持ち込み
俺が黒魔獣の死体の一部を王国に持ち込んだところ、少し騒ぎになってしまった。
「黒靄をまとった魔物か………」
何やら貴族っぽくはない、しかし研究者のような、作業着のようなものを着た人間が何人も集まって、台の上に置かれた黒魔獣の頭部やら胴やらを観察している。研究者のような、ではなく研究者達だ、彼らは。
黒魔獣の死骸は俺が凍らせて持って来たわけだが、凍結が解けるのも時間の問題だろう。腐臭漂う前に分析は済ませてほしいものだ。
「以前も出たことがあるんですが……その時は本当にただの一時期で、そこから今までは見なかったはずなんです」
『………』
聞いているのかいないのか、研究者達は顎に手を当てたり何かをメモしながらといった風で、思い思いのスタイルになり始めていた。
経緯についてはあらかた話し終えてしまったし、そろそろ俺はお邪魔かなと思い、退室する。
「ほぅ……」
「?」
すると、俺が死骸を持ち込んだ研究室(?)から出たところ、入り口のすぐ側で壁にもたれかかっていた男性とすれ違う。
こちらを値踏みするような視線。口元には、ニヤリと不敵な笑み。
てめぇ何を格好つけてやがるんだと言いたいところだが、それよりも気になったのは、彼の装いと体格である。
年季の入った鎧。今はくすんでしまった、黄金色。
顔はいかつく、体格はうちのオヤジほどじゃないが筋肉がついていて逞しい。
筋肉太りというわけでもなく、長い間の鍛錬で培われるタイプの筋力だ。
只者じゃないな。
さらによく見ると、彼の首には奇妙な文様の入ったチョーカーが。
首輪……か。
その点にだけは、何だか親近感を覚える。
俺も今、見えない首輪を付けられているようなものだからな。
とはいえ、チョーカーって四十代くらいの見た目のおっさんが若作りするにはキツいファッションだろう。やめた方がいいぞソレ。
「どうした? 勇者」
「………いえ。何でも」
向こうは名乗らず、こちらも名乗らない。
彼とはそれ以上見つめ合ったり言葉を交わしたりすることもなく、俺はその場を後にした。




