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私まで信じそう



 どうやら新人さんだったらしく、急展開におろおろわたわたしていた巨乳受付嬢はナイトの指示によって奥の個室へと案内してくれた。

 奥の個室と聞くとそのワードだけで何だかエロさが漂うが、高級そうとまでは言わないが清潔感のある一般的な応接室である。残念。

 いやまあナイトは普通のイケメンで細マッチョの香りがするからガチムチじゃない時点で興味の対象外だけどさ。



「さて、それでは詳しい話を聞かせていただきたいのだが……話せるかい?」


「はい。トラウマ……というのも、既に乗り越えていますから」



 気遣う様子を見せたナイトに、主様は眉を下げた笑みで返す。

 健気にも見える表情にキュンとするが、全力で百パーセント演技なんだよなあとも思う。

 ま、イメクラを連想すると演技である事自体に興奮するのでヨシ。

 そんな事考えてるとバレたら三回はぶっ殺されそうだけどな。



「僕の故郷は、そう大きくも無い……それこそ村と町の境界も曖昧なレベルの集落でした。そこにある日、旅人であると、青髪の少年と金髪の少年がやってきました。そう年齢は変わらないとの事でしたが、年齢よりも幼い少年と年齢よりも大人びて見える少年の二人組だったので、ちょっぴり噂にもなってたんですよ」



 でも、



「間もなくして、彼らは本性を現しました。人間だなんてとんでもない。既に数年以上が経過しているので記憶は明確ではありませんが、あの時、彼らは人型でありながら異形でした」


「…………異形、というのは?」


「具体的にはどうだったか曖昧ですが、青い少年の方は右腕がオートマチック大陸によく見られる機械のようになっていて、そこから大砲のようなものを発射してきました」



 家ごと吹っ飛んだ方も、大勢居ました。

 主様は辛い記憶を思い出すかのように顔を顰め、何かに耐えるように右手で左腕を握る。

 私は無言のまま、その力を込められている手に触れた。


 ……合法的な接触! よっしゃあ!


 気遣うような表情をしていればより一層雰囲気も出るから主様に触れる事も出来て一石二鳥。

 今は全力で被害者面をする時間帯のようだし、私も役者気分でソレに合わせよう。

 というか下手に喋ると墓穴しか掘れない気がするし。



「ですが同時に顔の左側と左腕が骸骨に見えて……いえ、アレは僕が死神の気配を感じて勝手にそういう幻覚を見ただけかもしれません。何せ、そんな魔物の前例はありませんから」


「いや」



 顎に手を当て、ナイトは思案するように机の上をじっと見ながら、至極真面目な顔で言う。



「魔物というのは突然発生する事もあるし、場合によっては生き物を取り込んで擬態する事すらある……僕らが認識していないだけで、そういった魔物が存在するという可能性はあり得るんだ。否定出来るものじゃない」


「……そう、なんですね」


「ああ」



 信じてくれるのか、そういう見解もあるのか、といったような不安と安堵が入り混じった表情で胸を撫でおろす主様に、ナイトは真剣な顔で頷いた。

 いやあ、何というかキャラを作って異性を騙してお金を奪い取る人を見てる気分だ。

 キメラである事を考えれば、お金で解決するなら寧ろラッキーくらいの罠なのかもしれないが。


 ……罠、なのかな?


 詳細を語られていない私ではわからないが、主様が一瞬見せた表情からすれば多分罠。

 引っかかったナイトは可哀相だと思うけれど、好みの筋肉してそうにないから良いや。

 これが巨乳やムキムキマッチョだったら流石にちょっと相手に対しても心配を見せていたところだが、好みじゃない相手なら興味はない。



「金髪少年の方は……よくわからない、というのが実情ですね。僕が対峙したのは青髪の少年だったというのもありますが、金髪の方はずっと楽器を弾きならしていて……周囲は、地獄のようでした」


「地獄のよう、というのは……楽器を弾きならしていただけなのに?」


「僕にはそう見えました。楽器を演奏する少年が居て、その周囲には悲鳴を上げながら殺し合う人達が居て……家族で殺し合っている人達も居て、一体何があったのか、僕にはとても……!」



 語りながら怯えたように表情を強張らせた主様は、身を守るかのように頭を抱えて背を丸める。

 私はそんな主様に対して、気遣わしげな表情を作ってぴとりと身をくっつけて背を撫でた。


 ……へっへっへ、慰めるかのような態度で合法的に密着出来るだなんて最高だな!


 他人の目の前でいちゃつけるのも大変ハッピー。

 気分は他の客に気付かれないようにしながら机の下でゴソゴソと秘密のプレイをしている気分だ。

 他人に迷惑掛けるのは駄目だけど、シチュエーションとしては他人に気付かれないようにしつつ人が居る場で、っていうのは大変好み。

 性癖なんてのはそういうもんだ。


 ……他人に迷惑掛けなくて、尚且つ合意なら万事オッケー!


 合意は貰って無いけど抵抗もされてないしやめろという圧も来ないのでセーフセーフ。

 演技に合わせるようにしていれば不自然にならない程度に主様をまさぐれるだなんて最高だぜ!



「……申し訳ない。辛い事を思い出させてしまったね」


「いえ、頼む以上は伝えなければならない事でしょうから……」



 顔を上げ、まだ顔色を悪くしながらも、ふる、と主様は首を横に振る。



「生憎、僕が彼らについてわかっているのはこれらと……彼らは成長しないという事と、十字架を酷く嫌った、という事くらいです」


「…………キミの顔色を思うと続きを促すのは非道だと指を差されそうだが、聞いても良いかな?」



 はい、と主様は頷きを返した。



「数年以上、あちこちで探りましたが、存在する目撃情報からすると彼らに身体的な成長は見られない様子でした。金髪の方は既に大人びた風貌でしたが、青髪の方は明らかに成長が遅い様子だったのに、です」


「子供であるなら成長するだろうが、それが見られない、か。集落での行動を思えば魔物か相当にイカれた者かという二択だったが、成長が無いというならそういう魔物の可能性が高い……」



 ふむ、とナイトが頷く。



「成長を止める、あるいは老化を防ぐ、はたまた若返る物なども無いわけでは無いが、そういった物は高価であり相当厳重に取り扱われるもの。その者達が使用している……というのは考えにくいな」


「はい、僕もそう思います」


「それで、十字架を嫌ったというのは?」


「…………僕の集落は、そういった宗教系に関する事でご先祖様達が何やらトラブルに遭ったようで、十字架といった類はタブーの扱いなんです」



 主様は困ったように微笑み、耳につけられている羽飾りがついた十字のピアスへと指先で触れた。

 想像する十字架とは違う、救急箱とかについているような十字型。



「その時咄嗟に掴んだ十字架も、御禁制として蔵に放り込まれていたものでした。蔵が吹っ飛んで、中の荷物が散乱していたんです。それで僕は青髪の彼に殺されかけて、慌てて十字架を掲げて……その瞬間、相手は顔を顰めて逃亡しました。僕以外に生存者はいませんでしたが、僕は集落で御禁制扱いされていた十字架に命を救われたんです」



 うーむ、話を聞いていると本当にそうなのかなという気分になってくるから凄いものだ。

 実際は十字架に命を救われるどころか致命傷になりかねない種族だけど。



「とはいえ、刷り込まれていた意識からその後も教会に頼るという発想はなく……いえ、あったはあったのですが、仇を討ちたいと思ってしまったのがいけませんでした。自分の手で復讐を、と思ってしまった」



 後悔が滲んでいるとわかる赤い瞳を伏せ、主様はくしゃりと不格好な笑みを見せる。

 笑みを浮かべる事が出来ない心境だけれど、それでも無理に浮かべたというのが伝わる笑みだった。



「しかしそれでは犠牲者が増えるだけ……目撃情報と共に入ってくるのは、そういう絶望的な情報ばかりでした。どれだけ探そうとしても、僕だけでは力不足。僕の個人的な復讐の為に、死ななくてもよかった人達が死んだのかもしれない。僕はそう思い、それでも教会へ行く事は幼少期の徹底した刷り込みによって拒絶してしまい……こうして、冒険者ギルドへの依頼という形にしようとしたんです」


「…………成る程」



 話を聞き終えたナイトは、こくりと小さく頷いた。



「……確かに貴方のした事は、罪無き人を見捨てる行為だったかもしれない」


「えっ!?」



 真面目な顔で何言ってんだこの優男。

 演技だから良いが、もしガチな話だったら驚きでは済まずにぶん殴っていたかもしれない。

 主様のショックを受けた顔にそれはそれで興奮したから良いけれど。



「だが、こうして依頼という形を取って、それらを告げてくれた。自身の復讐よりも、見ず知らずの誰かが助かる道を選んだ。それを見ていた神様が、偶然にも聖騎士たる僕をあの場に寄越したんだろう」



 胸に手を当て、ナイトはにこりと優しく微笑む。

 それは、今にも死にそうな不安に苛まれている人も笑顔を取り戻しそうな温かい笑み。



「任せておくれ。必ずや、キミの故郷の仇を討ち、人々の安心を守るとも!」



 ナイトのその頼もしい言葉に、主様はようやく力を抜く事が出来たような、そんな安堵の笑みを浮かべていた。





「この件に関しては依頼では無く、情報提供をしてくれた、という事にしておこう。依頼となるとビジネスになってしまうからね。コレはそういう話では無く、人類の平和を守る為、聖騎士が立ち向かうべき戦いだ。人々を守るのが、我々なのだから」



 ナイトはそう言い、教会へと戻って行った。

 話が終わった私達もまた宿屋の借りた部屋へと戻って来たわけだが、



「あの話、嘘ですよね?」


「ああ、説明を面倒臭がったせいで面倒な事になるかと思って少しばかり焦ったよ。すぐに調子を合わせてくれて良かった」


「いやもう本当にまさかの事実かと思って焦りましたよ! 痛みと圧で察しましたけど!」


「ヘマをするようなら殺すところだ」


「わあい! ご褒美です!」



 やっほいと喜べば、本当にコイツ何考えて生きてんだろう、みたいな視線を向けられた。もっともっと!



「それにしてもどういう意図であんな嘘八百を並べたんですか? 正直言って()()()()()()()とやら、靴作ってもらう為に探すどころかそのままぶっ殺されかねない勢いっぽくないです?」


「まあその時はその時かな」



 言いつつ、飽きた、と主様は着ていた衣服を脱ぎ捨てる。

 いやはやいつ見ても惚れ惚れする脱ぎっぷり。

 床に脱ぎ捨てられて重ねられていく衣服を見ていると、床になりたいとさえ思ってしまう。


 ……まあ別に床にならなくても脱ぎ捨てられた服を受け止めるのなんて今の状態でも全然出来るけどな!


 何なら主様のお手伝いとして服を脱がせる事すら許されるという最高ポジション。

 しかし着せたり脱がせたりも背徳的でめっちゃ興奮する最高のプレイだけれど、恥じらい一切無くするすると服を脱ぎ捨てていく様子というのも捨てがたい。

 お色気お姉さんが自分から慣れたように服を脱いでいく姿というのは別格、みたいなものだ。

 本人による脱衣からしか得られない栄養もある。

 そしてお色気お姉さんでは無いけれど清廉な空気と色気を纏っている主様の脱衣からしか得られない栄養もある。心の栄養ってのは生きる上で超大事。


 ……今はキメラだから生きてるかと言われるとアレだけど!



「正直に言って、二人が見つかればそれで良い。幸いな事に……不愉快な事に、教会というのは人海戦術を得意としているからね。だから使わせてもらおうと思って。聖属性の攻撃は致命傷になるとはいえ、彼らは攻撃手段もあるからそう簡単にやられないだろうし、やられたならそれまでだ」


「判断がシビアですね!」


「というより、全然見つからない事が不愉快だったから天敵をぶつけてやろうっていう腹いせが一番近いかな」


「腹いせ」


「僕を不愉快にしたんだから当然だろう?」


「ですね!」



 反射的に即答したけれど、中々に我が強いセリフだ。

 だってこっちが勝手に探して、見つけられなくて、向こうからしたら知らない間に逆恨みからの八つ当たりで致命傷を与えられそうになっているようなもの。

 まあでも主様が不愉快って言ったら不愉快な気持ちになったんだろうし、主様が不愉快な気持ちになったかどうかが重要なんであって事実がどうとかは関係無いしな。仕方ないか。

 究極を言うと探してる二人はあんまり筋肉にも期待出来なさそうだしキメラな時点で将来性も期待出来ないし、対する主様は最高に性癖ド真ん中なので理屈やらすっ飛ばして私は主様の味方をする。

 主様がカラスを白いと言うなら白なんじゃい。



「……ちなみに」


「何かな」



 脱ぎ捨てられた主様の服を回収して袋に入れつつ、私は問う。



「あそこでナイトが声を掛けて来るのって作戦の内ですよね?」


「当然。彼がそういった指示を出せる立場である事をわかった上で、そして彼が教会から離れた方まで個人的に見回りをし、あの時間帯はギルドで少し休みつつ問題が起きていないかを確認するという習慣を利用した」


「成る程!」



 色々と聞き込みをするついでに情報を収集し、この作戦案を思いついたらしい。

 相手の行動パターンを把握した上で時間帯を調節して相手から接触するようにしていたわけか。


 ……だからか、あの笑み。


 マジで獲物が罠に引っかかったぞの笑みだったご様子。

 まあ主様の事だから、聞き込み以外でも耳を澄まして色々な情報を仕入れて情報精査して作戦を即興で構築、というコースなんだろうけど。



「さて、それじゃあ僕らは二人が見つかるまでのんびりするとしようか」



 にこりと微笑んでから、主様はギイと口の端を吊り上げる。



「どういう結果で終わるか、楽しみだ」



 そう笑う主様は、窓から射し込む夕日に照らされていた。

 角度によって絶妙な逆光となっていて、その裸体は実に芸術的で、思わず惚れ惚れとした吐息を漏らしてしまう程に美しかった。



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