いつか必ず再戦してみせる
主様は、前に例の服屋でマネキンが着ていた服へと着替えていた。
ノースリーブで腹が出ているハイネックの黒いインナーに、腕も出てるし脇腹も出てるし何ならインナーと服の間にある腹筋の上部分も出てるしという大変セクシーな服。
オマケのように腕の前腕部には黒い輪っかが複数通されている。
……いや、ベルト……か……?
つけるのを手伝いながらも何なのかまったくよくわからないが、ビジュアルとしては花丸満点にプラスで加算したいくらいなのでヨシ。
女の子の太ももに複数のベルトがセットされているという機能性が謎だけどビジュアル的にはめっちゃ興奮しますみたいな、ああいう気配を感じるなあ。
……主様の好む傾向はちょいちょい奇抜だけどまたソレが似合う体型と顔付きしてるのが最高!
見る性癖。
目から栄養が摂取出来るのであれば、地球で摂取していた食事の栄養素を人生分トータルしても、主様と出会ってからの栄養量には適うまい。
そのレベルで主様が性癖過ぎて私の幸せ中枢が刺激されまくりでとってもヤバい。
……いやもう本当に異世界って最高だな!
誰もがトラックにアタックされるのを夢見てしまうのも無理は無いレベルで超天国。
まあ、私の場合は異世界来てから殺されたけどな!
……その後が幸せだし良いか! 良いな!
ちなみに私もちゃんと着替えている。
上は胸元がガッパリ開いた水色の服であり、胸元では紐が交差していて他人事ならば超興奮するデザインだった。
しかも左側の袖はキャミソールのようなノースリーブなのに対し、右側の袖は裾がヒラヒラしている七分丈というアシンメトリー。
下は薄い紫色でエグいスリットが入っているミニスカート。
最早ミニ超えてマイクロミニスカートじゃないかと思うが、ドラゴンコルセットによりパンツがどうとかの心配は無いので気にならない。
……実質ノーパンだけどビジュアルも実感もノーパンじゃないんだよなあ。
ともかく、そんなスカートには細長い布をベルトのように巻きつけて右の腰で結んである。
細やかな刺繍が素敵なワンポイントとなっていて、コレをこの体型の他人が着てたら思わずホテルに誘いたくなるような服装だ。
……デザインセンスは良いけど、普通に私服として売る辺りあの姉ちゃんの感覚大分ぶっ飛んでる気が……。
まあ良いや。
ついでに左手の前腕には袖が無くて飾りが足りないからか、手甲のような飾りを装備する事となった。
大胆に露出している足も、左足の太もも部分に主様とお揃いのような黒いベルトが二本通されていて、主様に束縛されている感がある事にゾクゾクする。
尚、髪型は主様によって右の一房だけ三つ編みになり、残りは腰辺りで昔の女性みたく緩めに結われた。
……この体になってひと月以上が経過したけど、やっぱりこうも髪が長いっていうのはふとした瞬間にビックリするんだよなあ。
しかし主様の手ずから結って貰えるのが最高なので文句など一つも無い。
例え暇潰しの一端扱いとしても、暇潰しとして使用されてる事自体に興奮するし、そこに加えて髪を結ってもらうという定番恋愛イベントとなればヨダレが垂れそうになるのも致し方ないと思う。
……いやはやしかし、
「主様、最高です!」
「知ってる。何を今更」
「ですよね!」
照れたような表情や自慢げな表情というわけでも無く、マジで素の表情でそう返された。
最高であるというのがただの事実でしかないというそのメンタル、それでこそ主様!
「それで主様、結局あの熱血はどういう魔物と混ざったキメラなんですか?」
「幽霊船」
「幽霊船の魔物なんです!?」
「一般的にはね。正確には概念的かつ抽象的な魔物だよ」
言いつつ、主様は部屋に備え付けられていた椅子を引き寄せて腰掛けた。
長い足を組むその姿が堪らない。
「…………」
思わず反射的にローアングルから心のシャッターを押そうとして這いつくばった状態から主様を見上げてしまう。
気付いたらもう主様の見下す視線が冷たくて、またコイツ何かやってんな、とでも言いたそうな視線がザクザク刺さる。
その角度、視線、温度、そしてここから見える獣足の裏とかそういうアレソレに背筋から快感がゾクゾクと駆け上がってゆくのがわかった。
……クッ、どうして私には三次元的な肉体があるんだ……!
せめてもう少し平面的であれば、より一層素晴らしいアングルを拝めただろうに。
でもよくよく考えたら今のボディは主様から賜ったとも言えるものだしな。じゃあ良いか。良いな。
「……幽霊船というのは正確じゃなくて、実際は海の記憶が具現化した魔物だ」
「記憶、ですか?」
「かつて存在した船、存在した歌声、存在した津波。そういった海自身が持っている記憶が具現化したもの。それが熱血に混ぜられた魔物だよ」
説明を受けつつ身を起こして床に座り込み、角度を調整しつつ主様の組まれた足を手に取って私の火炎袋が詰まった爆乳の上へと置いた。
名付けるならばおっぱいオットマンである。
私だったら爆乳を足置きに出来るなんて大興奮だし、足置きにされるのも大興奮なので全力で性癖に向かって駆けだしてるような状態。
まあ主様はそういった趣味が無いのか、物凄く嫌そうな顔をしてこちらの手を蹴りで振り払い、椅子の肘置きに足をのせてしまったが。
椅子に横向きで座って肘置きを足置きにしている主様の姿は完成されている感に満ち溢れた素晴らしい光景、だけれど、けれど、
……クッ、主様の性癖がわかればこっちも手の打ちようがあるのに……!
でも飽き性な主様にそういった性癖があるとも思えない。
ひと月宿屋で待機していた時も、一度だけそういう気分になったとかで誘われたのだが、
「飽きた」
じっくり前戯して全身を堪能させてもらおうと思ったのに、五分でコレだった。
肉体的な性的興奮が死んでいるキメラだからなのか、肉体方面で快楽を叩き込んでも意味が無いらしい、というのを学んだとも。
……主様からすれば、そういう気分になったから誘ったけどそういう気分じゃなくなった、ってだけでしかないんだろうしなあ……。
ポテト食べたいと思ったけど注文したポテトが届くまでにポテトの気分じゃなくなったみたいな、そういう雰囲気だった。
出来たのは首筋に顔を埋めて深呼吸しつつペロペロして腹筋をまさぐるくらい。
しかもキメラは精神的な興奮があるかないかが重要な為、主様が飽きると同時にあっという間に萎えたらしく、あっさりぶっ殺されて退けられた。
……いや、うん、何十年か待機していればきっと何度かチャンスはある、はず……!
次の機会があったら即座に事を進めねば。
まさか五分で飽きて萎えるとは思わなかった。
フィニッシュすらしていないのに落ち着くってどういう事だよ。
……そもそも五分で何とかなるかあ……?
フィニッシュが早いならともかく、主様はそういう気配が無いというか、下手すら不感症寄りの遅い方なんじゃないかって感じの気配をさせている。
つまりスタートからRTAしてもMURIな可能性があるわけで、難易度が鬼超えた先という懸念が発生。
主様の事だからフィニッシュ寸前でも容赦なく飽きたと言って萎えそうだし、出来るだけテンションを延長させられるような好みの部分を把握したいところだ。何の話だっけ。
「ってことはつまり、熱血の体がどうとか言われてたこの船って」
「海の記憶であり、熱血の本体とも言えるものだね。かつて海にはこういった船が浮いていたんだろう。海が覚えていればその姿を現せるし、海が忘れかけているなら朧気になる。そういった存在が混ざっているんだ」
「…………熱血、何だか人間の頃の記憶が曖昧みたいな感じの会話してましたけど、それも関わってるんですか?」
「半分はそうだね」
足置きにしていない方の肘置きに頭を預けながら、主様は首を仰け反らせて楽しそうに笑う。
こちらを横目で見て、口角を吊り上げて、ここからどういう動きで楽しませてくれるのかと告げるような笑みだった。
「何か、わかるかい?」
「まったくもってわかんないんですね!」
「ああ、そう」
すんっと主様の表情が真顔に戻る。
思っていた反応と違い期待外れだったらしいが、マジでわからないので仕方がない。
私の察し能力は基本的に主様に対してのみ全振り状態なわけだし。
あと私の察し能力からして、多分今の質問に対して正解を答えられてたらそれはそれで機嫌を損ねたような気配がする。
主様は想定通りの動きをしない事には苛立つけど、想定通りならそれはそれで飽きるのか嫌がるところがあるので大変だ。
まあそこが振り回されたい欲求のあるマゾからすれば最高の主人なんだけど。
……いや、にしても本当に主様の顔が良いな!
美人は三日で飽きると言うが、主様は毎日見続けていても飽きない、どころか常に美しさが更新されている気すらするレベルで美しい。
楽し気かつサディスティックな気配を纏った笑みも、興味を失ったような真顔もパーフェクツ。
全ての瞬間が恋愛イベントのスチルみたいに特別感溢れていて興奮してくる。
ドキドキもするけどそれ以上に興奮の方が強い辺りが私の駄目な部分って気もするが、主様も纏ってる雰囲気が大分煽情的なので致し方なし。
やっぱり清純系ヒロインも良いけれど、誰だって悪女系ヒロインに尽くしたくなる欲は持ってると思うんだ。
女スパイとかあらほらさっさな女王様が推しですって人ならわかってくれるだろう、この興奮。
「彼は初期キメラであり、尚且つ最初期の成功例だった。キミでも実験が成功した際、その成功例はどういった扱いをされるかくらいはわかるだろう?」
「ひたすらに実験実験更に実験! って感じで調べるヤツですね! どこが性感帯かわかんないなら全身責めてみようぜみたいなヤツ!」
「決定的かつ致命的に何かが違うが、まあ根本的には違わないからソレで良いか」
そう言い、主様は仰向けになっていた体勢をこちらへと向けた。
肘置きに足を置いているのはそのままに、もう片方の肘置きを抱きしめ下敷きにするように身を横にする。
何ともエキゾチックな雰囲気漂うセクシーショットだ。
ハーレムのセクシー女性がこのポーズ取ってたら大抵の男がノックアウトされる級のポーズを難なくして、尚且つソレがまた似合っている辺り主様のポテンシャルが留まるところを知らな過ぎる。
「熱血はソレをされたんだよ」
「誰にですか?」
「キメラを作った研究者達に」
「そういえばキメラって人工的に作られたとか言ってましたね!」
「…………まだその辺りについては説明していなかったっけ?」
「その仕草最高です主様!」
こてりと小首を傾げる姿に興奮して反射的にそう叫ぶと、喧しいと言いたげに顔を顰められた。
言うのも面倒なのか主様は私の言動に対する文句を言う時と言わない時があるが、どちらにせよ表情豊かにソレを告げて来たりはするので、個人的には超ハピネス。
推しの表情差分が多いと嬉しいのは皆に共通する喜びポイントだと思う。
「とと、本音はさておいて、そうですね! まだ人工的にキメラが生み出されたのは何故なのかとか、そういうアレコレについては全く存じ上げてない状態です!」
「へえ」
それだけの返事をして、主様はでろりと溶けたように椅子の肘置きに頬を乗せて腕をぶら下げ力を抜いた。
ヒェッ、けだるげな主様最高にエロい!
……じゃなくて!
「あれ!? 主様!? ここは説明してもらえる感じの空気じゃないんですか!?」
「飽きた」
むくりと起き上がり、主様は椅子から立ち上がる。
その動作に釣られて、座り込んでいた私も立ち上がった。
「どこか行くんです?」
「この船は初めて見るから、内装を確認しようと思ってね。船の内装は海の記憶が反映されているから、時々つじつまが合わない作りになっていて面白い。どうせここは熱血の腹の中だし、赤子に鉢合わせるようなら場所を強制的に変更くらいはしてくるだろうからうっかり食べてしまって面倒になる心配も無い」
「成る程! ソレは面白そうですね! うっかり本能が出たらアウトですけど、そもそも鉢合わないならそれが良いですし!」
ついて行く満々でウキウキ気分のままそう告げると、主様は真顔のままギョロリと目を見開いて首から上だけを動かしこちらを見る。
「俺は今、一人で歩きたい気分だ。ついてくるなら殺す」
「放置プレイですか!? ありがとうございます!」
「…………」
めちゃくちゃ嫌そうな顔で舌打ちされた。
「…………まあ、面倒が無いのは良いけれどね。暇なら熱血を呼んでさっきの話の詳細でも聞いておいで。ついでにキメラの出生や、初期キメラだのといった呼び名についても聞くと良い」
「ソレ、ヤバいトラウマとか刺激しません?」
「自分を失いつつある熱血からすれば、自分を取り戻せると思えば寧ろ良いことなんじゃないかな。概念的であり抽象的な魔物が混ざった場合、どうしても自我の部分が影響されがちになるからね」
「じゃあ聞いてみますね!」
「僕も説明の手間が省けるから、そうしてもらった方が良い。脱ぎ捨てた服の匂いを嗅がれるよりはずっと健全だ」
「アッ、ご存知でした!?」
「ご存知たくはなかったけれど」
空気がヒヤリと冷えた上に主様の周囲でバチバチと小さな火花が発生している辺り、わりとマジで嫌だったらしい。
うん、でも私は多分また隙を見てやると思います。はい。
・
部屋を出た主様を追いかける、という気にもならず、先程まで主様が座っていた椅子に顔を埋めて残り香をすんすんと嗅ぐ。
つい先程やるなと言われたばかりな気もするが、どこで呼吸するかは自由だと思うんだ。
……それに、追いかけたら多分キレられるだろうしね!
主様はわりと沸点が高い、ように見えて一瞬で沸騰する時もあるので見極めが重要となる。
多分空の上で二日間完全密着状態だった事に飽き、少し一人になりたくなったのだろう。
普通ならここで追いすがったりしそうなものだが、私はソレをする気は無い。
主様がキレるかもしれないというのもそうだけれど、主様は切り替えが早いのできちんと時間を置けばすぐ冷めるのだ。
時間制限式か何かかと思うくらいには一瞬なので本当凄いと思う。
……おっ、ここは主様が頬を擦り付けてた部分だな!? 香りが濃い!
その部分に鼻を押し付けて深く深く息を吸い込み、その後に唾液を絡ませた舌で舐め、味わうように口で食み、
「この船自体が私自身という事もあって全体の把握が出来てしまう以上、そういった行為はやめてもらいたい!」
「うっわあビックリしたあ!」
「こちらのセリフだが!?」
いつの間にか部屋の中に熱血が立っていた。
思わず顔を上げれば、熱血は疲れと苛立ちが混ざった表情で苦々しそうにこちらを見ている。
「まったく……何をどうすれば椅子を舐めようだなんて思考になるんだ!」
「主様の残り香を全力で堪能したくてつい」
「意味が分からない……!」
汚らわしい何かを見る目でドン引きされた。もっともっと!
正直言って熱血は筋肉がガッチリしていて性癖にヒットしている為、そういう態度を取られると興奮してしまう。
「……その椅子も壁も床も何もかも、私なんだぞ。それを舐めようとする事に何か思ったりはしないのか」
「全然」
「せめて一瞬でも躊躇ってくれ!」
「ええ!? 主様の残り香を堪能する事に何を躊躇う必要が!?」
「こ、こういうところが呼び名の所以か……!」
恐ろしいものを見る目で警戒のポーズを取りつつ数歩下がられた。
また、うっすらと体が透けている。
「まあ良いや、とりあえず言う事聞いとくよ。問答無用で主様の残り香を堪能しまくってこのままフィニッシュ迎えようかとも思ってたけど、熱血結構好みの筋肉してるしな。このままでも実質性癖ド真ん中な主様の香りを堪能しつつ好みの筋肉した熱血を道具扱いでフィニッシュ、も良いけど、やっぱり目の前の筋肉の方が良いし。実質筋肉な椅子よりは目の前の筋肉の方が優先順位高いのは当然だからな!」
「…………」
物凄い嫌そうな顔で警戒したポーズのまま壁際まで逃げられた。
そこまでの反応せんでも。
「んで、さっきから気になってたけど、ちょいちょい肌が透けたりしてるよな? それって主様が言ってた、熱血に混ざってる幽霊船? 的な魔物の影響?」
「…………そもそもこちらの、人間らしい姿の方が端末に近い。本体は船そのものの方だ。いや、そもそもあの子が居なければ海の記憶として漂っているだけで、形らしい形も作らず居たが……」
自我が失われがちになってる主な原因ってソレじゃないのか?
「ともかく、全体を把握出来てて、尚且つ船が本体ってんなら私と主様の会話も聞いてたんだろ? キメラについての説明とか色々聞きたいな」
「確かにハッキリとした生前の記憶は殆ど残っていないが、思い出したくないといった漠然とした感覚は残っているぞ!」
「ハッハッハ、知らないな! 基本的に私は筋肉や巨乳に対して優しいから普段ならそりゃ仕方ないなと引くところだが、主様からのお言葉なんでそっちを優先させてもらうぜ!」
聞いておいでといった言い方だったが、説明面倒だから今の内にそっちに聞いとけという副音声が確かに聞こえた。
実質命令みたいなもんなので、眷属である私は従うだけである。
いやまあ勝手に察して勝手に従ってるだけだけどさ。
「で、話してくれる気はある? 逃げても追いかけてセクハラするだけだけど」
「…………お前は、何というか、諦観者に対する時と随分態度が違うな」
「どっちも素だけどなあ」
主様は自然とひれ伏したくなるので、反射的に敬語を使ってしまうのは致し方なし。
まあ基本的に態度がアレな私でも、状況次第じゃ主様以外に対してだってちゃんとした対応は出来るさ。多分。きっと。恐らく。
いやあ、我ながら自分に対して信用性の無さが酷い。




