上空での閲覧
ナイトとの会話があってひと月が経過した頃、荒野では戦いが繰り広げられていた。
「おいおいジョーヌ、信じられるかい!? お相手はまさかの聖騎士様だってさ! いきなり擬態を強制解除する魔道具を投げて来た事もそうだけど、全てにおいて突然過ぎる!」
青い髪に水色の瞳を持つ子供、150センチあるか無いかだろう背丈の方がそう叫ぶ。
右腕と右足がロボットのような機械になっていて、左側は頭部からつま先まで骸骨状態である、動きやすそうなタンクトップに短パンで、短い髪は下の方が刈り上げになっているツーブロック。
そんな子供、青いのはバズーカのようにも見えるスチームパンク感満載な武器を担ぎ、何やら蛍光色を放っている液体が詰められたような弾を詰め込み、聖騎士の軍団へと発射していた。
……何だろうな、天空の城で主人公が海賊に持たされてたあの武器みたいなデザインだ……。
細やかかつスチームパンクな装飾を足したら青いのが放っている武器になりそうなデザインだった。
「というかそもそも! 僕らが一体何をやったっていうんだ! 僕達は僕達が楽しいと思う事しかしてないぜ!? なあジョーヌ!」
「…………」
無言のまま青いのの言葉にコクリと頷いて見せたのは、金髪金目で背の高い、それこそあとちょっとで180センチに届きそうな背丈の、しかし学生くらいに見える少年。
右側だけ長い前髪に、尻尾のようにも見える長い襟足。
シャツにニットベストにネクタイにズボン、という上品で正統派で真面目そうな学生スタイルだが、その切れ長で涼しげな目は眠そうに細められていて、表情を動かさないその顔は美形であるが故に酷く人形染みていた。
否、その袖から覗く手は確かに球体関節で出来ている人形の手。
彼はその指先を使って、この爆音鳴り響き血飛沫が舞い散る状況下でギターを激しく掻き鳴らしていた。
「…………アズラク」
「ん? ああ、まあ確かに実験感覚で集落一つを焼け野原にしちゃった事もあるけど、アレは僕らにとっては良い経験だった! どうせ遅かれ早かれ滅ぶだろう限界集落だったんだし、僕らの知的探究心を満たす事が出来たんだから喜ばれるべきじゃないか?」
「………………」
何も疑問視していない様子の青いのの言葉に、黄色いのは無言のまま口の端をほんの僅かに吊り上げた。
まるで、その言葉に対して同意だと告げるように。
「ふざけた事を……!」
遊んでいるかのような二人の動きや言動に、顔を怒りに染めたナイトが槍を寄越せと手で指示を出した。
すぐ後ろに待機していた聖騎士が槍を手渡すかのように、
「っ!?」
そのままナイトに向かって振り下ろしてきたのを、ナイトは反射的といった様子で避けていた。
「何をする!?」
「えっ!? そんな、違う! 私じゃない!」
叫ぶナイトに、槍を振り下ろした聖騎士は酷く困惑した様子でそう首を横に振るも、手に持った槍は周囲を傷つけようという動きで大胆に振り回されている。
それはその聖騎士だけではなく、他の聖騎士達も同様だった。
「おいやめろ! 何故武器を振り回す!?」
「違う、違う! 俺の体が言う事を聞かない! 団長、違うんです、団長!」
「団長! 先程の爆撃で足が吹っ飛んだ団員が暴れ出しました!」
「落ち着け! 動くな! お前今の状況で暴れたら本当に死ぬぞ!?」
「そうだ、頼むから動かないでくれ! 命を粗末にするんじゃない! 今ならまだ取り留める事が出来る命なんだ!」
「違う! 俺の意思じゃない! 俺だって足が熱くて痛くて今にも気を失いそうなんだ! なのに体が、ぐっ、死ぬほど痛いっていうのに勝手に動いてんだよ! 俺の体に一体何が起きてるんだ!?」
体が勝手に動くと言って暴れ出す聖騎士と、それに動揺している聖騎士。
何らかの異常が起きている者と起きていない者が発生していて、強制的な仲間割れが始まってしまった。
主様からの申告から精神操作をする魔物という可能性を考え、精神異常対策をしっかり行っていたが故に、この事態を防げなかったナイトは既に失った団員達の被害の分もあるからか、その正統派にイケメンな顔を不甲斐なさに歪めていた。
・
何があってこうなったかと言えば、至極単純、聖騎士達が二人を発見したのである。
ナイトはこちらに発見したから後は報告を待ってくれ、と言ってきた。
まあ最悪普通に足手纏いになる可能性が高い一般旅人、それも復讐に駆られてるようなのが居ては守り切れないし、というのがあるのだろう。
「……はい、後は頼みます!」
それに対して主様は気持ちを託すようにそう言って、普通に宿屋との契約を解除して私を連れて追いかけた。
しかも町を出る際、例の受付嬢にちゃっかりと、
「やはりただ待っている事は出来ず……せめて遠くから見るだけだとしても、僕達は彼らを追いかけようと思います。あの魔物は、本当に危険な存在ですから……」
と言って出て来たので、聖騎士が旅立ったと同時に突然消えたけど何じゃらほい、とは思われまい。
というのも主様曰く聖騎士の方がほぼ確実に負けるだろうから、町に居残ってると報せを受けて悲しむ役を演じなきゃいけないのが苦痛、とのこと。
それなら聖騎士と一緒に始末されたっぽいという扱いの方が幾らかマシ、だそうだ。
そういうわけで、私達は程々に距離を取りつつ上空から彼らの様子を眺めている。
……いやあ、初手の動きが残念だったかなあ。
万が一、一般人だったらという危険性を考えたのか、ナイトは初手で彼らに正体看破系の魔道具をぶん投げて直撃させ、人間に擬態していた彼らの本性を暴露させた。
しかしいきなりの敵意ある攻撃と認識した二人は、手慣れたように武器を構えたのである。
青いのはバズーカを構え、黄色いのはギターを構えていた。
まあ攻撃する為には相手が本当に化け物かどうかを確認するのは大事だと思うし、初手でそれをやるのは当然だと思うが、
……ソレで相手に攻撃での先攻取られて範囲攻撃からの三分の一が肉塊コースになってちゃなー。
というかキメラの攻撃力がヤバ過ぎる。
いや、キメラというよりはあのバズーカの攻撃力が高いだけかもしれないが。
……まあ、でも多分私もファイヤーを頑張ればあのくらいの人数はウェルダンに焼けそうだし。
熱血曰く、キメラは戦争用万能兵器扱いで開発された魔物とのこと。
ならば、兵器レベルの戦闘能力を素で持っているとしても不思議では無かった。
「というか、アレって何が起こってるんです?」
「……先に黄色いのの方を説明しようか」
白いシャツに赤いアーガイル柄のベスト。
首には白くて大きいリボンを結び、襟や肩、袖に派手な刺繍が施されている貴族らしい青のコートは、裾が燕尾服のように二つに分かれている。
下は藍色をしているズボンであり、太ももの辺りがゆったりめのデザイン。
そこにズボンよりも濃い藍色の、高いヒールがついているニーハイブーツ。
……更に白い手袋とか、もう、主様ってば自分の魅せ方よくわかってる!
思わずそう叫びたいけれど、流石にこの状態では我慢我慢。
流石にここで大声を出したら存在がバレかねない。
私のそんな興奮など知らない、というか気付いていてもいつもの事過ぎて気にしないだろう主様は、いつも通りに私の背を椅子にして尻尾を背もたれにした体勢のまま言う。
「黄色いのに混ぜられているのは、呪い人形と踊り狂う楽器の二種類」
「呪い人形って、勝手に動いたり髪が伸びたりするヤツです?」
「そういう魔物も居るが、この場合は魔物というより呪いの道具、と言った方が正確だね」
眼下では殺し合いが発生している上、追い打ちのようにもう一発の弾が撃ち込まれていた。
今回の弾は直撃しなかったようだけれど、先程のとは違う弾なのか周囲が一気に炎に包まれる。
ナイトが率いる聖騎士達の退路が塞がれてしまった形だ。
「呪い人形は呪いたい相手の持ち物や体の一部をその呪い人形の口の中に入れる。そしてその状態で呪い人形を欠損させれば、相手にも同じ欠損が発生するというものだ。あの球体関節は、呪い人形が球体関節人形だからだろうね。人間に近い見目をしているからこそ魔物になり、そして人間に対して強い効果を発揮する」
「成る程!」
つまりは夜中に動く人形系では無く、藁人形とか身代わり人形的なアレという事らしい。
「次に踊り狂う楽器だが、コレは踊り狂う楽器シリーズだね。彼の場合は弦楽器だったらしい」
「踊り狂う楽器シリーズ!?」
「同じところで作られた楽器、全てが魔物だったそうだよ。その音を聞くと何だか踊りたくなる、という代物だ」
まあ、と主様は仰け反るようにして天を仰ぎ、無意識なのか私の頭をぐりりと強く踏んだ。もっともっと!
「勝手に音を響かせて踊りたい気分にさせる、というだけなら無害なんだけどね。この楽器が悪質なのはそこから先だ」
「先、ですか?」
「音を止めようとして、あるいは自分で演奏しようとして触れたが最後、死ぬまで手が離れなくなる。勝手に体は演奏をし始め、それはもう魂を燃やすような程の演奏を響かせる。感受性が豊かだったり、音楽に興味がある人の場合はその魂を燃やすような演奏を聞くと踊り始めるから危険なんだ」
「死ぬまで手が離れないって事は、演奏者が死なない限り周囲のダンサー達も相当消耗するまで強制ダンスって事です……?」
「その通り」
よっしゃ当たった! と喜ぶ私も居るが、それはそれとして中々に怖い楽器だ。
赤い靴の楽器バージョンじゃないかそんなもの。
「死ぬか、殺されるか。そのどちらかが無いと手が離れない。腕を斬り落とそうにも、腕を狙うとどうも楽器の意思なのか避けたり反撃したりするみたいでね」
「あの黄色いのはソレが混ざってる、と……」
「呪い人形の効果もあるからか、相手の一部を自分が摂取、あるいは自分の一部を相手に触れさせることが出来れば演奏中だけ操れると言っていたな」
「えっ、凄い!」
そんなの二次元キャラの格好良い攻撃技で上位に食い込むヤツじゃないか。
演奏が攻撃になるって相当に格好良いぞ。
いやまあ、こうして見てると戦場で一心不乱に演奏してるヤバいヤツにしか見えないけど。
まともかつクール系の美形だからこそ尚の事、うわアイツヤバいヤツだ感が凄い。
「え、でも一体いつの間にあの一部の操られ聖騎士にそんな仕掛けを?」
「最初に青いのが放った弾に血液でも仕込んでいたんだろう。だから最初の弾の被害を受けた、それこそ怪我を負った者ばかりが操られている」
「うわ本当だよく見たら確かに!」
通りで重傷な人までもが混乱しながら大暴れしているわけだ。
一部は激痛の中で無理矢理体を動かすショックからか死亡し、その肉体操作は終了しているようだけど。
元々の魔物の能力自体が死んだら演奏終了となるタイプだからこそ、死体を操ったりは出来ないらしい。
いや、やんないだけかもしれないけどさ。
「青いのは骸骨長という魔物と、大砲やらビームやらを出せるロボットだかメカだかが混ざっている。ロボの方は魔物じゃないけれど、まあキメラは適当に混ぜて上手くいけばそういう事も可能だから」
「スコーンは雑に作った方が美味しいよみたいな話だ……」
ちょっと意外な材料混ぜたら結構美味しかったみたいな事を言ってらっしゃる。
というか魔物以外にも混入物ある場合があるのか、キメラって。
いよいよ闇鍋感が凄い。
……いやまあ、日本人のソウルフードなおにぎりだって、おにぎりと一言に言っても中身は鮭だったりおかかだったりツナマヨだったりソーセージだったりたたきマグロだったりするし、そう考えればおにぎりとあんまり変わんない、かな?
全然違う気がするが、それぞれ違うのがランダムに内包されているという点では変わるまい。
おにぎりって時々何でコレ混ぜたんだよみたいな変わり種もあるしな。
「骸骨長は、元々は戦争に行った兵士の成れの果てと言われているね。だからなのか部下を増やして近くの集落なんかを攻めようとする習性がある。とはいえ殺した相手が骸骨になれば操れる、つまり部下に出来るというものだから、仕留められても骸骨にならなければ操られない」
「白骨化するまで待つ長期戦タイプなんです?」
「肉を削ぎ落せば即席で骸骨になるから、ソレを狙ってくるね。とはいえ複数で相手すれば退避なりが出来るからどうにかなる。バラバラになっても動くから厄介だが、粉々に砕けば動きは止まる。とはいえ骸骨長に殺された者はその骸骨長が生きている限り、土葬して白骨化したら操られる危険性があってね。ソレを回避する為、死人が出たら燃やすか砕くか。一番良いのは大本の骸骨長を仕留める方向性だろうけど」
「何か大変なんですね……」
「青いのの場合、骸骨を操っても邪魔なだけだし肉を削ぐのが手間だから、と操ったりはしていないようだがね。食事の際は骨ごと食らうから残らないようだし」
まあ、本人が不要と思ってるなら良いんだろう。
魔物の習性にあんまり自我が引っ張られてないって事なんだろうなあ、と積み木屋敷を思い出す。
魔物の習性が強めで人間としての自我が少な目な愚キメラは大分ヤバかったので、魔物の習性が少ない方がキメラとしては正解なのだろう。
「おや」
「あ」
そんな風に話していたら、聖騎士の放った攻撃が青いのと黄色いのの頭に直撃した。
どうやら聖属性の魔法で周囲を清め、二人の身動きを封じ、そこに炎系の魔石に爆発魔法を仕込んだ魔法石に聖属性を付与した上で放ったらしい。
青いのは頭部、それこそ口元以外の頭部が吹っ飛んでいるような有り様でゆっくりと倒れ伏してゆく。
隣に居た黄色いのも被爆したのか、肩辺りを中心にして食われたかのように抉れて重力に従い地面に倒れる。
当然ながらキメラならそう大した時間も掛からず治るものだろうけれど、
「聖属性を混ぜられたからか回復が遅いな」
背中から、主様の愉快そうな声が聞こえた。
どうやら観覧席気分でこの惨状を娯楽のように見ているらしい。




