山菜採り
近くの洞窟まで薬草を取りに行くことになった。
この世界における薬草は、傷口に塗る塗り薬に、病気の時に飲む飲み薬など、種も用途も様々で、とにかく怪我や疾病の時に使用される薬効のある植物全般を薬草と呼んでいるに過ぎない。
だから一口に薬草採取と言っても、備蓄の補充のためともなれば、山も二つか三つは探索しなければならないのだ。
「そういえばアジトにある薬草の在庫って、どのくらいだっけ?」
「薬はまだ少し残ってるけど、心もとないから取って来た方が良いって話だったでしょ?」
「そうだったそうだった」
俺の至らぬ部分を、エレンはしっかりフォローしてくれる。
「まったく、話聞いてなかったの? ソウジは本当にそういうとこ雑なんだから!」
「悪い悪い。いつも助かってます」
探索助手のエレン君、キミ、なかなかできるじゃないか。
俺はそんなしっかりしたエレンと野山を歩きながら、目当ての薬草を見つけたそばから採取していく。腰にぶら下げた網カゴは、見る見るうちに薬草でいっぱいに。茎まで必要な薬草は折り畳んで収納しているが、中で解けた薬草の先端が網カゴから飛び出し放題。ワイルドな見た目で嫌いじゃないが、薬草が肌に触れているところが次第に痒くなってくる。背中に背負ったカゴとは違い、こちらは歩く度に揺れるので非常に邪魔だ。次からは装備のスタイルも変えないとな。
「さて……意外と時間がかかったな」
早朝から始めて、気付けばもう日が一番高い所まで上っていた。野営で夜を明かすプランは存在しないので、暗くならない内に帰還しなければならない。
「そろそろ帰ろう」
「………」
「どうした?」
じっ、とエレンが俺の腰の辺りを見てくるので、イヤンエッチ、とかふざけようとしたところ、エレンは真面目な顔で口を開く。
「ソウジ、肌がかぶれてない……?」
「ん?」
言われてみれば確かに、特に太ももから膝の辺りにかけて痒みが増している気もするな。
別に、そんな気にすることでもないと思ったが―――。
「ちょっと見せて」
「エッチ!」
「それどころじゃないでしょ!」
エレンが俺の下半身に手を伸ばしてきた―――かと思いきや、俺のズボンの裾を勝手にまくってしまう。
「あっ………ほら!」
それ見たことか、なんてエレンが指さしたところでは、肌が赤くなっており、異常が発生していることは見た目にも明らかだった。
「ソウジ、ウチの分まで持とうとするから……!」
なんだかエレンが泣きそうな顔で責めてくるが………。
薬草に関して俺などよりも知識が豊富なエレンに、薬草の発見と採取という作業を任せ、俺が運搬を担当しているだけのこと。作業の分担は効率化の基本だ。
「もう、痛いならそう言ってよっ!」
「痛くはないよ。ちょっと痒いだけだから大丈夫だ」
「そういうことじゃないっ! 無理しないでっていつも言ってるのに……!」
「いや………なんか、ゴメン……」
これ、今回のことでキレているわけじゃなさそうだな。
というか、そんな、いつも言われるほど無理はしていないつもりだが。
この世界の動植物どころか常識にすら疎い俺は、ある程度の損な役目を引き受ける場合もあることを覚悟している。それが理不尽なもので命にかかわるほどでもない場合、多少高い勉強代でも次に活かそうと割り切っている。
「もうっ……!」
エレンはプリプリと怒りながら、その場で手早く薬を調合してみせた。
というか携帯用のすり鉢とすりこぎ棒なんて初めて見た。こんなのアジトにあったっけ?
「おぉ……! すごい、見る見るうちに脚の痒みが引いていく……!」
「もぉ………」
俺が呑気に目を輝かせているものだからエレンは呆れていたけれども、だってこの効能に本当に驚いたのだから仕方がない。元の世界でも劇的な効能を示す薬品は存在したが、これほど顕著に・迅速に効果を示すものは流石に初めて見る。
「さぁ、行こうか!」
「……休まなくて大丈夫?」
「ああ。エレンが疲れてなければ」
「ウチは大丈夫」
「なら行こう。早めに帰ろう。日が暮れる前に」
「う、うん………」
エレンが俺から網カゴを奪おうとしたが、俺の方からさりげなく拒否しておく。後ろからエレンがついて来るのをしっかり確認し、俺は帰路についた。




