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俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
四章 〜生真面目眼鏡と冒険者認定試験〜
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大事な印だから大事なところに……

「まぁ……なんだ……まさか人によってここまで強力な作用を及ぼすと思ってなかったからさ。その……すまん」


「…………」


「作用を止める用の回復薬(エナジードリンク)は予め用意してたんだよ。ただ予想外にもお前の締まりが悪いってことを予期してなかったもんで……な?」


「…………」


「そ、そもそも悪いの俺だけじゃないからな!? 決定打を決めたのはあのポンコツだろ! ならお前は無罪を主張するのかと言われたらそういうわけじゃないが、俺一人にだけ対して恨み妬みを抱くのは理不尽じゃね!?」


「…………」


 試験後、人としてのプライドを傷付けられたルールーは、広場の隅っこで体育座りをして縮こまってしまっていた。


 しかしただイジけているわけではなく、側に寄り添っている俺に対して殺意の眼差しを無言で送り続けて来ていた。


 どんな手段を用いてでもいつかお前を殺してやるという物騒な意思表示は、俺が何を言っても心変わりする様子が無い。それだけルールーの憎しみは闇が濃く深くなっているのだろう。


 我ながら無理も無い。あんな大勢の前で豪快に漏らすだなんて、俺だったら人として生きる希望を捨てているところだ。今回ばかりは本当に申し訳ないことをしてしまったと深く反省している。


「言い訳とか見苦しいぞビャクト〜。潔く自分の罪を認めろ〜」


 リティアさんに犯した罪を棚に上げて野次を飛ばしてくる元変態怪盗。図々しいことこの上ない。


「罪で全身が染まり切った奴にとやかく言われる筋合いねぇよ。お前もお前でリティアさんに謝罪しやがれ」


「ノーパンという無防備な格好でいるからこその結果だったし、私は悪くないっしょ。ギルド総本部の調査隊ともあろうものが用意のなってないことよ。女たるもの、常に下半身を曝け出す準備をしておかないと駄目でしょ」


「そんな変態はルティーナくらいなもんだろうが」


「あら、思わぬ飛び火ね。いくらなんでも他人相手にそんな変態プレイはしないわ」


 “他人相手には”しないってことは、身内は守備範囲内ということ。それだけでも十分ビッチ要素を満たしてることに気付いてほしい。


「…………」


 黙って睨み付けてきているだけじゃ飽き足らず、今度は足首辺りをしつこく蹴って小突いて来た。


「いい加減にしてくださいルールーさん。貴女はそれでもギルド総本部の調査隊ですか」


 ルールーの扱いに困り果てていたところ、予備を持っていたのか新しい鎧に着替えたリティアさんが助け舟を出しに来てくれた。


「どんな結果であれ勝負は勝負。例え相手に痴態を晒されるような敗北をしたとしても、恨み妬みを持ち出すなど言語道断です。それに相手を恨んでいる暇があるのなら、鍛錬不足だった自分自身の実力を今一度見直すべきだと思いますよ」


「ちっ、偽善者がベラベラ正論語りやがってヨ……」


 やさぐれて極端に口が悪くなる毒舌娘。上司に対して何たる物の言い草か。礼儀も何もあったものじゃない。


「子供ですか貴女は……。いつまでも不貞腐れている時間はありません。もう二度とこんな失態を晒したくないと悔やむのであれば、次の機会に備えて精進しましょう。正直なことを言えば、悔しいのは私も同じなんです」


 そう言って俺に視線を向けてくるリティアさん。


 その眼差しからはルールーのような憎悪は微塵も感じられず、むしろ尊敬の意が伝わって来る。


「調査隊に配属してから死線を潜り抜けたことは幾度と無くありました。しかしその経験を含めたとしても、貴方と対峙した際の戦慄はかつて無いものでした」


 つい先程のことを思い出しているのか、リティアさんのこめかみから冷や汗が流れているのが見えた。


「あれほどの禍々しい殺気を体感したのは初めてのことです。それに、同じ人間相手に終始手も足も出なかったこともです。ビャクトさんはただ運動神経が良いだけだと言っていましたが、実際に手合わせしたからこそ分かります。貴方の手腕は決して自然に身に着くようなものではないと」


 相手がずぶの素人じゃない以上、こういう実感を持たれるのは手合わせする前から覚悟はしていた。やはり実力ばかりは誤魔化し切るのはキツい。


「率直にお聞きします。貴方は過去にどういった鍛錬を積んでいたんですか? 身体能力は言うまでもないことですが、それ以上に異常だと感じたのは貴方の“目”です。きっと私達じゃ想像もできない“何か”をしていたことは確かだと思うのですが……どうなんでしょうか?」


「……ノーコメントで」


「ざけんなゴラァ!!」


「うおっ!?」


 ただ静かに怒りを抱いていたルールーが急に目くじらを立ててブチ切れ、一切加減もせずに蹴りを放って来た。


 直撃は免れたものの、足先が鼻先を掠めて少し傷が付いてしまった。可愛い見た目に反した末恐ろしい獣娘だ。


「それだけの実力を見せておいてまだシラを切るネ!? スカしてんじゃねぇよボケが! 男のくせに見え透いた隠し事をいつまでも隠しやがって女々しいネ!」


「馬鹿かお前! 私怨で暴力振る公務員が何処にいる!?」


「今お前の目の前にいるネ!」


 ぶっ飛ばすまで続けるつもりか、何度躱しても懲りずに襲い掛かって来る。短気というか執念深いというか……。


「うっ!?」


 また腹の痛みが再発でもしたのか、時が止まったかのようにルールーの動きがぴたりと静止した。


「う、動けないヨ! お前また何かしたネ!?」


「なわけねぇだろ。でも丁度良いからそのまま止まってろ野蛮女」


 皆の方を見てみると、ルールーを見ながらくすりと笑っているルティーナの姿があった。大方あいつの仕業だろう。


「本当に申し訳ありませんビャクトさん。あの馬鹿――もとい部下には後でキツく叱り付けておきますので」


 さらりと本音を漏らしていたが、聞かなかったことにしてあげよう。この人も色々ストレス抱え込んでるんだろうし。


「あの馬鹿はさておきとして、試験結果は全員合格ってことで良いんですかね?」


「えぇ、そうですね。個人的に認めたくない方々が数人紛れているのが納得いきませんが、あくまでこれは冒険者になるための試験。条件を満たしている以上、私がとやかく言っても無駄なことです」


「認めたくないって?おいおい誰だよ中途半端な結果残した奴〜? 今から足引っ張られても皆が困るだけよ〜?」


「鏡見てこいクソパンツ。馬鹿面晒した張本人が見られるぞ」


 兎にも角にも、全員条件を満たすことができたわけだ。ノルマ達成に肩の重荷が少しだけ降りたような気がした。


「それでは、全員試験合格ということで、まずはこれを押させてください」


 リティアさんは予め用意していた荷物の中から小さな袋を持ち出すと、その中から大きめの判子のような道具を取り出した。


「あっ、私知ってますそれ。確か冒険者の印というものですよね?」


「ご察しの通りです。この印を身体の一部に刻んだ瞬間から、その方は初めて冒険者と呼ばれるようになります。では、押す場所を決めた方から私の前に来てください」


 書類を使った面倒な手続きがあると思っていたが、身体の一部に判子を押すだけで済むのか。肝心なところは案外あっさりしているらしい。


「私は無難に手の甲でいいや。左手の方に宜しく」


「分かりました」


 ピノが左手を差し出すと、甲の部分に印を押された。


 すると、幾何学模様の印が銀色に光り輝いてすぐに消えた。印を押しましたよ、というサインだろうか。


「はい、これで完了です。では次の方どうぞ」


「はい! それじゃ私はここにお願いします!」


 今度はシフォンがリティアさんの前に立つと否や、後ろを向いてお尻を突き出すように四つん這いになった。


「ここは一つ思いっ切り押してください! 右のお尻でも構いませんし、左のお尻でも構いません! 何ならお尻の穴の中に突っ込んでくれても――」


「こいつも手の甲にお願いします」


「…………はい」


 シフォンの背中を踏み付けて身動きを取れないようにした後で、ピノと同じ左手の甲に押してもらった。


「あぁっ!? 印を示す際にお尻を曝け出すことで周囲に痴態を晒すという私の計画が台無しに!」


「お前ドMじゃなくて本当はただの変態だろ。用が済んだならすっこんでろ」


 軽く蹴り押すことで遠くに転がしてやると、涎を垂らしながら快楽の笑顔を浮かべて身悶えしていた。あれはもうあのままにしておこう。


「お前もとっとと押してもらえ。俺は最後でいい」


「分かったわ。なら私はここに押してもらおうかしら」


 続いてルティーナがリティアさんの前に立つと、ローブの前を開けて普段隠している身体を露出させた。


「ぶっ!? な、なんて格好をしているんですか貴女!?」


 例の下着姿も同然の格好を目の前に顔を赤くさせるリティアさん。


 唯一まともな女だと思っていただろうから、不意を突かれた反応がシフォンの時よりもリアクションが大きい。ウチの猫被りクソビッチが本当に申し訳ない。


「これはダーリンの趣味よ。これでも私はダーリンに飼われている奴隷なの」


「誤解を生む嘘を堂々と吐いてんじゃねぇ!」


「あ、貴方達はまともな人格者であると思っていたのですが、まさか全員が変態だったなんて……」


「いや違いますから! 変態なのは俺以外の三人だけで、俺は至ってまともですから!」


「でも男は皆変態だって世間じゃよく言われているわよね」


「お前ちょっと黙ってろ! お前の言動は誰も幸せにならない悲劇しか生み出さないんだよ!」


 現代も異界も男という生き物の偏見は一緒なのか。男にとって世知辛い悲しき世の理よ。


「無駄口叩いてねぇで早く済ませろ!」


「仕方無いわね。それじゃ私はここにお願いするわ」


 とんとんと人差し指で自分の右側の胸元を示す。


 なんでまたそういう際どいところに敢えて印を付けようとするのか、ビッチの考え方は一向に理解できない。


「はい、これで後はビャクトさんだけですね。何処に押したら良いでしょうか?」


「ん〜、そうですね……」


 恐らく一生付き纏う印だろうし、場合によっては印を隠して行動しなければならないような時がやって来るかもしれない。


 その可能性を考慮するに、普段は見えないところに押した方が都合が良いだろう。


「んじゃ俺は肩の辺りに押してもら――」


「ちょっとそれ貸してもらえるかしら?」


 少し考え込んだ後に肩に押してもらおうとしたところ、ルティーナがリティアさんの手元からひょいっと判子を取り上げた。


「おいコラ、何勝手なことしてんだ。とっとと返せよ」


「…………」


 無表情で色んな角度から判子を見回すルティーナ。


 続いて判子から俺に視線を移して、じろじろと全身を隈なく見つめて来る。


「…………フフッ」


 そして何を思ってか、小悪魔のような意味深な笑みを浮かべた。


 本能的に察する嫌な予感。今すぐ判子を取り上げろと、脳内で防犯ブザーが警報を鳴らしていた。


「よーし、まずは落ち着こうかルティーナ。ゆっくり両手を挙げてから身体の力を抜くんだ。それから冷静に話し合いをしよう」


「……えぇ、良いわよ」


 右手の親指と人差し指で判子を摘みながら、言われた通りにゆっくりと両手を挙げる。


 しかし両手を挙げた刹那、ルティーナの斜め右上辺りに黒ずんだ妙な異空間が出現した。


 気付いた時には既に遅く、右手に摘んでいる判子が半分だけ空間の中に飲み込まれてしまった。


 その瞬間、俺の下半身にむずりと違和感のある感触が一瞬だけ伝わって来た。


 自分の身体を見下ろしてみると、俺の股間が微かに発光していて、生き絶えた蛍のようにそっと光が消えた。


「これで私達は正真正銘の冒険者ね」


「…………おい」


 充血しているであろう目をかっ開いてルティーナを見据え、乱暴に胸ぐらを掴み上げた。


「このまますんなり行くと思うてか? 俺は見たぞ? 決定的で衝撃的な一部始終をこの目で見たぞ?」


「あらそう。それで感想は?」


「無殺の誓いを破ってでもお前の脳天をカチ割ってやりたいと殺意の衝動が囁いてるよ」


 決定的瞬間を見たのは俺だけではなく、他の連中も一人残らず見納めていた。


 その内のミルクとピノが両手で口を押さえて頰袋を膨らませ、涙目になりながら必死に笑いを堪えていた。


 更には例外として、俺の印が押された部分を見て怒りを露わにしている変態メイドまで戻って来ていた。


「くっ……よ、良かったじゃんビャクト……。念願の目的が果たせて言うこと無しじゃん……くくっ……」


「し、しかしこれからが本番……ぷくっ……ですよ……。何故ならビャクト様には使命があるのですから……ぷぷぷっ……」


「卑怯ですよビャクトさん! 自分だけ辱めを受けられる場所に判子を押してもらうだなんて!だったら私も◯◯◯に押して貰いたかったですよ!」


「……………………」


 ブチリと音を立てて、俺の中で切れてはいけないものが切れた気がした。


 俺はリュックの中からゆっくりと警棒を取り出し、何も言わずに“メタルハンズ”を発動させた。


「あっ、やべぇあの目。逃げないとマジで殺されるパターンだ」


「ならばここはお任せ下さい! この私がビャクトさんの憤りをこの身で全て受け止めてみせましょう!」


 それは人助けを名目とした勇敢なる行動か、それとも無駄に命を散らすだけの無謀な行動か。


 どちらにせよ、俺のやることは変わらない。


「さぁ! 何処からでも掛かって来てください! 如何なる強撃であろうとも耐えてみせますよ! こう見えて私も日々レベルアップしているので、それなりに耐久力も向上していて――」


 シフォンの横を通り過ぎると共に、背中の“あるツボ”を狙って人差し指を突き刺す。


「……あれ? 身体が全然動きません」


 シフォンの身体はぷるぷると震えるだけで、指の一本すら動かせない麻痺状態に。


 ガラ空きの背中を足裏で押し付けてやると、シフォンは「あふんっ!」と喜びながらうつ伏せに倒れた。


「指一本で人間を戦闘不能にするってどないやねん」


「フフッ……ゾクゾクするわね。鳥肌が止まらなくなってきたわ」


「言ってる場合ですか! ほら、お二人も土下座してください! 今謝らなかったら確実に抹殺されますよ!」


 恥も外聞も捨てて一人手慣れた土下座をするミルク。だが残りの二人がミルクに続くことはなかった。


「頭下げる必要無いってミルク。だってあれはビャクトが油断してるのが悪いじゃん。それで股間光らせてるんだから、それで笑ってやらない方が失礼っしょ。私達はネタを滑らせないように配慮したんだから、むしろ感謝されるべきだと思うね」


「ちなみに正確なことを言えば、判子を押したのは股間じゃなくて袋の方よ。裏側の方にポチっとね」


「なるほど、目立たないように配慮してあげたわけだ。万が一エッチする時に『あれ? なんか股間に変な刺青みたいなものが……』みたいな気まずい空気にならないように、敢えて面積の広い袋の方に押したわけだ。いやはやルティーナは優しいなぁ!」


 それが愉快に笑う二人の遺言であった。


 ルティーナに魔法で何かしらの手を取られる前に、俺は人知を超えた速度で二人の真正面まで移動して顔面を鷲掴み、後頭部を容赦無く地面に叩き付けた。


 首から上が地面に突き刺さり、釘のように打ち込まれた二人は直立したままピタリと動かなくなった。


「あわわ……ルティーナさんまで……」


「…………」


「あっ、ちょっ、痛っ! 痛いっ! なんで私だけ何度も足蹴にするんですか!? 顔! 顔は止めっ! あべっ!」


 何度か足で蹴突いてやると、貧弱ステータスの女神は目を回してダウンした。


「……何だか大変そうですねビャクトさん」


「大変なんて一言じゃ片付かないですよこいつらは。そんなことより、改めてこの判子押させて貰っても良いですかね?」


「それは……その……大変申し上げし難い事なんですが、その判子は一人一箇所にしか押すことができないんです」


「え゛っ……。で、でも所詮は判子なんですよね? いくつ押そうが関係無いんじゃ……」


「実はその判子はただの判子ではないんです。冒険者として健康に活動ができるようにと、病原体から身を守る加護の力が印に備わっているんです」


「だったら尚更問題ないのでは? むしろ沢山押しておいた方が加護の力も強まると思うんですけど」


「いえ、それこそむしろ逆効果なんです。何故なら、この世のあらゆる加護は一個体に重複することができないんです。仮に一度でも同じ加護を身に宿してしまった場合は……」


「……どうなるんです?」


「加護と加護が反発作用を引き起こし、なんやかんやで肉体が耐え切れずに破裂します」


「肝心なとこフワッとした説明なんですけど!?」


 “加える護り”と書いて加護と呼ぶのに、その加護が肉体を破壊するって矛盾しているのでは?護るどころか壊しているし、これじゃある意味呪いと一緒じゃないか。


「なら元々押してある印を消すことは可能ですか? それならもう一度押しても大丈夫ですよね?」


「その場合ならば可能ですが、加護を取り払って貰うには加護魔法の専門の方に協力してもらう必要があります。そして加護を外してもらう手段としては、印に直接触れてもらわなければなりません」


 つまり、俺の加護を外す前提条件として、その人に俺のアレを露出しなくてはならないということに他ならない。


「それに加護魔法を扱えるのは大抵の方が女性ですので……その……」


 皆まで言われずとも分かってしまう追撃の補足。印の押してある場所が場所なだけに、可能なものも不可能になってしまっているというわけだ。


「ぷぷぷっ、ざまぁないネ。印はクエストを受ける度に示さなくちゃいけないものだから、お前の場合はその度に股間を見せなくちゃいけないというわけヨ。変態パーティーのリーダーとしては十分過ぎる素質ネ」


 いつの間にか麻痺状態から回復していたルールーに煽られ、駄目押しの一手によって俺は地に両手を付いた。


 出鼻を挫かれるとはまさにこのこと。試験に受かって早々冒険者活動に勤しむことができなくなってしまうだなんて、一体誰が予想していた?


 否、そんな奴は決まり切っている。あそこで未だに突き刺さっている魔女――あっ、もう脱出してる。


「迂闊だったわ。私としたことが同じ人に二度も不意を突かれてしまうだなんて」


 手で頭を痛そうに抱えているものの、表情はいつもの変わりなきニヤつき顔。もしかしたらあいつもMの素質があるのでは?


 恐れを知らずに向こうからとぼとぼ歩いて近付いて来ると、俺は目で殺す勢いでルティーナを睨み付けた。


「真意を問おうかクソビッチ。何故にこんないらんことをしやがった?」


「……その方が面白そうだったから?」


 中身スカスカの理由に余計腹が立つ。


「お前の悪戯はハードどころかエキスパート飛び越えてんだよ! 人の気も知らずによくそんな真似ができるな!?」


「……ダーリン、私は思ったのよ。今後冒険者として働くことになる私達にとって、冒険者の印は命の次に大事な証。故に、大事なものは大切に保管しておいた方が良いでしょう?」


「保管も何も、そもそも印自体が身体に刻み込むものだろうが。取り外そうにも基本的に付いて離れない代物だろうが」


「そうね、だからこそ私は思ったのよ。大事なものは大事なものの側で寄り添うように取っておいた方が良いと。玉と棒と印が揃ってまとまりが良いと思わないかしら?」


「悪い、お前が何を言っているのかさっぱり理解できない」


「大丈夫よ。私も勢いで喋っているから理解していないもの」


「ホント何なのお前!? 何がしたいの!? 何を生き甲斐としているの!?」


 やはりサイコパスクソビッチの言うことは何一つ理解できない。会話にすらならない。


「あの、リティアさん。この印以外に冒険者の証みたいなものってないですかね? じゃないと今後一生生殺し状態から抜け出せないんですけど……」


「あっ、でしたら装備品に印を刻むという手段がありますが」


「それをもっと早く言って欲しかったんですが!?」


「いえ、何だかビャクトさんが生き生きと喋っていたので、邪魔してはいけないと思いまして……」


「いらん配慮はしなくていいから!」


 股間の印はそのままにしておくということで、俺は殺し屋装束の装備品である額当てに印を押してもらう形で事を済ませた。


 前途多難な本格的冒険者人生の幕は、こうして慌しくも上がるのであった。

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