とにもかくにも腹は減る
黒魔獣の調査を二か月ほど進めるうち、分かったことがある。
やつら、かなり珍しいタイプの魔物だったということ。
それはどうやら王国の文献にもちらりと見られたんだか、そもそも全くないんだったか、とにかく研究者達が揃って首を傾げるような魔物だったわけである。
「なんだかな………」
俺は嫌な予感がして仕方がなかった。どうにも、俺達の現アジトの場所近辺に多く出没しているような気もしていたし。
「オヤジ、まだ少し待ってくれ。引っ越し先での話し合いがもう少しでまとまりそうなんだ」
「ああ。しっかりやれ」
次期団長候補のニールがオヤジと今後について話し合うのを見届けてから、俺とエレンは洞窟を出る。
「あと少しでここともお別れだね」
「そうだな」
まるで岸壁にアリの巣を掘ったような巨大な洞窟。この中に百人以上が生活をしています、と言われても、一応は信じられる見た目をしている。
立地的にも外敵に襲われにくく、というか近隣に畑や牧場まであるのだから、拠点としては申し分ないと思ったのだが………。
亡くなった星詠み爺さん、つまりオヤジの親父さんの占い結果で、ここを去った方が良いから、去るのだそうだ。
全く、星詠みというのは本当に信頼されていると思う。何やら、あの王国の王様………一国の主ですら、お抱えの星詠みの占いによって今後の方針を決めたりもするようだし。
おそらくだが、王宮内でも相当な権力を持っているのではないだろうか。いや、王室が抱え込む意味でも相応の地位は与えるだろうが、あくまで形式的なものにとどまるだろう。いざという時にコントロールできなければ意味がないからな。
この俺を勇者なんぞに仕立て上げ、個人には過ぎた力をコントロールしようとしているように―――。
「………だからか」
そこで、俺は自分自身の中に明確な解答を得る。
やはり、王国なんぞを、あるいはあの王様も含めた王城の人間を、信用はできない。
「まぁ、今さらな話だ」
俺が王様でも、もしかしたら同じように勇者をコントロールしようとしたかもしれないが………。
しかし雑には扱わない。確かに勇者と認定されるほどの人間なら、抜群の耐久力や状況判断も持っているだろうし、指示の一つや二つでそうそう死ぬものでもないと分かりきっているからな。
………そうなると。
つまり、これらのことから、やはり俺のことを王室お抱えの星詠みが占って、それを王様が知ったのは本当なのだろう。
俺のような突出した武力を持つ者は他にもいると思っていたが、この俺の推測もまた当たっていると思う。
俺のような勇者の誕生は、おそらく長い間を空けた一定周期で起きるイベントのはずなのに、王国で大々的にパレードとかしてくれないもんな。つまり、知る人ぞ知る、という程度のイベントにとどめているのだ。勇者の誕生という一大事を。
いや、別に盛大に祝って、もてはやしてほしいわけでもないが。
しかし………王国側が俺に首輪を付け、下々の者に対して新たな勇者の誕生を大々的に宣伝することもなく、ずっと手元に置いておく理由は、勇者として俺が成熟するのを待っていることの他に理由があるのではと勘ぐってしまう。
もちろん、王国からの指示で使いっ走りを続けている内、王国の権威を使うのにも慣れたし、この世界における常識のようなものも身に着きつつあるが―――それも、俺を馴らすことの他に、何か、観察するというような目的もあると思う。
「ところでさ、ソウジ、お昼どうする? 鳥か、イノシシか―――」
「うーん」
とにもかくにも、考えるべきことが増えて、難しい物事を整理していると疲れてしまう。
そんな時、エレンの人柄には大変に助けられた。
「知ってるか? 鳥の肉ってたんぱく質が多めで身体に良いんだ。基本的に、動物の肉ってのは人間に比して身体が小さい程消化が良いという説があってだな―――」
「うんうん♪」
聞いているのかいないのか、エレンが微笑ましいものでも見るような目で見てくるが、構わない。
「ソウジもお腹減ってるんだね♪」
「ああそうだよ」
俺達は他愛のないことを話し合いながら、森の中を二人で歩いた。




