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【毎日更新】ユウシャ・イン・ワンダーランド ――ゼロ・ローグ―― ~異世界に来た元サラリーマン、異世界ライフのスタートは野盗の群れでした~  作者: むくつけきプリン
勇者認定編

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姫との再会

 立食パーティーでは、先程の会食とは違いかなりカジュアルな雰囲気で楽しめた。料理の味も分かるというもの。貴族達も割とフランクな人間が多く、たくさん話しかけられた。俺もエレンも、たくさん。

 一つ懸念事項として、俺の相方は喧嘩っ早いが、非常に美しい点にあった。ともすれば何かトラブルが生じるかとも思っていた。

 しかし、意外なことに、エレンがいくら美少女だからといっても、この場では酔っ払いにくだを巻かれることもなかった。言い寄って来るような、微妙に口説き文句っぽい言い回しをする貴族もいるにはいたが、エレンも笑顔で、のらりくらりと躱していた。

 なぜだか、非常に様になっている。「~ですわ」とかいう変な語尾になっているのに、非常に様になっているのだ。

 彼女、エレンは、一体どこで身に着けたのか、その立ち居振る舞いにはやけに品があるし、貴族の振る舞いにも理解があるようだ。

 それも、貴族に感心されるほど。彼女の出自には謎も多いが、俺は「もしかして」と思ってもあえて口には出さない。

 何より、エレンの立ち回りには安心感があったので、俺から言うことは何もなかったしな。

 貴族達と丁寧な会話をしながら、頑として譲らない一線を堅持している。勇者の一味であるという立場。俺などより、余程大人っぽい立ち回りとも言えた。

 そして、好色な貴族達もそれ以上言い寄って来ることもない。他でもない、勇者一行の女といえば、腕っぷしもかなりのものと、皆が理解しているからだろう。俺としては問題ごとが増えずに安心したところだが……別の視点を持てば、もはやそういった理解が広まっているのは、ある意味で脅威だとも思う。

 それは、勇者のありようを皆が理解しているということ。決して楽観視できるとも限らない事実を示しているからだ。

 勇者の力を知りながら、早くもそれを囲い込もうという動き。

 この国にとっていかに“勇者”といったものが伝統的なものなのか、あるいは国に縛られてきたものなのかが透けて見えて、俺は早くも暗澹たる気持ちになってしまう。

 俺の中のホームシックなところが「帰りたい」を連呼している。

 早くも、アジトの野郎どもやお姐さん型の荒っぽくも温かい口調が恋しくなってきた。

 ここに溢れる言葉と声は………言うなれば、アジトにいた頃に聞いていたものとは、真逆だ。

 品があるが、全て冷たい。

 感情よりも、計算高さと冷たさを感じる。

 コールドリーディングといった大層なものではないが、手癖一つ、表情の細かな変化一つとっても、そこには緊張、ある種の個性、そして大まかな考えと傾向は読み取れるもの。そこから貴族の大半は社交的かつ打算的な人間であるのが分かる。まぁ、読み取るまでもなく分かり切った事実ではあったが。

 そもそも貴族連中は国を動かす役職、つまり政治家のようなものだから当然だろうとも思うが、決して一緒に長居はしたくない環境でもあった。

 そんな貴族達から度々(たびたび)与えられる、俺への評価。

 曰く―――『今代の勇者は随分と理知的だ』―――というのも、素直に喜ぶことはできない。もちろん上部では「ありがとうございます、恐れ入ります」と言うことは忘れないが、考えるべきことが増えてしまったわけだ。

 俺に対して良い評価だと受け止めるだけでは、余りに早計だろう。

 逆に言えば、理知的でない勇者も王国は擁したことがあり、あるいはコントロールしおおせたかもしれないという側面が、見え隠れしているからだ。

 理知的でない勇者もいただろうに、それでも勇者そのものの評価が低くないのは、イメージが悪くないのは………つまり、そのように王室、あるいは国そのものが勇者というものに関与し、コントロールしてきたからでないのか。

 俺という個が(自分で言うのもアレだが)突出しているとして、それを強引に“勇者”として囲い込むのは………あの王様の強権的な振る舞いも、今述べたような仮定の下では成り立ってしまうからだ。

 やはり、こうなってしまった以上は、この国のことをもっと調べる必要があるかもしれない。

「………」

 心が冷える。

 頑張れば頑張るほど、俺の帰還が遠くなっている気がする。

 ………。

 何だか嫌になってしまうな。


「―――泣き別れまでしたのに、このような形で再会するとは思わなかったわ」


 そして、愛想笑いに疲れ、考え事にも嫌気が差した頃、心にそっと涼風が吹き込むような挨拶があった。

「……? あ、姫」

 振り向くと、そこにいたのは、以前の面影を残す、けれども以前よりかなり大人びた少女の姿があった。

「『あ、姫』って………軽っ。軽すぎるわよ、ソウジっ!」

 相変わらず、こめかみの辺りから長い金髪ドリルロールを垂らした姫様。

 俺を軟禁していた頃より長く髪を伸ばしたスタイル、ついでに言うと身体つきまで大人っぽくなっていて、経過した時間の長さを思わせた。

 といっても、五年くらいだと思うが。

 何だか、小学校の同級生に高校で再会した気分だな。

「もうっ………せっかくの再会を、どうしてそう雰囲気をぶち壊しにするのかしら」

「あはは、どーもすいませんね」

 明らかに上流階級のいでたちなのに、実際、そういった身分なのに、話してみると安心感を覚えるほど、何だか温かい。

 変わらぬ姫の様子に、俺も何だかほっとしてしまった。

 いつの間にか彼女からは、幼少期の、あの肩ひじ張ったような、勇ましさを演出するような虚勢がなくなっているのもあるだろう。

 しかし………この、何というか、根っこの親しみやすさのようなものが変わらない彼女に、俺は安堵してしまったのだ。

「……何かしら。まるで微笑ましいものを見るように目を細めて」

「いえ。姫は相変わらずだなと思いまして」

 軽口を交わせる。久しぶりに再会したのに、お互いに、それなりに大人っぽい見た目にはなったのに。

 ………思えば、前世では、こうした関係性の人間っていなかったなぁ、なんて、しみじみと思ったり。

「あら、そう? 『相変わらず』というのがどういう意味で言っているのかによって、罰を与えるわよ?」

「良い意味ですよ。きっとね」

「そうかしら。ソウジのことだから、きっとやらしい意味に違いないわ」

「おっと、会わない間に、俺の印象が随分と歪められてしまっているようですが」

「あら、違った? それはごめんあそばせ」

「いつの間にかレディの気品まで身に着けているだと………」

「ちょっと! それじゃあ小さい頃の私に気品がなかったみたいではないの!」

 クスクスと上品に、されど楽しそうに笑いながら、姫様の頬はほんのりと朱に染まっていた。

「さっきは相変わらずなんて言っちゃいましたけど。姫、ご立派になりましたね」

 気付けば純粋に誉め言葉が出ていた。

 純粋に―――姫様に生じた良い変化を、喜んでいる自分がいた。

「あら、それは()()を見て言っているのかしら?」

「もちろん、今の姫様のありようを見て、純粋にそう感じたまでですよ」

「あら………ふふふっ。誤魔化した?」

「決してそのようなことは。心外ですね、感じたことを素直に口にしただけなのに」

「あらあら、拗ねないで、ソウジ。あのソウジにあんな風に言ってもらえるなんて、嬉しかったのよ。ごめんなさいね」

 一瞬、セクハラの嫌疑をかけられそうになっているのに気付いて冷や汗をかいた俺だったが、立派だという先程の言葉には嘘はない。もちろん下心もない。ただ、たった五年でそこまでになるか、とか。たった五年で、俺より背は低い癖に、それでも凶悪なおっぱ……大胸筋、いや胸部装甲が備わるもんかね、とか、やっぱり良いモン食ってるからかなとか、今は思わないわけではないが………そうではなく。

 何より………ただ、以前、つまり幼少期に比べれば、姫様が明るかった。そして、強そう……いや、上手く説明できないが、とにかく、何だか彼女の言動には明るさや元気、力強さを感じたのだ。

 俺は王宮ってものをよく知らない。軟禁されていた頃にちょこっと見聞きした程度で、それ以外はその事情を、全くと言って良いほど知らないからな。

 姫様も、何だか小さい頃は弱っていたようだが、いつの間にかパワフル王女って感じのバイタリティに溢れていたものだから、要するに、姫様の成長そのものを、純粋に嬉しく感じたためだ。

「でも、そう言うソウジだって………立派になったわね」

「そ、そうですかね?」

 今度は逆に姫様が、なぜか俺を褒め返してきた。

 俺の身体を、つまさきから頭の上まで舐め回すように見つめながら。

 やだ、セクハラだわ。

 今度は俺の方からそんな小ボケをカマしてやろうと思ったら、彼女の青い目が両目ともに潤んでいたのだから、俺も流石に慌ててしまう。

「あ、あの姫様……?」

「だって、勇者、ですものね………」

「んん……???」

 俺が勇者なんぞに選ばれたことが、それほど嬉しいのだろうか。泣くほど?

「―――良かったっ!」

「おうっ!?」

 何をそんなに感動して―――と思ったら、姫様の方から俺に抱き着いてきた。

「ソウジが、元気で…………()()()()()………………」

「ぉ……ぉおう?」

 勇者云々はともかく、どうやら姫様は、純粋に俺との再会を喜んでくれていたらしい。

 俺の胸で、とうとう本格的に泣き始める姫様。

「………………もう、さっき、それはもう、驚いたのだから……」

「………」

 思わず両腕を回してしまった俺の胸に、姫様は顔を擦りつけるように泣きながら、鼻声のまま呟くように言う。

「………余りに突然のことよ? 勇者の誕生の噂が流れて………それに、その勇者がソウジだったなんて、私達も直前に知らされたばかりなのだから」

「そうだったのですか?」

 意外なことに、彼女としても寝耳に水の話だったようで、驚きが大きかったようだ。

「本当は、さっき………目が合った時に、もっと早く、こうしたかった………」

「姫様………」

 再会の嬉しさを、本当はあの瞬間に伝えたかったらしい。

「ソウジ………」

 姫様が俺の背中に回した両腕にギュッと力がこもる。怪力というほどではないが、それなりに力強い抱擁だった。まさか姫様がこんなにも俺との再会を喜んでくれるなんて。思わず俺も泣きそうな顔をしてしまっていることだろう。

「………それにしても、勇者だなんて」

 ズッ。鼻をすすりながら、姫様が口を開いた。

「勇者だなんて、どこの命知らずが名を上げたのかと思ったら、ソウジだったのね」

「意外でしょう?」

 自分でも、勇者として名を上げたつもりはない。しかし、王からそうあれと強制されてしまったのだ。

 この辺りの釈明は………しかし、余り意味を成さないのだろうな。

 反抗的であるという印象が拡散した時点で、あの強権的な王様にどのような扱いをされてしまうか分かったものではない。俺の本心はボカしておこう。

 それにしても、育った育ったとは思っていた姫様だが、本当にスゴイな。

 何がスゴイって、そりゃあもう、俺の胴体に押し付けられる彼女の、おっぱ―――

「………()()()()()()()()()()()()()………」

「……ん?」

 しおらしくなった姫様。たった五年ですっかり凶悪になった胸部装甲の感触に、あるいは時の流れそのものに俺が戦慄していると、唐突に姫様が意味深な話を始めてしまう。

()()()()()()()()()………???」

「………(コクッ)」

 俺の腕の中で、姫様が頷いた。

 俺が勇者で良かった、ではなく、勇者が俺で、良かった……?

 なぜその表現なのかではなく、なぜその表現でないのか、という読み方をすることで正しい解釈に迫れる言い回しな気がする。

 どういうことだろう。

「ソウジなら………良いわね。むしろ、望むところというものだわ。あー、スッキリしたわよ、まったく」

「あの、姫様? 仰る内容が、よく分からないのですが………」

 俺が勇者で、望むところ……?

 何だろう、これから勇者と王族の決闘が始まったりするのだろうか。こちらがビックリ仰天、驚愕の慣習が存在したりするのだろうか。んで、相手が俺なら大丈夫、ブチのめせる、みたいな………。

「………それだけは勘弁してください。あと、今はそう簡単に軟禁されませんからね。本気で逃げたら魔物だって俺に追いつけないんですからね」

「何を言ってるのよ、ソウジは……ふふっ、まったく、そういう鈍感なところも、相変わらずなのね」

「あれっ……?」

 どうやら姫様は俺の言っていることが冗談だと思ったらしい。あと、こちらをまた軟禁する気がないようでほっとする。確かに、そう何回も軟禁されてたまるかという話ではあるが。

 今は冒険者としての経験も積んで、それなりに面白い話は持っているし、軟禁中も楽しい生活ができるだろうと思うが、それとこれとは話が別だ。

「ふぅ………ごめんなさい。ちょっと取り乱してしまって」

「それは良いですけど………」

 泣くだけ泣いて、一人ですっきりした顔の姫様。抱き着いていたところから身体を離し、また元のようにこちらと向かい合って立つ。

 まだ目元は赤いが……何かに安心し、すっかり納得してしまった様子の姫様。

 というか待て待て、まだ俺の脳内にはまだ疑問符が複数浮かんでいるのだが………。

「そうと決まれば」

「何が……?」

 思わず敬語とかでなく、素でツッコんでしまったが、許してほしいものだ。

 今、姫様の中で何かが決まったようだが、それを教えてくれる気はないのだろうか。

「……っ、そ、その、そ、ソウジ………」

「……?」

 顔を真っ赤にして、今度はモジモジと。

 両手の指と指を合わせて、かなり躊躇しながらといった様子で、それでも姫様はちらちらと目を合わせてきながら。

「………な、名前!」

 実に、一世一代の告白でもするかのように、声を張りながら。

「………名前で、呼んでくださるかしら?」

 実に今さらなことを言った。

「なぜお姫様口調???」

「……っ!」

 とうとう我慢できなくなった俺が姫様の不可思議な様子にツッコミを入れると、彼女はブワッと顔をさらに真っ赤にした。

「わ、私はそもそも姫ですわよっ!」

「存じておりますが」

「………っ!」

 どうしよう、こちらのお方も「ですわ」とか言い出した、とうとう姫様がおかしくなっちゃったぞと混乱する俺に、「―――ソウジっ! 呼びなさい!」俺よりいっそう混乱したかのような様子の姫様が、真っ赤っかな顔で食ってかかる。

「とおっしゃられましても、姫様、一度も俺に名乗ったことないじゃないですか」

「――っ!? そ、そういえば、そうだったわね………」

 ここにきて俺の一言で冷静さを取り戻した姫様が、またモジモジとしながら上目遣いで告げようとする。

「わた、私の名前は、メ―――」

「メアリー様」

「あっ!?」

 可愛らしい姫様に意地悪をしたところ、姫様は真っ赤な顔のまま怒った。

「し、知ってたんじゃないの!?」

 そりゃそうである。

 一国の姫様とはいえ向こうからの厚意で親しい関係を築いているに過ぎない手前、自分から名前呼びは決してしなかった俺、偉いだろう。褒めてくれてもいいんですよ姫様。

「ソウジのいじわる!」

「ごめんなさい」

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