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第二十六話 指輪を探して

「レイア!!」


ダグラスは、階段を駆け上がるとレイアを抱きしめた。


「お前…、今の話。聞いていたのか?」


「……お父様のばか、ばか、ばかぁ〜うわぁぁあああーーん!!」


レイアはダグラスの服を引っ張って泣き崩れた。


「うっ、ううっ、……私、ずっとつらかったの、寂しかったの!!お母様は浮気して私を捨てたとばっかりに!!!」


ダグラスは胸の奥がズキンと痛んだ。


「まさか、アンジェリカが浮気などするわけないじゃないか!それにお前は、捨てられたんじゃない!!」


「うぅっ……お母様が、私の前から居なくなったのは、さっき話していた歌劇女優の夢を叶えるためなの?」


ダグラスは小さく震える娘を強く抱きしめた。


「あぁ、そうだよ。しかし、アンジェリカは君を深く愛していた。だから5年もこの家から出られなかったんだ。長い間、彼女は葛藤していたと思う。君と別れるのはつらい決断だったに違いない。でも最終的に彼女はたった一度しかない人生に自分の夢を賭けたんだよ」


「うっ、……ううっ、あの置き手紙、『自分が輝ける場所に行ってくる』って書いたのは、舞台の上のことだったの?」


「……アンジェリカからの置き手紙で口止めをされていたんだ。本物の歌劇女優になるまで」


「きゃあ!!お母様の指輪!!!」


レイアは悲鳴を上げると、階段を駆け上がった。


自分の部屋へ走った彼女は、這いつくばって焦るように何かを探し始めた。


ひび割れた姿鏡。ひっくり返った宝石箱。

破り捨てられ、ぐしゃぐしゃに散乱した羊皮紙。

床に捨てられた中綿が飛び出したぬいぐるみは、ダグラスが昔レイアにプレゼントしたものだ。


この部屋の惨状を見て、レイアの荒れた心の中を覗き見たような気がした。


ダグラスは足元に落ちている羊皮紙を拾った。そこには、今にも泣きそうなアンジェリカの顔が描かれていた。レイアは5歳の時にアンジェリカと別れた。朧げな記憶を頼りに母親の顔を描いたのだろうか。


「レイア…レイア……レイア!!!」


ダグラスは、思わず彼女の肩を抱き寄せる。しかしレイアは泣きじゃくりながら暴れ出した。


「ヤダヤダヤダ、お父様。ちょっと待って!!どうしよう。ないの……お母様の瞳に似たあの指輪が…どうしよう……私、私、お母様の指輪を失くしちゃった!!!」


こんな風に取り乱した娘を今までみたことがない。


「大丈夫だ!!俺が見つけてやる。どんな指輪なんだ?」


「うっ…うぅっ……エメラルドの指輪。一番の宝物をあげるってくれたのよ……ううっ…」


「なんだって!?」


それはダグラスがアンジェリカに告白した時にプレゼントをした最初の指輪だ。



『ダグラス、ありがとう。私の一番の宝物にするからね』


モカ色の美しい長い髪をなびかせ、背すじを伸ばして風上に向いて歩くアンジェリカ。春の光を浴びた若葉のような瞳を持つ、春の女神のような女性。



「俺が探してやるから。その指輪は昔、俺が一番最初にアンジェリカにプレゼントをしたやつだから覚えている」


ダグラスは杖を取り出すと瞼を閉じた。


「記憶感知【イメージング・サーチ】」


ダグラスを中心に魔力が波紋のように広がり、部屋の中を探っていく。


ダグラスのすぐ近くに指輪のイメージが脳内に返ってきた。


つかさず彼はしゃがみ込み、ベッドの下を覗き込む。


「ビンゴ。あったぞ!」


彼の杖の先が対象物を捕らえた。


「物質引力【マター・アトラクション】」


すると、磁石のように指輪は引っ張られ、ダグラスの手の中に飛び込んできた。それを娘に手渡す。


「あった!!良かったぁ〜。お母様、疑ったりしてごめんなさい!!」


レイアは涙を流しながら、エメラルドの指輪にキスをした。


「……実はお前の誕生日にアンジェリカがやっている舞台を観に王都まで連れて行こうかと計画を立ててはいたんだ。その時に全てを打ち明けようと……しかし、先にこんな形で知られてしまうとは…すまない。レイア」


「ううん。私こそ、ごめんなさい。私、クラスの子から噂話を聞いて……あの子がお母様の不倫の子だと知ってお母様に絶望したの」


「アンジェリカの子供は、お前一人だけだ。彼女は再婚もしていないし、子供もいない」


すると、彼女は頭を抱えて狼狽えた。


「やだ。どうしよう……私!!」


「どうした?」


レイアはダグラスにすがるように訴えた。


「ねぇ、お父様、お願い。あの子を探して。私……私……あの子にひどいことを言ってこの家から追い出してしまったの!!」


ダグラスは体中の血の気が引いた。


「レイア、お前、それはいつだ?いつのことだ!!」


すると、部屋の入り口でトーマスが堅い表情で答えた。


「わたくしがダグラス様に魔法通信を送った日からでございます。わたくしもジェイド君に出ていってもらうように伝えました」


「トーマス!!なんて酷なことを!!!」


「レイア様は錯乱状態の中、ジェイド君を外に追いやりました。彼は……彼は靴も履かずに外へ飛び出していきました」


トーマスはジェイドの小さな革靴をダグラスに見せた。その瞬間、森の中を彷徨うジェイドの姿が脳裏に現れた。


「攻めるのはレイア様ではなく、わたくしだけにおっしゃってください。わたくしはジェイド君の経緯を聞いた上で、出ていくよう促したわけですから」


「なっ、なんて馬鹿なことを!!君も噂に踊らされたのか!?」


ダグラスは立ち上がってトーマスの胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「いいえ。はじめから不倫の子だとは思ってはいませんでした。いませんでしたが、レイアお嬢様の為なら追い出したほうがいいと判断したまでです」


「はっ!!お前の忠義には感謝するが、判断を誤ったな」

「いいえ。そうするしかなかったのです」


レイアは、ダグラスのズボンの裾にしがみついた。


「お父様。どうしよう……。あの子は、何も悪くはなかった。私があの子に嫉妬したときも、あの子は私の風魔法の演習テストに協力してくれた。なのに、私……優しくされた分だけ、余計に腹が立ったの……ごめんなさい。本当にごめんなさい。お父様、ジェイドを見つけて、私に謝らせて……」


「分かった。できるだけ早くジェイドを見つけ出そう」


レイアをトーマスとマーサに任せて、ダグラスは小雨が降るなか、傘をさして家を出た。


来週土曜日の18時に投稿します!

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― 新着の感想 ―
うわぁ……ダグラス……嫁に捨てられてしまってるんですね。 旦那から貰った一番の宝物を持っていかずに置いていった時点で、愛の終わりは明白な気がします。 今まで知らなかったダグラスにちょっと同情……。 (…
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