーだが、注射器だのでぶすりとやる系は心の玉ヒュンが発生して興奮も出来なかったくらいだ。勿論エロ本の話ですとも。

 幸いにも今は痛覚が無いから恐怖は半減しているけれど、刺された事実と何かを注入された事実が怖過ぎる。

 というかマジで指先が碌に動かないというか擬態すら解けちゃったんだけど何盛りやがったこのガリヒョロ野郎。



「お、ツノに翼? 成る程、目やコルセットだけではわからなかったが、ドラゴンが混ざっているのか。いや、他も混ざっているようだが、良い検体だ。キメラじゃなければ一発でお陀仏な麻酔でも意識を保って発声出来る辺り、耐性も強い。これは調べ甲斐がある」



 凄い悪役顔でニンマリとした笑みを浮かべられたが、それ、一般的には麻酔じゃなくて猛毒って名称だと思う。



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