よっしゃまだワンチャンあった
「僕の場合は大体そんな感じで、しばらく適当に旅でもしながら過ごしてたらジョーヌと出会って意気投合! って感じかな」
「成る程なあ」
主様を背に乗せている通常スタイルに加え、ずっと演奏状態というのもアレだからという事で二人の首根っこを掴みつつの飛行中。
青いのがキメラになった経緯だとかを聞き終わり、ふむふむと私は頷いた。
……というかコレ、私一人だけやたらと負担デカくない?
別に負担らしい負担も無いから良いけれど、完全に乗り物扱いのような。
個人的にはそのくらい道具扱いされるのも好きだから良いか。良いな。
ちなみに私達は昨日から特に着替えていない。
というのも、青いのと黄色いのは主様による強制着替えが発生しないような服装チョイスが出来ないからそのままで良いやとなった事に加え、泊まれる宿屋が無かったのだ。
……大分発展はしてたけど、絶賛発展途上中って感じだよなあ。
まあ二人と合流するまでは良い宿屋でのんびり出来ていたので、適当な人間を食べたらそのまま青いのの案内によりフライアウェイとなったわけだ。
睡眠が必要というわけでも無いしね。
……主様としては機械油が不愉快なのかお風呂探してたみたいだけど、残念な事にお風呂やシャワーがある宿屋は完全に売り切れ状態っていうか。
そもそもそういう系は水道通さんでもいける魔法石をセットしておくそうなのだが、そういう系は全部富裕層に、お安いヤツは労働者用に、という感じになっているらしい。
加えて当然ながらそういうのが備わっている宿屋は大人気となって常に満席。
まだ水道が通り切っていない発展途上状態だからこそ起こる事だなあ、とちょい思う。
だからこそ主様は即座に空中都市へと乗り込もう、と判断したようだが。
……あとまあ、私の足に関しての煩わしいアレコレを早く解決したいっていうのもあるかな。
いやもう本当に私の自制心が申し訳ない。
でも主様を相手にしていると思えば相当に頑張っていると思うのだ。
ただちょっと擬態を維持出来る程に平常心保ってないだけで。
……欲望のままに喋りはするけど、無理やり襲い掛かろうとかしてないだけ理性的だよな、私!
まあ無理矢理襲い掛かったところでマジギレからのマジ死亡前提殺戮コースが開始されるだけな気もする。
「黄色いのの方はどんな感じだったわけ?」
「…………」
「あー、ジョーヌ? ジョーヌは元々父親と二人暮らしだったらしいんだけど、父親の方は家計の為にって働き通しだったらしくて。ジョーヌの発明とか才能を認めて受け入れて協力的ではあったっぽいんだけどさ、どうも二人の時間とかは無かったんだって」
まあ僕も家族との時間は無かったけど、情が無いのと時間が無いのは別物だよな! と青いのが笑う。
笑顔で言うには青いのの言葉は大分毒が凄い気がするが、まあ良いか。
「一応ジョーヌが自由に出来るだけのお金は用意されてたみたいで、ジョーヌもまあ、一人で暇潰しとして黙々と作業するのは嫌いじゃないけど好きでも無い感じだったらしいんだよな。実際発明する時、僕相手だと結構饒舌に喋る方だしさ」
「想像出来ない……」
「あはは! それでだけど、ある日舞台を見に行ったらそこで主演やってた気まぐれに気に入られたのか、そのままキメラにされたらしくて。ジョーヌの場合は父親を慕ってたってのもあるから、家に帰らず放浪してたんだってさ。僕は食べたけど、やっぱりその辺は生前の情とか育ちが如実に出るよね!」
「闇に満ちた事をケロッと言うなぁお前!」
「僕からすればそのくらいは常識であって闇じゃないし」
私の性癖に対してコイツも中々言ってきたが、コイツの倫理観も中々色々言ってやりたいレベルだな。
まあ今の私がそれらを言うには些かどころじゃなく説得力が足りないから言わないけど。
「っていうか、気まぐれ? 誰? あと青いのの時も戦争主義者とか出てたけど」
「戦争主義者は戦争主義者だよ。戦争起こってて、加えてやたらと苛烈なら彼が居る可能性高いんだよな。資金を用意出来るもんだからひたすらに焚き付けて焚き付けて泥沼にするのが上手いんだよ」
「…………」
「ああ、うん、まあ確かに僕がそれに協力する事もあるけど、やっぱり面白そうなの依頼されたら作ってみたくなるだろ? そこに関してはジョーヌもお揃いじゃないか!」
「………………」
視線で何かを訴えていた黄色いのは、青いのの言葉にまあそれもそうだなといった様子で頷いた。
うーむ、キメラの倫理観ってやっぱりちょっとアレな仕上がりになりがちなんだろうか。
「んで、気まぐれとやらの方は?」
問えば、背中の方からパタンという本を閉める音が響き、同時に予想外の声がした。
「僕の嫌いなヤツだよ」
「あっ、そうなんですね!?」
主様から意見が聞けた事も予想外だが、こちらの会話を聞いていたというのも予想外だった。
案外しっかりこちらの様子を窺ってくれていたんだと思うと大変ハピネス。
単純に主様は結構警戒しっかりしてるタイプなので、本を読んでいようが周囲の音を拾ってただけ、という可能性も高いけれど。
「予定通りに動くようで動かず、気分次第なところも多く、軽薄で芝居がかっていて、酷く一方的で押しつけがましくて他人全てを見下しているような男、ソレが気まぐれだ」
「他人を見下してるのは諦観者もじゃないか?」
「落とせと命じてやろうか?」
わりとガチに苛立った声での舌打ちだった。
ちなみに私は主様の命令を積極的に聞く上、眷属なので命令されたら行動は絶対服従。
しかも青いのが素敵な筋肉か大きいおっぱいを持っていれば多少抗うなりフォローなりを入れたところだが、残念な事に青いのはヒョロいショタなので性癖の範囲外。
つまり私からの助けが無いというガチで真面目な危機と察したのか、青いのはキュッと口を噤んだ。
……まあ、この高さから落っこちたら真っ逆さまに潰れたトマトだもんなあ。
何か色々武器持ってたのでギリギリのところでドッカンすれば衝撃を相殺出来るかもしれないし、そもそも空中でドラゴンと激突なんていう私みたいな事さえ無ければ落下時の直撃ショックで一機減るくらいだろう。
要するに一機減るくらいならキメラからすれば実質無傷みたいなものだが、そっからお空に復帰が出来ないと判断したのかもしれない。
ま、わざわざ性癖外のヤツに対して必要以上の理解をしようとも思わんから知らないけどさ。
「……言っておくけれど、僕は確かに僕以外の全てを見下しているし僕は上の立場にあるべき存在だという自覚もあるが、だからといって気まぐれと同列に語られるのは許せない。僕はあんな軽薄さは持ち合わせていないよ」
「主様の場合、軽薄な見下しはしませんもんね! ただの純然たる事実として自分より下の立場である存在って認識してるだけで!」
「よくわかっているじゃないか」
「凄い会話だ……」
「…………」
青いのがボソリと呟いた言葉に、黄色いのがうんうんと頷いた。
ただの事実を述べているだけの会話のどこが凄い会話なんだろうか。
……あ、でも主様の機嫌が上向いてたっぽい部分に関しては凄い事かも?
鼻で笑うような声色だったが、楽し気に弾んでいるようだったので一安心。
不機嫌な主様も素敵だけれど、やっぱり機嫌が良い主様によって踏まれたりする方が興奮するというものだ。
エロい行為ってのは合意があった方が燃えるもんな。
「にしても、気まぐれってそんなにアウトな感じなんです?」
「人の神経を逆なでし続ける不愉快の権化。触れられたくないところに泥と生クリームを混ぜ込んだヘドロで塗れた素手を突っ込んで来るような男だよ」
「つまり主様の地雷が詰め込みパックな性格してるって事ですね!」
軽んじられたり見下されたりする事を嫌う主様なので、性格的な天敵なのかもしれない。
実際主様、結構飽き性って事で突然の動きをする事もあるけれど、根本的な生真面目さが隠し切れていないのだ。
……マジの飽き性だったら、オーダーメイドした服が出来上がるまで待ってらんないだろうしなあ……。
でもしっかり待つし、好青年モードとはいえお礼を言ってお金を支払う辺り結構律儀。
依頼しておきながら軽薄さから依頼を放棄、とかやりそうにないのが主様だ。
というか相手を下に見ながらもお仕事をしっかりする限りはちゃんと相手を重んじたりもしてるので、きちんとしている相手を軽んじるようなら主様に何等かの意図があるか替え玉かという疑いが発生するレベル。
飽きたと言って中断する事もあるが、質問すれば答えてくれるだけの律儀さは初期からあるのが主様。
「で、青いの、そろそろ件の空中都市とやらが見えて来たりしない?」
「空中都市っていうか、最近は天然が庭弄り好きって事で空中庭園化してる感じだけどねー」
青いのの言葉に、ん、と黄色いのが頷く。
「…………ここ、三十年くらい?」
「天然がキメラ化したのが五十年くらい前だっけ? そっからゆっくり庭園化が進行したっぽいから僕達にもわかりやすい程に庭園化したのはそんくらいかな!」
「規模が凄い話だ……」
数年単位ならともかく、見た目少年の口から数十年単位の話が出て来るとちょいと驚き。
流石に数百年単位なら一周回ってあんまり気にならないレベルになるけれど、数十年単位だと地味にリアルなのは何故だろう。
……アレだよな、合法系の見た目で二百歳とかならアーはいはいって流せるけど七十四歳とか言われると絶妙なリアルさに何となく身近な同年齢世代の人を連想するような……。
近所のトメ婆さんと同い年なのかこのキャラ、みたいな気分になると、良い感じに性癖なキャラが母親と同じ名前だった時のような萎え感が漂うのは何故だろう。
いや、トメ婆さんなんてご近所さんは居ないし、私は別に母親と同じ名前してようが性癖ドンピシャならおっぱいしか見てないからあんま気になんないけど。
……そもそも母親に関してはお母さんとかカーチャンとか呼んでて、そこまで名前を意識してないってのもあるし。
私に至っては両親死亡済みというのもあって尚の事気にならない。
両親を思い出す時はあれども、数年が経過すると名前の方がぼやけてしまってどうにもこうにも。
親の友人が呼んでるあだ名の方がまだ記憶に残ってるレベルだよ。
……にしてもマジで空中都市が中々見つからないな……。
青いのが持ってた魔道具には風圧をシャットアウトするようなのもあったので、私以外全員がソレを使用している。
なので全力出しつつ飛んでいるわけだが、いやはやまったく空ってのは青くて広い。
時々飛行系の魔物が飛んでたり、下の方を飛行船やらが飛んでるくらいで、基本的には真っ青な海が見えるばかりだ。
「お、あった! ほら変態、アレ! アレ!」
「アレか!」
青いのが指差した先に、確かにあった。
空中に浮かんでいる、文字通りの空中都市だ。
すぐさま私は風を切る体勢になっていた翼をより一層後ろへと伸ばし、速度を上げる。
同時に高度も上げれば、空中都市は目と鼻の先、否、眼下に既に広がっていた。
自然豊かで、何なら自然の方が勝っているだろう空中都市だ。
……昔っぽい、というか遺跡感満載な家々がツタとかに思いっきり絡みつかれてるなあ……。
しかしコレでこそ空中都市。
そう思いつつ、うっかりクレーターを作らないよう程良く減速。
いやまあ空中都市を見下ろせる状態になった時、一気に翼を広げる事で急停止したので風圧やらの衝撃は全部上空へスパーンと飛んで行ったわけだけど、ここからうっかりテンション上げて初速を全力でやらかすと事故る危険性もあるという。
テンション上がった時にゴーカートやるとアホ程ぶつけまくるもんなー。
……まあテンション上がりまくってる時は一緒に乗ってる友人もアホ程テンション上がってるから一緒に馬鹿みたいに笑うんだけど!
ともかく、匂いとかで察知しつつ人の気配がする方へと飛んで行く。
中心部にある明らかに大事な施設だろうなという建物の方に飛んで行けば、中心部に近付けば近づく程自然の緑が色濃くなっている。
成る程コレが空中庭園化。
「あ! 居たぞ第一村人!」
「村人では無くない?」
冷静な青いののツッコミは聞こえん。知らん。
確かに村人じゃないし、何なら人ですら無いんだろうが、こういうのは細かいツッコミを入れる方が無粋というものだ。
あまりに人気が無さ過ぎるのもあってちょいテンション上がったのもあるだろうけど。
……ま、些細な事は気にしない!
そう思いつつ、スピードを出し過ぎないよう調整しながら第一村人の前へと着地。
第一村人は突然上空からそれなりのスピードを出して一人を背負い二人をぶら下げて登場したこちらに目を見開き、
「えっ!? あっ、うわあ!」
遅れて驚いたように後ろへとずっこけた。
「あらら」
「あららって……」
「まあ驚かせたのは悪いけどコケたのは向こうの問題だから私悪くないよな!」
「変態、変態である以上にちょっと頭おかしくない? 僕が言うのもなんだけどさ」
「いや本当にお前には言われたくないな……」
回想を聞いた限り、人間時から倫理観吹っ飛んでるようなヤツだったし。
そう思いつつ二人を地面に放れば勝手に着地した。
地面というか灰色のレンガっぽいものが重ねられてるような道にタフな草が生い茂ってる感じだが、まあ地面で良いだろう。
重要なのは主様に不便が無いよう気を付けて着地し、スムーズに立ち上がれるよう気を付ける事だ。
……乗り物として、最後まで乗り心地が良かったと思われなければ恥だからな!
乗り物じゃなくない? というツッコミは受けない。
眷属であり使用人であり道具であり乗り物なので良いんだよコレで。
ワトソンだって同居人で親友で助手で主治医で相棒でボズウェルなんだから二足以上のわらじを履いても良いはずだ。
「ふうん……久々に来たけれど、本当に庭園化が進んでるんだね。まあ、元々博識は引きこもりがちだから研究室以外は完全放置だったわけだし、庭園化を進めた方が見栄えは良くなるんだろうけど」
「あはは、実際庭園化を進めたら散歩の確率が高くなったんですよ!」
私の背から降りて周囲を見渡す主様の言葉に、コケていた第一村人も立ち上がって笑顔でそう返す。
持っていたカゴに入っていたらしいリンゴが転がっているが、笑いながら手慣れたように拾ってカゴに放り込んでいる辺り、頻繁にコケるドジっ子系なんだろうか。
……顔だけ見るとクール系なんだけどな。
優しい曲線を描いている眉に、緑色の鋭いツリ目。
癖のあるピンクの髪は首につくかつかないかというショートカットだが、両サイドだけ鎖骨辺りまで延ばされており、ちょこんとした三つ編みとなって揺れている。
服装はくすんだ色をした立て襟の長袖シャツを捲り、上からミニ丈と言える革製のベスト。
ベストは艶のある革では無く、大分毛羽立っている素朴な作り。
下は裾を捲った、泥汚れが発生しても大丈夫そうな作業用ズボンをベルトで留めてある。
折り返しのついている茶色い靴に、迷彩柄と思うような色合いのボーダー靴下。
手には黒い指無し手袋をつけていて、全体的に色合いが超絶地味な服装だった。
……服装から漂う村人感が凄い……。
瞳は大き目だが真顔で凝視して来たらまあまあ怖そうな目付きをしているし、顔付き自体もクール系。
しかし目尻を下げるような優しい微笑み方は、近寄りがたさを完全に消し飛ばしていた。
……でも、問題はそこじゃない!
そう、問題はそこではない。
問題は彼の胸元、ベストに隠された胸元である。
180センチ越えの私より背が高い、目測で185センチくらいだろう彼は、細すぎる事は無いけれどもこれといった筋肉の気配を感じられなかった。
「ところで、青いの君と黄色いの君が顔を出すのはわかるし、諦観者さんが顔を出す事も無いわけじゃないからわかるけど、そっちの人は?」
「……クッ」
首を傾げてこちらを見た彼に、私は悔しさからくる衝動を拳に込めて地面を叩いた。
土じゃないけど地面で良いだろう。
流石に本気で殴ってドッガンして敵対視されるのは嫌だから、駄々こねレベルにゴスゴスとやるくらいだ。
「博識が巨乳かムキムキっていう可能性に期待していただけにガッカリだ……! ああガッカリだよ! 期待を返せ!」
「え、ええ!? 何ですかいきなり!? っていうかどういう事!?」
「………………」
わたわたと動揺する彼から視線を逸らした黄色いのがこちらを向き、相変わらずの眠そうな目にほんのりと呆れを滲ませて口を開いた。
「…………彼は博識じゃなくて天然」
「っていうか博識、女だし」
「何だよじゃあ単発ガチャの本命はまだ居るって事か! 驚かせんなよ!」
安堵の笑みと共に立ち上がれば、二人からは蔑み強めな視線を受けた。もっともっと!




