神話切り取ったみたいな光景合法で見れるの最高
翼を広げた私は、主様を乗せて人の目が届かない程高くまで飛び、そのまま北へと向かって行った。
「どうせなら大きな町があるところまで行こうじゃないか。辺鄙な場所は不便でいけない。現地人の増減が発覚しやすいのもそうだけれど、碌な服屋も無いのはいただけないな」
主様がそう言った為、しばらく空を飛んでいた。
多分もうちょっとバシューンって感じにスピードを出せたりもするんだろうけれど、残念ながら初飛行でそこまでひゃっほうするわけにもいかない。
私一人で飛ぶのならもうちょっと曲芸染みた動きを試したいところだが、主様を乗せたままではそうもいかないのだ。
あとまあ単純に、乗っている主様の体勢が最高だった、というのもある。
私の背中にまたがるようにして乗ってくれたら股間周辺の感触がわかるし内ももの感触もわかるなうへへという下心があったのは事実だが、そこではない。
……そういう乗り方してもドラゴンコルセット部分は外骨格みたいな状態だから感覚が殆ど死んでるわけで、そう考えると妄想で補うしかないわけなんだけど……。
しかし、実際の主様の乗り方は全然違った。
ある程度高度が出てきて、時々羽ばたきつつも滑空がメインみたいな飛び方になった頃、主様は私の背の上でまったりと座りながら本を読み始めたのだ。
凄い風圧だろうによく読めるな、と思ったが、重要なのはその体勢。
ドラゴンコルセット部分に座り、角度を調節した私のドラゴン尻尾(コルセット部分に比べれば充分触れた感触がある)を背もたれにし、私の頭を足置きとする完璧スタイル。
時々無意識なのか意識的なのかは不明だが、後頭部をつま先でぐりぐりされたり、頭頂部を踵側でぐりぐりされたりという最高のサービス状態。
……しかも主様、誰も見てない状況なのにしっかりと人間の姿になってるから靴履いてるんだよな!
獣の足でぐりぐりされるのも素晴らしいけれど、硬さのある靴でぐりぐりされるというのはその感触が伝わって来てとってもよろしい。
同じくマゾ特性を持つ者であれば、素足も良いけどやっぱり靴で踏まれるからこその硬さや温度の伝わりにくさが良いよね、という主張をわかってもらえる事だろう。
主様は体温が結構ひんやりしてるので温度の伝わりにくさは素足でも変わらない気がするが、低い体温と外気に影響されている靴の温度は別物なのだ。
具体的に言えばビンタとムチはどちらも興奮するけれど、微妙な差異があり、そこがまた重要なのである。
マゾじゃない人にわかるよう言うなら同じ映画でもホラーと恋愛は別物だろう、みたいなアレ。
どっちもあるハイブリッドあるじゃんという意見もあるかもしれないが、そんなもん素足での踏みつけと靴での踏みつけ両方のよくばりセットとか最高になるのは当たり前だろ、という意見で終わる。
ハンバーグとカレーを合わせたらそりゃあ美味しくなるに決まってんだろというアレだ。
……何の話だっけ?
ともかくそんな感じでゆったりのんびり優雅な飛行をしていたところ、大きな町が見えた。
川のような海の、こちら側にある町。
「……ああ、ニンカメイの町か」
「ニンカメイ?」
「頭を上げるな」
「ご褒美です!」
主様の方を向こうとしたら頭を強めに踏みつけられて大変ひゃっほい。
頭が潰れない程度の程よい力加減なのがまた嬉しい。
「それで、ニンカメイの町っていうのは?」
「ネイチャー大陸側の港町。実質的にはパレット大陸と変わらない文化と文明。大きな教会が建っていて厄介だが、そこ以外は比較的好ましいな。設備も比較的整っている」
「あそこに着地します?」
「いや、その手前にある森の中腹辺りに降りてくれるかな」
先程までの素だろう態度から、貼り付けた笑みを浮かべてるんだろうなとわかる態度へと変化した。
どちらであっても主様である事には変わりないし、どちらであってもテンションは上がるので問題無し。
誰だってその時々でテンション変わったりする事はあるさ。
「構いませんけど……何でです?」
「キミは人里にドラゴンの翼を広げながら降り立ちたいのかい? 僕は絶対に御免だね」
「あっ」
うっかりしていたが、確かにソレはアウトだろう。
突然上空から明らかに化け物とわかるのがいらっしゃいませとか完全アウト。
主様は人間に擬態しているし、私だって一応靴で誤魔化したりはしているが、翼が出ていては何一つ隠せてないも同然だろう。
魔法だと誤魔化せばワンチャンあるかもしれないが、こちらの世界の魔法に関してはまだあまり詳しくないので無理。
詳しく聞きたいなと思いはするけれど、主様の性格上、しつこく問い質すとその分だけ飽きが早く来てしまい、最悪数十年くらいその話題を出してくれなくなる危険性がある。
そもそも数十年もの付き合いが出来るかも不明だが、その辺は私のタフネスなポテンシャルに期待しておく。
「……まあ、降り立っても町全体を虐殺すればどうにでもなるだろうけれど、こういう流通やらを担っていて他の場所とも頻繁にやり取りをしている場所、というのは悪手だな。あまり客が来ない町なら良いけれど、こういうところは発覚が早いから面倒なんだ」
「やった事がおありなんです?」
「逃がした目撃者をしらみつぶしに探すのが面倒だったからね」
一か所ずつ探すのが面倒なので全体を潰して解決しましたってどういう事だ。
しかしソレが出来てしまうのがキメラ、という事でもあるのだろう。
今更だけど、私ってば凄い化け物になったんだなあと実感。
いや、実感といっても他人事八割みたいな感覚だけれど。
……ちょいちょい実感はしてても、やっぱりその辺が鈍いんだよなあ。
まあ主様が最高にド性癖って事が確定していて、間違いようの無い部分である、ってのが揺らがないならそれでいい。
主様が素晴らしければ世界も私もどうだって良いんだよ。性癖ってのはそういうもんだ。
こう言うと狂信者みたいな言動になってる気がするけれど、実際性癖ってのはおっぱい信者とか太もも信者の信仰みたいなもんなので間違っちゃいまい。信仰って言うには大分肉色してる気はするが。
・
森の中腹辺りに降り立てば、あの陰鬱な森とは大分雰囲気が違う。
しっかりめに光が射し込んでいて、リフレッシュ出来る感じの森という印象。
「それで、主様? このままニンカメイの町へ行く感じです?」
「いや、先に休む」
そう言って少し歩き、開けたところを見つけた主様はここで良いかと呟いた。
「町へ行くのは明日にしておこう。昨日は結局眠れなかったからね」
「殺したり殺したり殺したりしてらっしゃいましたもんね!」
「一番時間を取られたのはキミが中々死んでくれなかった部分だよ。まさか二十五回連続で殺したのに死なないなんて」
そもそもキメラは不死身なのではと思わんでもないが、不死身といっても上限が決まっていて時間経過で回復するタイプの残機って感じなのでつまり私が幸運だったという事だ。
まあ主様という最高の存在を前にしてぬけぬけと死んでいられないので当然だが。
初回は死んだじゃんとか知らないよ! 人間時代なんだから仕方ないだろ! 人間である以上喉潰されてハラワタ食われたらそりゃ死ぬよ!
「……眠いというよりは、万全じゃない状態であの町へ行きたくないから、だけど」
「あの町に何かあるんですか?」
「大きな教会がある。あの町の目玉の一つとしてね」
ハ、と主様は歪んだ笑みを浮かべた。
忌々しい何かを睨むような笑みで、大変サディスティックな香りがしていて良いと思う。
その顔のまま踏みつけられたい。言わないけど。
「教会に何か、あるんです?」
「それは当然……あれ、言ってなかったかな」
「時々主様のご尊顔や素晴らしき筋肉の脈動に気を取られる事はありますけど、主様の言葉は出来るだけ聞き逃さないようにしてます! でも多分教会に関しては聞いて無いかと!」
「いちいちキメラの生態について説明するのが面倒だったから、説明を削ったまま忘れていたかもしれない。まあ、先程まで居た町には教会が無い様子だったから仕方ないか」
見ればわかると思っていたし、と主様は袋の中をごそごそと漁る。
そのまま何か、折りたたまれた傘のようなものを取り出した。
主様はソレを縛っていた紐を解いて開けたところへと放り、直後、放られた傘もどきは自動で組み立てられ、大きなテントを展開した。
四人用くらいあるんじゃないかというテントの中へ、主様は躊躇い無く入ってゆく。
慌ててその後ろに続くと、主様はテントの中にセットされているベッドの上で横になっていた。
……っていうか家具があるとかどういう事だよ!
ワンタッチなテントは、まあ日本にもあったのでわかる。便利な時代になったよね。
でも家具が内蔵されている、というのがわからない。
しかも無駄に設備が整っていた。何アレ、向こうにあるのってもしやキッチン?
……煙大丈夫かなって思ったらちゃっかり天井部に穴空いてるし……。
換気扇代わりの窓かよ。
下手すると適当な宿とか民家よりもクオリティの高い空間がそこにはあった。
うっわあ絨毯ふっかふかあ。
……椅子やテーブルは見当たらないけど、絨毯が敷かれてる辺り、普通に座って食べたりする感じなのかな……。
そもそもキメラにとって、人間の一般的な食事は娯楽でしかないとのこと。
主様は暇潰しを兼ねて食事をするようだったが、不要といえば不要だから、とその辺には力を入れていないという可能性もある。
「あの、主様。こういうテントって家具が内蔵されてるはずは無いって思ってたんですけど、こっちの世界じゃこういうもんなんです?」
「そんなわけが無いだろう。自力で組み立てる必要がある物、自動で組み立てられる物、中に幾つか家具が配置されている物……と、色々あるだけだよ。わかりやすく言うなら値段の差」
「わかりやすいですね!」
お値段次第で便利差は段違いってヤツだった。
家具付きのワンタッチテントとか一体どれだけのお値段になるのだろう。
こちらの貨幣価値とか知らないけれど、相当なお値段だろうなという事はわかる。
「同じような物ばかりだと僕が飽きるから、色んな種類を持ってはいるけれど……基本的に寝床として使うくらいだから、使用頻度は高くないかな」
「成る程ぉ……あっ! そうだ主様! 教会についてですけど!」
「行って直に確認すれば嫌でもわかる」
掛け布団らしきものは無い、デザインは良いものの本当に簡素なベッドの上で横たわり、主様は額に手を当てながらこちらを見る。
長い睫毛が影を作っていて、目はハイライトが入っていないもののウトウトしているのがわかって、ヨダレが出そうな程の色っぽさを纏いながら、主様は言う。
「僕は寝たい」
「主様の寝顔を至近距離で眺めたりってオッケーですか!?」
「眠りを妨げないなら好きにしていて良いよ。触れたら殺す」
「ヤッター!」
喜びのままに主様のすぐ近く、枕元で床に座って主様のお顔を覗き込む。
はわわ睫毛を一本一本数えれるだけの長さと距離すっごい……国宝……?
……寧ろこの造形が国宝じゃないなら国の見る目が無いってレベルのお宝だろ……。
教会についての詳細だとか色々聞きたかったが、それで主様の不興を買いたくはない。
不愉快だと言って潰されるのも最高にテンション上がるけれど、それで主様の機嫌を悪くしていては意味が無いのだ。
主張はするが押し付けすぎない。お互いを思いやって初めてサドマゾの関係は成立する。
まあ、主様の場合は素でやってるだけで性癖って感じの気配はしないのだけど。
……うわ、今神話のワンシーン見てる……?
目を伏せた主様が寝息を立てると同時、なんかもう、世界に祝福された存在なのではと思う程には絵画みたいな光景に思えた。
人食いの化け物であるキメラなのでどっちかというと神と敵対する側な気がするけど知らん。
日本人は多神教だし、ヤバいのも良いのも好きなのも自由に祀っとけの精神です。
……あああもう何か良い匂いする……。
清潔感があるのに男らしさもあってでも男臭い感じでは無くて、色っぽい男性のフェロモン的香りだ。
自衛官とかじゃなくて男性ポールダンサー的な雰囲気、と言えばわかるだろうか。わからなくともわかれ。これはもう本能とかその辺で感知するアレだと思う。
……神様ありがとう! 私今、人生でもかなり最高な状態になってると思うよ!
漠然とどっかの神様にそう叫びつつ、私は主様の寝顔を堪能する。
今に至っても特に眠気はやってこない辺り、やはり私は睡眠を必要としないタイプなんだろう。
お陰で主様が眠っている間ずっとこの寝顔を余す事無く堪能出来るというのだから、この世界は私の性癖に寛容過ぎるな。やったぜ。




