蒲団はいまいち好みじゃなかったけど今なら共感出来る気がする
パニエなんてものを着るのは初めてなので手間取ってしまったが、どうにか着替えを終える事が出来た。
上は袖なしのオフショルダーで、胸元には黒とオレンジによる大きめのストライプ。
下はパニエたっぷりの黄色いチュチュスカートの為、ハロウィン用の服か何かかと言いたくなる。
……今は外人顔で見栄えするから良いけど、180センチ越えのスタイル良い爆乳ボディにはボリューム過多じゃないか……?
客観的かつ冷静な自分がそう言うけれど、主様のチョイスなので特に文句はない。
着れれば良いし今のボディは自分の物という実感が未だにちょっと薄いので着なくともまあヨシ。
ゲームの中のアバターを裸にするようなもんなので、着替えに求めるのは見栄えが良いか悪いかくらいだ。
……ありがたい事にドラゴン効果とキメラ効果があるから裸でもまあ、別に、恥ずかしいとか風邪引くとかの問題らしい問題も無いし。
ともかく裾が広がっている短めの手袋をつけ、シンプルなチョーカーを首に巻き、主様の手によって髪を二本の三つ編みに編み上げてもらったら完成である。
上品な貴族感溢れる主様と違って最早何のコスプレなのかという派手な衣装だが、主様は満足そうなのでこれで良いのだろう。多分。
……そもそも私に服のセンスが無い以上、何か言えるわけでもないからなあ。
というか何かを言う暇があるならこちらを満足そうに見ている主様をじっくり観察する。
長い睫毛だとか、楽し気に細められた目だとか、ちょっと持ち上がっている口角だとか、機嫌良さげにパタつく尻尾だとか、そういうところを見ている方がずっと楽しい。
……自称姉が家主だからか、キメラ姿になってる主様……良いな!
人間に擬態している時の主様も素敵だが、キメラ状態の主様も素晴らしい。
ビジュアル的にはツノと尻尾と目くらいしか変わらないし、足に至っては靴を履いたらもうわからないレベルだけれど、ソレはソレとしてビジュアルの差分は嬉しいものだ。
信仰レベルで好きな推しの差分だったら表情変化一つでも嬉しいというアレに近い。
「良し。じゃあ倉庫の確認に行こうか」
「はい!」
見る事に満足したらしい主様が目に宿る温度を一気に落としてそう言ったので、私は元気に返事をした。
主様、こうして観察した感じからすると、顔とかに出ないだけでテンションの上下がまあまあ激しいご様子だな?
・
主様が倉庫部屋の中で色々な物品を判別したり回収するか考えたりしている間、私は部屋の外で待機していた。
待機というか、放り出されたのだ。
「本気でどうでも良い品と思っているからか、前よりも酷い詰め込み方をしているな……キミは外に出ていてくれるかい? 好きに屋敷内を見て回っていると良い」
「えっ!? 私は主様の傍に居たいです! 個人的にはローアングルから舐め回すように見ていたいです!」
「気持ち悪い」
「褒め言葉です!」
「僕はあまり聞きたくなかった」
面倒臭そうに溜め息を吐き、主様はこちらを見る。
「単純に室内が狭い。背丈も大きい僕らが二人して入ったら身動きが取りにくくて不愉快だ。何よりキミは物色してどうするかの判断が出来ないし、いちいちどうするか聞かれるのも不愉快になる」
「私は狭い密室で主様と二人っきりになれたらめちゃくちゃ嬉しいし興奮します!」
「僕は興奮しない」
「ならせめて疲れた時に座る椅子の役とか! この際カーペット代わりでも嬉しいです!」
「不愉快。不快。邪魔」
主様の声色が低くなり、表情もまた低温度になってきていたので、わりと本気で嫌なご様子。
こちらに向けられる目がどんどん冷え切っていき、見ているこちらが思わずぶるりと身震いする程の寒さを感じるくらいには拒絶を感じた。
単語だけ告げている辺り、喋る事自体も面倒になってきているのだろう。
これ以上追いすがっても好感度が下がるだけというのを察したので、私はしょんぼりしながらすごすごと部屋の外で待機する事を決めた。
扉の横、扉が開いた時にうっかりぶち当たったりしない位置を陣取りつつ、廊下に転がる。
普通に土足で歩いている廊下に寝転がるなど汚さが大爆発だが、んなもん気にしない。
……そもそもこの辺の土地は大抵土足みたいだし、キメラになってからあんま気にならなくなったんだよな。
まあキメラは実質死体である部分もあり、媒介する事はあれど病気になる事は無いから、というのが本能的にわかっているのだろう。
第一、人が通る道も無いような森を突っ切ったりしてるので今更だ。
相変わらず虫は嫌いだが、問答無用で叫んで拒絶というよりは、ウッワ……と思いながら無言で距離を取るくらいに落ち着いた。
多分、キメラになった事でその辺の感覚に変化が訪れたんだと思う。
……キメラになると肉体に引っ張られるタイプの性欲が無くなって、精神的な性欲にしか反応しなくなる、みたいな話だったっけ。
性欲にも影響があるのだし、そもそも人肉を食らう時点で生態やら感覚やらは変化しまくってると思うのが適切。
まあ、うん、性欲に関しては、はい、私の元が元だからか大して変化無いけどな。
……しかし暇だ……。
部屋の外から主様を眺めていようかと思ったが、めちゃくちゃ嫌そうな顔をされたので大人しく扉を閉めたのである。
つまり私はマジで何も出来ない役立たず。
廊下に転がってそこまで邪魔じゃないけど特に意味も無いオブジェと化すしかないのが現状。
ひたすらに辛い。
「…………いっそ、今の内に欲望を満たすか……?」
よっしゃ思ったが吉日。
そう思い私は寝転がった状態から起き上がって座り、袋の中から主様の服を出した。
先程主様が脱ぎ捨てた、体のラインにフィットしていて、こう、ハッキリとは私でも言い難いがゲイ受けしそうなデザインのツナギである。
高身長イケメン筋肉で胸筋露出しつつ腰のくびれや太もものパツパツ感がわかるツナギ着るとか、私が理性的じゃなかったら即座に路地裏に連れ込んで獣のように襲っているところだ。
良かった、私が理性的で。
……うん、何故か脳内で友也にお前が理性的ならエロ本の種付けおじさんの方が理性的だわって言われた時の事を思い出したけど全くもって関係無いな!
お互いに好みじゃないので性的なアレコレ皆無だが下ネタとかは話す悪友ポジションとしてよくつるんでいたが、アイツ中々に酷い事を平気で言うよな。
まあ私も遠慮無かったけど。
さておき今は主様の脱ぎたてほやほやなツナギである。
元々体温低めな主様なのでツナギに触れてもとっくに体温はサヨナラ済みだが、その布の内側、体が触れていた側に顔を埋めて思いっきり息を吸い込む。
……うーーーーーん素晴らしきフレーバー! 最高!
惜しいのは汗の香りが無い事だろうか。
いや思いっきり吸い込みつつドラゴンの嗅覚も総動員するとほんのり汗の香りはするのだが、根本的に代謝がよろしくないのかもしれない。
まあキメラって死体だしな。
……私は普通に汗掻いたりするけど、多分コレもメンタル的な部分による発汗だろうし。
肉体的なアレソレで発汗、というのが無いのなら、焦ったり興奮したりしていない主様が発汗していないのも納得だ。
しかしこのツナギは微妙に防水性っぽいピッチリデザインなので、通気性がよろしく無いご様子。
そのお陰で発汗が無くとも主様の体臭が程良く残っており、肺いっぱいに主様の香りを吸い込む事が出来る。
……あんなド性癖な存在が実在する事、その相手に合法的に仕える事が出来るのも相当に凄い事だけど、その相手が脱いだ服をこうして全力で嗅げるってのも相当だよな……。
他人から見たら完全なるド変態の図でしかないが、どうせ誰も居ないので良いだろう。
今は主様の香りを楽しむのが先決であり最重要事項なのだから。
うーん大人っぽさもあれば色気もあるし清潔感に満ちてると思いきや男らしい、というか雄っぽさもほんのり香っていて最高のフェロモンだぜへっへっへ。
使用済みパンツを盗もうとする変態の気持ちは流石にわからんなと思っていたが、今なら良さがわかる気がする。
ただのパンツじゃなく、興奮する対象が使用した物だから興奮するのだ。
……あれだな、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの反対って感じだ。
痘痕も靨だったか。まあ要するに惚れ込んでりゃ何でも愛しいって話である。
つまり推しが使用してる物すらも愛しいし実質推しみたいなもんだからそりゃあ手に入れたいじゃん! みたいなアレ。
勝手に盗んだりしたら窃盗罪で普通にアウトだが、私は袋の中を漁ったりする事に許可出てるしで多分セーフ。
前に嗅いだりして良いか聞いた時に却下食らった気はするが、はい、忘れましたね。
男が女風呂を覗くのに理由はなく、ただひたすらロマンと衝動によって突き動かされているように、私もまたロマンと衝動とあと性欲によって突き動かされたという事だ。
……我ながら全然言い訳になってないな。
主様に対して正直に言ったら確実にぶっ殺されるような言い訳だった。
いや、言い訳というかただの事実なのだけど。
というか普通に、弁解の余地すら無く見られた瞬間に一発殺害入りそう。
まあ激痛が皆無というのもあって、殺されるのすらご褒美だから私としてはハッピーイベントでしかないのだが。
「廊下で何してるんだ? 壊すか?」
「うおっふ!?」
流石に後ろめたい変態行為である自覚があった為、突然掛けられた声に心臓が飛び出るかと思った。
主様のツナギを隠すかのように抱きしめつつ顔を上げれば、そこには主様と同じような反転目。
その頭にはツノが生えていて、エキュロイユと同じように少女の体躯でありながら中々の巨乳をお持ちである。
……私なんかキメラになるまで長年薄い膨らみと戦ってきたというのに……。
皆無なまな板では無いけれど、本当にささやかな膨らみしか無かった悲しみよ。
正直言ってどら焼きと比べればどうだ? ギリこれは、負け、いや、勝ち、か……? みたいなレベルの膨らみだった。
巨乳派としてはせめて肉まんを上回りたかったところだ。
まあ異世界飛ばされて殺されてキメラになったら火炎袋効果があるとは言えども尋常じゃない爆乳になれたので良いです。
……来世は巨乳が良いって年始のお参りで神頼みしたのが通ったのかな。
ともかく今は目の前の子である。
確か妹猫曰く、妹猫以外はコミュニケーションに難があるとのこと。
……つまりこのツナギについてを誤魔化せる可能性が高い……!
そう思い、素早くツナギを袋の中へと仕舞い込む。
ええ、何もしていませんヨ?
「えーっと、私は……自称姉のお客様? なんだけど……」
うっかり定着してしまった変態と名乗るのもアレだし、かといってジージエと名乗るのもまだ慣れていないのでここも誤魔化す。
大丈夫だ事実しか言っていない。
「そうか、壊すか?」
「さっきも言ってたけど何を!?」
「何でも良いぞ! 壊すか?」
「壊さないよ!」
「そうか、壊そう! ちょっと窓の近くか階段の方に行ってくれ! 壊すから! 生き物は突き飛ばすと壊れるんだ! 花瓶で殴って壊すか? ソレも良いぞ!」
「どなたか彼女の言語を翻訳出来る方いらっしゃいませんかー!?」
思わずそう叫んだ瞬間、溜め息と共に鈍い打撃音が廊下に響いた。
「だから言ったじゃないですか、私以外の妹はコミュニケーションを取れると思わない方が良いですよ、って」
呆れたようにそう言うのは、先程の壊すか少女の頭に一撃入れて静かにさせた妹猫。
先程とは違う服に着替えている彼女は、壊すか少女を見下ろして先程より深い溜め息を吐き、疲れたように肩を落とした。




