十六 マンスールと、マンスールが持っていたもの
船が桟橋に着いた。
乗っていたのは七人だった。七人が降りてきた。全員が武器を持っていた。剣を持っている者が四人、弓を持っている者が二人、そして最後に降りてきた一人は何も持っていなかった。
何も持っていない一人が、マンスールだった。
ヤスフはすぐ分かった。理由を言葉にする前に分かった。この男が中心だった。他の六人が、この男を中心にして動いていた。惑星が太陽の周りを回るように、自然に、逆らわずに。そういう人間がいる。力で従わせているのではなく、重力のように人を引き寄せる人間が。
マンスールは五十に近い年頃だった。
背は低く、肩幅が広く、髪が白かった。顔に傷があった。古い傷で、左の頬から顎にかけて走っていた。目が静かだった。怒っていなかった。焦っていなかった。ただ静かだった。この場所に来ることが最初から分かっていた者の静けさだった。
「ヤスフ」とマンスールは言った。
名前を知っていた。驚かなかった。この男がこちらの名前を知っていることは、来る前から分かっていた。
「マンスール」とヤスフは言った。
男は少し笑った。笑い方に敵意がなかった。それが逆に怖かった。敵意のない人間の方が、読めないことがある。
「邪魔をしに来たわけじゃない」とマンスールは言った。アラビア語が流暢だった。「話をしに来た」
「話ができる状況に見えないな」ヤスフは四人の武装した男を見た。
「護衛だ」マンスールは言った。「この海域は安全じゃない。あんたたちもよく知っているだろう」
「護衛が弓を持って桟橋に降りる必要はない」
マンスールは後ろを振り返り、何かを言った。弓を持っていた二人が、弓を下ろした。構えを解いた。それだけで空気が少し変わった。
「話を聞く気はあるか」とマンスールは言った。
ヤスフはハジブを見た。ハジブは水平線を見ていた。もう一艘のことを考えているのかもしれなかった。それとも別の何かを考えているのか、ヤスフには分からなかった。
「聞く」とヤスフは言った。
マンスールは一歩前に出た。護衛は動かなかった。
「記録のことは知っている」とマンスールは言った。「建物の中にあることも知っている。しかし俺が欲しいのは記録じゃない」
「では何が欲しい」
「子供だ」マンスールは言った。「子供を渡してくれれば、記録には手を出さない。この場所のことも、誰にも言わない」
ヤスフは黙った。
「子供を誰かに渡すように頼まれているのか」とヤスフは言った。
「頼まれている」
「誰に」
「それは言えない」マンスールは言った。「しかし子供を傷つけるつもりはない。安全な場所に連れていく。それだけだ」
「安全な場所というのはどこだ」
「それも言えない」
ヤスフは少しの間黙った。考えているふりをした。実際には考えていなかった。答えは最初から決まっていた。ただ、相手に考えていると思わせる時間が必要だった。煙子が戻るまでの時間が必要だった。
「子供はここにいない」とヤスフは言った。
「いる」マンスールは言った。「船が一艘しかない。子供は船にいないとすれば、街の中にいる」
「賢いな」
「賢くない」マンスールは言った。「ただ長くこの仕事をしている」
ヤスフは桟橋の上に立ったまま、マンスールを見た。マンスールはヤスフを見た。二人の間に、測り合う時間があった。互いに何者かを測っていた。どこまで信じられるかを測っていた。この種の測り合いに慣れている者同士の、静かな時間だった。
「一つ聞いていいか」とヤスフは言った。
「聞け」
「あんたは子供を傷つけないと言った。それは本当か」
マンスールは少し間を置いた。
「本当だ」と言った。
「頼んだ者は」
「頼んだ者が何を考えているかは、俺には分からん」マンスールは正直に言った。「しかし俺自身は、子供を傷つけない。それだけは保証できる」
ヤスフはそれを聞いて、この男が嘘をついているかどうかを考えた。嘘をついている顔ではなかった。しかし嘘をついていない顔をしている人間が最も巧みに嘘をつくことも知っていた。この旅の最初からそれは知っていた。ザイナブと初めて会った夜に、そう思ったことも覚えていた。
「少し時間をくれ」とヤスフは言った。
「どのくらいだ」
「半刻」
マンスールは考えた。「半刻か」
「それだけあれば、子供と話をする。子供が行くと言えば行かせる。行かないと言えば俺には止める方法がない。その子供はそういう子供だ」
マンスールはヤスフを見た。それからハジブを見た。ザイナブを見た。老人を見た。一人ずつ丁寧に見た。
「半刻だ」とマンスールは言った。「俺たちはここで待つ」
ヤスフは桟橋を離れた。
街の中に入った。煙子が消えた路地へ向かった。ハジブが後ろからついてきた。ザイナブと老人は桟橋に残った。マンスールたちから目を離さないために。
路地に入った。
薄暗かった。両側に建物が迫っていた。誰もいなかった。足音が石畳に響いた。奥へ行くほど、街の気配が変わった。入口の近くより、さらに静かだった。人がいなくなる前の音が、まだ染み込んでいるような静かさだった。
突き当たりに、小さな扉があった。
煙子が戻ってくるとすれば、この扉からだとヤスフは思った。根拠はなかった。ただそう思った。扉の前で止まった。待った。
ハジブが隣に来た。
「マンスールを信じるか」とヤスフは言った。
「信じない」ハジブは言った。
「だが話を聞いた」
「聞くことと信じることは別だ」ハジブは静かに言った。「ただ」
「ただ」
「あの男は、子供を傷つけないと言ったとき、少しだけ目が動いた」
「嘘をついていたのか」
「逆だ」ハジブは言った。「本当のことを言っている人間の目の動き方だった。本当のことを言い慣れていない人間の、本当を言ったときの目だった」
ヤスフはそれを聞いた。
扉の向こうから音がした。
小さな音だった。足音だった。近づいてくる足音で、しかし音が小さかった。音を立てない歩き方をしているのに、近いから聞こえる足音だった。
扉が開いた。
煙子だった。
板を持っていなかった。両手が空だった。旅の最初から、片時も手放さなかった板が、なかった。顔は落ち着いていた。疲れていたが、終わった者の顔をしていた。やるべきことをやり終えた者の、静かな顔だった。
煙子はヤスフを見た。
それから板がないことに気づいたような顔をヤスフがしたからだろう、何かを言った。
「板は置いてきた、と言っている」ハジブが通訳した。ザイナブがいないのに、ハジブが通訳した。この男が分かっていたことが、また一つ増えた。
「記録と一緒に置いてきた」とハジブは続けた。「板は地図ではなく鍵だったから、記録の場所に戻すべきものだった、と」
ヤスフは煙子を見た。
煙子は手を下ろしたまま立っていた。板がない分、軽くなったようにも見えた。しかし軽くなったのは重さだけではないような気がした。長い間持ち続けていたものを、正しい場所に戻した者の軽さだった。
「マンスールが来た」とヤスフは言った。
煙子は驚かなかった。知っていたような顔だった。
「話をしに来た。あんたを連れていくように頼まれていると言っている。あんたを傷つけないとも言っている」
ハジブが通訳した。
煙子は少しの間黙った。
それから何かを言った。短かった。
「会う、と言っている」ハジブは言った。
「いいのか」
煙子はヤスフを見た。それから頷いた。今まで見てきた中で、最もはっきりした頷き方だった。迷いが一粒もない頷き方だった。板を置いてきた後の煙子は、何かが決まった子供の顔をしていた。
三人で桟橋へ戻った。
マンスールはそこにいた。護衛も動いていなかった。約束を守っていた。
煙子はマンスールの前で止まった。
二人は向き合った。マンスールは煙子を見下ろした。煙子はマンスールを見上げた。しばらく、何もない時間があった。
それからマンスールが膝を折った。
地面に膝をついた。煙子と目線の高さを合わせた。そして何かを言った。
煙子の目が、変わった。
ヤスフにはマンスールの言葉が分からなかった。しかし煙子の目の変わり方で、何かが伝わってきた。知っている言語で、知っている何かを言われた者の目の変わり方だった。
煙子が答えた。
マンスールは頷いた。また何かを言った。今度は長かった。煙子は聞いた。聞きながら、一度だけ目を閉じた。開いたとき、また別の顔をしていた。
「何を話しているか分かるか」とヤスフはハジブに小声で言った。
「少しだけ」ハジブは言った。「マンスールは、この子供の王国の言葉を知っている」
「なぜ知っている」
「分からん」ハジブは言った。「ただ」
「ただ」
「マンスールに頼んだ者は、この子供の王国の人間だ」ハジブは静かに言った。「消えた王国から、消える前に出た者がいる。その者が、子供を迎えに来るようにマンスールに頼んだ」
ヤスフは煙子を見た。
煙子はマンスールの話を聞き終えて、ヤスフを見た。その目が、この旅で初めて見る動き方をした。記録する目でもなく、確かめる目でもなく、選んでいる目だった。
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