狂気だらけ
夜明け前、もうあと少しで夜が白んでくるだろう頃合い。
その頃にはようやく主様による回収作業が終わり、私達は見送りに出てくれた自称姉と妹猫、そして他三名の妹と屋敷の前で話していた。
やはり例のルミィという子は動かないらしく、彼女だけは結局顔を見る事は無かったが。
「いやあ、すっかりお部屋が綺麗になっちゃった! 回収作業ありがとね、諦観者ちゃん!」
「自称姉はもう少し整理整頓をしろ。そうでなくとも、いっそ袋に仕舞い込むなりした方が早い」
「えー」
面倒臭い、というのがありありとわかる声色だった。
主様相手に凄い態度だ。
いやまあ、主様も呆れた目で見てはいてもそれ以上は言わない辺り、慣れているのかもしれないが。
……何か、キメラ仲間だから優しいって感じじゃないんだよな……。
主様を見ている感じからすると、単純に何度も言うのが面倒だから諦めて許容してる、という風に見える。
主様の性格からしてもそっちの方が自然だろう。
「それにしても、本当にうちに泊まらなくて良いの? もうすぐ日が昇るよ?」
「睡眠はまだ取らなくても良いし、自称姉の屋敷に泊まりたくはない」
「言い方ひっどい! 変態ちゃんはそんな事無いよね!?」
「童心に帰りそうな部屋だなとは思ったかな!」
「褒めてない上にただの感想ですよね、ソレ」
慌てて妹猫に向かって静かにのジェスチャーをする。
確かに良いとも悪いとも言っていないが、コレが日本風の返し方なのだ。
「もー、全室妹達が気に入るようにって気合い入れた部屋なのに」
「僕も彼女もキミの妹じゃないからね」
「見ればわかるよ!」
言ってから、っと、と何かを思い出したように自称姉がこちらを見る。
「そういえば変態ちゃん、シュティちゃんと遊んでくれて、ペコラちゃんともお話したんだっけ? うちの妹の相手をしてくれてありがとう!」
「……え、あ、うん、誰?」
「だからシュティちゃん……ツェアシュテールングちゃんとペコラちゃんだよ」
「より一層誰!?」
「チオンさんとシープさんです」
「成る程本名か……」
ナチュラルに名前呼びされると混乱するな。
本名と偽名なのでより一層混乱する。
……いやまあ、名字と名前みたいなイメージならどうにかなるんだけど。
そこに加えて簡略化された愛称が追加されちゃうのでもう駄目です。
キメラとしての呼び名が無いだけマシかなとも思うが、いっそ呼び名で統一してる方が誰を呼んでるかわかりやすいなあとも思ったり。
……え、待って? 私二人と遊んだりお話したりしたか?
お話どころか碌なコミュニケーションも取れていない。
片方には破壊宣言されて、片方にはモップで轢かれたくらいしかない。
……もしかしなくとも、妹猫が正直に報告した結果、自称姉がそういう風に自己解釈したとか……?
妹猫に視線を向けたところ、沈痛な面持ちで目を伏せられた。
つまりビンゴという事だ。
流石は通りすがりだろうが奴隷だろうが気に入れば妹認定して殺してキメラにして連れ帰る自称姉。
何ともフルスロットルな自己解釈をしてくるぜ。
まあ、ソレで問題が発生するような自己解釈じゃなかっただけ良いか。
「あとねあとね変態ちゃん、もし旅先で妹に有望そうな女の子が居たら教えてね!」
「人道に反する斡旋を頼まれてしまった」
人道に反するも何も、今は存在自体が人道に反してるけどさ。
キメラという化け物な時点で完全アウト。
「そもそも連絡手段無くない?」
「それでも一応だよ! もし偶然どこかの町で会ったりした時、良い感じの子が居たら教えて欲しいなーって思うの! お礼はちゃんとするから!」
「お、言ったな?」
拳を握った白熊の腕をぶんぶん振ってお願いしてくる自称姉に、私はニヤリとした笑みを返す。
「私に対してそんな事言って、しかもお礼の指定が無いようならその豊満なおっぱいが好き勝手されちゃうぞ!」
「別に胸くらい良いよ?」
「良いの!?」
「うん」
思わずこっちが驚くレベルであっさりと頷かれた。
本気で気にしてないテンションだ。
「私が好き勝手にするって事は、そりゃあもう揉みしだくじゃ止まらずに舐めたり吸ったり谷間に酒注いでおっぱい酒じゃわははははってやり始めるよ!? 容赦しないぞ!?」
「変態ちゃん変なポーズしてるー」
今にも自称姉の胸を揉まんとするような、事情を知らない人からすれば武道家の真似っこをしているかのようなポーズで手を構えて腰を落とせば、自称姉はケラケラ笑った。
今私、相当にガチめな事を言ったんだけど、本当にその反応で合ってるんだろうか。
……しかも私の場合、こういう事されちゃうかもよ? っていう忠告じゃなくてガチでやりたい事を言ってるからな……。
本気で許可が出ている場合、私はマジで実行に移す。
流石に拒絶されている事を無理矢理ぐへへへとはやらないが、許可が出ているなら話は別だ。
いやまあ、偶然自称姉に遭遇した際、良い感じの子の情報を持っているとは限らないから程々にハードルは高い気がするけど。
私の旅路って基本的に主様の後ろについてくだけだし。
「まあ、私は性的なアレコレが薄い方だから、そういうのはあんまり気にならないんだよね。感覚的には手からお酒飲ませて欲しいとか、指舐めさせて欲しいとか、そのくらいだし。犬を構ってあげるのと同じようなものじゃないかな?」
「あまりにも私に対して都合が良過ぎるけど大丈夫? 本当に理解してる?」
「理解してるよ失礼だなあ!」
子供扱いされるの嫌いなんだからね! と自称姉は腰に手を当ててぷんすこ怒る。
何だろう、可愛らしい怒り方なのにわりと本気で怒ってる気配を感じる。
子供扱いされるのが自称姉の地雷だったりするんだろうか。わからん。
「私は妹相手に何か言わない限り、別にどうでも良いの。妹に何かするようなら許さないけど。妹の胸に触ろうとしたらその瞬間殺すけど、それだけ。妹にさえ手出ししなければ気にしないよ!」
「成る程わかりやすい地雷」
しかしわかりやすい地雷としても、中々にアレ。
言ってる事とかやってる事は奇妙な冒険の手フェチ殺人鬼リーマンと変わらんのよな。
良い手を持ってる女性殺して恋人にする男と、可愛い少女を殺して妹にする女。
うーんやってる事が実質同じ。罪のない命が犠牲になる辺りまでお揃いにしなくとも良いのに。
「ままま、流石に私も自称姉の妹には手ぇ出さないよ! そりゃあ魅力的なおっぱいは居たけど、うん、流石に意思疎通出来ない存在が相手っていうのはちょっと……いや私だって牛の豊満なおっぱいは魅力的だと思うよ!? 原形のままでも全然オッケー! 搾乳体験なんてロリショタが経産婦の大きなおっぱいを手ずから搾ってるって思ったらもう完全なるエロ体験コーナーにしか見えないよなって思うし!」
牛の搾乳体験で検索して出る写真は実質エロ画像だよなあとさえ思う。
コレ全年齢で見せてもらって本当に良いんですか? と何度思った事か。
いや、流石に夜のお供にまではしてないけど。
まだちょっとそこまでの領域に行く覚悟は出来てない。
「だから意思疎通出来なくとも興奮するはする! でもソレはソレとして突然発狂する女の子はちょっと怖い! 意思疎通出来ない相手なら獣みたいなモンだし犬猫のお腹わしゃる感覚でその胸を揉んでやるぜげっへっへとはならないんだよ! だって私はそこまで下品で外道な最低野郎じゃないから!」
「だから私の妹をそういう目で見ないでってば!」
「目ぇ!?」
可愛らしい怒り顔のまま、白熊の両手が指を伸ばしてこちらの両目を貫いてきた。
突いた、ではなく貫いた、である。
どころかちょっと頭蓋骨とかもやられた気がするが、すぐに治ったので問題は無いです。
コレで痛みがあったら問題大有りだが、痛みが皆無なのもあって気にせず済むのは良い事だ。
……それにしたってナチュラルに目潰しされるとは思わなかった……!
私の発言がアウトなのは当然としても、構える動きとか殺意とかそういうのが無かった。
マジで今のはちょっと窘める程度のテンション。
私は賢いのでそういうのを察するのは得意分野であり、つまり自称姉は本気じゃないということ。
下手にガチギレさせちゃいかんタイプだ。
いやまあ主様だってガチギレさせたくは、うん、それはそれで興奮するしレアスチルゲットみたいな気持ちにはなるけど、はい、ちょっと口を噤みますね。
「あービックリした……ま、ともかく偶然会うとかした時に情報持ってたら教えるって事で。その代わりその暁にはその巨乳を好き勝手するから待ってろよ! 揉んだり舐めたり甘噛みしたりで開発しまくってその後そんなあっさりしたドライ反応出来なくさせてやっからな!」
「どうせそんな日は来ないだろうけどね」
酷く呆れた目で主様が溜め息を零した。
「そもそも特定のキメラに会う事自体あんまり無いし。狙って会いに行くならまだしも。そこに加えて数年で成長して自称姉の範囲外になる人間の女児についてを教えるなんて不可能に近いよ」
ただでさえ人間の子供ってだけで死亡率高いのに、と告げられる。
こちらを見ている主様の目は、冷ややかを通し越していた。
冷たいとかそういう温度のある感じでは無く、明かりに向かって体当たりを繰り返すカナブンに対して何を馬鹿やってんだろコイツ脳みそ入ってないんかな……、って思ってる時みたいな目だ。
それはそれで興奮する。もっともっと!
「でも性欲のままに期待するのは自由なんですよ主様! 万物は思考の自由を与えられてるんです! 性欲と無関係そうなシスターにおっぱいで体洗ってもらうとか、絶対にそんな日は来ないって確信してても想像するだけでめちゃくちゃ興奮するじゃないですか!」
世の男共も同じ意見だからこそ、あれだけシスター系のエロイラストが溢れているのだろう。
何ならセクシーなシスター服がマンネリ防止用のコスプレ服として定番枠扱いな辺りお察し。
禁欲的というのは押すなと書かれているスイッチ並みに魔性なのだ。
「まあ私は敬虔なムキムキ神父の布地が引き裂けそうな程のぱっつんぱっつんな胸を揉みしだいてセクハラする妄想のが多かったですけどね! でもシスター系の妄想にもお世話になりましたよ! ちょっと漁れば巨乳なシスターがエロい恰好でエロエロなヤツが溢れてるって良いですよね!」
拳を握って言い切ると同時、踵落としで脳天から潰され殺された。
流石は主様、躊躇いが無い。
自称姉のようにメッのノリで仕留めるのとは違い、殺すつもりで殺しているのがわかる。
しかし構えや躊躇いが無いのは同じなので、コレもまた良し。
あと踵落とし系は主様がI字バランスみたいな体勢になるので端的に言ってポーズがえっちい上にズボンの股部分の布が伸びているのがわかったりして最高に興奮します。
「ひたすらに気持ち悪い。意味がわからない。わかりたくはない。聞きたくも無い」
「褒め言葉です! あとご褒美ありがとうございます!」
「褒美のつもりは一切ない」
「私からすればご褒美ですよ! 主様の冷たい視線! 直接の裁き! 加えて攻撃する時の筋肉の動きとか体勢とかを真正面から見れるのって良いですよね! 素晴らし過ぎて目が逸らせませんよ!」
「…………」
物凄く嫌そうな顔をされた。
主様、言葉にするのを面倒臭がる時も多いけど、表情変化はわりと正直なんだよなあ。
基本的にマイナス方面の感情しか表現してくれないが、私はソレに興奮するので問題無し。
「変態ちゃん、思ってるよりも変態ちゃんだねぇ」
のんびりしたコメントを放つ自称姉の後ろで、エキュロイユは発狂して笑い出し、チオンは近くに落ちていた大きい木の棒でシープを殴り、殴られたシープは泣きながら逃げ、妹猫は頭が痛そうに額に手を当てて顔を顰めている。
自称姉、私に対してのんびりコメントするよりも大事な妹達のフォローに回った方が良いんじゃないだろうか。




