旅は道連れ(?)、報酬は山分け
「ほ、報酬は山分けだからな! 山分け、だからな!」
「へいへい。ボン、分かったから迂闊な行動はするなよ」
「分かってる!」
どう見たってへっぴり腰のボン少年が、ビクビクと辺りを過剰に警戒しながら強がりを口にする。
まぁ、昼間だというのにかなり暗い森を歩いているのだから、その気持ちも全く理解できなくはない。
林冠で日光が遮られることによる暗さ。木々の葉の密度は元より、上に行くほどやたら生い茂るその木々の形状も問題だろう。
おかげで地面が草むらで覆わているということもなく(背丈の低い草は余り育たないのだ)、歩きやすくて良いのだが。
「お、おい女! こ、怖いなら、このボンの背中に隠れても、い、いいいいんだぞ!?」
ビクビク、ビクビクと歩きながら、ボン少年の口からは度々強がりが出てくる。
「………」
そしてエレン、そんなボン少年の発言を、なんとシカトである。
ちょっと俺達とは離れたところを歩きながら、ガン無視・フル無視である。
「あはは……」
なんか空気のマズさに苦笑してしまう俺だが、よく考えれば今この場で愛想よくする必要もないなと思い直し、表情を戻した。
さて、何となくというか流れで、俺達はイノシシ型の魔物退治のクエストをシェアすることになったわけだが。
俺とエレンなら苦戦する可能性など皆無であろうクエストに別のパーティーが同行となれば、報酬の分け前が減るだけでこちらに旨味はない。
しかしボン少年の冒険者になった経緯を聞けば、どうにも拒絶するというわけにもいかなくなってしまった。つくづく情に弱い俺だと思ったが、そもそも俺はそこまで情に厚いってわけでもなかったように思う。
旅は道連れ世は情け。
そんな先人のことわざに、自身が染まってしまうだなんて、今までの人生で夢にも思わなかった。
やはり、異世界からこの世界に来て行き場もなかった俺を拾ってくれた傭兵団、そのカシラたるオヤジや、今となっては良きアニキ分として接してくれる皆による影響だろうか。
拾われたならず者達は、荒くれには違いなかったが、強く厳しく、どこか優しくて温かい―――人情というものを感じる集団だった。
敵対する者は容赦なく殺りにいったりする部分はあるが、普段から身内に優しいのは普通に美徳だとすら思える。
そんな集団に、自分が徐々に感化されていっているのも感じる。
………いや。
俺を育ててくれた養親の影響もあるか。
血の繋がりよりも、濃い情を。
俺はソレで生かされてきた。
「うおっ!?」
背後からボン少年の驚く声。
俺達から見て右手前方の木々の間から、まるで狙いすましたかのように、一切迷いのない動きでデカイノシシが突進してくる。
タイミングや位置関係から、それは狩る者としての動きというよりは縄張りへの侵入者を迎え撃つ動きに違いないと思ったが―――どうだろうな。
前世の知識だが、例えば意識を失った人間の身体を豚が食べた事例などはあったはずだし、その驚異的な雑食性はイノシシから受け継いでいる。
では、あの大きな身体と大きく鋭い牙を持つこの世界の“魔物”たるデカイノシシが、人間を食べないとも限らない。
ふむ………。
「思えば、今までは狩るばっかりであんまり考えたこともなかったな―――【ウォーターカッター】」
俺は前方に手をかざし、デカイノシシの身体を鼻先から尻尾にかけて両断した。
高圧の水は肉の塊に直撃してもほどけることなく貫通し、背後の樹木まで真っ二つ。
やはり、これでも威力が過剰か………。しかし技の性質上、そもそも“加減”が意味を成さないから仕方がない。
高圧の水も威力を下げたらただの水鉄砲だ。それなら他の魔法の方が良いだろう、という結論に至るわけで。
「森も燃えないし後始末も楽な水属性で、他に上手いやり方があればいいんだけどな……こればっかりはどうにも………」
まぁ、【ウォーターカッター】は水属性の魔法にしては威力が高過ぎるのが問題だが、範囲は射線上のみで、振り回したりしなければ被害は限定的だ。
今みたいに、イノシシを両断した瞬間に魔法を止めれば、他の犠牲はその背後の樹木くらいで済む。
討伐の証として魔物の牙なんかも持って帰れるからな。イノシシの場合は顎の両脇に生えているわけなので、身体を真ん中で綺麗に真っ二つにすれば殺せるし、戦利品兼討伐証拠品の牙も折れたり傷ついたりはしないわけである。
「………ん?」
イノシシの死体から牙を抜き取って水魔法で軽く洗浄、袋に詰めて背後を振り返ると、ボン少年率いる『ボン・ファイターズ』の面々が顔を引きつらせてこちらを見ていた。
………また俺何かやっちゃいました? ってやつだ。
いややったのだろう。
先程の、俺の魔法の威力に引いているのだ。
魔法なんて見慣れているだろうと普通に使ってしまったが………よく考えずとも、そういえば【ウォーターカッター】はこの世界にはそもそも存在しなかった魔法らしいし、水魔法にしては切断系という特殊さもあって、珍しさと威力の高さとで、見た目で与えるインパクトも大きいからな。
やっべ、別の魔法にすりゃよかった。
あんまり特殊なことをすると、冒険者の中で噂が広がり、目を付けられるかもしれないもんな。
そもそも俺にとってはこの魔法が余りに日常的過ぎて………それこそ、生活必需品とも言えるナイフの代わりに使うことさえあるくらいなのだ。【ウォーターカッター】、本当に気を付けないと。
「森の中で火を使うと危ないからな」
俺はなるべく平静を装ってそう言ったが、ボン少年達は口をあんぐりと開けたまま、コクン……とゆっくり頷くだけだった。
「……フフン♪」
しかし、ボン少年達との出会いからずっと不機嫌だったエレンは、このタイミングでなぜか俺の隣に来ると、どこか留飲を下げたように、得意げな表情で笑っていた。




