黒魔獣の調査
「流石、勇者ってところか………」
やや戦慄したようにそんなことを言うニール。
彼の目の前で、俺は【ウォーターカッター】により、一撃で黒魔獣を殺して見せたところだ。
「見ろ、普通は魔法を一度だけ無効化されるみたいだぞ」
別の黒魔獣を相手に、ニールの手から無詠唱で放たれる火炎放射の魔法。対象を焼き尽くす前に、黒靄に受け止められて数秒間だけ耐える。
ニールがなおも魔法の行使を続けると、黒魔獣は全身を炎に包まれ、けたたましい声を上げながら絶命した。
死体はもれなく黒焦げだ。これでは持ち帰る意味もないだろうが―――この黒魔獣を狩ったのは、とある検証のためである。
「やっぱり前と性質は変わっていないみたいだな……」
「また出るようになったってことは、この辺に巣でもあるんじゃ……?」
「いや」
死体を見ながら検分を進めているうち、ニールは俺の推測を否定した。
「この辺じゃあ、凶悪な魔物の巣は、肉の代わりにでもならない限り、みーんな潰しちまってるはずだ。あのオヤジも時々見て回ってるんだ、間違いねぇよ」
「そうなのか……」
確かに、俺が初めて彼らに狩りに連れて行ったもらった時も、デカイノシシは単独で姿を現していたし、同時に他の魔物の邪魔も入ることはなかった。かなり気を付けて魔物の数は管理されているようだ。野生に見えて、完全な野生ではない。
野山の魔物は、近隣の人里によって管理・運営されている敷地内の、家畜も同然ということだろう。
もっとも、そういう地域ばかりでもないのは確か。
特にこの辺は、精鋭ぞろいの我らが傭兵団、そして王国が近いから、人の手も入りやすいだけのこと。
ここからさらに離れ、完全な田舎ともなれば、そうした人の手も入りづらい大自然が広がっている。
「となると、人の手も入らない地、つまり遠くから来たとしか………」
「考えられるのはそれくらいだろうな」
俺の結論にニールも首肯を返す。何が起きているのか全く分からない状態から、ニールとあれこれ調査するうちに見えてくるものがあった。
「何にせよ、あのオヤジも経験したことのない事態だ。ソウジ、お前ばっかりが気を揉む必要はねぇよ」
「……だといいんだけどな」
ニールは慰めるように言ってくれる。俺が勇者となってからも、やはりニールはニール。俺の頼れるアニキ分だ。
だが、それでも、どうにも胸騒ぎがする。
「おう、久しぶりにあれご馳走してくれよ、あの、干し肉なのにただの干し肉じゃないやつ。あれ俺好きなんだよ」
「分かった。すぐに作る」
「へへっ、サンキュ。ソウジが帰って来るとこういう良いこともあるからな」
「子守りばかりで疲れてるのか?」
「馬鹿言え、赤ん坊ってのは見るだけで癒されるもんなんだよ」
「そうかい」
俺の不安を和らげるアニキの気遣いが妙に嬉しかった。思えば、最近は余りしていなかったやり取りだ。傭兵団にももっと顔を出した方がいいかな。




