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第十五話 図書館の帰り道

ジェイドは、久々の図書館で水魔法の奥深さと難易度の高さを知ってしまった。パブロさんに頼んで、羊皮紙と羽根ペンを借りて、水魔法について分かったことを簡潔に書き写した。


まず、水魔法を発動するときに問題になること

1.常時、魔力コントロールの維持

2.水圧安定制御

3.瞬発的な魔力放出が大きい。

4.魔力の消費が激しい

5.集中力と持久力そして、体力。


固体の氷魔法や土魔法とは違って、液体でかつ流動的な水魔法は、かなり緻密な魔力コントロールが必要で常に集中力と持久力を要する。


火や風の魔力も確かに流動的で魔力コントロールと集中力が必要だが、質量は空気より軽い。それに比べて水魔法は水圧制御も考慮しなければいけない分、難易度が高い。


(下級レベルの俺に、双剣と水魔法の両立させることなんて不可能だ。だから、補助的な水属性の魔法陣を改めて考えておくほうがいいだろう)


水の拡散を防ぐ魔力拘束制御に加え、重力下でも形状を維持する水圧制御円陣を重ねる。さらに攻撃円陣を水属性に最適化すれば……成立するか?


「おい、ジェイド坊よ。そろそろ大雨が振りそうだぞ」


パブロの声でジェイドは、窓を見上げた。深い森の木がざわめいているのが一目でわかる。


「あっ。俺、急いで帰らなきゃ!」

ジェイドが立ち上がると、2冊の分厚い本を抱きしめた。


「パブロさんどうもありがとう。また来ますね!」

「あぁ、気をつけてな」


ジェイドは、図書館を出ると、石畳の小路を走り出した。森は朝よりも薄暗くなっていた。風も出てきたし、草の湿った匂いが強くなっている。


「はやく帰らないと、本が濡れてしまう」


すると、ジェイドの身体がぴたりと止まった。体が言うことをきかない。


「なっ!?」


足元をよく見ると、拘束魔法陣がうっすらとピンク色に光っているではないか。ジェイドは辺りを探った。


「誰だ、何の真似なんだ!!」

「よう、坊っちゃん」


右の方角から、茶髪の30過ぎたであろう男がこちらへ近寄ってきた。


「えっ!?あなたは、昨日の夕方、酒屋にいたおじさん?」

「よく覚えていたな。俺の名前は、ジムナム。お前さんに聞きたいことがあって、こうやって立ち止まってもらった」


その男の瞳には光もなく、無精ひげの顎を撫でながら、ヘラヘラとこちらに近づいてきた。お酒臭くて、とても嫌な感じがする。


「なんで普通に声をかけられないのですか?どうして、大の大人が子供を拘束しているのです?まともな大人がやることではない」


「ほう、随分大人びたガキだな」

「それで、どうしてこんな真似を?」

「お前さんが、ダグラス家に来た経緯を知りたい」


ジェイドは眉を寄せた。緊張で胸の鼓動が速くなる。


(こいつ、何言ってるんだ?)


「なぜそんなことが聞きたいんだ?」

「いや、単なる好奇心だよ」

「好奇心でも拘束はやり過ぎだろ!!」

「逃げられても困るからな。おじさんの好奇心を満たしてくれよ」


そのいやらしい顔つきを見て、ジェイドは身体の芯からブクブクと水が泡立つ感覚がした。


「ダグラス副隊長に言われたんだ。余計なことを話すなって」


「ダグラスには、本当に呆れるな。それで?レイアちゃんやマーサ達にもお前の出生を内緒にしているのか?やっぱり歪な家族関係だな。フフッ」


「……ダグラスさんの家族には関係ないだろ?なぜ、そこまで俺について聞きたがる?お前は何者だ!!」


(その前にこの拘束魔法陣を解かなくては。内側に向ける魔力の流れを反対側に変えるには……)


「魔力の流れを反転させよ【インバージョン・オブ・フォロー】」


足元のピンクの魔法陣の模様が上から書き換えられると、魔力の流れが相殺されて、パリンという音とともに魔法陣が弾け飛んだ。


「なっ!?」

「今だ!!」


ジェイドは、走り出した。


「流水の如く走れ!!【ストリーム・ランナー】」


ジェイドの足が青白く光りだすと、両足が軽くなり、濁流の上を滑らかに走る勢いで森を駆け抜けた。


胸の鼓動が激しく打ちつけて苦しい。


恐る恐る後ろを振り返る。どうやらジムナムは追ってくる様子はない。


勢いをそのままに、ダグラス家へたどり着くと、荒々しくドアを開け、すぐに中へ入った。ジェイドは力が抜けたようにその場でしゃがみ込んだ。


息が切れ、手には冷や汗を掻いている。ジェイドは胸を押さえつつ、落ち着かせるように深呼吸をした。


やがて外から雨の降る音が聞こえた。


「なんです、騒々しい」

マーサがキッチンからやって来ると、はっと目を見開いたあと、すぐに背を向けた。


「……ただいま帰りました」

「……お帰りなさいませ」


マーサの声に抑揚がない。どうしたんだろうか。


すると、リビングからトーマスがやってきた。

「どうしたんです?ジェイド君。そんなところでしゃがみ込んだりして」


ジェイドは息を呑み込むと、先程あった出来事をトーマスとマーサに話した。二人は顔を見合わせて、眉間にしわを寄せる。


マーサがジェイドに質問する。


「ジェイド君。まさか、あの男に余計なことを言ったりはしなかったでしょうね?」


「余計なこと?いいえ、話すことなんて何もありません。俺は何もやましいことがありませんから。ただ、あの男はしきりに俺がこの家に来た経緯を知りたがっていました。しかも、拘束魔法まで使って。一体、あの男は何者なんです?」


マーサは、首を横に振って頭を抱えた。代わりにトーマスが質問に答える。


「ただの下世話で僻み屋の嫌な男さ。あいつが何か言ってくるかもしれないが、決して真に受けるんじゃないぞ。あの男には用心するんだ。それよりもだ。ちょっとダイニングまで来てくれないか。大事な話がしたいんだ。マーサ、あったかいミルクでも用意してくれ。落ち着いて話ができるようにな」


マーサとトーマスの顔色があまり良くない。深刻な話だろうか……。


 ****


ジェイドとトーマスはテーブル席に座った。マーサはなぜか席を外していた。


木のカップに温かいミルクの熱が手の平に伝わる。ミルクの優しい香りで心を落ち着かせながら、窓を見上げた。


外は既に薄暗く、ガラス窓に雨が打ちつけていた。背の高い森が村を守っているので、激しい雨は滅多に降らないだろうが。


薄暗かったダイニングにランプの明かりが灯ると、心なしかほっとする。


「ジェイド君。君がダグラス様に連れられてここに来た経緯を知りたい。ダグラス様は、業務の一環でここに連れてきたといったが、それだけでは、君を預かる身として情報が足りなさすぎる。だから、教えて欲しいんだ」


胸の奥がズキンと痛んだ。ジェイドは少し視線を落として、自嘲するように笑った。


「ははっ……そうですよね。こんなどこの馬の骨かも分からない子供を預かるなんて、やっぱり不安ですよね」


「ふふふっ、どこの馬の骨かも分からないって……。君の話し方を聞いていたら、本当に五歳なのか疑いたくなるよ。中身だけ年を取っているのではないか?」


ジェイドの指がビクッと反応する。


「いやだなぁ~、正真正銘の五歳ですよ。それよりもここに来た経緯ですよね?トーマスさんを信じてお話しします。トーマスさんはダグラス副隊長の信頼のおける人だと思うから」


ジェイドは、自分が回帰した人間ということは省いて、ビクター大神官に誘拐された事や、自分がこれまでの記憶を無くしたこと、命が奪われそうになって、逃走し、偶然ダグラス達に保護されたことを話した。


ただ、カンタルス辺境大公の名前は伏せておいた。カンタルス辺境大公は、バーモント国王の従兄弟に当たる。各方面で影響力の強い男だからこそ秘密事項なのだ。ここで情報が漏洩でもしたら、ダグラス一家が危うくなる。


(それにまだ、俺のことを諦めていないかもしれない。あの人の間者がこの村を探し当てたら大変だ)


話し終えるとトーマスは考え込んだ。


「しかし、大神官がなぜ君のことを殺そうとしたんだ?」


「それは、……生贄だそうです」

「生贄だと!?」


「はい、何で俺が狙われたのか分かりませんが、死んだ息子を蘇らせるために、俺は殺されるところでした。隙を見て逃げ出したんです」


ジェイドは少し温くなったホットミルクをゆっくりと飲み干した。


トーマスの眉が少し下がった。

「君もいろいろと苦労したんだな。大変だったろう?」


「……はい。でも俺は自分の両親を探すために、いずれアクメリア公国を目指そうと思っています」


「……君は自分の記憶を失くしているのに、それでも両親を探しに行くのかい?」


「はい、アクメリア公国は水一族が住んでいると聞いたので、そこで両親を探すヒントになるかと思って行くのです。……俺は水属性だから」


「でも、本気で、一人で旅をする気かい?」


「ええ。でも、俺はまだ五歳だし、旅を始めたくても、冒険者ギルドの登録ができません。それまではどこかで小遣い稼ぎをしようと思ってます。ダグラス副部長には、今まで良くしてもらって感謝しています」


トーマスは両手を組んで考え込んだ。そして言葉を濁すように質問を続けた。


「……それから、ここにはいつまで滞在するつもりで?」


胸の奥がズキンと痛み、カップを両手で握りしめた。


「……そこは、ダグラス副隊長と相談してから、出て行こうと思ってます」


すると、トーマスから安堵のため息が漏れ、姿勢を崩した。


「そうか……それならいいんだ。それなら……」


ジェイドはトーマスの様子を見た後、空になった木のカップの底に視線を落とした。


「……すまない」

トーマスは小さな声で呟いた。


「いいえ。気にしないでください」


「だが、ダグラス様は急な任務が入って、この二週間は、この家に戻ってこれないそうだ」


「えっ!?二週間もですか?」


ジェイドは椅子の背もたれに、力なくもたれ掛かる。朝稽古を楽しみにしていたのに、ショックも大きい。


「ああ。だからこの2週間の間、できるだけ君には、家の中に居てもらいたいんだ。外に出れば、あのジムナムがまたちょっかいを出してくるかもしれないからな。いいかい、あの男には気を付けるんだ」


(こちらとしても、あの拘束男には会いたくない。家でゆっくりできるのなら、部屋にこもってひたすら水魔法や魔法円陣の構築の勉強をした方がまだマシだ)


「分かりました。俺は部屋に引きこもって、勉強をしたいと思います」


「勉強ね。それもいいだろう。それと、滞在期間中、五階の物置部屋を綺麗にしておいた。そこを自由に使ってくれ」


「トーマスさん、ご親切にありがとうございます。さっそく使わせていただきます」


ジェイドは気を取り直して立ち上がると、さっそく5階の物置部屋へ行ってみることにした。


読んで頂きありがとうございます。

来週の土曜日18時投稿します!

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― 新着の感想 ―
ジェイドとトーマスの情報交換回ですね。 怪しまれていた要素は多少払拭できたのかな? (´・ω・`) ダグラスが戻らないのなら暫く戦闘はお預けでしょうか。 強くなるのが待ち遠しいですよ。 (・∀・)
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