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どうしてここに?



 二度と全力スピードなんか出さない。

 いやもう、音速の壁を越えてしまった気がするというか、主様は案の定肉塊になってしまった。

 着陸したらわりとすぐに復活したから良いけれど、他にも色々と問題があるというか、


 ……着地地点がクレーター状態になっちゃったな……。


 人気(ひとけ)が無いところを狙ったので、そこはまあ、勝手に人が良い感じの推測をしてくれるだろうからクレーターを見られても大丈夫。

 首に絡まっていて、かつ私がしっかり掴んでいた主様の両腕を抱きかかえたまま即座に逃げたのは仕方のない事だと思うけれど。

 だってうっかり野次馬に見られたら誤魔化せないし。


 ……異世界来た時もクレーターの中だったっけ。


 そして主様と出会って死亡エンドからのキメラコース。

 まあ、それには満足してるからヨシ。


 ……にしても、まさかドラゴンに瞬膜があるとは……。


 瞬膜と言って良いのかはわからないが、思いっきり羽ばたくと同時、目にゴーグルのようなものが発生したのだ。

 お陰でこちらの眼球は守られたけれど、主様は見事なミンチとなってしまった。

 いやしかし私の体、あんだけのスピード出して平気とか中々頑丈だな。


 ……主様の攻撃ではわりとあっさりミンチになるのに風圧は平気ってどういう事なんだろ?


 よくわからないけれど、魔物は色々不思議な事もあり得るようだからそういう謎仕様もあるんだろう。

 あるいは私が主様に殺されるのをヨシとしているから体がそれに対応している可能性。


 ……あ、でも鏡がある状況下じゃないから確定じゃないけど、そういえば飛んでる時は手とかに鱗が生えてたような。


 つまり何等かのドラゴンガードが発生していた可能性。

 生憎、主様はスピードを上げた段階で肉塊になってしまっていた為、意見を聞いても知らないとだけ返されたが。

 幸い、死んだ事については最初からそうなるとわかっていたからか特に不機嫌そうでも無く、寧ろようやく陸地に来れた事を喜んでいるようだったので一安心。

 不機嫌レベルが高いからこそのあの低い声も最高だが、機嫌が良い主様も最高に最高で私は嬉しい。





 オートマチック大陸にある、大きな町の良い宿屋。

 そこに借りた部屋の中で、主様はベッドに足を組んで腰掛け、ヘッドボードを肘置きにしていた。

 今日の服装は縦ストライプな青色の袖無しインナーに、やたらベルトが付いている同じく袖無しの黒い上着。

 上着の襟部分は真っ赤であり、加えて上着自体にベルトがあるのにその上から腰部分で交差させるように上から足された赤いベルト。

 下は足のラインがよくわかる黒いズボンに膝丈のブーツ。

 ブーツの上からは膝下からくるぶしまで、それこそ土踏まずのところに通してしっかりカバー出来る洋風な脚絆でカバーされていた。


 ……綺麗な青さだけど、歩いたら絶対汚れるよなアレ……。


 まあ主様は実用性云々よりもビジュアル重視だし、最悪魔法で綺麗に出来るから良いか。

 正直言ってソレで不機嫌になったらそれはそれでご褒美なのでヨシ。

 さておき、追加で腕の部分には手甲のようなガントレット。

 裾の広がり方や長さはガントレットだが、手甲のように指やらが露出しているので何て呼べば良いんだアレは。アームカバーの亜種だろうか。

 ビジュアル重視となれば、その辺を気にするだけ無駄なんだろうけど。


 ……いやでも、今日の主様も最高……!


 鎖骨が映えるし、三角筋から上腕の筋肉までがくっきり見える素晴らしい袖無しルック。

 しかもベルト効果で腰の細さが強調されていて、胸部のボリュームはそのままにしつつ締めるところを締めているという素敵ファッション。

 左耳には羽の飾りがついている十字型のピアスをつけていて、羽飾りが揺れる度にキュンキュンする。


 ……めちゃくちゃ踏まれたい!


 マゾ的にはキュンキュンイコール踏まれたいなって思わせる相手に対して本能的な屈服の予兆というか、うん、そういう感じ。

 ときめきなんてのは殆ど性的興奮ですよ。

 しかも服装に加えて最高な事に、いやいや困った事に、主様は酷く不機嫌そうに眉を顰めて苛立ちを露わにしつま先でタンタンと床をタップ。


 ……うーん、完全に苛立っていらっしゃるな!


 それにもまたゾクゾクしてしまって我ながら節操がないにも程があらぁ。

 さておき苛立ちを表情に出しながら、主様は不愉快そうに口の端を歪める。



「不愉快だ」


「ですよね!」



 オートマチック大陸に渡って三か月が経過した。

 三か月だ。

 三日ならばともかく三か月間、()()()()()()()とやらは音沙汰無いというか噂すらないといった状態。

 まあキメラがそう簡単に場所割れてるのはどうかと思うし、そのキメラ達は主様曰く()()()のように固定の場所を持っているわけでも無いとのこと。

 一応オートマチック大陸をメインに活動しているようだが、オートマチック大陸のどこに居るかはサッパリというのが現状だった。


 ……とはいえ、三か月間あちこちを歩き回っても音沙汰無しってのがなあ。


 クレーターを作った時はちょっぴり迂回した上でクレーターの逆方向から来ましたよといった顔で近くの町に滞在したが、軽く聞き込みをしてもそれっぽい情報は無し。

 そこからとりあえず適当に、主様の気分のままあっちへふらふらこっちへふらふら、時々ドラゴン飛行で途中の集落をすっ飛ばした向こう側に行ってみたりしたものの一向に情報は出てこない。

 ちなみにオートマチック大陸はやっぱりスチームパンク系のようで、蒸気機関車があちこちを走っているもののお空は淀んでるし全体的にくすんでいて機械油の臭いが凄かった。

 とはいえ一応この町は大きいながらもそこまで機械文化が進んでいるわけでは無いらしく、パレット大陸で見るような町並みでちょっとした安心感があるのだが。


 ……ま、軽く聞き込みをしたらわかるようなレベルで足跡残してたら、キメラってバレた時に相当厄介だろうし。


 そう考えると私の纏足(偽)が文字通りの足枷になるのは当然だった。

 その問題を解決する為という意図で探しているのだが、明確な場所もわかっていないのでは無理難題。

 いっそのこと私がちゃんと足の擬態出来るようになってしまえば早いのでは、とこの三か月間幾度となく思ったけれど、まあ当然ながら無理だったので駄目です。


 ……主様に興奮するとすぐ戻っちゃうんだよな。


 そして主様への反射的な興奮を抑えるとか無理なので完全なる詰み。

 それこそ主様の見下した視線とかに興奮したら一発アウト。

 もしも興奮してもすぐ落ち着けばセーフ、とかなら良かったが、それこそ人間に化けてる化け猫キャラとかが鰹節に反応して一瞬ぴょこんと猫耳が出るような、ああいう速度で擬態が解ける。



「人間部分を内蔵中心に半分程食べたのが影響しているのかもしれないね。全身を人間に擬態させるには材料が足りないというか……まあ、コレに関してはキミに期待するのを諦めるとしよう。期待するだけ無駄だ」


「褒め言葉です!」


「何一つとして褒めていないし寧ろ貶している」


「それが褒め言葉なんですよ!」



 足の擬態に関して見捨てられた時にそんな会話をしたが、こういうちょっとした会話でもう足の擬態が解けるのが問題点だ。

 本当に些細な事で、私からすれば重大なイベントだが普通の世間話の最中に解ける可能性が高いのはいただけない。

 履いているのがブーツとかならまだ頑張って誤魔化せるかもしれないが、もしサンダルなんかを履いてる時、人前でうっかり主様にときめいたら即座に終わる。

 場合によっては主様以外の筋肉や巨乳に興奮して擬態が解ける可能性もあるので本当に向いていない。

 いっそ出家していればどうにかなったかもしれないが、私は出家してないし今後も出家する予定は無く、それどころか墓に入らず化け物になったタイプなので無欲とは真逆のルートを爆走している事だろう。


 ……うん、つまり仕方がないな!


 大義名分という名の都合の良い言い訳だが、ソレが事実なので致し方なし。

 が、だからといって纏足(偽)のままでは足跡を追いやすいにも程があるし、わりとやらかす私に加えて意外とテンションで動きがちな主様というコンビなので、可能なら足跡は消しておきたい。

 不慮の事故でうっかり町の一部を殲滅、とかのコースが発生しかねないわけだし。


 ……雑貨屋さんの件は完全に私が原因だったし。


 もしもアレを公衆の面前、それこそ他の人が注目している場でやらかしてたら最悪集落ごと滅んでいた可能性すらあるのだ。

 今後そうなる可能性も、まあ、しっかりめにあるし、私が気を付けたところで主様の気分一つでそういうイベントが発生する可能性は大分高いので、うん、どの道そうなっててもおかしくはないけれど。

 正直言って気を付けるところは気を付ける、という甘注意ぐらいが丁度良いと思う。



「…………いい加減本気で面倒になってきたし、手段を選ばない方法で探すかな」



 言い、主様は立ち上がった。



「はい! 手段を選ばない方法って何ですか!?」



 私は挙手してそう質問する。

 正直言ってわりとあっさりめに人命を刈り取る主様なので、その主様が手段を選ばない発言とかそうとうヤバそう。



「別に、大した手段では無いけれど……この町に来て三日も過ごせば、そして聞き込みをしていれば大体は把握出来るからね」



 にっこり、と主様は貼り付けた笑みを浮かべた。


 ……ああもう、やっぱり主様ってば最高!


 冷たい視線も素晴らしいけれど、こういった笑みも興奮する。

 お手本のような、それこそ無害そうにも見える笑顔。

 しかし実際はそういうのとは真逆である、というのがまた興奮がフィーバーするのに繋がってゆく。


 ……あれだよね、一見すると人が良さそうで温和で何なら普段は助けてくれたりしたけど実は笑みを張り付けてただけの黒幕だった、みたいな感じだからここまで興奮するんだろうな。


 別に具体的にどうこう言うつもりは無いが、東京がバビロンなアレのあの人とかも結構好きだ。

 ビジュアル的には筋肉が足りないのでうーんという感じなのだけど、しかしあの冷たさは好み。

 あまりにも冷徹過ぎるし人間としての情が無さ過ぎるとも思う。

 思うが、マゾとしてはソレがまたゾクゾクしてしまうのだ。


 ……でもなー! あの人もサドとは何かタイプが違うんだよな!


 そこを突き詰めると主様もサドでは無いという結論に到達してしまうので深くは考えるまい。

 結局は私のマゾ心が反応すれば万事ヨシ。

 あまりにも私利私欲に満ちた自己中心的な考えだけれど、人間なんてこんなもんだ。人間卒業して人食い化け物のキメラになってるけどさ。





 スカートを翻し、私はスタスタ歩いて行く主様を追いかける。

 私の現在の服装は、上は胸元が横向きのひし形みたいにバックリ開けて谷間を露出しているチャイナ系。

 チャイナと言えば想像するあの襟に、ふわりと広がる七分袖。

 ゆったりめの袖にレースが使用されていて、実に素敵なデザインだった。

 首から袖に掛けては緑、胸元は白い生地。

 下はふわりと広がっている真っ赤なミニスカートで、これもまた控えめながらもしっかりついているフリルが可愛らしい。

 上がチャイナドレスっぽいデザインであるのを意識しているのか、スカート部分にちゃっかり前掛けのような白い布が重ねられていて、それもまた良い味を出している。

 スカートの広がり方に対し、良い感じに調節が入っている感じだ。

 ちなみに白いニーハイに緑のシンプルな纏足靴が合わせられていて、今日のは全体的に色合いが纏まっている印象。


 ……というか、イタリアカラーでは?


 ハンガリーカラーかもしれないが、国旗について詳しいわけでも無いから良いや。

 それに中々弾けた色合いでも着こなせるポテンシャルを持った体なので、色合いが纏まってようが纏まって無かろうが問題は無い。


 ……いやあ、日本人顔だったらこの色合いにボロ負けしてたな!


 良かった、キメラ化した時にガッツリ外人顔のおっぱいデカくて背の高い美女になってて。

 キメラになるのが良い事かと言うとアレだけど、少なくとも私は得しかしてないのでヨシとしよう。



「あの、主様? どこに向かってるんです?」



 耳(人間)の上辺りで括られているツインテールを揺らしながら、私は問う。

 この町にはわりと大きな教会があり、そことは逆方向に向かっているのはわかる。

 わかるけれど、だからといってどこに向かっているかがわかるわけでもない。


 ……私、わりと迷子率高いしな!


 いやあ、ちょっと買いたい物があるから先行っててと言って後から一人で合流しようとしたら目的の居酒屋が見つからないものだからあの時は焦った焦った。

 まだ二回くらいしか行った事が無くて場所を覚えていなかったものだからマジで十分くらい彷徨い、スマホという文明の利器でヘルプして迎えを頼んだものだ。

 友人には地図を見ろと言われたけれど、地図を見たってわからないから迷ってるんだよ。寧ろ地図が私を迷わせてるに違いないね。そう告げたら、んなわけねえだろと突っ込まれたっけ。



「…………」


「へぶっ」



 私の問いに答えないまま主様はスタスタ歩き、ピタリと止まった。

 マジで完全なる急停止だったものだからうっかりガッツリぶつかってしまう。

 故意じゃなくて素でぶつかったし激痛じゃないから地味に痛いが、しかし主様の着やせしているのに実際はわりかしゴリッとしている硬い筋肉を感じられたのでプラマイプラス。やったぜ。



「すみません突然の急停止についていけませんでした! あと主様の背中筋肉が凄くてめちゃくちゃ嬉しいです!」


「それは別にどうでも良い」



 さらっとそう言って、主様は目の前にある建物を指差す。



「目的地に到着したから、さっさと依頼をしてしまおうか。今の時間帯なら都合が良い」


「へ?」



 主様が指差したのは、大きな施設。

 そう、細いのから屈強な者まで、多種多様な冒険者達が集うギルドがあった。



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