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第三十一話 ジェイドの捜索(三)

着いたのは、巨木の森から、5キロ離れた大きな河原の近くだった。後ろで猟犬たちを引き連れた騎士団たちが手を振っている。丸い石がゴロゴロしている河原を歩いて、マーベルと合流した。


「俺たちのわんこたちを褒めてくれよ。こんな小さな水晶玉を見つけてくれたんだからよ」


若い騎士がニコリと微笑む。だが、その水晶玉に血の跡が少しこびりついているのを見て、ダグラスは眉を歪めた。


「君達、本当によくやってくれたよ。お礼に干し肉をあげよう」


ダグラスはマジックポーチから干し肉を三枚取り出すと、3匹の犬たちは我先にと、干し肉を美味しそうに平らげた。ワシャワシャと頭を撫でると、ちぎれるぐらいにしっぽを振った。


「サエルド、さっそく復元映写機を回してくれ」


「分かった。任せろ。多分距離的にここらあたりで一泊したはずだから、河原付近を重点に時間を少しずらしてと――」


すると、復元映写機にジェイドの映像が映った。


ジェイドは焚き木の前で何やら魔法陣を展開したかと思えば、その中から弱々しい小さな火の玉を出してきた。


「ぷふっ!見ろよ、あの子。あんな可愛い火の玉を出しているぞ!」


若い騎士が微笑ましく笑う。


「いや、あの子は水属性だから、本来は火を使えない。多分、属性変換魔法陣を使って、水属性を火の属性に変えたんだろう。意外と高度な技だぞ?」


サエルドが興奮して解説をする。


「このジェイドって子は、魔法学の教育を受けた貴族の子供なのか?」


マーベルはダグラスに尋ねる。


「いや、本人はビクターのせいで今までの記憶を全て無くしているんだ。住んでいた場所も両親の顔すら覚えていないと言っていた」


「それなのに魔法の知識だけは記憶に残っているんだな。不思議な子だ」


サエルドは時を早回しをしてジェイドの動向に注目をした。


映像はすでに夕暮れになり、ジェイドは自分が焼いた魚を亜空間収納に入れて、移動の準備をしていた。


足には魔法で水の玉を取り付けている。靴代わりのつもりだろう。


「思ったより逞しいな。サバイバル慣れでもしているのか?」


若い騎士が感心して映像を見入った。


「亜空間収納を自分の力で構築するなんてやっぱりそれなりの教育を受けていないとできないよ。やはり貴族の子供というのは確定だな」


サエルドが感心している。


「しかし水属性の貴族などこの国では聞いたことがない。やっぱりジェイドは他国の貴族かもしれないな」


マーベルは腕を組んで唸った。


「あの小さい子をビクターはどこで誘拐したんだ?」


マーベルがダグラスに尋ねる。


「ビクターは指示しただけで何も知らないと言うんだ。ジェイドを誘拐した実行犯もまだ捕まっていない」


ダグラスは首を横に振った。


ジェイドが移動したので、私たちもさっそく森の中へ入ることにした。復元映写機の映像を見ながら、ジェイドが歩いた軌跡を追う。


暫くすると、ジェイドは何やら小さな雛鳥と遭遇した。逃げた雛鳥をジェイドは必死に追いかける。


ダグラス達もそれに続いた。


鬱蒼とした森を抜け、広い高原を横切り、崩れた崖下へと辿り着いた。雛鳥は、大きな岩と岩の隙間に逃げ込むと、ジェイドは躊躇することなく同じように隙間に入っていってしまった。


「ジェイドはそんなに雛鳥を食べたかったのか?」


「ふふっ、あの焼き魚だけでは足りなかったのかもしれないな」


マーベルが笑うとダグラスもつられて、フフッと笑った。なんだかジェイドが逞しく思えたのだ。


ダグラス達は少し離れた所で映像を早送りにすることにした。


すると突然、岩の隙間から強烈な光が漏れ出したのだ。


「なっ…何があったんだ!!」


ダグラス達が映像に注目していると、1羽のシルヴァンイーグルが穴の中から出て来て、大空を飛び立っていった。これにはダグラス達も驚きを隠しきれない。


「「???」」


「なに……?まさか、さっきの雛鳥がいきなり成鳥になったわけではあるまいな?」


「まさか。……でも、さっぱり分からん。もしかすると、あの岩は元々シルヴァンイーグルの住処で、ジェイドが来たから逃げたとか?」


「シルヴァンイーグルは、普通、高い崖の岩場か、高い木の上にしか巣を作らないのだが……」


しかし、次に映る物体を見てサエルドが驚愕した。


「おい見ろ、マッドウルフだ!!」


全員が息を呑んで、その映像に注目した。


映像には岩場に8頭の灰色のマッドウルフが唸りながら、岩の隙間をうろうろとしていたのだ。


そのうちの一頭は岩の隙間から手を出し、もう一頭は岩の隙間に穴を掘っている。


「ジェイドがマッドウルフに狙われた!!」


ダグラスは途端に頭を抱えてしゃがみ込んだ。ダグラスはすぐにジェイドの無残な死を想像した。


「馬鹿、ダグラス!!しっかりしろ。よく画像を見るんだ!!」


1頭のマッドウルフが水の玉に顔を突っ込まれ、暴れ回っている。息ができない様子だ。


「ジェイドはちゃんと反撃をしている!!ダグラス、しっかり見ろ!!」


岩の隙間に手を出していたもう1頭も、前足を怪我した様子で暴れ回っていた。


「夕暮れ時だから、映像は見えにくいが、ジェイドが頑張っているのが分かる」


だが、マッドウルフは狡猾だ。ジェイドがなかなか出てこないと読んだのか、二頭のマッドウルフが崖から岩を落としてきた。


「マッドウルフは普通の狼よりも知能が高いんだ。そしてしつこく獲物を追いかけ回すとも言われている」


すると、大岩の隙間から出てきたジェイドは、全力でこちらに向かって猛烈に走ってきた。


「ジェイド!!」


ダグラスは思わず叫んだ。一瞬本当に岩の隙間から出てきたのかと思った。映像は過去のものなのに。


マッドウルフ達もジェイドを追いかける。映像はここで途切れた。


「いったん来た道を戻ってみよう。ジェイドは森の方面へ走っていった」


サエルドは手持ちの映写機を発動させながら、ジェイドのあとを追っていく。


映像では遠くでジェイドを狙うマッドウルフ達が、次々と弾き飛ばされているのを確認した。


「ジェイドォ――!!逃げるんだ!!!」


映像に向かって、ダグラスは誰よりも大きい声で応援する。


「逃げながら、魔法防御をしている。魔力量大丈夫なのか?」


サエルドは歩きながら呟く。


すると突然、ジェイドは派手に転んだ。マッドウルフ達は、つかさずジェイドに飛びかかる。映像は群がるマッドウルフの尻尾しか見えない。


「ジェイドォォォーーー!!!」


ダグラスが半狂乱でサエルドから無理やり復元映写機を取り上げると、乱暴に揺さぶった。


「ダグラス!!いい加減、壊れるからやめろ!!」


マーブルと数名の騎士たちがダグラスを止めに入り、復元映写機を取り上げた。


取り乱し、息を荒くさせたダグラスは、恐怖心と呵責の念で頭がおかしくなりそうだった。


「とりあえず、お前さんはここにいろ。俺たちが近くで確認するから」


「ああ……、ジェイドっ!!俺は、お前を――」


うつ伏せになるダグラスをよそに、ほかの皆は映像を注意深く凝視した。映像に映っているのは、マッドウルフ達が鼻を高く上げて匂いを確認している様子だけだった。しかも、そこにはジェイドの姿がない。そして、すぐさまマッドウルフ達は森へと走っていった。


「「???」」


「ジェイドの姿もないし、血が飛び散った形跡もない。まさかあの場で転移魔法を?」

「えっ、だったらあの子は無事なのか?」


涙目のダグラスが顔を上げた。


サエルドとマーベル、そのほかの騎士たちは話し合いを始めた。


「転移魔法と言ったら、例え魔法円陣を構築する知識があったとしても、上級魔法使いの魔力量じゃないと使えないよ?」


「でも、姿がないということはそういうことじゃないのか?」


「透明になる魔法はもっと高度だし、匂いでバレるからね。やっぱり転移魔法を使ったに違いない」


サエルドは頭を抱えた。


「転移魔法を使われてしまったら、打つ手がないな」


すると、一人の騎士が口を開いた。


「さっきの映像を見て思ったのですが、穴から出てきたとき、ジェイド君のブレスレットはまだ壊れていませんでしたね」


他の騎士たちも顔を見合わせた。


「さっき、水晶が落ちていた場所をもう一度、映像に映してみれば分かるのでは?」


「よし。さっきの河原に戻ってみよう」


サエルドは地面に座り込んだダグラスに手を差し伸べた。

「先輩、しっかりしてください。ジェイド君はきっと生きているはずです」


「そうだな……。取り乱してしまってすまん」


ダグラスはサエルドの手を握ると、重たい体をなんとか立ち上がらせた。


****


ダグラス達は、先ほどの河原へと戻ってきた。


水晶のブレスレットが落ちていたのは、川から少し近い場所である。


早速、サエルドが復元映写機を作動させ、時間調整を始めた。


映像では辺りはすっかり夜になり、満月の明かりでなんとかジェイドを確認できた。


「ちょっと見えにくいな……」

「そこは我慢してください!!」


サエルドがイラっとして答える。


ジェイドの白いシャツが月明かりで薄っすら浮いていた。よく見るとジェイドは既に左腕を怪我しており、そこから出血しているように見えた。


「「!!!」」


怪我を負う身でありながら、一頭のマッドウルフと対峙しているのだ。


「ジェイド、追い詰められたな」

「……ジェイド」


ジェイドの右腕が青白い光を放つと、マッドウルフもジェイドに向かって走り出した。ジェイドの姿が一瞬消えたかと思えば、マッドウルフの腹部に右ストレートを打ち込んでいたのだ。


「早っ!!」

サエルドが目を見開いた。


足場が悪いのか、殴った反動でジェイドは倒れ、対するマッドウルフは二メートル先まで吹き飛ばされた。脇腹を強打したマッドウルフは痙攣でもしたかのように震えている。


「「おおおぉーーー!!!」」


ここにいる者は皆、感嘆した。あの小さな男の子が自分よりも一回り二回りもする大きさの獣に追いかけ回された後、一矢報いたからだ。


だが、その安堵感もすぐに消え去った。なぜなら、森の奥からもう一頭のマッドウルフがゆっくりと現れたからだ。


「……おいおい、もう一頭出てきたぞ。マジでヤバいぞ!!」


サエルドは、焦る声を滲ませた。


ジェイドは左腕を庇い、足を引きずりながらも急いで夜の川へと入っていく。


(無茶な!!川を渡るつもりだ……)


「大怪我をしているのに川を渡るなんて無茶な!!」

「だが、このままだとマッドウルフにやられてしまう」


騎士達がざわめくのをダグラスは握り拳を震わせて、黙って耐えていた。


(ジェイド……)


復元映写機の画像をじっと見ていたが、映像に映るジェイドは川の中央付近で体勢が崩れると、川へ流されてしまった。


「急いで川下を捜索しなくては!!」


ダグラスは立ち上がった。ダグラスの腕をマーベルが掴み、首を横に振った。


他の騎士たちも浮かない表情をしている。


「ダグラス、事実のみを伝える。この川の下流に『マリベラの滝』という20メートル超えの滝がある。あの状況で滝に落ちたとしたのなら、ひとたまりもない。生き残るのは難しいだろう」


「それは――」


「我々が協力するのはあと一日だけだ。酷なことを言うようだが、これからは遺体捜査になることを覚悟してくれ」


鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。


「遺体…捜索……」


呆然とするダグラスの肩を叩き、マーベルは、ぼそりと呟いた。


「もう夕暮れも近い。今日はここで野宿だ」


****


翌日、ダグラス達は『マリベラの滝』付近を捜したが、ジェイドを見つけることが出来なかった。


復元映像機でジェイドの姿を映すことができたのは、ジェイドが枯れ木に寄りかかって滝に落ちる寸前の映像だけだった。


川下の方を夕暮れまで捜索したものの、なんの成果もあげられないまま、騎士団達の捜索は打ち切るしかなかった。


30分後に次の回を投稿します。ぜひ読んでくれたらうれしいです。(•‿•)

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