今日の狩猟コーナーみたいになっちゃった
洞窟前で待ち伏せることしばらく。
「きたきた」
『グルルルル……………』
のっそりと、デカいクマが―――ヒグマの二倍くらいの大きさのクマの魔物が姿を現す。
十数メートル以上離れていても圧倒されるくらいの体格だ。こんなの、人間が生身で勝てるわけないだろうと思えるほどの。
まぁ、それでも今は、この世界の人間が生態系の上の方に位置していることを知っている。魔法などを駆使して人間はこのようなデカグマに対してさえ勝利するのだから、この世界のパワーバランスって崩れているなと思う。
俺はこの、普通は人間が魔法を駆使して狩猟する相手に、魔法を使わず挑むと決意してこの場に臨んでいる。
「ソウジ~~っ、頑張って~~っ!」
ギャラリーから呑気な声援が飛んでくる。
風呂敷を広げ、持って来た干し肉を千切ってひとまとめにし、手製の木製コップに茶なんぞを注いで、見た目は完璧にピクニック。エレン、お前は一体何しに来たんだと思わなくもないが、これも彼女から俺への信頼だと思えば納得できる……ものだろうか。
全幅の信頼を寄せてくれるのはありがたいが、俺は今日、自分に未曾有の縛りを設けた、高難易度の縛りプレイをしにきたのだ。ワンチャン命の危険があるんだぞ、エレンよ。
「キャ~~っ♪」
振り返ると、エレンが黄色い歓声をくれる。嬉しいのだが、いまいち緊張感には欠けるよな。
「………………仕方ないか」
警戒し、自分からは決して仕掛けて来ないデカグマ。通常なら縄張りに侵入した人間など食い殺すような気性の荒さを発揮するところ、どういうわけか、俺を目の前にしてコイツ、余り動こうとしない。
逃げようともしなければ、襲いかかってくることもない。
このクマについては雌雄の判別ができるわけじゃないが、洞窟の奥に子グマでも隠しているのか。となるとコイツは母グマか。
「………」
前世ならどこかの団体にお気持ちお電話でももらいそうな状況だが、この世界ではあのデカいクマ相手に、そんな視点はない。
その理由は「死ぬから」の一言に尽きるか。普段から生きるか死ぬかの生活をしている人間ばかりの世界では、頭蓋骨の中で花でも育てていない限りは、動物愛護といった生半可な気持ちの視点は育たない。
そもそもにおいて、この世界の人間は生態系を破壊していないし、あるいは破壊していてもその自覚はないのだ。
結局のところ、安全圏からガタガタ言うだけの無力なヤツは、すぐに殺されるか世間から見放されるだけのこと。この世界は、高貴な人間でもない限りは、口だけのヤツに厳しいからな。
「よい……しょ、っと」
エレンがガンガンガチャガチャとやっている。見れば、彼女は鍋などの器具を焚火の上に設置したところだった。
「いつでもいいよ~!」
「………」
水を沸騰させようとしていた。
明らかに「鍋」の準備である。
食うのか。食うんだなエレン。あのデカグマを、お前は。
前世の知識のある俺は、クマの肉がそれほど美味いものではないという知識を持っているが……この世界のクマは違うのだろうか。試してみるのは大いにアリだが。
「………」
腰を低く、両足に力を込める。
目の前のクマに向き合い、これから俺は死闘を始める。
「キャ~~っ! ソウジ、カッコイイ~~っ!!」
「……」
何とも緊張感のない声援を背後に、俺は地面を蹴って前方にダッシュした。




