少年は戦争こそが居場所だった
僕は元々ネイチャー大陸の方の生まれでね、赤毛に黒目の少年だったんだぜ。
そ、この見た目はキメラになった時に変化したもの。
まあ当時から僕は発育不良なところがあってチビだったから、背丈とかはあんまり変わんないんだけどさ。
「こら、アズラク! 何をまた散らかしてんのよ!」
「散らかしてるんじゃないよ、発明だよ! コレが完成したら干し肉を一瞬で作れるのさ!」
「そんなどうでも良い事で散らかさないの! 材料もコレ、一体どっから持ってきたのよ! うちをガラクタだらけにする気!?」
姉さんは駄目だな、こういう発明関係の素質が無かった。
いつだって僕がやる事を否定するんだ。
雲を散らして晴らしたり、雲を寄せて雨を降らせたり、そんな便利な魔道具をちょっとの魔石で動くよう作ったのに、まったくもって評価されない!
「アズラクってば、また家に引きこもってるの? そんな事だから貴女は痩せっぽちなのよ。ほら、お外で遊んできなさい」
「見てよ母さん! ほらコレ、どんな汚水も綺麗に濾過する濾過装置! しかもお手軽な持ち運び型! これ一つで旅路も安心仕様になるんだ!」
「またそんな夢みたいな事言って、そんな事があるわけないでしょう? そもそも魔法で清めればある程度は飲める水になるんだから、そんな物は必要ないわ。それよりも体を鍛えないと、将来働いたりする事が出来ないわよ?」
「僕は発明するから大丈夫さ! 友達の家にある本を読めば大体原理がわかるから、あとは組み合わせれば何とかなるんだ! 植物を細かくしたものや布切れなんかを入れれば自動で裁断したりした上で一枚の布にするような機械を作るのだって、あとは刃物部分の材料さえ確保出来ればどうにかなるよ!」
「貴方みたいな子供にそんな事が出来るはずないじゃない。ほら、良いからお外へ行って遊んできなさいな。そんな事が出来たところで役になんて立たないんだから」
母さんも駄目だった。
発明も何も、そういった事が実現するという事すら信じていなかった。
実際に作って見せても、面白い見世物だとしか思わなかった。
僕の発明を、母さんはただ、外に楽しみを見いだせない我が子が家の中での暇潰しに精を出しているとしか認識していなかったんだ。
僕は好きで、好んで、自分の本能のままにやっていたのに!
「ねえ父さん、見てよコレ! このマシンがあれば馬車は要らなくなるんだよ! 人が荷物を運ぶ必要すら無い! ここのパネルで設定して目的地を決定すればあとは自動で動いてくれるんだ! 勿論人と接触する危険性はあるけど、列車のように線路を敷けば事故の確率はぐんと激減! 更に重たい荷物をガンガン運べるから道路工事も楽々だよ!」
「……アー、ウン、まあ、そうかもしれんが……もしそれが実現したら、儂らはどうなる? そういった日雇い仕事で食っている者があぶれてしまうじゃないか。世の中、便利になれば良いというものでもないんだよ」
「でも皆言ってるじゃないか、もっと便利になれば、って。ここがどうにかなれば人件費が削減出来るし無駄な仕事は無くなるし、着手出来る事も増えるって! 仕事が効率的になれば時間は削減されるけど報酬は出るし、そうなれば家族との時間も増えて良い事だらけ! 更に道路工事なんかに煩わされなくなれば、道路工事の先、今後を考えた新しい仕事も出て来るかもしれない! ね、ね、必要だよね!?」
「…………確かにそうは言うが、実際そう簡単な話でも無いんだよ。儂らの仕事が減った分だけ報酬は減り、食えなくなってしまう。そしてその後の仕事なんてのはどういうものだ? 今まで力仕事で食ってきた儂らは学が無い。学が無ければ、新しい仕事が始まったとしても置いて行かれるだけじゃないか」
「だから仕事が早くに終わって余った時間で勉強すれば良いんだよ!」
「……アズラク、儂は仕事で疲れているんだ。そういう夢のある話をするのは良いが、外でするんじゃないぞ。儂まで笑われてしまう」
父さんも駄目だった。
いつもはこうだったら、ああだったら、と言っているのに、いざ作ってみれば全てに苦い顔をしてくるのが父さんだった。
終わるのを嫌がっていて、今のままが続くのを望んでいて、新しいのを拒否してくる。
新しい何かを導入して効率的にしないと、進化なんて起きないのに。
……時代が進むのに合わせて進化すべきなのに、どうして今にしがみつくんだ!
今を、そして目の前を見るのは大事だろうさ。
けれども今に固執するっていうのは、過去になるべき物に縋りつき、未来を拒絶するって事だ。
新しい物を拒絶するというのは、未来への拒絶。
しかし今という物は常に過去となっていき、新しい未来が今へと変化していくもの。
若者が年寄りになり、年寄りは死に、新しく生まれた子供が若者になるように。
そうやって刷新されていくのに合わせて文化も進化していくべきなのに、彼らは次世代なんて要らないと言う。
未来を否定するのは若者達が老人になっていくのを見て見ぬ振りし、子供が作られず、滅びに向かうだけだというのに、それを直視しようともしない。
そんな家族が嫌だった。
そんな家族だったから、僕はより一層素晴らしい発明をしようと気合いを入れていた。
僕にはもう、発明しか僕を理解してくれる存在が居なかったから。
・
でも、そんな日々も終わりを告げた。
発明なんて何の意味も無いと言われ続けた日常が変化したんだ。
戦争が起きたんだよ。
それはもう、周辺を大きく巻き込むような戦争だった。
僕の住んでいたところも思いっきり巻き込まれてね、父さんはあっという間に徴兵されて行ったよ。
母さんと姉さんは、どうだったかな。
僕は子供と言えども男だからって事で一応徴兵されてね、当時二人がどうしていたかは全く知らない。
そもそも、そんな事を気にするような時間は無かった。
だってとっても楽しかったから!
「おや、どうやら貴方、随分と見込みがあるようですね! その調子で幾つか作って見せる事が出来たなら、俺様が特別に目を掛けて差し上げましょう!」
そう言ったのは、目元を覆う仮面に豪奢な上着を羽織った男だった。
戦争の関係者であり、随分と高い地位に居るようだった。
でも、そんな事はどうでも良かった。
ようやく僕の発明力を認めてもらえた、それだけが大事だった!
「見て見て! この爆弾はコレだけじゃ爆発しないけど、魔石の連動によって爆破させる事が出来るんだ! つまりこっちのスイッチを押せば即座に爆発! 向こうの基地にセットしてからスイッチを入れればイチコロだよ! 動線なんかを気にしなくて良いから仕掛けさえすれば距離を気にする必要も無し!」
「何とまあ、素晴らしい! 貴方は良い発想をお持ちのようだ!」
「あとコレ! 死体の処理が面倒って言ってたから、死体を投げ込めば勝手に処理してくれる機械も作ってみたんだよ! 食糧が足りないとも言ってたから、死体を処理してゴミを捨てて、尚且つ毒素を抜いて栄養バランスを調整した上でミンチにしてくれるようにしてみた! コレで死体の分だけ食糧確保! 栄養バランスも整えてあるから、そこらの虫を食べるよりも安全性は高くなる!」
「アァッハッハ! 良い発想ですね! ええ、それはとても良い発想ですとも! 俺様好みの発想です! 使い方次第では捕虜の食糧にも使えそうで大変よろしい!」
クリークと名乗っていた彼は、僕の発明をとても愉快そうに聞いてくれたよ。
そうして僕の発明により、戦争での死人の数は跳ね上がった。
僕としては好きなだけ発明が出来て楽しかっただけのイベントだったけどね。
だって、ようやく好きに発明が出来るんだ。
戦争用の、っていう条件こそあったけど、そういう条件だからこそああしようこうしようって考えるのも楽しかったんだよ。
「ああ……とうとう戦争も終わりに向かっているようですね。何てつまらない。この俺様があれほど金貨を双方にくれてやったというのに、あれほどに火種を撒いてやったというのに、この程度で終わってしまうだなんて。金銭、戦力、気候を思えばまだ粘れるでしょうに、ああ全く、戦争慣れしていない方は諦めが早くて困る」
「えー!? 戦争が終わっちゃったらもう僕は発明が出来ないって事!?」
「好きにやればよろしいでしょうに。貴方程の実力があれば、幾らでも戦争関係者に兵器を売り飛ばせますよ。そのまま裏から牛耳るくらいも出来るのでは?」
「んー、僕は作って試したいだけだからどうでも良いかな! それに母さんも姉さんも父さんも、僕のそういうところを全然認めてくれないんだ」
「おやまあ、あれほどまでに優れているというのに、見る目が無い方々ですね。まあ、豊かさという毒に慣れていなければ、優れ過ぎた物というのは破滅を呼ぶ……そう考えればある意味見る目があるのかもしれませんね」
けれど、まあ、面白い戦争になった事ですし。
そう言ってクリークは笑い、僕の発明を褒める時のようないつもの笑顔で、僕を殺した。
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そうして僕はキメラになった。
そう、クリークはキメラだったのさ。
「俺様は初期キメラという……まあ、この辺はどうでもよろしいでしょう。ああ、クリークというのは偽名ですので、キメラ同士で呼び合う時は戦争主義者と呼んでくだされば」
まあ、とクリークは、戦争主義者は微笑んでいた。
「俺様は戦争の火種を作りたいだけなので、後はお好きに生きればよろしい。人を食らうも発明をするも貴方の自由です。少なくともコレで簡単には死ななくなりましたから、家族に養われるだの養うだのを気にする必要も無い。貴方が自由に活動すれば、その発明力を求めて必然的に戦争が起きる事でしょう。俺様はソレを、心待ちにしておりますよ」
そう話して、戦争主義者とは別れる事になった。
ああ、気付いた?
戦争主義者ってば、僕にキメラの事を全くもって教えてくれなかったんだ! 全く持って何一つ、だよ!
……ああ、でも流石に擬態だけは教えてくれたっけ。
とはいえ僕としては、元から倫理観なんてあってないような物だったから。
僕にとっては発明が出来ればソレで良いだけだったし。
……いや、キミみたいな変態相手に動揺するくらいの倫理観はあって当然だろ。
とにもかくにも、僕は戦争が終わってから家に戻った。
途中でうっかり人間を食べちゃったりもしたけど、食べ切りつつ残骸は他の死体と混ぜる事で誤魔化したから大丈夫だったよ!
他の兵士達と会った時に聖属性は駄目っぽい、っていうのも察したから、僕はキメラの生態の説明こそ受けていなかったけれど、最低限は何となくで察してた。
……家族は、何も変わって無かったなあ。
本当に何も変わっていなかった。
嫌になるくらい変わっていなかった。
父さんは戦場で、僕の作った兵器によって死んだんだって。
僕としては人殺しの兵器を作っていたんだからソレで死人が出るのは当然だし、父さんだって命懸けの戦場に徴兵されたんだから、生きて帰らないくらい想像出来るはずなのに。
「アンタ、何を作ったかわかってるの!? アンタが何をしたかわかってるの!? アズラク、アンタ、アンタが作った物のせいで皆が泣いてる! 皆が死んでる!」
「姉さんはおかしな事を言うね? 僕が求められたのは兵器の発案、設計、製作だよ? 姉さん達が兵士のお手伝いなんかを割り振られたように、僕に割り振られたのがソレだっただけさ! ところで姉さんだけ? 母さんはどうしたの?」
「アンタが父さんを殺したから、母さんは! 母さんは……!」
「だから、母さんがどうしたのさ?」
「あああああ! この親殺し! この同族殺し! どうしてアンタはそう頭がおかしいのよ! 変な物ばっかり作ってると思ったら戦争を悪化させるような兵器を作って、父さんを殺して、その報せを受けた母さんも死んだ! 折角生き残ったって、アタシはこれから人殺しの姉! 恋人だって戦争で、アンタの兵器のせいで死んでるの! どうしてくれるの! どうしてくれるのよお!」
「そう言われても、僕は発明してただけだよ? 僕の知らないところで勝手に死んでるだけじゃないか」
「アンタの! アンタのそういうところが大っ嫌いなのよこのイカレ野郎!」
姉さんは顔を真っ赤にして、目元や口を化け物みたいにして僕の首を絞めて来た。
だから僕は姉さんを殺して食べた。
別に元々、そこまで情があったわけでもないからね。
……擬態しているとはいえ髪色なんかが変わってる事に気付いて無かったんだから、向こうは向こうで僕に興味なんて無かったみたいだし。
家族っていう定義だとかはわかっているけれど、だからといって家族らしい絆も無かった。
だって誰も僕の発明を、僕の事を見てくれてはいなかったんだから。
僕の発明を初めて認めてくれたのは戦争主義者で、僕の発明を初めて利用したのは戦争だった。
僕にとってはそれだけだった。
……僕が褒められたのは、それが初めてだったんだ。
勿論、普通に自分から外に行ったら子供は外で遊ぶものだからって母さんに褒められたりはしたよ?
でも、それは僕の望んでいた褒められ方じゃないからね。
やっぱり自分の好きな事で褒められたいじゃないか。
家族にとって都合の良い、僕の望んでいない部分で褒められるよりも、ね。




