これじゃあまるでサラリーマン
俺は王への定期的な拝謁を終える。
『噂を聞くに、どのような魔物も一撃だとか』
『なるほど! それは将来がますます楽しみになる勇者様ですなぁ』
『いやはや、海に島を浮かべてくださる日も近いかと』
貴族達の声を背中に、俺は謁見の間を出て行く。
衣装は王に拝謁するのに相応しいものを貸与してもらっているから、元の衣服に着替え、これを返却してからだ。
王城から出て、さらに敷地の外に歩いて出たところで、ふぅと息を吐いた俺の肩に、隣からエレンが軽く体当たりしてくる。
「お疲れ様、ソウジ!」
「エレンも」
冒険者稼業を二人で行っていた時、そして他のパーティーに混ざっていた時期を経て、またエレンと二人で勇者活動の日々だ。
エレンは毎日元気だが、俺は自分でも日に日に心の疲労が蓄積されているのが分かる。
土日休みとかないですか。
完全週休二日制でお願い申す。
「にしても、あの貴族達………ウチ達にああやって言う割には、動けなさそうな連中だよね」
「戦ってるフィールドが違うからな。向こうも腕っぷしはともかく、政治的な手腕はあるんだろう。エレンなら大丈夫だと思うけど、短気にはならないようにな」
「大丈夫、分かってるから!」
エレンが俺の代わりに怒ってくれているが、まぁ、貴族達の皮肉から得られる情報もある。
どんな魔物も一撃というのは、おそらく勇者としては普通のことなのだろう。
周りの人間、特に王国側の人間は誉めそやしてくるが(そうやってこちらを都合よく使う魂胆は透けて見えるけれども)、伝え聞く勇者の伝説はどれも規格外中の規格外といったものばかりだった。
曰く、魔法一つで海の上に島が浮かんだ。
曰く、魔法一つで周辺地図が描き変わるほどの天変地異が起きた。
曰く、魔物の軍勢一つを剣の一振りで薙ぎ払った。
………などなど。
「俺には関係ねぇや―――で、済めば良かったんだけどな」
こうなると、たとえ魔物を一撃で葬れたとして、それで自信を持てるはずもない。
伝説が本当かどうかに関わらず、勇者はそういうものとして見られるということだからだ。
凄まじい“個”として、注目されるからだ。
あるいは、そんな“個”を、王国が御してきた歴史とも。
「がっかりされるのは目に見えてるんだけどなぁ」
こちらは勇者になることなど不本意極まるというのに、歴代最弱の勇者として侮られる。
登っていない山を下山させられているような、告白もしていない相手から振られるかのような。
何とも言えない理不尽に、俺は異世界でも世の中の厳しさを知ることになる。
「大丈夫だよ、ソウジは最強だし」
「エレン………」
慰めだとは分かっていても、涙が出てしまう。
俺よりも、そうやって言うエレンの方が自信満々だ。彼女の方がよほどのこと勇者に相応しい。
「勇者ってもっと、こう、華やかなものだと思ってたけどね」
「………」
一瞬、俺が地味過ぎるとでも言われているのかと思ったが、エレンは後ろを振り返り、つまり王城の方を見つつ、睨み付けていた。
上司の愚痴を言う同僚を思い出す。
『俺知ってるんですよ。アイツ、経理の○○さんにしつこく誘いをかけてるって。もういい歳なのに、不倫しようとしてるんじゃないスかね』
『今度アイツのお茶に雑巾の絞った汁入れてやろうかと思ってて』
『いいですねぇ!』
『この際だからぶっちゃけます。社用じゃなくてプライベートの方なんですけど、俺はケータイでアイツのこと着拒してるんですよ。ちょっと得した気分になりますよ、皆さんも是非』
お年を召した上司だったが、同僚からはえらく不人気の上司と、それに陰では言いたい放題の同僚と、かなり愉快なメンツだった。
王様がそうだとは限らないが、構図は余りに似通っていて、油断していると思わず笑っていた。
「あはは………」
それが乾いた笑いしか出なかったので、俺は自分が疲れていることを自覚した。




