キメラにとってキメラは不味い
どうもここのところは歩きたい気分だったらしく、主様は二週間程ひたすらに歩いていた。
ひたすらに、というよりは良い感じの町が無かった、と言うべきだろうか。
宗教色強めの町はあちこちに聖属性のモチーフがあり、入れば町を出るまで具合が悪い事必至という最悪状態。
次の町は良い感じの港町だったのだが、船乗りが多かった。
いやまあそれ自体は日焼けしたナイス筋肉なオジサマ方が多くて私としては目の保養だった。
しかし主様としては、誰かと話す気分でも無いのに親し気かつ近い距離感で絡まれるのが嫌だったらしい。
……私からするとめちゃくちゃ嬉しいしそのままホテルに連れ込みたいし主様が絡まれててもわりと目の保養だなーとしか思わないけど、そこの感性は人それぞれだからなあ。
酔っ払いに乳や尻を触られるのは別に良い。こんな乳と尻があって酒が入って上機嫌なら触りたくもなるだろう。その気持ちは私もわかるのでウェルカムしつつこちらも存分に筋肉を堪能させてもらったのでヨシ。
が、主様はにこやかな好青年モードながらも勝手に肩を組まれたりするスキンシップ等に対し相当に苛立っていたようで、宿代は返さなくて良いと宿の女将に伝えてその日の内に町を出る事となった。
例え好意的であっても、無遠慮に接触されたりするのは好まないようだ。
……主様、どうも傾向からすると無礼者が嫌いっぽい感じ?
そう考えると私も相当に無礼者な気がするが、主様を心から敬っているのは事実なのでセーフ判定を貰えているのだろう。
良かった、変態性にさえ目を瞑れば色々と便利なアイテムくらいの位置を陣取れるようにしておいて。
まあ素で主様のお役に立ちつつゲッヘッヘと堪能したりしたい、とは思っていたので、結局のところ私は全部自分の欲望のままに動いているだけなのだが。
そんなわけでようやくまとも、というか程良く宗教が強くなくて良い感じに設備やらも整っていて尚且つ近隣住民の方々がフレンドリー過ぎる事も無い町に到達し、宿を借りて部屋に入り一息ついたところである。
微妙に交通が激しい場所から外れている事もあり、村では無いものの田舎感がちらほら見受けられる町で、素朴ながらも安心感。
……フレンドリーじゃないってのを超えて、表面上はフレンドリーだけど常に余所者を監視するような目で見てるって感じだけどな!
しかしそういった監視の目というのは、どこにでもあるしどこにも無い。
どの町でもあるという意味では無く、この町のどこかに人が居ればその人から町中に何もかも伝えられてしまうのだろうが、逆に言えばこの町の人にとって馴染み過ぎているが故に意識もしないようなところに関してはまったくもって視線が無い。
まあ、別に視線があったところで宿の中まで覗いてくるわけじゃないからどうでも良いのだけど。
誰かの視線があるところでは動きに気を付けるか、目撃者を食って誤魔化すか、をすれば問題は問題じゃ無くなるのだ。
口封じついでの食事というよりも食事ついでの口封じな辺り、人外になっちゃったなあ、という気分。
「…………」
開け放たれた窓辺、カーテンがそよそよと揺らぐ真横で、主様は椅子に腰掛けながら朝日を光源にして本を読んでいた。
今日の主様は、胸元がガバリと開いていて、袖や襟、裾の部分がヒラヒラしている水色のフリルシャツを着用している。
その上からはシャツの裾が見える長さとなっているシンプルな紺色のジャケット。
ジャケットはストンとしたラインを見せているが、裾のヒラヒラはより一層映え、露出されている主様の胸筋の谷間が強調されて素晴らしい。
……まあ、一応シャツの下には黒いインナーが仕込んであるけどな!
しかしそれすらもまた、こう、谷間がドーンよりも上の方の谷間が強調される感があって良いという感じ。下乳が見えるタイプも良いが、下乳が見えないようになっているのもまたヨシというアレだ。
下はシンプルな黒いズボンだが、腰の部分にはヒラヒラした飾りが巻かれている。
スカートのようなヒラヒラ、かと思いきや長さやデザインのバランスからズボンの飾りとわかるデザイン。
孔雀の羽でもモデルにしたのかと思う派手な色合いがまたよく似合う。
靴は口の部分が広めのブーツを履いていて、窓辺で本を読むその姿は正に絵画。
一瞬一秒が常に更新されてゆく絵画のようで、世の画家達もそりゃあこんな素晴らしい光景を前にしたら何としてでも後の世に残さねばと思うだろう。
私は精巧な絵よりも写真で良いじゃん派だったが、写真だけでは伝わらない気迫を表すには手描きがベストだと理解出来る程の光景だ。
まあ、私はそういった技量は無いし、キャンバス見るよりも今の主様を網膜に焼き付けるのに忙しいのだけれど。
……もし私の目玉を移植しようもんなら移植された誰かが目の前に主様居ない状態でも常に主様の姿を見る事になるだろうってレベルで焼き付けるぞ!
移植も何も、こちらにそういった技術があるかは不明だし、私に至っては不死身の化け物状態なのでそんな事例はあり得ないだろうが。
体から離れた部位、日差しでジュワッと蒸発するしなあ。
そんな事を考えながら主様がぺラリとページを捲る様を、ページの上に踊る文字列を追って自然と伏せている涼やかな目元を、文字列を時折なぞる指の動きをこれでもかと見ていれば、
「…………ハァ」
溜め息を吐き、主様は片手でパタンと本を閉じた。
「視線がうるさい」
「すみません! でも主様の存在があんまりにも美術的で!」
「へえ」
何言ってんだコイツ、みたいな温度の無い目を向けられた。
冷たいとかではなく虚無に近い目だ。コレは何の意味があって生まれたのかわかんないな、というものに向けられる目。道端にあるよくわからない像とかに向けられる目のようでゾクゾクする。
「まあ、僕も本を読むのに飽きたから良いけどね。しかしこの町、干渉してこないのは良いが見所が無くてつまらないな。出歩く気は無いが、暇潰しにもならない」
「主様の思う暇潰しってどういうのです?」
「僕が面白いと思うものかな」
「難問!」
にこりと爽やかに微笑まれたが、ソレって気分次第で変化するヤツではなかろうか。
同じようなネタは通じなかったりもするのが主様だし。
……居るよな、少年漫画とかで一回受けた攻撃は二度と効かないっていう強者キャラ。
まあ初見というのは得てしてそういうものだけれど。
あと暇潰し系も、延々と同じ事、例えば編み物やゲームなんかをずっとプレイ出来る性格なら良いが、そうじゃないタイプはコレ前にもやったから飽きた、となる場合は多い。
主様もそういうタイプの為、本人の方が大変そうだ。
私は主様を眺めているだけでもそういった飽きの感情とは無縁で居られるが、主様は常に退屈を感じて苛立ちを覚えているのだろうし。
……あ、でも辛うじて本とか着替えとかはセーフか。
しかしそれらも頻度が高いと飽きられるという事実よ。
流石に本を読むという行為そのものに飽きたりは稀のようだし、着替えに関しても着ている服の感触に飽きて着替えるというものだから、服を着る行為自体に飽きるという事は稀なのだろう。
私としては全裸の主様はそれだけで芸術作品感強いので寧ろそんな堂々と見せてもらって良いんですか!? という感じだが。
風呂場で当然のように見たり触ったりもしているけれど、やっぱり風呂場や脱衣場、そして着替え時以外で見る全裸というのはそれはそれで特別感があるものだ。
同じ立ち絵であっても背景が違うだけで雰囲気が変わって見えるみたいな事だと思えば多分大体合っているだろう。
「…………キミは見ていて愉快ではあるけれど」
言い、主様は手招いた。
椅子に足を組んで優雅に座っている主様の方へとのこのこ近付いて床に座れば、主様は頬杖をついたままもう片方の腕を伸ばし、鋭い爪が備わっている指先を私の顎の下に添え、クイと動かし顔を上げさせる。
「暇潰しにはいまいちならないのが問題だ」
「えっ、愉快ですか!? ヤッター!」
「よく愉快と言われて喜べるね」
「まあ実際見知らぬ他人に愉快だなって鼻で笑われたら何だアイツってなりますけど、主様からの評価であれば何でも嬉しいです! 例え床を這いずるしか能の無いカーペット扱いされても本望ですね!」
「僕はそんな奇妙なものを連れ歩く趣味は無い」
想像したのか、酷く不快そうな顔で眉間に皺を寄せている。
その表情もまた魅力的で、思わず顔がにやけるのがわかった。
「まったく」
ハァ、と主様は溜め息を吐く。
主様はよく溜め息を吐いている印象だが、毎回毎回素晴らしさが更新される為、溜め息を吐く姿すらも一切見飽きる事が無い。
ここまで常に初見の感動を備え続けるとは、一体どういう美貌だろう。神話から出て来たりでもしたんだろうか。
「キミは本当に意味がわからない」
「ん!?」
元々頬杖をついて背を丸め、こちらの目線に高さを近付けていた為、距離もまた近かった。
しかし今、その距離はゼロとなっていた。
自然に顔が近付き、近付くごとに解像度が増してゆく主様に見惚れていたら、気付いた時には唇が重なっていた。
……えっ!? 何だコレ!?
別にファーストキスというわけでもないが、あまりにも脈絡が無さ過ぎてビックリした。
え、今ってキスをするタイミングだったんだろうか。
明らかにそんなタイミングじゃなかったと思うが、主様が何となくキスをしたいような気になったならばキスをするタイミングとなり、つまり私は衝撃で固まるしか出来ないというか。
駄目だ流石に突然過ぎる事と幸せ過ぎる事で脳が死んでる。
「ん」
ベロリと唇を舐められ、唇の間を割るようにして主様のひんやり冷たい舌が口内へと侵入する。
歯列をなぞるようにゆっくりと舐められ、舌が絡む。
標準体温が高い上に興奮で熱が上昇している私と、常にひんやりとクールな体温の主様。
主様の方ではどういう感じ方になっているのかわからないが、私の場合、温度差が強いからこそ主様の舌は柔らかい氷が意思を持って絡んで来るような感触だった。
主様の長い舌が絡み、角度を変えて食らいつくように吸い付かれ、引きずり出された舌の先がヂュウと吸われる。
舌先から脳天までがビリビリと痺れるような感覚に、思考がぼやけたその瞬間、
「ん、」
「んぶぅっ!?」
思いっきり舌を噛み千切られた。
一切の躊躇い無く、鋭い牙で柔らかい肉を難なく噛み千切るのと同じように切断された。
痛みが無いとはいえいきなり過ぎる衝撃、口内に広がる大量の血の味と鉄臭さに、私は思わず反射的な動きで口元を押さえていた。
舌はすぐに回復したものの、それゆえにより一層強く感じる鉄の味。
……まっず……!
まずいというかなんというか、血の味である。ひたすらに血の味でしかない。人間を食らう時の甘美で満足度の高い味とは雲泥の差。
前に主様の指を食べた時にもそうだったが、キメラにとって人間は食糧だが、キメラは同族故に味覚的な補整が無いのだろう。
しかも困った事に口内なので自分でなめ尽くすなり口をゆすぐなりしないと血の味は消えないという問題がある。
一応口を開けて日光に当てればすぐ蒸発するだろうが、今の直後で大口を開けるのはちょっと、流石にまだそこまで人間性を捨てられてはいないというか。
要するに口開けるのをちょっとばかしビビってる。
「…………」
一方主様は、こちらの動揺を気にする様子も無くもごもごと口を動かしていた。
まるでジャーキーを噛んでいるかのように、私から噛み千切った舌を咀嚼している。
何度か咀嚼を繰り返した後、ゴクリという音と共に喉仏が動いたかと思うと、主様は再びこちらに顔を近付けて私の口元に垂れている血を舌で舐め取った。
そのまま優雅に姿勢を正し、吐息を一つ。
「…………不味い」
「ですよね!?」
ですよね!? と私は衝撃冷めやらぬまま繰り返した。
コレは二回言う程大事なことではない気もするが、しかし言わずにいられなかった。
「いや本当に何ですか今の!? 私としてはご褒美だったし私の舌が咀嚼されている事実とか私の血液を舐め取って貰えたりだとか視界から摂取する官能かなって感じで最高にゾクゾクと大興奮でしたけど!」
「貴様はどうしてそう気色悪い」
げんなりした顔をされたが、本音なので致し方あるまい。
寧ろ今の発言は大分マイルドにしたつもりなのだが。
「単純にどういう反応をするか、という暇潰しだ。あとは小腹を満たすくらいにはなるかと思ったが、やはりキメラは食料にはならないな。非常時の非常食くらいにはなるだろうが、人間を食らう時の美味さとは比べ物にならん」
主様は口元に付着している血を指で拭い、チロリと舌先で舐め取る。
「暇潰しでキスしたり舌噛み千切ったりってのはよくわかりませんが、私はディープなキスとかでかなり良い思いをさせてもらったのでオッケーです! 寧ろご褒美! その上で主様のお役に立てたなら光栄です!」
「ああ、俺の役に立てた事を喜んでおけ」
さも当然のような言い方だが、これだから最高なのだ。
舐め取った指先を確認していてこちらに一切視線が向かないままの上から目線百パーセントな発言、パーフェクツ。このまま靴を舐めたいくらいには興奮する。
しかし、主様からのキスとかアレソレとかの余韻を思うと、まだしばらくはこのままで居たいという気持ちもあり実にジレンマ。
二口女であれば頭部の口で靴を舐める事が出来たのに、と思ったが想像したら思った以上に絵面がへんてこりんだったので思考から消しておく。
必死でブリッジしながら頭の口で靴を舐めるとか、それはそれでローアングルから拝みつつ靴を舐めるという素晴らしき視界の気はする。が、周囲から見た時の絵面があまりにも病気過ぎる。
漫才であればまだ笑えるだろうが、真面目にやっているとわかれば見ない振りをして遠ざかる一択の案件だ。
私だって道端歩いててそんな頓珍漢なヤツ見たら視線を逸らして逃げるように早足となる事だろう。
「にしても、キメラって本当にキメラを食べても美味しくないんですね! 自分の血が普通に血の味でした! 人間の血の味は美味しいジュースみたいでもっと飲みたいって感じなのに! 死体前にしたら吐き気催しそうなもんなのに、キメラからしたら熟して甘い香り放ってる果物みたいな感じだし! なのに自分の血は普通に鉄臭い!」
「そもそもキメラは軍事用だから当然だろう」
混乱から自然と声が大きくなってしまっている私に五月蠅いとでも言うように一瞬眉を顰めつつ、主様はそう答える。
「効率よく人間を狩るには、積極的に狩りたいと思える獲物と認識する必要がある。少年兵が敵兵を仕留めた時などに褒め、褒美目的で人を狩るよう刷り込むのと変わらない」
「わあ血生臭い」
「まあ、キメラの場合は人間を襲う理由として飢えもあるが、基本はそういった甘美な味目的ではなく、快楽目的なんだろうがな」
「何か違うんです?」
美味しい物を食べた時は脳内の幸せ物質どっぱどぱだから実質快楽みたいなものじゃないんだろうか。
「酒。煙草。これらは味自体で考えると美味では無く不味いに入る。口にするのが理解出来ない程不味いが、美味いとされる。意味はわかるか?」
「あー、子供の時に間違えてお酒うっかり飲んじゃった時、口の中で燃えてる感じというか独特のえぐみと臭みと甘みがあって鼻に抜ける香りが熱持ってるみたいな、ヘンテコな感じでしたっけね。辛口カレーとかの痺れとはまた違う痺れがあるっていうか」
「が、それらもまた飲み慣れると美味に感じる。これは味に慣れて美味さがわかるようになったわけではなく、付属する快楽の病みつきとなった結果、味自体にも快楽を感じるようになった状態。酒の味を楽しんでいるのではなく、アルコールによる快楽と連動している酒の味を快楽と誤認し、その味もまた快楽と刷り込まれた結果だ」
「エロい緊縛姿見て興奮してると、適当な柱がそれっぽく緊縛されてるだけでも性的興奮を覚えるみたいな事ですね! フェンスに巨乳押し付けられてるエロ見てたらフェンス見るだけで思い出し興奮して、段々とフェンスだけでも興奮出来るようになってくみたいなヤツ!」
「……事実だけを言えば、まあ、そういった刷り込みだから否定はしないが、そんな変態的な例題を肯定したくはないな」
「褒め言葉ですね!」
あとまあ、実際にハイヒールとエロ写真見て自家発電させ続けたらハイヒール単体にも興奮するようになると言うので、うん、まあそういう事だ。
雑に言うと人間の脳は大変誤認しやすく、刷り込みが容易いという事なのだが。
だからプラシーボ効果とかがあるし、洗脳技術なんてのもあるんだろうけれど。
もし誤認しやすくなかったらプラシーボ効果だの洗脳だのは概念すら存在しなかった可能性すらあるぞ。
「ともかく、快楽を覚えるから次の快楽を得る為に人殺すぜってなるよう作られてるわけですね。確かに効率は良いなあ。生物兵器ですし。人間も自家発電による快楽を覚えちゃうと猿のように毎日毎日そればっかりになるからわかりやすい。年取って反応が鈍ったりしなければいつまでも現役で猿ですもんねえ」
「……例えが最低だが、理解する力だけはあるところ、結構好ましいと思うよ。そこの理解も出来ない脳足らずなら殺しているところだ」
「褒め言葉ですねヤッター!」
こめかみの横で人差し指をくるくるされたが、コレは完全に褒められているので万歳で喜んだ。
不得意分野だとどれだけ頑張ってもちんぷんかんぷんだが、主様はちゃんと相手が知らない前提でわかりやすく説明してくれるのでありがたい。お陰で理解出来ると言っても過言じゃないぞ。
「実際、キミの言う通りだ」
「えっ、主様の説明力が高くてわかりやすいってところですか!?」
「そんなものは言われなくとも当然だろう。俺の言葉を理解出来ないような愚か者は不要物だ」
「ですよね!」
主様からすると意図が通じない相手はマジで不愉快の感情しか抱けないだろうに、即座に燃やすべき可燃物の生ゴミと言わないだけ相当に良心的だと思う。
「快楽を覚える、という点だよ。アルコール中毒にするようなものだ。意識がある内は無限に、常に酒を求め続ける。酒が切れれば、酒が足りている状態を正常とする肉体が足りないと主張し始める。そして酒を飲み切ると終わってしまうという物足りなさ、加えて周囲におかわりとなる物が沢山ある状況。次の酒を考えて今の酒を飲み干す者も多いという、その事実からわかる事は?」
「おかわりし放題なバイキング形式だから、次から次へと人間を貪り食らうって事ですよね。何ならちょいちょいつまみ食いみたいに息の根を止めるとか」
「そういう事だ」
「でも、何でそこに魔物混ぜるんです? いえ、戦力的に強くなったりするってのはわかるんですけど、ええと、非人道的な事を言うけど魔物確保する分だけ加工が手間じゃないです?」
「非人道的も何も、僕達の存在自体が非人道的だけどね」
ふ、と主様は目尻を下げて微笑んだ。
貼り付けた笑みではなく、楽し気な、微笑ましいような、通りすがりの小さい子供がわちゃわちゃ動いているのを見て気を緩めるような、そんな笑み。
非人道である事が安らぎのように、微笑んでいた。
「魔物を混ぜた理由としては、人間を同属と認識しにくくなるから、というものだろう。僕は初期キメラじゃないから又聞きだが、同属では無いと認識する事で無意識下での躊躇い、ストレスが減る。人間が虫を潰す事に罪悪感を抱かないように、家畜を屠殺する事を必要と割り切れてしまうように」
「ああ……」
屠殺もまあまあメンタルがやられると聞くが、戦争で捕らえた人間を処分するのとはまた違うのだろう。
いや、戦争時代の人はそういう思想を教育されていただろうから、実際どうかは知らないけども。
少なくとも化け物になってしまった私の思考では、ほんの一欠片も推し量る事は出来ないだろう。
「加えて、キミが言っていたように攻撃力等の向上。防御力や再生力も桁違い。恐らくは、軍事目的であると同時に為政者が求める不老不死研究も兼ねていた可能性も高い。そういった話はちらほら聞いた。現在でも、様々なところで為政者が不老不死を求めているのは耳にするからね」
「いつの時代も人間は不老不死を求めますもんねえ」
日本人の場合、浦島太郎なり八百比丘尼なり漫画の神様によるファイヤーバードなり、不老不死なんて碌なもんじゃねえという意識が刷り込まれている為、あんまり不老不死を求める話は聞かないが。
竹取物語でも帝は不老不死の薬を富士山で焼いているくらいだし。
「まあでも実際、私は主様と一緒に居られるなら無限の時間でも最高に幸せですが」
「僕はキミと永遠に二人きりなのは御免だよ」
そこで当然のように二人きりの旅を続けている前提で考えてくれているのが喜ばしい。
便利な道具を手放す発想が無いだけなのかもしれないが、その言葉だけでも一生の悔いなしと思えるものだ。
いや、まだ主様と合体したいとか腹筋をふやける程舐め尽くしたいとか色々欲望だらけなので、悔いなんて無限に湧いてくるけれど。




