人喰ってれば金が生まれるのは自然の摂理
しばらく飛んで、なかなかにメカメカしい町へと到着した。
メカメカしいというかくすんでいるというか、周辺の土地が大分死んでいるというか、近くの川がでろでろした汚水に塗れて完全に自然として死んでるのはどうかと思う。
「いよーっし、じゃあまずは素材集めだな! 購入購入購入! 食事は夜になってから!」
飛んでいる間に夜が明けたので致し方なし。
流石に昼間の犯行はバレやすそうなのでちょっと躊躇いが生まれるのだ。
……海の上ならそんな事も無かったんだけどなー。
適当に死角となっている位置に居る人間を通り過ぎ様に空中からシュバッと確保してゴキャッとして食べればオッケーだったので実に楽。
やっている事は海鳥のソレだが、正直言って陸地での狩りに比べて面倒ごとが無いのも事実。
いや、流石に死角狙い出来なかったら化け物発見からの狩りが始まる危険性があるけどさ。
……船って死角多くて助かるんだよな。
人間側からしたらとんだ災難だろうけど、今の私は化け物側なので知らん。
人間がいちいち家畜側とかジビエ云々の災難がどうのこうのとかを気にしないようなもんだ。
美味しく食べてるからオッケーオッケー。
「とりあえずジョーヌは楽器購入だろ?」
「…………」
「僕は片っ端から材料確保のつもりだけど、諦観者としちゃ生地とかでリクエストは?」
「見栄えが良いなら問題は無い。見栄えが少ないシンプルな物でも、合わせる服次第で映えるからそういうのも確保して欲しいかな。要するに片っ端から確保」
「りょうかーい」
んじゃ一旦解散ね、と青いのは早足で近くの店に入って行った。
窺えばどうやら布とか取り扱ってる店らしい。
続いて黄色いのもゆったりした足取りで歩き出して去ってゆく。
「えーと……主様、私達はどうします?」
「本と服。良い舞台があるならそれも見たいな」
「良いですね、舞台!」
「別行動する気は?」
「えっ、ありませんよ!? 寧ろ私が主様と別行動するなんていう選択肢があったんですか!? そんな選択肢は捻り切ってそこらの川に廃棄物としてぶん投げますよ! 主様のお傍に居られる事こそが最高ハッピーなんですから! 合法的に主様をじっくり見つめられるポジション放棄するとか意味わかんなくないです!?」
「相変わらず言っている意味がわからない」
「褒め言葉ですね!」
万歳したら溜め息を吐かれたが、それもまたご褒美です。
・
この油ギッシュな町では主様の貴族らしい服装はひたすらに動き辛いという事で、良い感じに独特な服が売っていた店で購入後即着替える事となった。
主様は脇の部分がバックリと開いていて実にセクシーというか、ガタイの良さも相まって何ともガチ感が強まっている黒のタンクトップ。
胸元に使うわけでも無い、というか使えない謎のジッパーが単独でついていてどういう意図かサッパリだけれど、その見栄えしか考えていないデザインを気に入ったそうなので多分ヨシ。
……私としても丈が短いもんだから頻繁にチラ見えする腹筋とヘソで大歓喜だしな!
脇の部分が大公開に加えて腹チラヘソチラが頻繁発生とか最高過ぎる。
ちなみに下は至ってシンプルなズボンであり、油汚れが滲んでも目立ちにくい、というよりもそういった色合いに見えるだろうベージュカラー。
大理石柄の床にしておくと髪の毛が落ちてても気付きにくいみたいな事だろう。
靴はシンプルながらも紳士的なデザインをしている革靴であり、こんな油ギッシュなところを歩くのに適しているのかわからないけれど、まあ主様が気にしてないなら多分セーフ。
……どっちみち汚れたところで主様が飽きたらそれまでだしね!
ただ個人的には革靴も中々踏まれたら楽しそうなのでちょっとわくわく。
サンダルから覗く素足も素敵だけれど、ヒール高めなブーツも最高だけれど、それはそれとして革靴状態で足を舐めろとか言われたらヨダレをダラダラ垂らして歓喜する事だろう。
……いやあ、実際やってもらえるかは別として想像だけで大興奮出来ちゃうな!
尚、私はコルセットの都合上スポブラのような白タンクトップにミリタリー感のある上着を重ねている。
ミリタリージャケットと言うにはミニ丈だし前を閉じる事も出来ないデザインだが、まあどうせこの爆乳では前を閉じたりするのは難しいし、問題は無い。
……寧ろプラス! この爆乳を隠すなんざ勿体ないからな!
勿論隠す事で希少価値が生まれて脱いだ瞬間の攻撃力を増加させる効果もあるし、場合によっては無理矢理前を閉める事でギッチギチ感が生まれて胸ボタンが弾けそうなあの最高シチュも生まれるだろうが、この場合はこのままで良いだろう。
首にあるシンプルな黒いチョーカーを考えても、前を開けている方がバランスが取れる。
……まあ私オシャレとかあんまり知らないけど!
昔にデパートとかであったアーケードゲームのオシャレな魔女がマジカルなスタイルをマジョミカルして変身するゲームは大好きだったが、アレでオシャレ度培えるかと言ったらそうじゃなかったし。
まあともかくとして下は主様と同じく油染みが目立たない色合いのショートパンツ。
その下にはダメージストッキングが重ねられていて、むちむちしている太ももが服ビリ被害に遭ったかのようなエロさを醸し出している。
手は黒い手袋に覆われているので、全体的にミリタリーな雰囲気が出ているテイストだ。
……髪の毛も後ろで大きいお団子に纏められたし。
ちょいと私の髪はボリューム強めなので纏まり切らず、毛先が思いっきり跳ねてしまっているがコレも味だろう。多分。
良いんだよ少なくとも私は髪型がどうなっていようが巨乳か筋肉があれば許せるから。
世界だって巨乳と筋肉を前にしたら相当な犯罪でも無い限り許すだろうさ。そのくらい大事なんだよ巨乳と筋肉は。
……そう、つまり母性の象徴とも言えるおっぱいが大きいのは正義であり、逞しさの象徴とも言える筋肉がバッキバキでむっちりしてるのもまた正義という……。
そんな崇高な理由を肉付けしたところで結局は性癖一致すれば大抵は許せるというだけの話だが、世の男共だって相手の女がどれだけ浪費家でも顔良くておっぱいとか体型が好みだったら大抵許せるみたいなもんだ。
誰だって魅惑の女スパイに出し抜かれたり良いように使われたりしたいと思うだろう。
コレ、正直言ってマゾ属性じゃなくとも、そして男女関係無くわりと高確率で思う事だと思う。
「そういえば、主様」
「何かな」
服を購入し、本屋で良さげな本を片っ端から購入してわりと気分良さげな主様が首だけで僅かにこちらを振り返る。
それでも足を止めない辺り、そして相変わらずスタスタ歩く辺り流石は主様。
とはいえここまでの付き合いで多少の変化が発生したのか、振り返ってこちらを認識してくれるのは嬉しい事だ。
「青いの達に色々と頼みましたし、実際彼らに頑張ってもらわないと私もいちいちこの足について言うの面倒なわけですけど」
毎回毎回コレに関してはちょっと言い辛いっていうか、みたいな態度を取るのは面倒臭い。
一か所に留まっているなら知っている人とかよく話す人とかがフォロー入れてくれそうなものだけれど、残念ながらこちらはあっちゃこっちゃを移動しているので大半が初対面。
つまり毎回テンプレートな自己紹介をする必要がある。
……主様の好青年モードを思うと、相手が自己紹介して来たら律儀に返しちゃうしなあ。
そしてテンプレが発生という地獄。
宿に戻るとそのやり取りに飽き飽きで苛立ちまくりな主様によって程良い加減のままゆっくりと首を絞められるのでご褒美感満載で嬉しいけれど、無駄なテンプレはよろしくない。
いやもう本当にただ一撃で仕留めるんじゃなくて程々に苦しさが感じられて大興奮な首絞めはパーフェクト。
元々私はそこまで首絞められ系の性癖を持ってるわけじゃなかったが、苛立ちこそあれど首を絞める事に付属する興奮とか殺意とかが無い主様、というプラス要素も相まって大興奮。
いきなり見知らぬガリヒョロボーイとかクソデブオッサンとかに首絞められたら何だテメェとなるところだが、相手が主様というだけで大興奮なご褒美イベントになるんだから性癖というのは強いものだ。
「一応依頼って形なら、報酬払う必要ありますよね? あの、私って一文無しなんですが……」
正直言って衣服も宿代も食事代も全部主様持ちである。
実際宿代は一部屋幾ら、というのが殆どなので二人分のお支払いとかでは無いし、衣服に関しては私が要求した事は無い。
主様が私の服装を見飽きるとその後視界に入る度苦痛という事で用意された衣服に着替えているという感じ。
しかし、私がお金を払った事は無い。
何せ働いていないし稼いでいないから。
「別に、僕らは報酬がどうとかを気にするのは一部しか居ないからどうでも良いよ」
「どうでも良いんです!?」
「気にしたところで意味が無いし価値も無い。少なくともキメラは一定以上の金を持っているものだし」
「え、私一文無しですよ?」
「眷属だからね」
はてどういう事だろう。
理解が及ばず首を傾げれば、ハァ、と溜め息を吐かれた。
こちらを見るその目はどうしてこうも理解が遅いんだこの出来損ないは、と言っているようで興奮する。もっともっと!
「人間を食えば勝手に収入が発生するから何も問題は無い」
「あっ成る程!」
確かにそうだ。
私は装飾品も鉄食いヤギ効果でバリボリとスナック感覚で食べれてしまうが、そうじゃないキメラも多かろう。
そして商人とかを仕留めればあっという間に相当な額を確保出来てしまう。
……町では足のつきにくさから浮浪者とか孤児とかを狙って食べる事が多いけど、移動中は少数精鋭な商人を襲撃する事も多いもんなあ。
別に普通の一般人を襲う事もあるが、商人系は丁度良い数である事と通行率が高いので致し方なし。
移動系はその分だけ危険が多いと言うけれどまったくもってその通りだ。
襲い掛かる危険側が何を言ってんだという話だが。
「そもそも彼らは自分達の探求心を優先するタイプだ。自称姉が妹に執着し、熱血が家族に執着していたのと同様、彼らは研究や発明といった事に執着を見せている。例え管轄外であったとしても、彼らにとって新しいものであるならば断わったりはしないだろうさ」
「成る程ぉ……というかやっぱりキメラって何かに対して執着強い感じなんです?」
「どうだろうね。強いんじゃないのかな」
どうでも良いというのが言外にひしひしと伝わってくる声色だった。
そんな主様の場合、暇潰しという部分に執着していそうな感じだけれど。
・
「いやあ、大量大量! 一つの町じゃ大した量にはならないけどさ、とりあえずお試しとしての最初の一足作るには充分な量の布が確保出来たぞ!」
「………………」
「うん、ジョーヌも楽器確保出来たようで何より!」
ハイタッチのようなノリで、青いのと黄色いのがジュースの入ったコップをぶつける。
実年齢は多分セーフなんだろうけれど、彼らのビジュアルからするとお酒は飲めないご様子だ。
……まあ普通に考えてストップ掛かるだろうしなあ。
現在、それぞれ買い物を終えたという事で適当な食事処での食事タイムとなっていた。
今はまだ夕暮れくらいの時間帯なので、主食に関してはこの後だ。
まあ娯楽扱いの前菜みたいな気分で楽しめば良いだろう。
食事前のお菓子は中々にオツなものだし。
「これなら食事を終えたら今晩にでも博識のとこに行けるかもな!」
「なあ、ちょいと青いのに聞きたいんだけどさ」
「何だよ変態」
「人前じゃあ一応ジージエだよ!」
「あーはいはいオッケーオッケー。僕はアスルな。ジョーヌはフラーウスだからヨロシク」
「え、じゃあアンタら本名で呼び合ってたわけ?」
ジョッキを持ちつつ指を差せば、差された青いのはそれに文句を言うでもなく不思議そうに眉を歪める。
「そりゃ特別だから本名呼びだろ。そもそも本名じゃないなら普通に呼び名の方使うし」
「ソレもそうか」
それに思い返せば自称姉の方も妹達の本名を呼んでいたし、そんなもんか。
恋人とかそういうアレソレでは無く、自分の中での大事カテゴリに入れば本名呼び、という感じらしい。
うーむ、いつかは主様の本名呼びを許される立場になりたいものだ。
……本名は教えてもらえてるけど、ソレで一回やらかしてる以上はしばらく無理だろうけどな!
いや本当に致命的なやらかしだった。
既に数か月経過してるのに忘れられないぜ。
「んで、変態の聞きたい事って?」
「頑ななまでにジージエ呼びする気がねえな……いやさ、博識ってのは男女どっち?」
「僕らキメラって擬態の応用で性別変更くらい出来るし、キメラ化した時に性別変わる場合もあるから明確な性別って結構曖昧なんだけど」
「えっマジで!? って事はお前らもおっぱい大きいお姉ちゃんになれるって事!?」
「大声で一体どういうリクエストだよ!」
「最重要案件だろうが!」
主様と黄色いのは我関せずどころかただ相席になっただけの他人顔で黙々と食事を進めているが、今はそれどころじゃない。
優雅な仕草でサラダを食べていた主様はサラダに飽きたのか食べ掛けのソレをこちらへと寄越してくれたが、それどころでは、
「ありがとうございますラシー様! ラシー様の食べ残しがいただけるとか最高ですね! もうこのサラダはこの世に存在するありとあらゆるサラダよりも美味である事が約束された祝福のサラダってレベルですよ!」
「うるさい」
「褒め言葉です!」
最重要案件よりもよっぽど大事なので反射的に口が勝手に。
青いのが凄い半目でこっちを見ているが知ったこっちゃねえ。筋肉ショタならともかくヒョロショタには興味ないのだ。
しかし、そうじゃないならば話は別。
「で? お前らおっぱい大きいお姉ちゃんになれるの?」
「言っとくけどまったく別人に擬態ってのはそういうタイプの魔物混ざってないと無理だからね? あと本当に声量調節しろ。魔道具で防音してるし周囲も騒がしいから大丈夫だろうけど、あくまで簡易式だから変に目立つ奇声まではどうにもならないんだぞ」
「魔道具云々はお前の領分なんだろ? だったらお前の問題だろうしそっちでもっと改良するなり手段あるんじゃないの? お前の怠慢を私に押し付けられてもなあ」
「ジョーヌ! コイツむかつく! いや言ってる事はわりと普段の僕みたいな感じだけどむかつく!」
「………………」
黄色いのがドンマイといった表情で青いのの背を撫でた。
おいおい酷い言い草だなあ。私は思った事を言っただけだぞ。
まあ友人にはお前本当性癖外に対しては好意、というか尊敬? の部分が抜け落ちるのか言い草が最悪だよな、と言われた覚えもあるけれど、誰だって性癖外には雑な扱いをするものだろう。
性癖ドンピシャな相手に気遣いその他諸々を全振りしてるので致し方なし。
「つまりお前はヒョロガールになる、と? え、つまんねえな……折角擬態出来るんならおっぱいに肉盛れよ……私ロリ巨乳も有り派だぞ? ロリは微妙だけど巨乳は有りだからロリ巨乳も範囲内。つまりお前が巨乳になる分にはイケる」
「範囲内になりたくないよ!」
「ったく筋肉にも期待出来ないしおっぱいにも期待出来ないとか役に立たないな……」
「誰用の靴作る予定かわかってるか!?」
「あ、それはマジで助かります」
「急にテンションが乱高下するの何なんだお前……」
そう言われてもオタクの素養があれば大体こんなもんだろう。
「ちなみに黄色いのは?」
「…………まあ、背丈に見合った胸ではあるかな」
「つまり巨乳か! 巨乳だな!? おいおい何で野郎のナリしてんだよ女体化しろよ!」
「………………!」
「いやごめんジョーヌ。でも事実だし」
「キミもせめて座り続けるくらい出来ないのかな」
「オグェッ」
焦った様子の黄色いのと、ソレをどうどうと落ち着ける青いの。
そして思わず立ち上がっていた私は太ももを掴まれて危うく捻り切られそうになったので大人しく着席。
激痛になれば痛覚が遮断されるのでわりと平気だし、脇腹狙いならコルセットに守られるところだが、しかし流石は主様、絶妙に痛みを感じるレベルの攻撃力で掴んできた。
激痛一歩手前は普通に痛い。
「んで、博識ってのは男か? 女か? 筋肉とおっぱいは?」
「もう見た時のお楽しみにでもしとけば良いだろ……」
「バッカお前、そんなの期待外れだった時の残念感半端ないだろ! 良い感じの子居るかなって思って店行ってパネマジ被害に遭った時の絶望感ヤバいぞ! 程良い肉感なら良いけど巨乳とはいえただのデブ出された時の絶望感は本当引きずるからな……! あと男の脱衣にワクワクして男のストリップ見に行ったら普通に肉が無くて細いのばっかな時の絶望感も凄いぞ……! スタイルが良いって部類に入りはするんだろうけど外国のムキムキを見習え……!」
「何の恨み言?」
そうしてしばらくわいわい話し、とりあえず空中都市へ行くまでの間に時間潰しとして青いのがキメラになった馴れ初めなんかを聞くという事で話は纏まった。
いやあ、酒飲んでたのは私だけだしドラゴン効果か全く酔いは回ってないはずなのだけど、場酔いってのはそこらの酒よりよっぽど強いな!




