第十七話 魔法演習の練習と成果
夕食の時間。ダイニングテーブルに、4人が集まった。昨日と打って変わって静かな夕食だった。
今日の夕食はバケットチーズに、白身魚の香草焼きにキノコのソテー。ひよこ豆のスープだ。キャロットサラダもある。
レイアは食が進まないのか、食べるのが遅い。
『私にはないのに、あなたにだけズルいわ……』
(あの言葉が、頭から離れない)
ジェイドは、黙々とひよこ豆のスープを食べる。マーサもトーマスも一言も話さない。
まるでロウソクの火が消えたような食卓。
「あの……レイアさん」
「……」
「もし、良かったら、俺が風魔法の訓練に付き合うよ」
「!!!」
やっと、レイアがジェイドに目を向けた。
「なんのつもりなの?」
「なんのって……」
「ギフトを持ってるからって、それが何なのよ!!」
すると、ジェイドの目つきが鋭くなった。
「ギフトは知識に関係ない。知識は積み重ね。予習復習は当たり前の努力だ」
「当たり前って……」
「レイアさんは毎日、風魔法の特訓はしてるの?」
「……」
(毎日はやってないみたいだな……)
ジェイドがシリウスだった頃。サージス魔法学園で四年間1位をキープしていた。これが魔法学園に入学する時の条件だった。1位を守らなければ退学を余儀なくされる。
周りの人間は天才だとか、持って生まれた才能だとか言うけど、決してそうじゃない。シリウスは血反吐が出るほどの努力を重ね、勉学に励んでいた。
ろくに努力もしてないのに、できる奴を見ては、羨ましいとか、ズルいだとか口だけ言う怠け者は嫌いだった。
「魔法学の基礎知識は学んでいるよね?」
「ええ。学んでいるわ」
「風の魔法の基礎についても?」
「もちろんよ!バカにしてるの?」
「じゃあ、風は何から生まれる?」
「それは空気よ!!」
「……正解は気圧だ。高気圧から低気圧へ流れる気圧の差が風を生み出す。空気という答えが出た時点で、風魔法の原理を全く理解していない。学校で何を学んでいるんだ?」
すると、レイアの頬が真っ赤になり、スプーンを握った拳が震えだす。レイアはジェイドを睨みつけた。
「あっ、あんた一体何様のつもりよ?」
「悔しいだろ?こんな年下に言われて」
「当たり前よ!悔しいに決まっているじゃない!!」
「悔しかったら、今からでも風魔法の基礎本を読み返すんだ。風の根幹を知れば、学校の課題の浮遊魔法のヒントにもなる」
「はぁ!?浮遊魔法も使えないくせに!!」
レイアの言葉にジェイドの口角が微かに上がった。
「できるよ。異属性の操作は魔力消費が激しいうえに、効率が悪い。だから、ほとんどの人は風の魔石がついた魔道具を使うのだけどね」
ジェイドは、右手にフライパンほどの大きさの魔法円陣を作り出した。
「風属性じゃなくても、属性変換魔法、魔力制御、気圧調整魔法の3つを組み込んだ魔法円陣なら、俺の魔力でも浮遊させることができる」
ジェイドは、布巾を浮遊させると、ダイニングの周りをぐるりと一周させた。
「ジェイド君、お行儀が悪いですよ。それに今は食事中です。布巾を振り回すのはやめてください」
マーサは、ジェイドを睨みつけた。トーマスと、レイアは呆気にとられた顔でジェイドを見つめている。
「失礼しました」
ジェイドは、布巾を元の場所に戻した。
「レイアさん、どうですか?俺と風魔法の特訓でもしますか?」
「……考えておくわ」
レイアはそっぽを向いた。
(ふふっ、負けず嫌いは誰かさんそっくりだな)
ジェイドは懐かしい人を思い出していた。
❇❇❇❇
その日を境に、レイアとジェイドは、リビングで魔法書を広げ、風魔法について基本のおさらいをした。
レイアは元来、負けず嫌いなんだろう。本にかじりついては、ジェイドに質問するを繰り返した。
一日目、二日目、三日目を通して、勉強時間も増えてきた。レイアが苦手だった浮遊魔法も、密度の高い訓練を通して、少しずつだが、浮遊時間が伸びてきた。
分からなかったことが分かる喜びに、レイアの瞳にも光が差し、やがてジェイドにほほ笑みを見せるようになった。
――四日目。今日はレイアの実技試験の日。ジェイドとレイアは、朝から庭で風魔法の練習をしていた。
「うわぁ〜〜、もう1時間よ!!1時間も一人で布巾を浮かすことができたわ」
レイアは、布巾を片手で振り回し、小躍りをした。
「細く長く魔力をコントロールし続ければ、負担にならない程度に常時魔法が可能になる。上空の風の力を上手く利用し、実践的に特訓すれば上達もかなり早くなる」
「私は魔力の出力がまばらだったから、よくお父様に指摘されていたのよね。高窓の窓ふきをやりなさいって」
「でも副隊長の言うとおりだよ。常時魔法をやり続けたら、魔力コントロールがもっと上手くなる。そのうち重いものだって運べるようになるよ。これで実技試験は、バッチリだね」
レイアは、モジモジしながらジェイドの前に立つ。固く手を組み、ジェイドに頭を下げた。
「……ジェイド。この間は、意地悪言ってごめんなさい。私、あなたに嫉妬してたの。あなたがお父様と一緒にいるところを見てられなくて、つい……」
「いいんだよ。嫉妬するのも無理ないさ。副隊長は、仕事上あまり家にいる時間が少なかったんだろ?それを俺が間に割り込んで邪魔をしたんだから。返ってレイアさんに悪いことをしたと思っている」
「……ジェイド」
ジェイドは一度背伸びをすると、レイアの背中を軽く押した。
「さあ、マーサの美味しい朝ごはんを食べに行こう。腹が減っては戦はできぬって言うしね」
「ふふっ、それどこの言葉よ!」
「知らない。あはは!」
レイアとジェイドは、家の中へと入っていった。
❇❇❇❇
蒼穹の空に白い紙飛行機が飛ぶ。
木立のせせらぎ。忙しく鳴くセミの音。
爽やかな夏風が、レンガ造りの校舎を駆け抜ける。
照りつける太陽の下で、先生と生徒たちがグラウンドで、実技テストを行っていた。
レイアは、紙飛行機を胸に抱いて浮かれていた。
なぜなら、先ほどレイアは紙飛行機を青空に飛ばし、自由自在に操ることに成功したからだ。
浮遊魔法が上手くいって担任の先生とクラスの皆に褒められた。
「レイアさん。凄いわね、急に腕を上げたような感じがしたけど?」
「へへっ、先生、頑張ったんです。たくさん風魔法の復習をしてきましたから。私、頑張ればできることを知ったんです。だから、これからはもっと真剣に風魔法の勉強をします!」
「ふふふっ。そんなことを言ってくれるなんて、先生も嬉しいわ。元々レイアさんは魔力量は多い方だから、これからもっと伸びるわよ」
「はい!頑張ります」
「よぉ、レイア。ちょっといいか?」
横からカリオスが声をかけてきた。
カリオスは、私が何をしても口を挟んでくる、お節介なやつだ。村の男の子たちは、カリオスを中心にグループを作って遊んでいる。でも、レイアはそんな彼とあまり遊んだことはなかった。
レイアからしたら、同じE居住区に住むただの同級生。それだけの間柄だ。
「レイア。実はな、最近村でお前んちの噂が広まっているのを聞いたことあるか?」
「えっ、噂!?一体、何の?」
「お前んちに不倫の子供が来ているとか何とか……」
「へぇ?」
一瞬、無音状態になった。言葉が頭に入ってこない。しばらくして、カリオスにもう一度聞いてみる。
「ごめん。聞こえなかった。……もう一度言って」
「だから、今、家にいるだろ?お前の親父が連れてきた不倫の子が――」
レイアの心臓が激しく打ち鳴らす。体の底から震えが止まらない。
「ねぇ、何?不倫の子って。なんのことなの?ねぇ、誰と誰の不倫の子なのよ。説明しなさいよ!!!」
勢いよくカリオスを両手で突き飛ばし、地面に叩きつけた。カリオスにまたがり、胸ぐらを掴むレイア。魔力が沸々と湧き上がり、赤い髪が逆立って揺らめく。
レイアの周りに強風が渦巻き、グラウンドの土埃が宙を舞う。突然風に煽られる生徒たち。
「「キャーーッ!!」」
「喧嘩だ、喧嘩が始まったぞ!!」
「先生、レイアがカリオスを突き飛ばした~!!」
「おっ、おいっ!!……まずは落ち着け!!」
「早く言え。誰と誰の不倫の子供なんだぁ!?」
鼻筋に皺を寄せ、カリオスに向かって怒りを露わにする。
「うっ、前に……お前のお母さんは男と一緒に森を出て行っただろ?きっと、そいつらの子供だと噂が立っている!!」
レイアの力がぐにゃりと歪んだ。レイアの瞳に生気が失った。ふらりと立ち上がりカリオスから離れると、糸が切れたかのように体が弛緩し崩れ落ちた。
すると、いつの間にか強風がピタリと止み、土埃が弱まった。
(もう……もういい…………もう、嫌だぁ……)
膝をついたレイアは、バタリとグラウンドに倒れてしまった。
来週は日曜日になります。18時頃投稿します




