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第二十四話 ダグラスの出張

今週二週間、日勤で自宅に帰れると思ったのに、カルロス隊長から招集がかかり、魔法城の会議室に呼ばれた。


「あのビクターの一味と思われるものが、アスベルク半島にいるという情報を掴んだ。そこでは、隣国であるオーレリア王国から幼い猫族が大量に攫われ、わが国に不法入国されているという。ビクターの一味である闇ブローカーは2歳〜3歳前後の猫族の魔核を原材料に【媚香薬】を製造し、貴族の間で闇取引が行われている情報を掴んだ」


猫族とは、獣族の国、オーレリア王国の西南部の海岸付近で暮らしている一族のことである。二足歩行の猫で、通常の猫よりも体が大きい。


成体の猫は、一般男性と変わらないぐらいの大きさである。赤ん坊の時は普通の猫と変わらないが、2〜3歳前後になると、体内に初めて魔核が生成されるようになり、ようやく二足歩行ができるようになる。


生成したての魔核は魔力の純度が高い。その魔核を取られた猫族は一般の猫に成り下がり、二足歩行も言語も話せなくなるという。


「うわっ、自分で言うのもなんですけど、人族恐ろしいっすね!!」

「猫族……可愛いのに。同じ人族として情けない」

「早く、黒幕見つけてぶっ潰そうぜ!!」


アレン、レオ、ジェイクの三人衆は怒り心頭である。なぜなら、この三人は無類の動物好きなのだ。他の隊員達も三人に同意して頷いている。


カルロス隊長は椅子の背もたれに寄りかかると、深いため息をついた。


「ただでさえカンタルスの国境付近のバレニア地域では紛争が絶えないというのに、この事件で更に火に油を注ぐ結果になる。我々バーモンド国は、猫族誘拐に関与していないことが伝わればよいが、向こうからしたら、国など関係なく人族全般憎い対象になるだろうな」


「獣族の身体能力は本当に恐ろしいからな。人族なんてひとたまりもないぞ」


サムズ隊員は右ひじの傷を擦りながら、実感を込めて話す。彼は以前、人買いの獣族とやり合って傷を負った経験があるからだ。


「でも、隊長。ビクターの後ろにいる黒幕は、もうすでに分かっているのか?」


ダグラスはカルロスに尋ねた。


「ああ。ビクターの背後にいる黒幕は、ノーデルタ諸島のアーモルド公爵だ」


ノーデルタ諸島はバーモント王国から西南にある島国で、大きさはバーモンド国の三分の一にあたる。他にも5つの離島を所有する島国だ。


「アーモルド公爵……何度か外遊で我が王都に来ている貴族だな。貴族新聞で見た覚えがある」


「ノーデルダ島では改革派で有名な貴族らしい。あの島では王党派と改革派の貴族がバチバチにやり合っていて、政権交代の計画が進んでいるとか」


「ノーデルタ王国の政権交代か!!確か、あの国の国王様は強固な保守派だったはず……」


レオが顎を撫でながら呟いた。


「国王の陰で王党派の貴族を懐柔するためにもアーモルド公爵は、資金稼ぎをしなければならなかったのだろう。ビクターはその為に駆り出されていたみたいだ。要は活動資金を稼ぎたかったんだな。アスベルク領主からも協力願いが受理された」


「かぁ~~!!だからといって、我が国を巻き込むなんてけしからん!!せっかく今日、彼女とデートだったのにドタキャンしたから怒られたじゃん~」


「アレン。それ本気で言っているのか?なんか、がっかりしたぜ」


ジェイクは首を横に振った。


「がっかりってどういう意味っすか?」


「猫族の幼い子猫ちゃんがひどい目に遭っているんだぜ?最初に出た言葉がデートの愚痴かよ」


「まあまあ、アレンの怒りも分からなくもないさ。俺だってせっかく家にジェイドがいるのに、双剣の修行ができないし、レイアの風魔法の実技のテストにも付き合ってあげられやしないし……」


「そうか、ジェイドはダグラスさん宅に来ているのですね」


「ああ、あの子も俺といることで少しずつだけど、子供っぽい面を見せてくれるよ。この前なんか一緒に風呂に入ってさ。楽しかったな。俺、親子風呂とか夢だったからな。レイアぐらいの年頃になると、それも難しいだろ?」


「確かに、男親としては年頃の娘の扱いに困ることはたくさんある。分かるよ、ダグラス」


二人の娘を持つシングルファーザーのサムズもダグラスの肩を軽く叩いて頷いた。


「なんだ、ダグラス副隊長も、結構いいパパしてるっすね」


「お前たちも早く結婚して、子供を作れよ。それで、父の会のメンバーを増やそうぜ。特に30過ぎても独身のカルロスには、耳の痛い話だろうがな」


金色の長い髪が少し揺れると、鋭い視線でダグラスを睨んだ。


「ゴホン。話が脱線しているぞ。今はアスべルク半島の港で幼い猫族を救出するのが先決だろ?」


「「はい。すみません。隊長!!」」


「では、アスべルク半島は遠いからな。悪いネズミたちを一網打尽にするぞ!!取引は四日後だ。ここから遠い場所にあるが、二週間の出張勤務と思え。分かったな?」


「「了解!!」」


****


――ダグラスが、アスベルクに出張してから五日目のことだった。トーマスから魔法通信紙が届いていた。


『レイアお嬢様が学校にて魔力暴走を起しました。安定剤を処方し、安静にしていますが、著しく情緒が不安定になる恐れあり。できるだけご帰還していただきたい』


その通信紙が灰のように跡形もなく消え去ると、ダグラスは動揺した。


(今、うちの部隊は人手が足りなくて忙しい。そんな時に自分だけが自宅に帰るわけにはいかない。だが、レイアが……)


「にっ、にゃあぁーー!!人、怖いのにゃ、おっ、お家に帰りたいにゃあぁーー!!!」


昨日から救出作戦を行っているのだが、救出された幼い猫族が予想以上に数が多く、他の港にもまだ半数以上の猫族が囚われの身となっている。


(その子たちを一刻も早く救出しなくては。今頃、彼らの親御さんが苦しんでいることだろう)


ダグラスは魔法通信紙に今の現状を書いてトーマスに送った。


『今は、任務決行中で帰ることが難しい。この仕事はしばらくかかる』


ダグラスは、ポケットからレイアが幼いころに書いてくれた【パパの絵】を取り出した。折った端から破けてボロボロになっている。


「レイア……父さんが来るまで辛抱するんだぞ……」


****


――出張から11日目。


全ての猫族の救出が無事に終了した。まだ媚香薬の販路を摘発したり、取り調べなどが山ほど残っていたが、やはり、レイアのことが気になっていたので、カルロスに事情を話し相談をした。


「……そうか。そういうことなら、こちらは大丈夫だ。レイアちゃんが落ち着くまで傍に居てやれ」


「悪い、カルロス。ただでさえ忙しいのに本当に済まない。この埋め合わせは必ずするから!」


「ダグラス、これを使え」


渡されたのは、長距離用の空間転移スクロールだった。座標を書けばそこに行ける優れもので、1000キロ以内ならどこへでも行ける大変高価なスクロールだ。


「カルロス、悪い。遠慮なく使わせてもらうぞ!」

「友人の為だ。構わんさ」


こうして、ダグラスは焦る気持ちを抑え、長距離用の空間転移スクロールに自宅の座標を杖で書いてから思い切りそれを破いた。


ダグラスの足元に黄金色の魔法陣が浮かび上がると、下から金粉のような光が溢れ出た。そこから光のつむじ風が起こると、ダグラスは姿を消した。


土曜日18時に投稿します

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― 新着の感想 ―
おぉう、猫が虐待されているなんて……。 こういう事情ならダグラスが帰ってこなかったのも仕方ないですね。 (。ŏ﹏ŏ) 転移スクロールはめちゃ便利そう。 これなら長距離の出張も怖くないですね〜。 (・…
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