モンスター乱入! 巨大魔獣グリフォンを狩れ!
グリフォン。鷲の頭と翼、獅子の胴体を持つという伝説上の生き物。
前世では神話にしか現れなかった生き物が、この世界には実在したなんて。
まぁ、魔法などの概念があるんだから、さもありなんってところなのだろうか。
大きな身体、翼による俊敏な動き。空中では言わずもがな、地上でも素早いらしいから、決して油断のならぬ相手。コイツ相手に、過去、いくつもの冒険者パーティーが壊滅させられてきた話があるくらいだ。
「せ、戦闘態勢! 逃げらんないよ、覚悟を決めな!」
ベテラン冒険者として、俺達の背後から号令をかけるヒーミル。彼女も自身の上半身くらいの長さを持つ愛用のショートブレードを抜いて、構えを取った。
向こうがどうしてこの場に現れたのか、そしてなぜこちらを襲うのかについての具体的な理由は分からない。
しかし、向かって来る以上は応戦しなければならない。
「ソウジ、やるのね!?」
「ああ――!」
若干の動揺は残っているが、俺もエレンも頭を切り替えながら剣を抜いた。
グリフォン相手に近接戦? いや少し違う。
威力で言えば魔法の方が圧倒的だし攻撃はそちらが主体になるだろうが、剣術もたしなむ俺達は剣を使っての防御もできるからだ。
納刀していようが抜刀していようが、魔法は使えるわけだからな。
いわゆる『魔法剣士』のような戦闘スタイルになるだろうか。
『ギュアアアアアアアアアアアア!』
抜刀して臨戦態勢となった俺達に、グリフォンがけたたましい声を上げる。
いくらか野太く、そして何より大音声で、周囲の空気がビリビリと震えるほどだ。
「くっ……!」
エレンも思わず両耳を押さえていた。これは俺も同様だ。しかし片手に剣を握っているせいで、上手いこと音がカットできない。左耳に耳鳴りが残る。
「チッ。クソが、予想外だなこれは」
「うるさいなぁこの鳥!」
初手から思わぬダメージを受けながら俺は舌打ち。エレンはブチギレながらも早速といった風で、俺直伝の【ウォーターカッター】を行使する。
あ、もう決めにかかるのね。
どんな魔物もほぼ一撃の魔法により、早々に決着がつくかと思えば―――。
「――あ、あれっ!? は、速っ―――」
エレンが驚きの声を上げた通り。
空中を大きく凪いだ、射程距離およそ二十五メートルの水の線―――超高圧の水の刃を、空中のグリフォンはひらりと躱してしまう。
巨体だから鈍重だというのは全くの思い違いだ。この世界では魔力もあり、ファンタジー要素に溢れている。
どう考えてもその重量では飛翔どころか直立も無理だというような巨大生物が、世界各地で普通に飛んだり、歩いたりしながら生息していたりするわけだ。
「速過ぎだろ、クソが」
今まで、俺もエレンも【ウォーターカッター】を躱す魔物には出くわしたことがない。言うなれば初めての難敵だ。俺は思わず本日二度目のクソを叫んでしまう。
ダンジョン内の魔物は素早かったが、俺とエレンの【ウォーターカッター】を躱せるほどではなかったし、その奥で待ち構えていたコアキーパーの巨人は防御が硬かっただけの鈍重な巨体だった。やはり、あの辺の魔物を“標準”だと思っていると、こういうところで足元をすくわれる可能性があるな。
油断はできない。
「ど、どうしようソウジ、【ウォーターカッター】がっ!!」
エレンの中でも一撃必殺という印象があったのだろう【ウォーターカッター】、しかしそれが当たらないとなれば焦りも生まれる。
「落ち着けエレン! 一度躱されただけだ! 当てれば殺せる! 相手も怖がって避けてるんだ、当たるまで狙えばいい!」
「……っ! そ、そうだねっ!」
事実、グリフォンは俺とエレンを空中から睨んだまま―――その巨大な翼をバッサバッサと動かしてホバリングしたまま、地上に降りてくる気配がない。
向こうも分かっているからだ、近づけばやられる、と。
グリフォンがこちらの射程内、つまり二十五メートル以内まで再度近づいた段階で、俺もまた【ウォーターカッター】を行使するつもりでいる。場合によっては【魔装体術】の使用も辞さないつもりだ。
ヒーミルという余計な他者の目はあるが、俺が死んだり、あるいはエレンを死なせたりするわけにはいかない。たとえやり過ぎだとしても、やられるくらいなら瞬殺してやる。
『ギュアアアアアッ!』
「「「くっ!」」」
それにしたってあの鳴き声が厄介だ。
あれをやられると、俺もエレンもヒーミルも、一時的に防御を解かざるを得ない。
一瞬とはいえ動きが止まるのだ。
………この世界では魔力で聴力を強化する方法があるようだが、その逆を考え、聴覚を防護する魔法を予め調べておくべきだった。まぁ、今さらそんな後悔をしても遅いのだが。
「来るぞ、エレン! ヒーミル!」
こちらが動けない一瞬を突くつもりなのだろう、グリフォンはこちらの射程外でホバリングしていたのを、一気に地上急襲をかけるつもりで急降下してくる。




