セイタカオナガヒヒを狩れ!
「なん………だと………………」
三日ほどの移動には馬車まで使って長距離を。
それで辿り着いた荒野。やや日差しが強いが、そこそこ乾燥しているおかげでまだ平気な暑さだ。
しかし、視認できるだけで分かる。
思っていたより規模がある―――セイタカオナガヒヒの群れ。
遠く、ずっと遠くの地平線。
しかし地平線だと思っていたソレらは、全てヒヒだった。だってあんな波線みたいな地平線、見たことがないもの。動いている地平線なんて、初めてだもの。
地表の熱が光を屈折させ、ゆらゆらと陽炎を見せる中。それすらも覆うような、圧倒的な規模の砂ぼこりが遠くで上がっている。
移動している。何百というヒヒの群れの猛ダッシュだ。というかこちらへ来る。
うかうかしていると、俺達もアレに呑み込まれ、踏みつぶされ、滅茶苦茶になってしまうと思わされる。
何アレ異世界の神秘、マジヤバぴえん。見るだけで圧倒され、なおかつ「何だか面倒くさくなる」迫力を持っている。……うん、少し形容が難しいな。思わず肩を落として回れ右したくなる壮大さ、とでも言えば良いだろうか。とにかくそんな感じだ。
「ギリギリだったな」
「あぶねぇあぶねぇ。途中で色町に寄らなくて良かったぜ」
「馬鹿野郎。依頼の前に疲れてどうすんだよ」
「ドワッハッハ」
「アンタら忘れんじゃないよ、向こうには女の子いるんだからね」
「おっと、すっかり忘れてたぜ、俺ら野郎ばっかりだからな」
「……一応、わたしも女なんだけどね」
「「「ドワァッハッハ」」」
野郎どもの下ネタはともかく。
気楽な男集団『大鷹の爪』の中にも、男に埋もれぬ姉御肌の女性がいる。短髪の彼女は名をヒーミルというらしいが、この世界で男に囲まれながら生きる女はどうしてこうも姉御っぽくなるのだろうか。
うちでも、傭兵団のカシラの秘書……? 奥さん? が、とにかくこんな感じだ。
「多くない?」
流石のエレンも、あの数の多さにはビビった様子。分かる。俺も同じ気持ちだ。
俺達は魔力も多く殺傷力の高い技をいくつも使えるが、それでも、例えばあの物量でこられたら太刀打ちできない。ちょっとケンカが強くて地元では負けなしの荒くれも、軍隊には勝てないのと同じだ。強さの尺度、戦力の物差しからして違うのだ。
「俺達の役目はあくまで一部の引きつけ、分断だ。死体か素材を持って帰ればいいんだから、そんなに気負う必要はないさ」
「うん……そうだね。分かった、ウチにはソウジが指示を出して!」
「あいよ」
何とも信頼されていることだが、というかエレンは俺の指示以外聞かないのだ。巷では“聞かん坊”とか“狂犬”とか散々なあだ名をつけられつつ、恐れられ始めているのを俺は知っている。




