積み木屋敷と妹
「まさか変態ちゃんがドラゴン混ざってるとは思わなかったなあ。ドラゴンって結構上位だし圧も凄かったりするんだけど、変態ちゃん全然そういう感じじゃなかったから」
「ヤダなあ自称姉ってば、巨乳に貶されても興奮するだけだぞ!」
「貶すつもりは無かったけど喜んでるなら良っか」
「良くないです、良くないですよお姉ちゃん……!」
妹猫が顔色を悪くしながらふるふると首を横に振っているが、誰も不幸になってないから良いじゃないか。
……世の中ってのは、全員がマゾなら世界平和が訪れるんじゃないのかな。
まあ実際は責めが足りなくてもっとこうしろよとか言い始めて結果的に何故かサド化する仕上がりになって戦争が勃発しそうだけど。
性癖ってのは複雑怪奇で大変だなあ。
……にしても積み木屋敷、本当に積み木のお家を大きくしたみたいな……。
夢の国にある小さな世界が広がってるアレを思い出すデザインだ。
空から見下ろした時も森の中で開けてるとこにポツンとあるから違和感が凄かったが、目の前に立つとヤバさが凄い。
あのアトラクションは夢の国にあるから良いんだなあと実感した。
「ところで、自称姉のその白い翼は? 幸運を運ぶ白い鳩? でも何か、手がもこもこでデカいんだよな……」
人間への擬態が解除された自称姉の頭には白くて小さなクマの耳があり、明らかに獣のソレと思われる体躯に比べて大き目でもふもふしている白い腕。
背中からは天使のような白い翼が生えていて、足は鳥の足となっていた。
実にキメラらしい姿と言えよう。
「確かに鳩の魔物が混ざってるけど、幸運じゃなくて眠りを運ぶ鳩だね!」
「眠り?」
「うん」
まじまじと見る私に、自称姉はそう答える。
「一人で居る人で、寂しい時や疲れた時に寄り添ってくれる魔物なんだよ! 眠り鳩っていう魔物でね、そういう人に寄り添って翼で包み込むようにして寝かせてあげる生態なの! つまり私の翼に包まれるとすさまじい安心に包まれるってわけ!」
「……ただし眠り鳩の翼に包まれた状態で眠気に負けると、その心地よさから二度と目覚める事が出来なくなります。包まれる側の人間がメンタル安定してて今を楽しんでて希望を持ってて、アレをやる為には眠ってなんていられない! っていう感じなら抗えるんですが、そうじゃない場合は無理ですよ」
……ん?
その説明に、何だか妹猫から聞いた思い出話が脳裏をよぎる。
チラリと妹猫の顔を窺えば、凄く複雑そうな表情で頷かれた。
成る程、彼女が自称姉の手を取って抱きついて泣き疲れて寝たとかいう話の背景には、その翼の効果による部分もあったわけだ。
……しかも妹猫、その時点ではかなりメンタル不安定だしなあ……。
つまり確定死演出ありがとうございました。
寝てる間に仕留めるのもアレだが、死ぬの確定みたいな状況下で眠らせるのも中々アレだ。
「確かにそういう部分はあるけど、不眠除けとして羽が加工されたりもするんだよ?」
「羽ばたくごとにバッサバサ抜けてたその羽が?」
「枕元に一枚置けば不眠解消だからね! まあ羽集めて布団作ったら永遠の眠りコースになっちゃうけど。この場合もメンタルに問題無ければただの羽毛布団だよ」
「社畜に与えたらもれなく全員が永眠するヤツだ……」
与え無くとも社畜は過労死や自殺によって永眠コースがままあるけどな。
どっちみち老衰では無いタイプの死が数年以内にスタンバイしてる部分は変わらない。
「それに加えて、私は白熊も混ざってるんだ。だからこの耳と腕ってわけ!」
「成る程、超怖いな! 敵対したくない!」
「えー、何で?」
「熊の腕力に眠りの羽とか物理&特殊攻撃両方してくるタイプじゃないか! これでもし一般人ステータスだったら死を覚悟するしかないぞ! 熊と相対してもアウトなのに睡眠効果がある時点でもう負けじゃん!」
「私としてはドラゴンの方が相手したくないけどね。ブレス一発で周辺が焼け野原になっちゃうもん」
「ブレスねえ……」
火を吐いたりは出来るけど、ブレスってどういうんだろうか。
強く火を吐く、というわけではなく、マジで必殺技って感じの気配がする。
まあソレは後で主様に聞けば良いか。
そう思って視線を向ければ、気乗りし無さそうに積み木屋敷を眺めて、というか睨んでいた主様は諦めたように溜め息を吐く。
「良いから、早く案内してくれるかな。出来れば倉庫を確認する前に着替えたい。この服にも飽きた」
「りょーかい! じゃあ入って入って! 客室もあるからね!」
言い、自称姉は屋敷の扉を大きく開いて入っていく。
「た、っだいまー!」
「お帰りなさーい」
そう言って朗らかな笑みと共に自称姉を出迎えたのは、中学生くらいだろう少女だった。
大きなリスの尻尾がふさふさしていて、優しい笑みを浮かべていて、体躯に比べて大きな胸。
……いやあ、素晴らしいな!
「リディちゃんってば、お姉ちゃんを出迎えてくれるなんてとっても良い子! よしよししちゃうよー!」
「きゃー」
正面からむぎゅうと抱きつかれたその少女は、満更でもなさそうに笑みを浮かべた。
じゃれ合うようにむぎゅむぎゅとハグしているその姿は実に可愛らしく、何より自称姉の巨乳とその少女の巨乳が良い感じにむにゅむにゅとお互いの圧によって姿を変えているのが最高にグッド。
あの中に顔面を突撃させたい欲に駆られるレベルで素晴らしい光景だ。
……いやまあ、仲睦まじい女性同士の間に入るのは完全なるギルティだけどさ!
例えソレは私が女でもアウト判定を食らう。百合というのは厳しいのだ。
でもソレはソレとして巨乳によって前後からプレスされたいと思うのは、性的欲求があるなら仕方のない発想では無いだろうか。
お尻派だって顔面の上に座られて深呼吸したいとかの欲があるだろうし。
まあ私はそこまでお尻派じゃないからわからないが、主様のお尻となればその筋肉の感触や体重を感じられるという素晴らしさから自ら望んで顔面を座布団として提供する事だろう。
フェチがどうとかは重要だが、それを圧倒する程の素晴らしい存在が居た場合、そんなものは些事となる。
長い睫毛から首筋から腰のラインから指先まで、隅から隅まで余すところなく素晴らしいから最高なのだ。
性癖ド真ん中の存在というのは、最早その存在から自分の性癖が発芽したのではというレベルで神々しいものである。何の話だっけ。
「うふふ、もう、お姉ちゃんたらまた、あは、あはは、お姉ちゃん、あは、はへ、ふふふ」
……んお?
朗らかに笑っていたはずの少女は、だんだんとその目から光を失っていく。
そしてその笑みもまた、明らかに不穏な気配を纏っていた。
「あは、あれ、ここどこ、おばあちゃ、あは、お姉ちゃん大好き、うふふ、えへ、おなかすいた、あはは、はは、はひ、あは」
「あれ、リディちゃんってばまた混乱しちゃったかな? リディちゃん、アルディリアちゃーん?」
その呼びかけに対し、少女は自称姉の腕に支えられるようにしてぐたりと体から力を抜いた。
しかしそれでも顔は笑みを浮かべており、目はここでは無いどこかへと向けられる。
「おねえちゃ、あは、おね、ふふ、おばあちゃん、えへへ、へは、おいし、ふふ」
「あーん、リディちゃんまた壊れちゃった。最近は調子良さそうだったのに」
えい、と自称姉は軽い掛け声と共に抱きしめていた少女の首を手で掴んでへし折った。
躊躇いが一切無い、実に手慣れた動き。
落花生の殻をむき慣れてる人が何気ない動作でパキッとやるような、そのくらいの気軽さで、少女の首からゴギリという嫌な音が響く。
ごぽりと粘性のある音がしてから、数秒。
十秒程経過してから、少女が瞬いた。
「あら、お姉ちゃん? うふふ、お帰りなさい! 帰ってくるのを待ってたのよ! あ、そうだわ、シープちゃん達にもお姉ちゃんが帰って来たのを伝えなくっちゃ!」
もたれ掛かっちゃってごめんなさい、と何事も無かったような笑みを浮かべ、少女は自称姉から身を離す。
「って、まあ! カッツェちゃんだけじゃなくてお客様まで来てたなんて! 私、時々意識を無くしちゃうから恥ずかしいところを見せてないと良いのだけど……」
恥ずかしそうに微笑んだ少女は髪を耳に掛け、こちらに向かってニコリと微笑んだ。
「うふふ、お客様なんて珍しいわ。食べたくなっちゃう人間でも無いなんて本当に珍しい! 新しく妹になる子でも無いようだし……ふふ、ゆっくりしていってくださいな!」
可愛らしい笑顔でそう言い、少女はスカートを翻して大きな尻尾を揺らしながら屋敷の奥へと去っていく。
エントランスの時点で既に子供部屋のようなカラーリングで満ち溢れた屋敷の奥へと、だ。
……いや本当、情報量がいきなり大洪水……。
視界が一面パステルカラーで気が狂いそう。
原色に満ち溢れてても視界がキツイし気が狂うのは確実だろうが、子供向けとわかるデザインとパステルカラーに満ち溢れた空間も、こう、キツイものがある。
ゲームとかで急にガチの子供部屋が出てきたら不穏にしか感じないアレに近い。
あの何とも言えない恐ろしさって名称あるんだろうか。
「……妹猫、今のって」
「エキュロイユです。分類としては愚キメラなのでキメラ名は与えられていません。彼女は見た目に少し魔物らしさが出ている程度で愚キメラとは言い難いのですが、かなりの頻度で発狂します」
「今のヤツ?」
「はい、お姉ちゃんが殺してリセットしたアレです」
何て気軽なブツ切りリセット。
というか日常的にああもあっさり仕留めるってどうなんだ。
……妹猫が動揺を見せてない辺り、マジで日常の光景っぽいしなあ……。
というか先程のエキュロイユとかいう子、自称姉は違う呼び名を使っていたような。
まあキメラは本名がどうたらこうたらなので、呼ばれていたのは本名の方なのだろう。
「エキュロイユは、なんといいますか……精神的に安定していないのですぐに発狂するんです。その上、記憶の混濁が発生します。生前とキメラになってからの記憶が混ざるようでして、現状の把握が不可能になってしまうと言いますか……」
「途中でおばあちゃん、って言ってたのは、ソレ?」
「はい。元々祖母と二人暮らしだったそうで、その方はお料理上手だったそうです。だからその辺りが頻繁に混ざるらしく……」
「うわあ」
何とも反応に困るヤツだ。
「まあ、彼女については考えないようにしましょう。どうせ他にも愚キメラでありコミュニケーションを取りにくい妹達ばかりなんですから」
「もう、ビラロちゃんってば他の妹達に冷たいよ! ちゃーんと皆お姉ちゃんって呼んでくれる良い子達だもん!」
「それはお姉ちゃんがそれだけを言うよう躾けたからじゃないですか。それさえ言えば後は放置なんですから。何だったら暴走してる子の面倒を積極的に見てるし……」
「あ、ビラロちゃんってばもしかして嫉妬!? やだもう可愛いんだから!」
「違います!」
デレデレと表情を緩める自称姉に対して毛を逆立てるようにそう言い放ち、妹猫はこちらへと顔を向ける。
「では、客間に案内しますのでこちらへどうぞ。申し訳ない事に客間もこういった内装なのですが……」
「この際それでも構わないよ」
見ているだけで飽きるけれど、と主様は面倒臭そうな表情で呟く。
確かに一般的かつありふれた内装よりも、こう、何か、こういうものだという感じが強くて新鮮味が感じられないのはわかる。
とはいっても、ここまで徹底的に子供向けのデザインだらけというのは、コレはコレで中々圧巻のように思えた。




