何なんだコイツら
「色合いの組み合わせなんて微妙な色合いの差で幾らでもバリエーション増やせるってのに、加えて靴自体のちょっとしたデザインバリエーション、更に刺繍による模様とかも加わるとマジでエグイ数になるんだけど……本気でそんな量注文する気?」
「勿論」
「うっわ、最悪! それはそれで面白そうだって思っちゃう僕も最悪だよ! だって明らかに時間掛かるし僕らだけじゃ手が追い付かない! ただでさえ服がどうとかは専門外なのに! 靴だけどさ!」
でも色々と効果てんこ盛りな加工部分は超やりたい! と青いのが頭を抱えて叫ぶ。
楽しそうで何よりだ。
「拠点自体は適当なところを乗っ取るなりすれば良いけど、そもそも靴のバリエーションって何? 色合いなんて考えた事も無いよ! 靴の形状が固定なのはイケる! 大丈夫! でも僕らってそういうの不得意だぞ!? なあジョーヌ!」
「………………」
青いのに詰め寄られた黄色いのは、どこを見ているかわからない眠そうな目のまましばらく無言を返し、
「…………博識」
「成る程そうか!」
突然ポツリと呟かれたその言葉に、青いのがソレだと言わんばかりに指を鳴らした。
「確かに博識の空中都市なら場所の確保も可能だし、博識が材料提供してくれれば良い材料も手に入る! 何なら博識も巻き込んじゃえば良いんだ! 僕らは一から魔道具作る方が得意だけど、何かを加工して能力を付け足したりなんかは博識の方が得意だもんな!」
「…………」
「え? つい最近まで入り浸ってたから怒られないかって? あー、確かに無理矢理押し掛けて今回の爆弾作りしてたし、失敗した時に思いっきりあちこち壊してブチ切れられたっけ。まあでも良いだろ! 今重要なのは新しい挑戦! 飽くなき探求心! 僕らがどこまで出来るかやってみようぜ! 激怒した博識に追い出されるかもしれないけど!」
ケラケラ笑う青いのが出した手に、黄色いのは以心伝心なのか同じく手を出してハイタッチ。
会話しているようには見えないが、仲が良いならまあ良いんだろう。
「とりあえず博識に協力取り付けたりは有りだよね? オッケー?」
「性能に問題が発生しないならソレで良いよ。僕としても早い方がありがたい。もうあのやり取りは嫌だ」
「嫌だって言われても、流石に作るまでしばらくかかるよ? そっちの事情なんてしーらないって言って満足いくまで好き勝手やるのが僕達だけど、それを差し引いても時間は掛かる。そりゃ一足くらいならすぐに作れるけど大量生産しろってんなら即座には無理。出来た順に提供くらいならともかくね」
ふむ、と主様は天を仰ぐ。
爆発の影響で未だに空は晴れていて、真っ青だ。
「なら数足確保出来るまではキミ達と同行する事になるのか。嫌だな」
「こっちのセリフだ!」
いちいち服装だとかのどうでも良い部分に口出しされちゃ堪んないよ! と青いのが叫ぶ。
「えっ、青いの主様と一緒に居るの嫌とか何で!? 主様と一緒に居られるとかこの世に生まれた幸運全部をギュッと詰め込んだレベルで最高だろ!? ほら見ろよあの服の中にミッチリ詰まった筋肉! お重の中に詰められたギッチギチの高級料理なんか目じゃない程に大興奮モノだぞ!?」
「お前はその辺に埋まってろよ!」
「ざ、斬新な黙ってろが来たな……」
埋まってろなんて言われたの初めてだぞ。思わず勢いが削がれてしまった。ぐぬぬ。
「第一、すぐに博識とコンタクト取れるかって言われたら無理だから、もうちょい時間掛かるぞ? いやコンタクト自体はすぐにでもお空に飛んできゃ無理矢理乗り込んでお邪魔しまーすとか出来るけど」
「…………空腹」
「そう、ソレ! 今回食べ損ねたし聖属性での攻撃まで受けたんだよ!? 人間食べなきゃ気力持たないやってらんない!」
「人間食べなきゃやってらんないとか中々に凄いワードだ……」
見た目が普通に子供っぽいだけに衝撃が強い。
「あと単純に纏足靴? っていうのの知識が無い! まあソレに関しては周辺の町で調べたところで情報出てこなさそうだし、どっちみち博識の知識に頼るかパレット大陸にいっちょ移動して司書の居る継ぎ接ぎ図書館で調べるかする必要があるかな」
「………………作成手順、設計、材料、そして作成」
「お、ジョーヌもノッてきたのか機嫌良いな! そう、博識の協力を取り付ければソレらもそこまでの時間は掛からないだろうけど、最初はサイズ感とかデザインとか効果とか、問題無いかどうかを手探りでやんなきゃだろ? その辺の手間とか考えると時間は必須! まあ僕ら天才だから最初のヤツさえ作れればあとは大量生産ってだけだろうけど!」
「…………デザインの多様性」
「ジョーヌ、テンション下がる事言うなよ……」
胸を張っていた青いのがへにょりと萎れた。
「実際、デザインとかに要望あるんなら諦観者自身にデザイン図の案を出してもらう方が早いんだけど……出す気ある?」
「ハ?」
「あっ、今のはわかります! 何故僕がわざわざそんな飽きる事確定な根気の居る地道かつ面倒な作業をしなければならないんだ、っていうハ? ですね! 素で何言ってんだコイツみたいな目、最高です! あわよくば私が向けられたい! あと青いのお前筋肉もおっぱいも無いんだからそんぐらいサービスでやれよ!」
「今僕どういう理不尽言われてるわけ!?」
「…………」
ハァ、と溜め息を吐いた主様がこちらを向いた。
「喧しい」
「ヤッター絶対零度の見下しありがとうございます! ご褒美です!」
わあいと喜んだら溜め息を吐かれたが、殺されてないので多分セーフなのだろう。私の性癖は許された。
許されたというよりも面倒だからという理由で流された感じもあるが、許されなかったわけじゃないので許されてるで良いだろう。
「…………ジョーヌ、僕さ、今、凄い理不尽を感じてる。何あのやり取り。幸いにも砂を吐くような感じじゃないだけ良いって思うべき?」
「……いつもの僕ら」
「あー! 確かに! 言われてみればわりと好き勝手してる時の僕らと同じテンションかアレ! じゃあテンションだけで生きてるって事だろうから深く考えない! その方が良いな!?」
「…………」
「んじゃ一旦深く考えない事にして、靴についてだけを考えるとすると……うん、うん」
黄色いのが頷いた事で何だか青いのの方は考えが纏まったらしい。
「それで結局は今後どういう感じで? 案があるなら言っていいぞ青いの」
「お前確実に最近キメラになったんだろう新入りの癖に態度図々しいな……」
「青いのに筋肉かおっぱいのどちらかがあれば私だってもっと良い対応をするけど、お前って骨が浮いてないだけでガリ寄りのヒョロだから……」
骨が浮いていないだけというか、それは人間に擬態している時の話であって、キメラとしての本性が剥き出し状態の時に至っては骨が浮くどころか体の半分が骨そのものという事実よ。
私は剥き出しの骨に興奮出来る程変態じゃない。
何なら内臓に興奮出来るような変態でも無いので、エロ本では結構一般的な子宮の断面図はどうかと思う。あれを見る度に注意書き無しのグロ系見せられる気分になるので本当やめてほしい。
小人化みたいなヤツも谷間に挟まれてアッハン系が結構好きだが、小人状態で股の奥に入っていくのは、こう、中々にグロいというか寄生虫感があってわりかし地雷。
そう思うとやっぱり私は変態の枠ではぺーぺーのぺーが良いトコだろう。戦闘力たったの5なゴミレベル。
いや、おっぱいと筋肉に興味が集中しているだけなので流石にたったの5って事は無いだろうけど。
「ほら、私って性癖に忠実だから性癖外は対象外でその辺の石ころレベルの価値しか無いっていうか」
「最悪! 研究とかに関係無いなら万物どうでも良いって思ってる僕だから言いたい事はわかるけど言われる側になると最悪だな!?」
「良かったじゃん学べて」
「何コイツ本当にむかつくぞ!?」
打てば響く感じに反応してくれて愉快愉快。
見ている主様も暇潰しに値するだけの見世物だな、って感じに口角上げてるので良い事だ。
主様に娯楽を提供出来て眷属として幸福ハッピー。
「…………これから」
「ああ、これから? まあとりあえず近場の……僕らの情報が回ってない人里に移動して材料のかき集めかな。糸系は博識に頼っても良いけど、全部頼るってなると多分マジギレからの追い出しされると思うし。ただでさえ僕らがしばらく滞在して爆弾作ってちょっとやらかしたりもしたし、めちゃくちゃ意見聞きまくって天然との時間邪魔しまくったからもうちょい時間置かないと駄目ってのもある」
青いのの言葉に、主様が何かを思案するように顔を顰めた。
「……僕が調べても全く情報が無かったんだが、ここしばらく、空中都市に居たと?」
「うん。ひと月前? いや、半月くらい前かな? に、久々の地上帰還。大体半年以上は空中都市に居座ってた。それが?」
「………………」
「わかります、わかりますよ主様! 主様が聞き込みをしてた期間思いっきり空中都市期間で無駄な聞き込みしたなっていう苛立ちに満ちてるの! 幾ら数でごり押し出来るとはいえ聖騎士達がああも早く所在把握出来るなんてと思ったらそういうタイミングの問題だったのかって感じで不愉快感じてるんですよね!」
「わかった風に言われるのが俺は嫌いだ」
裏拳が顔面にクリティカルヒットして頭部が吹っ飛び一回死んだ。
「ありがとうございますご褒美です! 今後はあんまりわかったような事言わないよう気を付けます!」
「ああ、そうしてくれ。そもそもの原因はキミだという事も忘れるな」
「ソレに関しては本当にその通りです!」
我ながらどうして擬態が下手糞なんだか。
いや、気配を消したりとかはわりと上手に出来てるっぽいのだが、別物に変形するというのがどうにも難しい。
……アレかな、私って性癖を偽る事無く堂々と宣言してたから自分を偽るっていうのが不得手なのかもしれないな……。
そんな格好良い理由で肉付けしようが単純に苦手ってだけな気もするが、何となく格好良い理由があると仕方ないな感出るので理由は必須。
ここに友人が居たらその理由は全く持って格好良くないしマイナス点だろとかツッコミを入れられそうだが知らん。ここに居ないし。
「…………移動」
「だね、とりあえず移動しようか。諦観者が流した情報からするとこの辺から距離取った方が良いだろうし……諦観者は移動手段あるけど、そっちの変態は? その翼って飾りだったりする?」
「失礼だな! 主様の椅子になったまましっかり飛行出来る自慢の羽だよ!」
「失礼とか言っておきながら前半何かおかしくなかった?」
「え、正常だけど」
味わい深い、歯に衣着せず言うと渋い顔をした青いのはその顔のまま黙り込んだ。
ツッコミを入れるのを放棄されたらしい。
「寧ろそっちは移動手段あんの? 主様から説明聞いたけど、どっちも移動系っぽくなくない? 大砲ロボ骸骨と藁人形楽器だろ?」
「…………藁人形楽器……」
「そういやオリエンタル大陸の方でそういうタイプの呪い人形があるっての本で見たな」
さらっと流した青いのに対して黄色いのが微妙な表情をしたが、特にそれ以上何かを言う感じでも無いので多分セーフ。
「ま、移動手段に関しては問題無いよ。ジョーヌが居ればどうにかなるから」
「………………アズラク」
「え? ああ楽器? 当然だけど普通の楽器だから普通の袋に入れてた結果全部燃えたよ。そっちも買い足さなきゃだよな!」
「…………」
ニパッとした笑顔を向けられた黄色いのは渋い顔をしてから、周囲を見回して溜め息を吐く。
「…………全部吹っ飛んでるし、鎧はあるけど聖属性が付与されているから使用できない。アズラク、布を出してくれる? 僕としては楽器でやるのが一番なんだけど」
「喋った!?」
「ジョーヌは結構喋るよ? 人前じゃあんまり喋んないだけで気分がノればお喋りさ!」
言いつつ、青いのは袋から分厚めの絨毯を取り出した。
荒れ地の地面に広げられた絨毯に、黄色いのが口を開けて自分の手へと噛み付き、
「ん、」
その手から流れた血を、絨毯へと垂らした。
ボタボタと重みのある赤い液体が、美味しそうに思えない単純に鉄臭い液体が絨毯に大きな染みを作ってゆく。
それを見た青いのが即座に染み部分の上に防水なのだろう布を被せた。
恐らく、日差しで血が蒸発しないようにという細工なのだろう。
……というか、攻撃受けてた時も思ったけど黄色いのって普通に血ぃ出るんだなあ。
全裸の時もそうだったが、黄色いのは全体的に球体関節。
着替える時に青いのみたく問題が発生、とかも無かったので人間に擬態していない球体関節のままなのだが、人間に擬態していない時は球体関節と動きが鈍い表情も相まって人形染みている。
質感も無機質っぽい感じがあるのだが、しかし無機質っぽいだけの肉なのか、怪我をしたら普通に血が出るし肉も見えていて、不思議な感覚だ。
球体関節イコール人形イコール無機物、という認識だったものだからちょっとだけ視界と思考の差異に混乱する。
……まあ多少の混乱があろうとも主様の肉体美を前にしたら万物の殆どが些事だけどな!
些事じゃないのは筋肉と巨乳だけだ。そして黄色いのは筋肉と巨乳に期待出来ないから些事枠。ソレが世界の真理である。
「………………」
すぐに治った手に付着している血を腰のヒラヒラで拭き、ついでとばかりに口元の血も拭う黄色いの。
そしてソレを見て目の温度を下げていく主様。
確かに飾りのヒラヒラが血痕付着で折角の学生王子様なビジュアルが一見学生王子様だけどちょっと校舎裏で一発ヤキ入れましたみたいになっててアレなので、主様が提供したイメージとそぐわないのはわかる。
まあすぐに表情が元に戻ったので、別に一着くらい良いかあのくらいならアレンジみたいなものだし、という結論に至ったんだろう。
見苦しいのもアウトだが、見飽きるのもアウトな主様なのでそういった判断を下す可能性は大いにあり得る。
「…………」
そのまま黄色いのは長い金の襟足を前へと流し、鎖骨辺りの位置でその束を左手で掴み、何故か重力に逆らって斜めで固定された髪の束へ向かって右手を振り下ろした。
同時、ギターの旋律が鳴り響く。
その音に反応してか、絨毯がふわりと浮いた。
「…………情報量多くて理解出来ないんだけど、え、今の何が起きてんの?」
「ジョーヌは楽器混ざってるから髪の毛をギター代わりに出来るんだよ。本人は普通に楽器弾くのが好きだから自分の髪では弾きたがらないんだけどね」
襟足とはいえ髪の毛だから一束分くらいの量はあって、ギターのような数本の弦とは違って、なのに何でギターの音が響くんだよというツッコミをどうにか飲み込む。
キメラにそんな常識を問うだけ無駄だ。
「……絨毯が浮いてんのは?」
「まあ別にジョーヌの髪の毛仕込むとかでも全然良いんだけど、体の一部を仕込む事で演奏して操れるってのは無機物にも対応してるって話。人間の頬に血液一滴ついただけでも、それこそ人間の血液一滴をジョーヌが舐めただけでも充分に相手の全身操れるわけで、そう考えたら絨毯を操るくらい出来て当然じゃない?」
操るのと浮くのって同じ話なのかなと思ったが、実際出来ているので同じ話で良いんだろう。
キメラにそういう物理的なアレコレ期待しても無駄だよな。
……そもそも異世界って時点で地球の三次元的な物理が通じる方がおかしいか!
まあ私、物理得意ってわけじゃないからどうでも良いけど。




