ギルドなどについて
露店が隙間を埋めるようにして開かれている通りを抜けつつ、時々主様が気に入ったらしい品を購入してはこちらへ寄越すので袋へ入れるという簡単な作業。
食べ物系には見向きもせず、どちらかというと見栄えが良い物を購入していた。
目で見て楽しめるようなのがお好みなのか、アクセサリー系や小物類以外だと意外にも絵画や壺などを購入している。
私は好きな作品のポスターやグッズならまだしも、絵画や壺といった家具寄りの品にはあまり心惹かれないので、それらを見て回るというのは新鮮な気分だ。
……絵画とかの場合、ネットで見て満足しちゃうしなあ。
そもそもわざわざ調べてまで絵画を見ようとならないのだ。
友人達に誘われて美術館に行く事はあるのだが、像の筋肉や絵画の筋肉にいちいち興奮するものだからお前もう誘わねえよと宣言されて以来行っていない。
ただちょっと歴史的に有名な絵画とかをエロい目で見ただけなのに何て酷い友人達だ。
そりゃまあ大分目付きとか口元とかがセクシーな恰好のお姉ちゃんを見てるオッチャンのだらしない顔並みに崩れていた自覚はあるけれど、あんな素晴らしき筋肉を前にして知らん顔出来るはずもあるまい。
目の前にセクシーな女スパイが居たらその顔や体に視線が持っていかれるのと同じ事だ。
……んお、何かでっかい建物。
通りを歩いていれば露店が途切れ、大きな建物が現れた。
何というか、中を覗いてみた感じ、施設的なところらしい。
「主様、あそこは何ですか?」
「ギルドだね」
「ファンタジーでお馴染みの!?」
「キミの中でお馴染みになっているギルドと同じかは知らないけれど、ギルドという名称を持つ場所ではある」
ちらりと一瞬だけ視線を向けた主様は、歩くスピードを落とす事なくスタスタと歩く。
あそこには一切用はない、と言わんばかりだ。
「ギルドというのは基本的に、その仕事に関する総合的な場所、とでも言えば良いかな。今のところは冒険者ギルドと言って、冒険者達を統括している場所と言える。主に登録、依頼の斡旋等だね」
「成る程!」
とりあえずは認識している通りのギルドと思って良さそうだ。
ちらちらと振り返りつつ確認すれば、ファンタジーの冒険者らしい恰好の人達がちらほら出入りしているのが見えた。
一般人に比べて明らかに服装が違う。
……動きやすい恰好の人も居れば重装備な人も居て、本当、役職によって服装変えてます感があるなあ……。
「…………ところで主様、冒険者ってこの世界においてどういうポジションなんです? 役割、というか……さっきのおいちゃんと会話した時、冒険者と旅人は違うみたいな事言ってましたし」
「キミの認識では、冒険者が旅人とイコールになっているのかい?」
「え、あ、どうだろ。基本的に冒険者自体がファンタジーのイメージ強めなので、ラノベとかゲームとかの印象が強いですね! 雑に言うと冒険者ギルド自体、戸籍確保とか衣食住の為にって事で異世界出身者が第一に駆け込むところなイメージです! この世界についての説明も最低限してもらえそうですし!」
「まあ、大体合っているかな。戸籍確保や衣食住確保の為なら、当然のようにそうなるだろうし」
「やっぱりそういう感じなんですね!?」
思わずテンションを上げれば、ク、と主様は首だけで振り返って馬鹿にするような顔で口角を持ち上げる。
「僕らからすれば、煩わしいだけになるけれど」
「主様、その表情最高です!」
「今そんな話はしていない」
一瞬にしてすんっとした顔に戻ってしまったが、この表情も主様らしさに溢れているのでヨシ。
どんな表情でも主様というだけで常にえぐい程のポイント加算が発生している。
「……僕らにとって、戸籍が確保されると面倒なんだ。そのくらいはわかるね?」
「明らかに色々とおかしいのが発覚しますね!」
「そういうこと。何より、冒険者なんて面倒はしたくない」
「面倒?」
「旅人の場合、旅をする人間そのものという扱いになる。旅自体が目的というわけだ。扱いとしても観光客という扱いになるから、大分自由が利く。立ち入れない場所は立ち入れないままではあるけれど、ね」
「成る程!」
つまり普通にバックパッカー。
ポジションとしては村人枠というわけだ。
「対して冒険者の場合はギルド所属となり、派遣型の何でも屋状態となる。ラブレターの受け渡しや子守りから、命懸けの魔物討伐までそれこそ本当に何でも、だ。それが冒険者だよ」
「う、ううん、イメージ通りの冒険者ではありますけど、改めて聞くと人間がやるには些かハードルが高いというか難易度の落差がエグイ」
RPGではお馴染みだというのに、改めて聞くとヤバさが際立つのは何故なのだろう。
ブラック企業だってデザイナー一人に工場生産だの経理だの接客だの全部任せる! みたいなのがあったりするようだけれど、それでも害獣駆除もよろしくとまでは言わないはず。
つまりブラック企業よりもヤバい。
いや、大前提としてそういう仕事ですよというのを明らかにしており、他の諸々をサポートしてくれると考えれば妥当なのかもしれないが。
……戸籍確保とか身分証明とか衣食住の保証とかを考えると、後ろ暗い人が助かりそうではあるもんなあ……。
そうなると多少ハードな仕事を割り振ってもセーフ扱い、なのかもしれない。
勿論その人の能力に合わせたものにはなっているだろうけど。多分。きっと。そう思いたい。
「…………能力に合わない仕事を斡旋されて死亡とかってよくある話です?」
「いや、そもそも依頼は冒険者が任意で行う事が殆どだから、一攫千金を夢見た馬鹿が忠告も聞かずに自殺するくらいしかないかな」
「成る程!」
言い方は辛辣だけれど、何も間違っていないので何も言えない。
人間はお空を飛べないんだよと説得しても聞く耳持たずにアイキャンフライして潰れたトマトになるのと変わらないし、ソレは基本的に自殺と呼ばれるものである。
あと完全なる自業自得でもあるので、生前にメンタル面大丈夫じゃなかったみたいですね、で終了だ。
終わった命に対して、他人は冷たい。
「ちなみにだけれど、旅人と冒険者が別物であるように狩人もまた別物だよ」
「そうなんですか!?」
「狩人は狩猟や採取がメインとなる。この店からこの荷物をあの店までよろしく、といったような運搬系は行わない。森で行方不明となった夫を探して欲しい、といったような依頼も冒険者向けであって、狩人の仕事では無いね。狩人側は狩猟の最中に遭難者を見つけて保護する事こそあれど、それを仕事にしているわけじゃない」
「つまり狩人は専門職扱いなんですね!」
「ああ、だから本腰を入れて捜索はしない。あくまでもののついでに捜索はするが、見つけたとしてもボランティア扱いとなる」
……となると、冒険者はお役人ポジションに限りなく近いのか?
お役人ではない気もするが、色々と面倒臭いなあ外注したいなあ、の部分を担うのが冒険者っぽい気がしてきた。
他の役職の人がやらない部分、あるいは人手が足りていない部分へ寄越す人手という感じだ。
「他には、そうだな、挑戦者というのも居る。挑戦者は冒険者の亜種みたいな扱いだけれど」
「亜種」
「言ってしまえば狩人も、だがね。それぞれギルドに登録されているよ。じゃないと権利がどうのこうのと面倒になる。依頼対象を別の誰かが偶然助けた場合、依頼はどうなるのか、の部分が面倒なんだ。旅人の場合は権利の主張も何も、完全に個人の示談となるね」
「冒険者なら依頼達成扱いで、狩人の場合はボランティア扱いで、ギルドというバックが居るから体制が整っている。けれど旅人はあくまで個人だからそういった保証が無く……?」
「冒険者は仕事で人を助けるが、依頼以外でも人を助ける事はある。ただし依頼外での人助けはボランティアだ」
「あ、成る程! 狩人や旅人が人助けするのは完全ボランティア扱いで報酬が出るかは相手次第ってことですね!? で、冒険者は依頼受けたなら当然報酬が出るものだけど、依頼を受けずに助けた場合は当然ボランティア認定が出るって事だ!」
「こういう当然過ぎる部分をいちいち説明するのは面倒だな」
「丁寧な説明ありがとうございます!」
ビシッと敬礼したら呆れたような溜め息を吐かれた。
しかしこちらからすれば常識がマジで足りてないので仕方がない。
……まあ、気持ちはわかる。
当然とされているものを聞かれる事程面倒な事は無いだろう。
私だっていきなり異世界人に銀行って何とか言われたらどう説明すれば良いか困るし、遊園地の説明もフードコートの説明もまともに出来ないまま狼狽える事となるのが目に見える。
公園ですらもいきなり詳細な説明を求められたら、何をどう、というか何から何までを説明すれば良いのやら、となるだろう。
そう考えるとめちゃくちゃ面倒だろうにとても丁寧な教え方をしてくれる主様は大変優しい。
私だったら早々に説明を諦めて雑に纏めてんじゃ一発体験してこいと尻を叩いて終わるだろう。
フードコートとかに放逐して笑いながら眺めて十分経過しても駄目そうだったら助けに入る、くらいはするに違いない。
……私って結構そういうヤツだもんな。
他人の狼狽えっぷりを見て笑おうとするとか大分クズだが、わりとそんなもんなのではないだろうか。
そうじゃなかったらドッキリ系の番組がああも作られるわけがあるまい。
皆もわりとクズ寄りだから他人を騙して笑いものにするような番組が定期的に作られてしまうのだろう。
クズ寄りじゃなかったら普通に苦情が入って即座に禁止されるレベルだぞ、アレ。
「……じゃあ、挑戦者についてはまたその内って感じですかね?」
「続けて説明を強請るようなら処分のつもりだったけど……そうだね、そのつもりかな。そうなった場合、キミはどうする?」
「主様に対して抱く性的興奮ポイントを語ります!」
「挑戦者についてを話すからやめろ」
「説明を受けても多分興奮を発散する為にちょいちょい小出しになると思います!」
「人前でやらなければ良い」
「ヤッター!」
主様はこういう事に関して謎の緩さがあるからありがたい。
いや、単純に人前じゃなければ即座に不愉快という理由で殺せるからかもしれないけど。
でもどっちみち私には嬉しいのでヨシ。
……あれ、でも何か私、今まるで脅したみたいになってないか?
「待ってください主様違うんです!」
「何が」
「主様を脅して続きを話してもらおうとかそういう事を思って性的興奮ポイントがどうとか言ったわけじゃなく、純粋に本音なんです! 本音で主様に性的な興奮を抱いてるって事なんですよ! 私の本音を誤解されたくない!」
「知りたくもない」
「私は知ってて欲しいです!」
「僕に対して脅しが通用すると思っているようなら即座に処分だが、それ以上に意味の分からない理由を持ってこられてもね」
呆れたような声色だが、こちらに向ける視線は絶対零度の温度だった。
横長の瞳孔が完全に殺意で満ちている。
表情に至っては可能な限り感情を削ぎ落した無そのものになっていて、中々にゾクゾクして興奮する。
ここが街道じゃなければヨダレを垂らして歓喜に叫んで主様の足に縋りついてお尻や太ももの感触を楽しみつつ顔を押し付けて深呼吸して匂いを堪能して蹴り殺されるところまでを全力で楽しむところだったのに、人目があるとは何たる不幸。
流石に人目がある場でそこまでやらかすのは、という理性が邪魔で仕方がない。
しかしいくら私でもそこまで理性がサヨナラしたド変態にはなれないくらいの常識を有してるわけで。
……クッ、現代日本の情操教育が性癖の邪魔をする……!
おのれ道徳。




