楽しいミッション
面倒な仕事かと思えば、傭兵団の見知ったメンバーで行う仕事は、やはり楽しい。
気心の知れた……“仲間”と一緒に戦うのは、何となくだが、他では得られない心の栄養な気がする。
「ソウジ、周囲のは頼んだぞ!」
「ああ!」
まさか一体の黒魔獣とやり合ったら、他の黒魔獣が寄ってくるとは思わなかった。
いつも出会う時は単独だが、騒ぎを聞きつけると集まる習性があるのだと分かってしまう。
どいつもこいつも巨大な牙の黒いサーベルタイガーのような見た目だが、やはりどいつもこいつも黒靄をまとっており、攻撃への耐性が高いことが分かる。
「魔法を無効化……といっても、厳密にはゲームみたいに『物理属性』とか『魔法属性』とかって分かれてるわけじゃないんだけどな……」
よく考えずとも当たり前。魔力を消費して発動する魔法により引き起こされるのは、あくまで火や風、水や氷や土の変形など、どこまでいっても物理次元における物理現象でしかないのである。
要するに、一見すると魔法による攻撃を一度および短時間無効化するあの黒靄は、衝撃や熱を吸収するような、そんな性質があるといえる。
本体が死んでしまっては黒靄が再生成されることはないようだが、だからといって直接触りに行くのは危険だ。何がどう吸われるか、分かったものじゃないしな。
「見れば見るほど凶悪な魔物だが………ソウジやアル…いやエレンがいると、全くそうは見えねぇな………」
ニールがぶつぶつ呟いていた。
確かに、ニールが俺の指示で魔法を使ってくれている手前、彼を襲う周囲の黒魔獣は他の面々が相手することになる。
そこへ行くと、例えば俺やエレンの【ウォーターカッター】は、威力が高過ぎる分、黒靄すら貫通してあの黒魔獣の身体を両断したり、首を切断したり、頭に風穴を空けたり。
まるで無双のやりたい放題で、ちっとも恐怖感が感じられないのも無理はない。
「おっ」
また別の誰かが声を上げたのでそちらを見ると、巨漢のモッチがあの黒魔獣を大剣で一刀両断していた。
やはり、一定以上の威力となると黒靄も役には立たないらしい。
……が、今までの黒魔獣には、モッチの攻撃は必ず一度は弾かれたり衝撃を吸収されていたわけで。
急に攻撃が通じるようになったのは、モッチがコツを掴んだか、強くなったか、あるいは黒魔獣の強さ、及び黒靄の量や質にばらつきがあるのか………。
「まだまだ調査すべきことは多いな」
ニールの方では、魔法の行使後、剣や魔法で牽制させて、ドラにも援護をしてもらい、黒魔獣との戦闘を長引かせてもらっている。
なるべく安全にということでそちらは二人がかりでやってもらっているわけだが、そうしてしばらくするうちに、なんとあの黒靄が再び黒魔獣の身体を覆い始めたのだ。
「………余りうれしくない発見だな」
数ある調査項目のうちの一つに、明確な解答がもたらされた。
「ソウジ、あとはやっていいんだな!?」
「ああ!」
俺が返事をするが早いか、ニールが無詠唱の火炎放射の魔法で黒魔獣を焼き始める。
黒靄が数秒間耐えていたようだったが、すぐに剥がされて黒魔獣の全身を包み込む。
『グガアァァァアアア!』
ニールの方への突進をやめ、全身が炎に包まれた黒魔獣が断末魔の悲鳴を上げる。
『グァ―――』
倒れようとする黒魔獣に、ドラがとどめの一撃。一瞬、光る剣閃。
黒魔獣の首が切断され、地面に落ちる首と、時間差でバッタリと倒れる身体。
その様子を見終えたところで、ひと段落か。
こちらは周囲の数匹の黒魔獣を処理しながら彼らを見ていたが、やはり改めて考えても、ニール達も相当な手練れだよな。冒険者生活の時に色々な冒険者を見たが、その中の誰も彼らに比肩しない程度には凄腕だ。
「周囲の黒いやつはあらかた倒しちまったのか? 調査はどうしたんだ?」
「ああ、こっちはこっちで大体の調査は終えたよ」
「そ、そうか………」
何やら戦慄した様子のニールだが、他の調査項目は大したことのないものばかりだ。驚くほどのことじゃない。
「全く、頼もしくなっちまって………」
持ってきた紙に俺が記録をつけている様子を見て、ニールが嬉しそうな苦笑を漏らすのを視界の端に捉えながら、俺もまた嬉しさを隠しつつ作業をこなすのだった。




