異世界の何でもない日
「ん~………」
身体中を魔力で満たす、俺の奥義【魔装体術】。
実際、魔力そのものを自在に操作するというのはかなり珍しい技術らしく………というか、我らが傭兵団のカシラたるあのオヤジでさえ、「聞いたことねぇ」と首を横に振る始末だった。
となれば、これは極めてみるしかない。俺の好奇心がそうさせる。ゴーストが囁くのよ、なんてな。
「上手くすれば、無事に元の世界に帰るため―――それまで生き延びるのに、一番役に立つ技かもしれないし、な………さて」
背後、二十メートルほど離れた場所に来た気配。見知ったものだ。
団内の誰か。
「この辺か……?」
その人物は小さく呟くと、大声で俺の名を呼んだ。
「ソウジー! 晩飯の下ごしらえ、手伝っといてやったぞー! 早く作ってくれー!」
「はーい! ただいまー!」
大声で答えてやると、俺を呼びに来たジェイが満足して去って行く。
彼は一年ほど前に団内に入った新参だが、冒険者を経験しているため話を色々聞けて中々面白い。
この場での紹介は割愛させてもらうが、まぁ、そんな感じで俺とエレンが、団内で必ずしも一番の新顔ではなくなりつつあるし。
時の経過は早いものだ、なんてジジくさい感想を抱きながら、俺は空を見上げる。
「今日も一日が終わるなぁ」
そういえば、もう今の俺は雑用などすぐに片付けることができる。気が付けば雑用マスターって感じなので、それ自体にももう慣れたものだが、もはやオヤジや、果てはドラにも「戦闘面で教えることはほとんどない」などと言われてしまえば、後は自己研鑽の日々だからな。要するに、「巣立ち」のような時期を迎えつつあるのではなかろうか。
それでも大事を取って俺はもう少し傭兵団に世話になる予定だが。
教えてもらった剣の型を素振りから確認し、軽いランニングや自重トレーニングで基礎的な体力をつけ、そして魔法の研究と実践により、応用までの技術に磨きをかける。
とにもかくにも、既に団内では戦闘力において俺の右に出る者はいないとはオヤジのお墨付きだが………そんな俺が脅威に思われるでもなく、むしろ皆が親しくしてくれているのは、俺をここの一団の一人だと受け入れてくれているからだろう。
「………」
いずれここを去る……そう決心してはいるはずなのに、折に触れてその決心が鈍りそうになるのは問題だ。
住めば都、だなんて、昔の人はよく言ったもんだな。
「ソウジ、どうしたの、ぼうっとして」
「……ん。もう帰るかなって」
「ウチも」
えへへ、と笑いながら俺の隣を歩くエレンだが………。
思うに、俺のことを一番買ってくれているのは、オヤジと彼女だろう。
何だか俺の弟子のような立ち位置に収まろうとしているが、俺からすれば姉弟子あるいは妹弟子とも言える存在だ。一緒にドラに剣術を習ったり、オヤジの魔法講義を受けたりしたからな。
もっとも、それらよりも一緒に魔法について研究したり、野山を駆け回ったりした時間の方が長いわけだが。
「またぼうっとしてる」
クスッ、と笑ったエレン。
「俺達、野生児だよなぁ」
「何それ」
俺の脈絡のない呟きに、エレンはまたクスッと笑った。
思えば、このプラチナブロンドの美少女ことエレンだが、最初は「アル」と名乗り、性別まで偽って傭兵団内にいた。経緯をオヤジとその奥さんっぽい人(姐さん)は知っていたようだが………。
思えば、アルがエレンであることを俺が知ってから今日まで、彼女は日に日に笑う回数も増えた。
今では、自然に笑ってくれるようになったエレンだ。
会ったばかりの頃、どれだけこいつが荒んでいたのか分かるな。
「野生児って………じゃあ、今度また街の方まで遊びに行こっか♪」
「そうだな」
嬉しそうに街に繰り出す約束をしながら、エレンはその足を弾ませるように歩く。
今では背中の方まで伸びたプラチナブロンドの髪を、楽しそうに揺らして。




