中堅として―――
巷でとある噂が流れ始めた。
『なんでも、凄腕の二人組の冒険者が、あっという間に上級になっちまったんだと!』
『女の方がえらいべっぴんらしいぞ』
『でもガキなんだろ?』
『おいナメてると死ぬぞ。出くわした魔物がみな一撃で死んでいくんだ。見たこともねぇ魔法でよ』
『魔法使いの二人組なんだそうだ』
『しかもケンカも相当強いらしい』
王都の冒険者ギルドに足しげく通っていたからか、噂の広がるスピードも早かった。
それだけ俺とエレンが精力的に依頼をこなしていたからだし、少しずつ増えていく知り合いによるものも多いだろう。
「ようソウジ、今日は近場でセイタカオナガヒヒの群れが通るそうだから、狩りに行かないか?」
「いいね、行くよ」
「……ソウジが行くなら、ウチも」
俺らより五歳以上は年上のパーティーに入れられることも珍しくはない。誘って来た青年・グラースの提案を承諾し、俺とエレンは支度をしてギルドを出て行く。
グラース率いる四人パーティー『大鷹の爪』。中堅冒険者から成る知名度そこそこのパーティーだ。
それに俺とエレンが加わった即席の合同パーティーが完成。もっとも、彼らとは時折一緒の依頼をこなすくらいの付き合いはあるので問題はない。中堅以上に相当する実力者が六人ともなれば、余程のことがない限り魔物相手に不覚は取らないしな。
つまり、プロジェクトを共にするビジネスパートナー的な間柄だ。少し難易度と報酬の高い依頼をこなす時だけ一緒に組むような。
何から何まで一緒というわけでもなければ、連絡を密にするというほどでもない。国を揺るがすような脅威相手に立ち回ったりするはずもなく、こうして各々が安全性を高めつつ日々の食い扶持を稼ごうとするだけ。
こういった関係性がごくありふれたものであるらしいことを考えても、冒険者はやはりというか地道な職業だと思う。
ただ、俺とエレンは腕っぷしだけなら他より抜きん出ている一方で、今まで何百という依頼をこなしてきたような連中と比べれば、圧倒的に経験が不足している。教わることは多く、俺はその点にメリットを感じているため、やや排他的なところのあるエレンを宥めながら他の冒険者と一緒に組むことも多いのだ。
そのメリットは、例えば目的地までの道すがら、パーティーの垣根なく雑談をした時など分かりやすいだろうか。
「ヒヒって、群れで移動するんだな」
この世界の常識らしいが不思議に思っていた部分を俺の方から尋ねてみる。
「ヒヒって言やあ、お前アレよ、超長距離を移動すんのよ。走って」
「走って!?」
まっさきに教えてくれたのは、禿頭の冒険者・ノットだ。
「ああ。何を生き急いでるのか知らねぇが、大陸を横断して海を渡るって話もあるくらいだぜ」
「そうなのか……!」
ヒヒの知識をくれる彼は、俺が目を輝かせると気持ち良さそうに次々と教えてくれた。
「あいつらはな、その長い尻尾で上手くバランスを取るんだよ。姿勢はカンペキ、んで目もいいだろ、だから敵を見つけたら小回り利かせててダッシュ。あっという間に天敵から逃げおおせちまうんだ」
「すごいな……そんな相手に、俺達で追いつけるのか?」
「馬鹿言えよ。おれたち人間様は確かにつえぇが、それでも長距離を走ってヒヒに追いつける道理はねぇ。ココを使うんだよココを」
ノットは手袋をした手で、その禿頭を指で指し示した。何だろう、太〇拳でも使うのだろうか。ピカッと光らせて目くらまし、的な。
……いや、よそう。いくら何でも相手の不興を買い過ぎる冗談だ。そもそも人間、好きで禿げたりするわけじゃないものな。育毛剤とかカツラが普及した世界から来ているから、そのように思ってしまうのだ。この世界ではどうか分からないし、そもそも禿げるまで生き延びたこと自体が勲章のようなもの。ヘタに揶揄したりはすまい。
俺は心の中でノットに詫びつつ、視線を彼の頭頂部から彼の顔に戻した。
「つまり、走ることが取り柄のヒヒ相手には罠を張ればいいってことか?」
「おう、そういうわけだ。そこで、ソウジにもやってほしいことがあってな―――」
ノットはそこから今回の以来の進め方について説明してくれた。
彼は属するパーティーのリーダー・グラースほど強くはないが、そのパーティーの中で参謀役のような立場にいる。だからこうした説明の時も自ら進んでしてくれるのだ。
「分かった。つまり陽動としてやつらの進路を管理する動きをすること、そして上手いこと何匹か罠にはめることを優先すればいいんだな」
牧羊犬をやれということだ。
「そうそう、そういうことだ。相変わらずソウジは呑み込みが早くて助かるぜ」
経験者である彼らの計画に俺とエレンが合わせる形なのは決まっていたことだ。計画の全容に俺が理解を示すと、『大鷹の爪』の面々も頷き、依頼遂行の方針が完全に固まったのだった。
さあ見せてもらおうか、中堅冒険者の稼ぎ方とやらを―――!
ちなみにいわゆる“中堅”とされる彼らでも、冒険者としての肩書は“上級”にとどまるというのだから、難しい世の中だと思った。




