キャラが濃い妹達
袖なしの可愛らしいセーラー服に身を包んだ妹猫は、人間への擬態を解除している様子だった。
とはいってもビジュアルに関する変化は、猫のように鋭くなった瞳孔くらいに見える。
あとは猫耳型のベレー帽と、包帯に巻かれた細長い尻尾、くらいだろうか。
帽子はそういう形なのかと一瞬思ったが、尻尾の形、そして妹猫のテンションに応じて帽子の内側から形が変わっていたので、多分ガチ耳。
しかし何故尻尾が包帯に巻かれてるんだろうか。
……足にも包帯巻いてるしなあ。
絶対領域すら無いレベルで、タイツか何かかと思うくらいにグルグル巻き。
が、よく見ると巻かれているのは足首までで、そこで可愛らしくリボン結びにされていた。
そこまでは良いのだが、問題はそれより下、足の部分。
包帯の下にあるはずの足は、まるで幽霊のソレのように透明だった。
「……何ですか?」
「ああいや、お手数お掛けしたなーって。妹猫の忠告を忘れてたわけじゃないんだが、私の方にあった後ろめたさと彼女の巨乳によってすっぽ抜けててさ!」
「それを忘れてたって言うんですよ」
呆れたようなジト目で言われた。興奮するとても良い視線である。もっともっと!
「それより、妹猫は名前とその耳と尻尾からして、猫が混ざってる感じなのか?」
「はい、透明猫という魔物です」
「とうめいねこ」
「……まあ、知名度は高くありませんからね」
詳しくないのではなくて根本的にこちらの世界に関する知識が足りないだけなのだが、まあ良いか。
「透明猫というのは、その名の通りに姿が透明な猫です。目視不可能ですが、物理的に存在はしているので着色なり袋に詰めるなりすれば見えるようになります」
その言葉に、もしやという考えが浮かぶ。
「なあ、その包帯って」
「包帯を巻くなりしないと、この足のように透明状態で見えないんですよ。耳も透明なので帽子の中に入れないと存在を認識されません」
「成る程!」
奇妙な冒険シリーズで透明な赤ちゃんを目視出来るようにする為、ファンデーションだかベビーパウダーだかをまぶして見えるようにしてたのを思い出した。
透明人間もコート着てるから人間らしいボディなのが証明されるわけだしなあ。
「ん? でも透明なら透明で、その方が何してるかわからなくて良いんじゃないの?」
「私達は五感が優れているので、何となくでわかります。物理的に存在はしているので、透明だろうと匂いや気配で察する事が出来る、と言うべきでしょうか。まあ、チオンさんや他の妹のように愚キメラだったりするとそういうのを感じるとかいう次元でも無いんですけど……」
深い深い溜め息だった。
可愛らしい少女だというのに育児疲れしたママさんみたいな溜め息だった。
「……要するに、こうしておかないと事故るんですよ……。見えないと尻尾踏まれたりするので、こうしてわかるようにしておいた方が安全です」
「あー」
確かに見えないとそういう事故が発生するか。
エロ漫画じゃ透明人間なんて鉄板も鉄板だが、よくよく考えるとあの人達相当大変な状態でエロい事してるよなあ。
透明人間になってるという事実もそうだけれど、根本的に安全面が超危険。
着ている服が透明化しないので全裸です、という場合、真夏だったら熱されたコンクリートの上を裸足で歩く事になってしまう。
……ガラスとか落っこちてるかも、みたいな危険もあるしなあ。
真夏じゃなくて真冬の場合、防寒着無しで外に出るだけでも自殺行為なのに全裸だったら完全アウト。
法的なアレコレ以前に健康面で終わるだろう。
透明人間系エロも結構好きだったりするのだが、冷静になると中々にハードだ。
いや、エロ関係は冷静になった方が負けだけど。
「う、ううう……」
頭をしばかれて呻いていた少女は、痛みが落ち着いてきたのかギッと妹猫を睨みつける。
「いきなり何をするんだカッツェ! 壊すぞ!? 痛いじゃないか! 壊れそうだ! 私の痛覚は通常な上に回復が遅いんだぞ! 壊れたらどうする!」
「客人相手に破壊行動を取ろうとするからですよ、チオンさん」
怒ったように詰め寄るチオンと呼ばれた少女に、妹猫は呆れた顔で溜め息を吐いた。
「というかですね、客間の家具、壊したでしょう。何かを壊したのなら逐一私かスールさんに報告するようにと言ったはずです」
「そんな事を言われたって壊れたら壊れるぞ。壊そうと思って壊してるけど、壊れたら壊れて終わるんだ。壊れたらソレはもう終わってるし興味も無いから、覚えてる方が難しい」
「だからタチが悪いんですよ貴女はもう……!」
そういえば客間に案内された時も、チオンという子は混ざっている魔物の影響で破壊魔状態だとか言っていたっけ。
しかも破壊が相当ナチュラルなのか、壊した物については記憶していないらしい。
……まあ、適当におやつとか摘まんでると何をどれだけ食べたかうっかり忘れたりもするけど。
楽しい時とかも最中は良いのだが、終わってから思い返すと楽しかったという印象が強くて詳細を思い出せなくなっている時がある。
そう考えると、どこで何をしたか忘れてしまっても無理はない、のだろうか。
「って、あ」
二人が話し合っている間に、扉が開いて主様が出て来た。
しかしこちらに見向きもせず、他の部屋の扉を開けて入ってしまう。
……一切こちらを意識しないで放置されるのも良いな……!
冷たい視線くらいは貰えると思っていたので、予想外の完全放置に興奮してしまう。
流石は主様、緩急が素晴らしい。
「室内にある家具類の破壊は、まあ、もう諦めますけど。それでも、スールさんが気にしてないと言っても壊し過ぎです! もっと自重してください! あと私や他の妹達相手にも階段から突き飛ばしたりしてましたけど、お客様にまでそれをやろうとしない!」
「でも私はそういう魔物が混ざってるからな。壊したいと思うのは自然な事だ。誰かを見たら、階段から突き飛ばしたらどうなるんだろう、って思ってしまう。壊したい。壊したらどうなるかが気になるからな」
「そして突き飛ばしたら一気に興味を失って去っていきますよね、チオンさん」
「突き飛ばしたらどうなるかが気になるだけだからな。壊すのが好きで、壊れる瞬間が好きで、壊れたものはどうでも良いんだ。その後には興味が無い」
「せめて何かやるなら後片付けまでちゃんとしてください!」
「壊すなら良いが、壊れたものを処理するなんて絶対に嫌だ。壊したい。壊す以外をどうしてわざわざやらなきゃいけないんだ?」
「ああもうコレだから愚キメラは……!」
妹猫は苛立ったように歯噛みしてぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す。
見事なまでに会話が支離滅裂。
いや、思ってるよりは支離滅裂じゃないのかもしれないが、堂々巡りになっている辺り、会話としては成立しているか怪しいものだ。
「いえ、意思疎通が難解なのは愚キメラじゃなくとも何名か居ますし何ならスールさんも難解寄りですけど……!」
「はーい邪魔邪魔ー!」
「へぶっ」
……えっ、何で今私轢かれた!?
妹猫は何だか大変そうだなあと見ていたら、背後からダッシュでモップ掛けしていた少女に突撃されて轢き飛ばされた。
後ろからだった事と、その子の背が低い上に気持ち前傾状態だったのもあって見事なまでに足を取られて膝カックンからの放り投げ。
廊下で轢かれる事があるのか、とちょっと呆然としてしまった。
「あっ、こらシープさん! お客様を轢かない! 止まってください! あとちゃんと謝る!」
「今忙しいから無理ー!」
「シープさん!」
声を荒げた妹猫は、フーッ、と毛を逆立たせる。
うーむ、何というか本当、キャラが濃い子ばっかりだ。
真面目な妹猫が一人神経をすり減らしている感半端ない。
「…………すみません、変態さん」
「ああいや、大丈夫! 吹っ飛ばされただけで死んだわけじゃないし」
それに一回死ぬくらいなら問題にすらならないのがキメラである。
「ところで、今の小さくて可愛くて胸の将来性に期待したい子は?」
「キメラは擬態の応用で慣れれば違う姿にもなれますが、成長するわけじゃないんですよ」
凄いジト目で睨まれてしまった。とても嬉しい。
……というかコレ、地味に気にしてたな?
キメラであるが故に胸の将来性に期待出来ないの、気にしてたらしい。
私はキメラになった事で胸の膨らみを得たが、キメラになった時に得られなかったら、うん、将来性に期待も出来ないもんな。
どっちみち成長して年老いたりもする人間時でも期待出来ない時は出来ないけど。
……いっそ一発太って胸肉残しつつダイエットしてみるか、と思ってたらふく食べたのに胸どころか腹や二の腕にすら肉がつかなかったもんな……。
女友達には羨ましがられたが、私は肉が、脂肪が欲しくて食い漁っていたんだ。
残るは豊胸手術しかない、となった経験があるだけに、キメラじゃなくとも期待出来ない時は期待出来ないという、あの、はい。
私は夢という名の胸を手にする事に成功したが、ソレは超ラッキーだったという事だ。
主様に殺されてからの私、幸運度がカンストし過ぎでは?
「……今通り過ぎていったのは、シープさんです。一直線な羊の魔物が混ざってまして……その」
「シープもよく壊すよな。私は壊したくて壊す。シープはやりたい事の為に壊す」
「シープさんは一応、望んで壊してるわけではありませんが……」
物が壊れる事に変わりはないんですよね、と妹猫は疲れ果てた目で溜め息を吐いた。
凄い、ワンオペ育児をやってるママさんレベルで目が死んでいる。
「えーっと、つまりどういう?」
「シープさんは、その、真面目なんです。真面目なんですが目の前の事しか見えなくて、掃除をするとなったら掃除をするとしか思えず、モップ掛けを始めたらモップ掛け以外出来ないと言いますか……」
「つまり、先程のはモップ掛けをしている最中であるシープの直線上に居たのが轢かれた理由か!」
「そうなります」
頷いた妹猫は、頭が痛そうに額を押さえていた。
可愛らしいベレー帽越しに見える猫耳も疲れたように伏せられている。
「……ルミィさんだけはまだ問題を起こさないだけ良いですけど……」
「ルミィ?」
「フォルモーントなのでルミィさんです」
なので、と言われてもわからん。
まあ世の中って謎の法則性によるよくわからん愛称が発生する事もあるしな。
「ルミィさんは諦観者さんと顔を合わせた事もある古株なんですが、ある種一番愚キメラらしいと言いますか……」
「というと?」
「人間性が皆無です。魔物としての特徴が強過ぎる場合、そして人間としての自我が無いようなら愚キメラです。人里で一般人として取り繕え無さそうなのが愚キメラ、と言えばわかりますか?」
「な、成る程わかりやすい……!」
確かにここに居る妹達、妹猫以外は人里に出た瞬間アウト判定が出されそう。
突然発狂して笑いだす巨乳、二言目には壊す宣言するし実際壊す巨乳、やり始めたら止まらず薙ぎ倒しまくるまな板。
このメンバーで人里に出たらあっという間に異端扱いされてエンドロールが流れ出すことだろう。
「……えっ、他三人よりもアウトなの? ヤバくない?」
「やっぱり、変態さんが素で心配するくらいにはアレなんですね……」
妹猫の目が一層死んでしまった。
「とはいえ、ルミィさんは彼女達に比べればずっとマシです。ただ、満月の魔物と混ざっている上に現象系の魔物なので生き物らしさが無く……」
「現象系?」
「ただ出現するだけの蜃気楼の魔物と、意欲的に人を襲う蜃気楼の魔物。この場合、同じ蜃気楼の魔物でも前者は現象系。後者は比較的生物系ですね。意識がありますので」
「成る程!」
「なので、ルミィさんはただそこに佇んでいるだけの存在なわけです。夜になるとうっすら光る程度しか変わったところもありません」
「夜光塗料みたいだな……」
夜中にうっすら光る子供が佇んでるとか、完全にホラーの導入だと思う。
「何かを要求する事も無ければ動きませんし喋りません。スールさんの気が向いた時に構われたりしますが、それにも特に反応は示しません。一応喋る事自体は出来るのか、スールさんがしつこく言い聞かせた結果、お姉ちゃんという言葉だけは言えるようになりました。それもスールさんが来た時だけしか言いません」
「しつこく言い聞かせたのか……」
「しつこく言い聞かせてたと先輩の妹に聞きました。その方はもういなくなりましたが」
「おわあ」
「まあ、佇んでいるだけなので無害です。スールさんの気分で着替えや移動をされますが、殆どは等身大の人形みたいな扱いですので」
「それはそれでどうなんだって感じだけどな!」
暴走列車もアレだが、車庫に収納されっぱなしの列車もどうなんだろう。




