パニック系の惨状ルーム
日が暮れてからやってきた旦那さんも、あっさりと仕留められた。
引きずり込まれて首を爪で分離させられた為、真っ赤な噴水がぶっしゃあという感じ。
そのまま三人分の肉を主様と私で程々に食べたわけだが、
……んー、そこまでお腹空いてないなって感じ?
食べれるし普通に完食もしたけれど、洞窟の時のような空腹感は特に無い。
主様も三人をそれぞれ好きなように食べたら飽きたらしく、残りを私に寄越してくれた。
主様の残飯ひゃっほいとテンション上げ上げで食べ切ったとはいえ、食べれるとお腹が空いてるは別物なんだなあと実感した。
「……そろそろかな」
「?」
ベッドの上に座ったままこちらを、三人だった残骸をもちゃもちゃ食べてるこちらを真顔のままぼんやり見ていた主様は、うっすらと口元に笑みを浮かべて窓際へと近付く。
そのまま窓を開け放すと同時、室内に眩しい程の朝日が射し込んだ。
「いやあ、良い朝だ」
血まみれの体を朝日に照らされながら、主様は機嫌良さげに微笑む。
朝日が射し込んだ事で、主様に掛かっていた返り血や部屋中を赤く染めていた私の血液がじゅうじゅうと音を立てて消えていく。
それを見て満足そうに頷き、窓枠に肘をつきながら主様は私を見て目を細めた。
「そうは思わないかい?」
「そうですね!」
朝日が射し込むと同時に微妙なだるさが発生したけれど、私は主様限定イエスマンなので即答した。
実際ちょっとだるい程度であって、朝日の爽やかさは据え置きなのも事実だから嘘ではない。
ただまあ、何というか、
「……でも、朝日で私の血は綺麗サッパリ消えましたけど、この三人のはそうもいかないんですね」
「人間だからね」
主様は笑みをそのままにしてそう言った。
そう、室内を真っ赤に、というか酸化して真っ黒に染め上げていた私の血は綺麗に消滅したものの、人間である奥さん、旦那さん、村長の娘さんの血はそうもいかない。
肉は私が殆どを食べ尽くしたので肉片くらいしか残っていないが、血はあちこちに沁み込んでしまっている。
……旦那さんの場合は首チョンパで殺したのもあって噴水状態だったからより一層アウト感が凄いな!
天井から黒くなってきてる真っ赤な液体がポタポタしていてとってもホラーにスプラッタ。
推理漫画とかでは絞殺してから首チョンパすれば血液の噴出はどうたらこうたらみたいに言っていた気がするけれど、首チョンパで殺した以上はどうにもならない。
仮に旦那さんを首チョンパ以外の方法で殺していたとしても、死体をもいで人肉むしゃむしゃした時点でまあまあ部屋は汚れてしまっている。
うーん、この宿が曰く付き扱いされて潰れるかもね、ってレベルには惨状してるなあ。
「ちなみにこのままだと完全に指名手配レベルな気がするんですけど、どうするんですか?」
「とりあえずは着替えかな。この服にも飽きたし、人間の返り血は朝日じゃ綺麗にならないからね」
言い、主様はするりとアームカバーを外す。
流れるようにベストも脱ぎ捨てられ、アームカバーとベストの両方が血まみれの床に落ち、水分が蒸発して粘度が増した血を含んでじんわりと赤黒く染まってゆく。
腰の布もベルトもズボンも、インナーさえも脱ぎ捨てた主様は、あっさりと下着一枚の姿となった。
朝日に照らされた返り血塗れの室内で下着一枚の主様とか、もう神話の一瞬を切り取られたんじゃないかという光景だった。
……これはもうテンション上がっても仕方ないよな!
うん仕方がない。脳内裁判でもありとあらゆる私がこいつは仕方ないぜと叫んだので多分セーフ。
だってこんな凄いものを見て興奮するなとか無理だろう。
分厚い筋肉が惜しげも無く晒されてて、朝日に照らされるその体は陰影がくっきりしていて、もうコレは興奮しない方が失礼と言えるレベル。
おっぱい大きいセクシーお姉さんがセクシーランジェリー姿で立っていたら興奮しないと失礼だろ、というのと同じくらいのセクシーレベルなんじゃなかろうか。
そう思いつつ服を出そうとして袋を手に取った主様を下から眺めていれば、主様は不快そうに眉を顰めてこちらを見下ろした。
「…………何かな」
「あっひょい!? しまった主様のお体があまりにも美し過ぎたせいでつい体が勝手に!」
無自覚の内に欲望が体を勝手に動かしていたらしく、気付けば私は主様の剥き出しとなっている足に身をぴったり寄せるようにして抱きついていた。
……うっわ何この足筋肉がギュッと詰まってるのがわかるよ国宝か何かか!?
主様の何気ない動きの中から見る事が出来る衣服の皺の寄り方とかを見ているのも最高に楽しいけれど、こうして生の筋肉の動きをまじまじと見れる状況になってしまうと自制心なぞ遠くのお空へアイキャンフライ。
筋肉はしっかりしているけれど男性らしく小ぶりな尻に、そこからパツンと肉厚になる太もも。
下腿部分は獣の足となっていて骨格から人間とは違うけれども、だからこその細さと筋肉が共存していて素晴らしきマリアージュ。
無意識で主様の足へと抱きついて、谷間と股で挟んでしまうのも致し方なし。
……何が素晴らしいって、私の胸の間に主様の足がある事だよなあ。
胸の中にある、主様らしいひんやりとした体温。
こちらはこちらで連続殺害の際に服がサヨナラしている為、素肌で主様の筋肉を感じられる。
思わず私はヨダレを垂らし、その足に頬擦りしていた。
「気持ち悪い」
「褒め言葉です!」
「…………」
主様は顔を顰めたまま、溜め息を吐いた。
「……離れてくれないかな。僕は着替えたいと思っているから邪魔をしないで欲しい」
「主様のお着替えでしたら私が手伝いますよ! はいそりゃあもう手取り足取りしっかりがっつりいやらしく!」
欲望のままに口が滑ってしまったところ、思いっきり蹴り飛ばされて壁にぶち当たって衝撃によりあちこちが弾け飛んで一回死んだ。
しかしすぐに復活するし、ぶちまけられた血も朝日に触れてじゅわりと消える。
「最後のは不要だ」
「はいすみません!」
反射的に謝ると、主様は袋から出した服をこちらへと投げ捨てた。
うっかりその辺に沁み込んでいる血に触れないよう慌ててキャッチすれば、主様は無言のままこちらを見る。
……つまり、着せろという……!?
めちゃくちゃ好き勝手している私に身を委ねてくれる事に内心大はしゃぎしつつも、手間取ると二度と任せてくれない可能性があるから、と即座に手元の服を確認して主様に身に着けさせる。
失礼にはならないよう気を付けて素早くやりつつ、しかし主様の体を堪能しながら。
……折角のチャンスなのに堪能しないとか馬鹿げてるからな!
そう思いつつ、不思議なデザインの服に時々困りながらもどうにかした。
上は素肌に前開きのミニ丈な上着のみ。
紫色をしているその上着を着せて、白い長袖部分を少し調節しつつアームカバーを装着させる。
下は帯にも見えるハイウエストのゆったりズボンで、ベルト代わりといったように赤い布を結び、端を垂らす。
……ズボン履かせる時は流石に尻尾どうしようってなったけど、普通に仕舞ってくれて助かった……!
そして尻尾に隠れていた部分をまじまじと見れたので大変ハッピー。
あとは膝下丈のズボンに合わせるようなレッグカバーをセットした後、前とはまたデザインが違うペタンコ靴を人間状態の足に履かせて完成である。
……こんな性癖ど真ん中過ぎる存在に仕えられる上に着替えの手伝いまでさせてもらえるとか、異世界って最高だな!
完成した主様の輝きに満足しつつ、私はやり遂げたという笑みを浮かべる。
はー、見てるだけで精神状態が整っちゃうな。
整うどころか致命的なまでに狂ってるんじゃないかとかのツッコミは聞かないぞ。これが私の正常なんだからごたごた言われる筋合いは無い。人の精神にケチつけんな。
まあ主様からだったら何て言われてもご褒美でしかないんだけど!
「素敵です、主様!」
「当然だ」
何を今更、という顔でそう返した主様は、自身を見下ろして数拍置いた後、袋から取り出したシンプルなネックレスを身に着ける。
華奢なデザインとも言える小さな宝石がちょこんと下げられたソレは、主様の筋肉をより引き立たせた。
……さらけ出されてる分厚くてむっちりしたボリューム強めの筋肉に対して華奢デザインなネックレスの組み合わせ、最高過ぎる!
どのくらい最高かと言えばおっきいおっぱいの谷間に挟まれて殆どが隠れてるネクタイくらいには最高な仕上がり。
地球に居た頃に得た眼福ラインナップよりも、こちらの世界に来てからの方が眼福ラインナップの数が大幅に増えている気がしてくる。
こちらの世界に来た直後遭遇したのが主様で良かった。
「……よし。じゃあ、キミも着替えてくれるかな? その姿のままでは、流石に外を出歩けないからね」
「了解しました!」
にこっとした笑顔の主様から渡された服を受け取り、着慣れないながらもどうにか着替える。
……デザインだけ見ると今までのと似たタイプだからちょっとは着慣れた感もあるけど、そもそも二十年以上の付き合いだった貧相な胸からいきなりの爆乳ってのが慣れないんだよなあ。
胸元を覆うだけの、これまたチューブトップのビキニ感があるデザイン。
今回のは谷間部分にひし形の穴が開いているデザインとなっていて、仮に踊り子だと思っても相当にセクシー担当な踊り子が着るヤツじゃないかな、という感じ。
下は上と同じく鮮やかで明るい緑色のスカート。
足首までを隠す長いスカートは裾がひらりと舞いやすく、細やかな刺繍も相まって相当お高いのではと思わせる。
……明らかに布の質も良いんだよな。
私はあまりその辺を気にしないタイプなので、高級品だろうが安物だろうが自分がしっくりくる物を買って着ていた。
そんな私でも触ればわかるくらいには質が良い。
そうして二の腕には服と同じ色をした、パフスリーブの付け袖を装着。
首には金に大きな宝石が飾られた、首全体を覆うようなデザインの首飾り。
手首には同じように金で出来たロングの腕輪。
靴はやはり纏足用となってしまうが、鮮やかな刺繍と色合いがこの衣服によく似合っていた。
最後には後ろに布を流したヴェールを被り、飾りをつける。
紐のようなのを巻いたり、花飾りをつけたり、額の辺りに紐から垂れている宝石が丁度来るよう調整しつつどうにか装着完了。
……うん、めちゃくちゃ華やかじゃない?
鏡が無いので具体的にどうなっているかは見えないけれど、大体は把握出来ている。
そうしてわかる自分の見た目は、相当華やかというか、道を歩いたらめちゃくちゃ視線を集めるだろうなという鮮やかさ。
髪型は相変わらず後ろで一本の三つ編み状態となっているけれど、もう何か、お姫様ってこういう服着てるイメージあるよねって感じだ。
「主様、本当にこの恰好で良いんで……何してるんです?」
「回収」
血に触れないようにしつつ、主様は死体の残骸や脱ぎ捨てた服から金目になりそうな装飾品などを回収していた。
「こういうのはお金になるんだよ」
「主様、あんまりお金とか興味無さそうなのに?」
「買い物は好きだからね。適当に襲って食っていればどうにでもなるけれど、回収出来るものは回収しておいた方が良い」
だって、としゃがみ込んだまま、主様は楽しそうに口角をにんまりと吊り上げる。
「お金が足りないなどというつまらない理由で、僕が、この僕が欲しいと思った物が手に入らないなんて、そんな不愉快な事があったら嫌な気分になるだろう?」
「確かにそうですね!」
「まあ、僕の場合は手に入れたら満足する事も多いし、金銭が足りないからといって強奪する程でも無いんだけどね」
夜に盗みに入るだとか、想像するだけで面倒臭い。
主様はそう呟いて溜め息を零し、回収し終えた物を確認して袋へと放り込む。
「それに、お金目的以外にも利点はある」
「金目の物を回収する利点、ですか?」
お金目的以外で回収する利点ってあるんだろうか。
そう首を傾げれば、主様はにこりと微笑んだ。
「客が泊まった部屋には、血溜まりと肉片。泊まった客の服は脱ぎ散らかされ、ここに来たはずの村人が着ていた服も散らばっている。何人の被害が出たか、を確認出来る程の死体は残っていないけれど、間違いないのは死人が出た事と金目の物が奪われているという事」
「あ、成る程現場の攪乱!」
「現場を見れば、死体が残っていない残虐性から、魔物の行いかもしれないと思うだろうね。けれど少し調べれば金目の物が無くなっている。もしかすると魔物の仕業に見せかけた盗賊が出たのかも……と、思ってくれたなら万々歳だ」
……んん?
そういう言い方をするという事は、
「……主様、その理論が通用するとはあんまり思ってない感じです?」
「それで誤魔化せたなら良いけれど、僕らが犯人という可能性が完全に消えるかどうかは定かじゃない。そもそも死人扱いされた場合、どの道ここには顔を出せないわけだからね」
「確かにそうですね!」
肉片になって死んだはずの人が顔を出すとか、ゾンビか犯人かの二択になってしまう。
いやまあ犯人なのは正解だし、ゾンビどころかキメラなのだけれど。
死んで復活してる部分は合ってるので、結果的に考えると何一つ間違ってないのがまた笑える。
「だから通用するしないはともかくとして、ここにはそうだな……三十年後くらいになってようやく顔を出せる、と思っていた方が良い」
「三十年!?」
……っていうか言い方が完全に時効狙いの殺人犯!
実際その通りだが。
「三十年くらいなら、案外早いものだよ」
「確かに主様を眺めていれば数十年なんてあっという間に過ぎ去るのはわかりますけど!」
「それはわからない」
「主様の瞬きを見ているだけで数時間なんて瞬時に過ぎ去っていきますけど!」
「気持ちが悪い」
「褒め言葉です!」
眉間に皺を寄せての気持ちが悪い頂きましたやっふい!
諸手を上げて喜びつつ、ちなみに、と私は問い掛ける。
「ちなみに主様って今お幾つなんです?」
問えば、主様は本気で何かを考えるような表情になって顎に手をあてた。
「…………二百五十年、くらいだったかな……?」
「成る程納得しました!」
そりゃあ感覚的に言えば二十五歳が三年とか結構すぐだよ、と言うようなもの。
桁が一つ違うけれども、主様の体感としては気付いたら過ぎ去ってる程度の時間なのだろう。
「さて、それじゃあ行こうか」
「あの! 結局見た目華やかなのはそのままだし殺人現場もそのままなんですが! これ表には出られませんよね!?」
「だから窓から出て、屋根の上に移動しよう。そこからキミが翼を広げて飛べば良い」
「翼、ですか」
「ああ」
確かにコルセット部分は常に剥き出しなので、人間に擬態中だろうといつでも翼を出したりは可能だが、まだ初飛行もしてないのに大丈夫だろうか。
いやまあ、主様の期待に添えないなんて自分で自分を許せないので根性でどうにかしてみせるけれども。
「少なくとも、まだ夜が明けてからそこまで時間が経過しているわけでも無いしね」
言いつつ、主様は窓枠から身を乗り出す。
「この時間帯なら、朝早くから働く人達が準備をし始めた段階だよ」
つまり、目撃者が少ない時間帯でもある、という事。
「主様、手慣れてますね!」
「そりゃあね」
微笑み、主様はひょいひょいと壁の僅かな出っ張りを支えにして屋根の上へと移動する。
よし、私も続こう。
そうして私達は、スプラッタな惨状になっている部屋を後にした。




