そりゃスプラッタコースにもなるよなあ
流れで妹猫も同行しつつ、スタスタ歩く主様について行く。
「自称姉はどうも、生前の扱いが良くなかったらしい。だから姉である事に執着するし、妹と接する事に執着する。妹を大事にしているというよりも、自分が姉で居る為に必要なパーツを失くしたくない、という風に見えるね」
「……はい、その通りです」
コクリ、と妹猫は小さく頷いた。
「だからあの人は、私や他の妹が勝手な動きをするのを好みません。お姉ちゃんの思い通りになる妹を求めているから……だから、お姉ちゃんと呼ばないだけで、酷い目に遭うんです」
身を震わせた妹猫は、その華奢な腕をさする。
恐ろしい事を思い出したと言わんばかりに、その顔は青ざめていた。
「酷い目、って言われても、私にはいまいちわからないんだけど……」
「貴女も眷属なら、不条理に殺されたりしないんですか? 行動の制限をされたり、何かをするよう命じられたり」
「主様はいきなり殺してくるけど私が主様を不快な気分にさせたからって感じで筋は通ってるから不条理では無いね! 何より行動の制限も命令も私からすればご褒美だよ! 主様に命じられて仕える事が出来るだなんて、普通はどれだけお金払っても出来ないだろうし!」
「そういえば貴女は変態でしたね」
「褒め言葉だな!」
物凄く胡乱な目で見られたが、慣れているのでノーダメージだ。寧ろ興奮する。もっともっと!
「……私は自分から、あの人について行くと決めました。幼い私ではどうしようも無かったから、優しくしてくれたスールさんの妹になりたいと、そう思ったんです」
思い出すように目を伏せ、妹猫はそう語る。
「でも、優しいのは妹に丁度良い年頃の娘だったから。それだけでした。キメラの独自文化として大事とされる本名を教えてくれたのに、あの人は呼ばせてくれません。私の本名を呼びはするのに、あの人は私に、お姉ちゃんと呼ばれる事だけを望むんです」
「ええっと……つまりさっきから呼ばれてたのは」
「私の本名です」
「私、その名前を知っちゃって良いの?」
「知っている者同士で呼び合う事は普通にあるので、知るだけなら。本人から名前を告げられて呼んでも良いという許可が出ない限り、勝手に呼ぶのは失礼に値する、という感じになってますね」
妹猫は首を傾げた。
「私はキメラになってから五十年も経過していませんし、あの人……スールさん以外と話す機会も無いので、あまり実感はありませんが」
「……ちなみにさっきから読んでる自称姉の名前っぽいのも」
「あの人の本名ですね。貴女が呼べば失礼に当たるというか、人間的な感覚で言うとすれ違いざまに手が触れあっただけで恋人面して家に乗り込んで来るくらいの蛮行扱いされます」
「そいつは酷い蛮行だ!」
蛮行というか何かもう、アマゾネスだってもうちょい何かあるだろ。
戦ってアマゾネスに勝つ事でお前強いな子種寄越せコースになるわけで、ちゃんとした筋は一応通っている。
だというのにすれ違いざまに手が触れ合ったらもう恋人面とか、人混みをどうやって通過してんだというレベル。
縁日の屋台を幾つか巡るだけで恋人数十人はゲット出来るぞその理論。
「成る程、主様があの三人を即座に殺しに掛かるのも納得レベルで蛮行だったわけか……いやあの人達別に名前呼んで無かったし、何ならやらかしたの私だったけど」
「だから本気でキミを殺そうとしたんだよ。何度殺しても復活するから面倒になってやめただけで」
「そうでしたね!」
そういや大分本気で殺されまくったんだった。
「……あの、変態さんは一体何をしたんですか?」
「えっ、マジでその呼び名定着するの?」
「キメラの呼び名は基本的に適当だったり当てつけだったりする事が多いですから」
「当てつけじゃないだけマシか……」
私を表してるだけだもんな、その呼び名。
そう思って頷いたところ、何故かめちゃくちゃ胡乱な目で見られた。
妹猫、あんまり表情変化が無いのに目で凄い訴えて来るな。
「いやちょっと、普通に人間に名乗る時に主様の本名説明しちゃって」
「よくソレで殺されませんでしたね」
「殺されたよ! 二十五回連続で!」
「二十五回!?」
信じられない、と言わんばかりに妹猫の目が見開かれる。
その金色の目は、先程までそうじゃなかったはずなのに、それこそ猫のように縦長の瞳孔が覗いていた。
「十回以上の時点でいつ本当に死ぬかわからないくらいなのに……」
「生命力が強いのかな?」
「……というか、よくそれだけ殺されて主キメラに対して恐怖を抱きませんね。殺されるとか殺されかけるとかって、凄く怖くて、なのに死ねなくて、とっても嫌な事なのに」
「ああ、私は激痛になった途端痛覚失うタイプみたいで。ちょっとつねられたりなら痛みを感じるけど、ってくらい」
「成る程。羨ましいです」
私は人間時と変わらない痛覚ですから、と妹猫は溜め息を吐く。
「まあ、私は痛覚があったら流石に怯えてたと思うし今と同じ対応出来てた自信も無いけど、少なくとも現状としては不満ゼロだね! 主様に対して合法的に侍れるとか最高! 程良く雑に扱われたりするのも満足度高いよ!」
「理解出来ません」
笑顔でサムズアップしたら真顔で返された。
うーむ、将来有望なクールさだ。
クールタイプの女王様になれそうなのに、キメラなせいでこれ以上成長しないのが悔やまれる。
いや、性癖によっては女性では無く幼女でも無い少女の段階である子に冷たくされるのが好き、というレベル高い方も居るだろうけどさ。
……私は巨乳好きっていうスタンダードな性癖に軽度のマゾってだけだからな!
性癖として考えれば定番も定番で変態を名乗るには少々弱い。
そりゃ一番強いのは筋肉好きという性癖だけど、女である以上、逞しい筋肉にときめくのは致し方あるまい。
華奢な美少年にときめくという女は知らん。今は私の性癖の話をしている。別に好きな対象好きになれば良いだけだし。究極言ったらそれぞれ好きな対象が違う方が戦争起こらなくて平和だろうさ。
……アニメキャラのランダムクリアファイルとか、性癖が違う相手だと交換がスムーズだし。
性癖が一致してると交換してもらえないのが辛いところだ。
何なら自分の好き作品に相手の好きそうなのが出てたら教えたりも出来るので、語るなら性癖が一致する相手の方が良いけれど、情報交換的な部分では性癖が違う相手の方が良い気もする。意外な新境地開拓も出来るし。何の話だっけ。
「…………変態さんは、眷属になって何日ですか?」
「え、数日だけど……一週間未満っての、やっぱりわかる?」
「諦観者さんは頻繁に眷属を作るイメージですが、長くても二か月持てば良い方だと聞いてますから。平均は一週間程度だと聞きました」
「まあ主様は飽き性だしなあ……というか寧ろ二か月持った眷属がどういう人だったのか気になる」
「殆ど愚キメラだったよ」
聞いていたらしい主様がさらっと答えた。
「オルゴール型の魔物と組み合わせたら、自我らしい自我が消えてね。口を開いたら勝手に人間時代の思い出を歌うようにして語り始めたから、二か月程それを聞いてた」
「あー……成る程」
「強く覚えている思い出をダイジェスト、という形だったから、二か月程で一周してね。聞き覚えのある語り出しに戻ったから処分した」
「うーんめちゃくちゃ納得しました!」
わりと色々許してくれる割に地雷を一つでも踏み抜けば即座に処分ルートという思考な主様が二か月の付き合いってどういう事だと思っていたが、そういう事だったのか。
「…………諦観者さんは、あっさりと眷属を処分するんですね」
「キミの主である自称姉のように、愚キメラさえも妹扱いして可愛がる方が珍しいよ。大抵はお気に入りの眷属が一体居ればそれで満足という事も多いし、そもそも愚キメラが出来たら処分するのが殆どだ」
まあ、
「自称姉はキメラ作りが下手糞だし、妹が多い方が良いという考えなのか、片っ端から気に入るのを捕まえてはキメラにしているようだけれど」
「……ええ、そうですね。本当、あの人は手あたり次第キメラにするから困ったものです。スールさんだけの妹になれって言ってくるのに、スールさん自身は、皆のお姉ちゃんなんですから……」
うっわあ空気が重い。
妹猫の周囲だけ、重力が加算されてるみたいな空気になっている。
主様は相変わらず興味が無いといった様子でスタスタ歩いているけれど。
「え、あー、そうだ! 妹猫と自称姉の馴れ初めってどういう感じだったの!? 私と主様の場合は私が空から降って来たところに腹を空かせた主様が通りかかってお食事タイムになったのが出会いなんだけど!」
「何で人間の時点で空から降って来てるんですか」
「私も空から落とされた事には物申したかったよ……」
でも物申しつつ中指立てたらドラゴンに直撃して一回死んだ。




