アウトローとアンダーグラウンド
別に無視しても良かったが、それはそれで冒険者ギルド内で騒ぎが拡大する恐れもあった。そのためこちらに絡んできたチンピラに連れられるまま、外へ出ることに。
乾いた地面を踏みしめながら少し歩く。近くには森が見える。
「何もヤキ入れようってんじゃねぇんだ」
ある程度歩いたところで男はこちらを振り返った。側頭部に剃りこみの入ったチンピラ風の男。
彼は表面上は友好的な態度を装って続ける。
「異例の早さで中級にまで上り詰めた冒険者。見れば、まだこんなガキと来てる。拍子抜けだぜ」
「………」
こちらがガキだからナメられているのだろうか。好都合だが………。
一応、少し距離を離してついて来ているエレン……血の気の多い彼女に、この会話は聞かれていないことを願っている。
「そこでな」
男は懐を弄る。何か危険な道具が出てくるかと少し身構えた俺の目の前で男が取り出したのは、確かにある意味で危険な物品だった。
「これ、何だか分かるか?」
「……?」
男が差し出して見せてきたのは、口が紐で縛ってある布の袋。
その紐をほどくと、中には白い粉末が見えた。
「これは……?」
「吸うと気分が良くなり集中力が上がる粉だ」
「ああ……」
一瞬、頭を抱えたくなった。
つまり、そういうことだ。
「これを俺に買えと?」
「話が早ぇじゃねぇか。さてはお前、これが何だか知ってるな?」
「いえ……でも、まぁ、存在は聞いたことがありましたんで」
あくまで前世の知識だし、リアルで一度も見たことはない。俺の生活にも縁遠いものだった。
テレビで、芸能人やスポーツ選手が逮捕されるニュースを何度か聞いたことがあるくらい。むしろ画面の向こうにしか存在しないとすら思っていた、ある意味でのファンタジー。
「最初だからな、この袋一つで五千ギリルでいいぜ」
「五千ギリル………」
ギリルというのは、言ってみればこの辺の通貨単位だが………例えば日本円で言うと何円だろうな。比較するのは難しいが、簡素な食事が一食あたり五十ギリルくらいだったりするから、一ギリル十円くらいか?
この男が提示した額は、実に食事百回分ほどとなる。
「申し訳ないんすけど、その手のクスリには手を出しちゃいけないことになってるんすよ」
「あぁん?」
男が目を細めて睨み付けてきた。
「俺は傭兵団出身なんで。あんまりウチのカシラを怒らせたくないんです」
「………」
じっと睨みつけてきた男。
そのまま俺の表情を観察する。しかし何の動揺も隙も見つけられなかったからか、ふんと鼻を鳴らして白い粉の入った袋を懐に仕舞い直した。
「気が変わったら言えよ」
「はい」
エレンの視線を背中に浴びながら、男はどこへともなく去って行く。
あれがこの世界の売人か。因縁をふっかけて来て、俺が先に手でも出していれば、無理やりにアレを買わせられていたことだろう。
「いるんだな、ああいうのも………」
リアルで見たのは初めてということで軽くカルチャーショックを受けていたが。
しかし考えてみるに、白い粉……植物を処理し、製粉することのできる設備があるところで、ああいった形に生産しているのだろうか。完全な個人がすり鉢とすりこぎ棒で作っていることも想像しづらい。
つまり、どこかに工場あるいは専用の工房でもあるのだろう。全く、世界の闇は深いことだ。
「男、行っちゃったね、流石ソウジ!」
こちらに歩いて来たプラチナブロンドの美少女、エレンに一言。
「あれはヤクの売人だよ」
「ふーん? あれが?」
興味無さそうに、きょとんとした顔で男の去って行った方角に目を遣るエレン。
「気を付けなきゃな。あんなクスリ、身体に害があるだけだから使っちゃいけないのはもちろん、一度でも購入して客になってしまえば、どんな面倒事と紐づけられるか分かったもんじゃない」
「はーい!」
聞き分けの良いエレンの態度をありがたく思いつつ、この世界にもそうしたものが存在することについて少し考えさせられたところで、俺達は食堂に戻るのだった。




