気付けば野性的な生活が骨の髄にまで浸透している
アジトの引っ越し作業などすぐには終わらない。畑だって牧場だってあるのだから。
オヤジが星詠みの爺さんの占いを信じ切っているのは相変わらず、団内でも詳細は一部の者にのみ伝えられ、後は「皆で引っ越すようだ」くらいにしか思っていない者がほとんどだろう。
黒魔獣の調査については、傭兵団と俺の方でも進めるよう、国の方からお達しがあった。
勇者としてのお使いはしばらく軽いものだけ、しかも頻度もものすごく落としてくれるようだ。
収入は減額する兆しを見せたが、なぁに、冒険者稼業に精を出していた頃の稼ぎも残っているから、今の俺の総資産はちょっとしたものである。十五、六歳としてはかなり金持ちな方ではなかろうか。鼻が高いぜ。自分の稼ぎが。
………なんてサラリーマンのような気分に浸っているわけにもいかないか。
今、俺の立場はサラリーマンというより公務員に近い。仕事については営利より義務としての側面に比重が傾いている。褒められることは俺が勇者であるという一点においてのみ。為した仕事は勇者として“当然”で、何かあれば鬼の首を取ったように責められること間違いナシ。
今の俺は地方に出向する役人のようなもので、元の所属とはいえ傭兵団の動きを監視する意味合いもあるのだろう。何かあればすぐに報告するように言われているし。
「ソウジ、なんか生き生きしてるね」
「そうかな」
エレンが嬉しそうにイジってきた。そんなに今の俺は生き生きとしていただろうか………。
まぁ、勇者としてのお使いと、貴族達に料理を振る舞われ、その場で愛想笑いを返したりする空虚な日々に心身が摩耗していたのもあるかもしれない。
当初はこの荒くれ者達にビクビクしていたくせに、そんなやつらの巣窟に帰るとか、気付けば当たり前のようにそんな表現を用いているし、しかも帰ったら帰ったで安らぎを感じているし。俺も随分と変わっちまったなと思う。
しかし、気付いたのだ。
この世界では他者の顔色ばかり窺うより、自分の思いや考えを優先すべきなんだと。生きるというのはそういうことだと。
その中で、大切なものを見つけるべきなんだと。
「………勇者、か」
日々の中で、一つ、勇者としての行動の指針みたいなものが俺の中に芽生えていた。
「ところでエレン、洗濯なら俺がやるのに」
いつもなら俺が率先してこなす仕事を、なぜか今はエレンが行っていた。
「ううん。これはウチがやっとくから。ソウジはアレ、何だっけ、皆に酒のつまみ作ってあげなよ!」
「スパイシーポークジャーキーな」
「そう、それ! ニールとかすごく楽しみにしてたよ!」
「知ってるよ。さっきも頼まれたんだ、早く作れってさ」
「イノシシは獲ってあるって。姐さんがシメたやつ、貯蔵庫の近くに置いとくって」
「サンキュ。俺も行ってみるわ」
とにもかくにもワイルドな生活を謳歌しつつ、俺は心身の回復に努めた。




