表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
四章 〜生真面目眼鏡と冒険者認定試験〜
35/45

冒険者認定試験 前編

 ついに……ついにこの日がやって来た。


 長い長い道のりであった。しかし、俺はやり遂げたのだ。


 様々なイレギュラーな事態と遭遇しながらも、苦労を積み重ねて辿り着いたのだ。


 周りは変態ばかりだ。エロス中毒だったり、強者中毒だったり、ドM中毒だったりと、ロクなメンバーがいない。


 それでも形を成すことだけはできたのだ。それは我ながら褒められることであり、達成感に浸ってもバチは当たるまい。


 さぁ、いざこの先へ進もうじゃないか。(仮)という邪魔でしかない印を取り払うために。


 今まで何度も訪れたウンターガングのギルド。既に見飽きた昼夜問わずに騒がしい酒場の喧騒も、今ではすっかり慣れ親しんでしまった。この町に溶け込めている証だろうか。


 酒場には立ち寄らずに、リィアさんが働いている受付場へと真っ直ぐ向かう。


「あっ、おはようございますビャクトさん。そろそろ来ると思っていたので、お待ちしていましたよ」


 受付場までやって来ると、既にリィアさんが色々と準備を済ませて待っていてくれた。気の利いた処置が実にありがたい。


「ようやく私達も冒険者になるのか〜。でもあんま実感ないわ」


「でも実際クエストを受けるようになったら、日常が一変するかと思いますよ。何と言っても、命が左右される舞台へと赴くようになるんですから。今からドキドキし過ぎて私なんてもう……フヘヘッ……」


「お前らはこんな時でもブレないのな……」


 いざ正式な冒険者登録ができるようになったと思うと、少し緊張して自然と身体が硬くなってしまう。


「それでは、冒険者になるためにステータスチェックをさせて頂きます。まずはビャクトさんから宜しいでしょうか」


 カウンターの上には、例の水晶玉が置いてあった。何だか懐かしいこの流れ。


 両手で水晶玉に触れると、青白い光を浴びた途端に光り輝き始めて、大きな液晶画面が浮かび上がった。


 映し出されているのは、以前にも見た俺のステータス画面。


 相変わらず殆どが『?』で表示されていて、知力の方も変わらず『馬鹿』と書いてあった。


「やっぱ何も変わってないか……」


「何これ。謎な部分がある人だとは思ってたけど、これじゃ謎そのものじゃん」


「お前も人のこと言えねぇ謎だらけの人間だろうが。そういやリィアさん、俺のこのステータスの件について何か総本部から連絡届きましたかね?」


「その件についてなんですが、先に皆さんのチェックを終わらせたいので後回しにさせていただいても宜しいですか?」


「あ、はい……」


 その口振りから察するに、何かしらの返事が返って来たと捉えて良いだろう。時間はあるんだし、焦る必要もない。


「それでは、他の三人の方々もステータスチェックをさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「あっ、じゃあ先に私やるわ。実はずっとやってみたいと思ってたんだよねこれ」


 実を言うと、俺も地味に気になっていたりする。


 こいつらの人間性は一人残らずズレてしまっている異質な存在ではあるものの、一人一人何かしらの長所を持っている。それを今一度確認できるのはありがたい。


 まず最初は元変態怪盗であるピノ。


 こいつの場合は敏捷性が優れたステータスが表示されると思うが、果たしてその実態は?


 ピノが水晶玉に触れて液晶画面が映し出される。


「えっと……。バストサイズ見抜き力、フェチズム読心力、下着見切り力……って、なんですかこれ!?」


 リィアさんが口にするステータスの項目は、何一つとしてまともなものが無かった。


 ステータスと言うより、変態度を表すような部類ばかりだ。


「基本的なものが何一つ載っていないんですが、この場合はどうすればいいんでしょうか……」


「なるほど……。つまり私のステータスは、こんなガラス玉一つじゃ見分けられないくらいに優秀ということか。ハッハッハッ! 優れた人間って罪なもんだね〜! この才能に嫉妬する奴が何人いることやら?」


 優秀過ぎるというか、変態過ぎてこんな結果が出たのでは? 嫉妬どころか軽蔑する奴が続出するとしか思えない。


「と、とにかくピノさんは保留扱いとして、次はルティーナさんお願いします」


「えぇ、分かったわ」


 今度は隠れ最強魔族のルティーナ。


 俺はこいつのステータスが一番気になる。恐らくこいつのステータスは、過去の事例を覆すような物凄い能力値を持っているだろうから。


 いつものようにニヤニヤとした笑みを浮かべながら、特に怪しい挙動を見せずに水晶玉に触れる。


 そして次の瞬間、水晶玉が瞬く間に粉々に砕け散った。


「きゃっ!?」


「あら、壊れてしまったわ。どうやら私も測定不能扱いのようね」


 わざとらしく被りを振る魔女。


 さてはこいつ、意図的に水晶玉を壊したな?


「おいコラクソビッチ。他所様の備品壊してんじゃねぇぞ」


「何のことかしら? 私はただ水晶玉に触れただけよ?」


 ここでもシラを切るか。隠し事が好きな奴……って、俺も人のこと言えないか……。


「すいません、思わぬアクシデントが起こってしまったようでして……。すぐに新しい水晶を用意しますね」


 不備であると勘違いしたリィアさんが謝罪してくると、カウンターの奥に戻って新しい水晶玉を用意して来た。うちのミステリー魔族が申し訳ない。


「次は私ですね。自分の耐久力を今一度見直す機会が訪れるとは思ってもいませんでした。これを機に自分の限界の再確認をするのも良いかもしれませんね」


 ピノと同じように好奇心旺盛なシフォンは、瞳の奥を煌めかせながら水晶玉を見据え、そっと水晶玉に触れた。


「…………」


 一人液晶画面を確認するリィアさん。その目は点になって呆然としていた。


「……すいません。全ての項目が“M”としか記入されていないのですが……」


 リィアさんの横に立って液晶画面を覗いてみると、項目は体力や火力といったまともなものではあるが、数値が全て『M』としか表示されていなかった。


「ついに私の肉体そのものすらMと化してしまいましたか……。自称・ドMの帝王としては誇らしいことですね。いっそ勲章を貰いたいくらいです」


「汚名ならいくらでもくれてやるがな」


「それはまた願ってもないですね!」


 とことん救い難くなっていく。救う気なんて更々ないけど。


「誰一人としてまともにステータスチェックができないだなんて、皆さん一体何者なんですか?」


「すいませんリィアさん、こいつら色々とキチガイだからこういう結果が出てしまったと思うんですよ」


「謎人間に言われたくないんですけど〜。私達がキチガイだとしたら、ビャクトも十分キチガイの範囲内じゃん」


「そうですよビャクト様。自分のことを棚に上げてはいけません」


 減らず口を……。お前らと俺とじゃキチガイの方向性がまるで違うというのに。


「それで? このままじゃ私達の冒険者適正が判断できないみたいだけど、こういう場合の対処法はあるのかしら?」


「それについてなんですが、まずは皆さんに会って頂きたい人達がいるんです。今呼んで来ますね」


 そう言うとリィアさんは、一旦受付場から立ち去って酒場へと向かった。


 それから然程時間を掛けずに戻って来ると、二人の人物を引き連れて来た。


「ヨヨッ? 見覚えのある顔がちらほら見えるネ」


「あれ? ルールーさんじゃないですか!」


 どっかで見たことある顔があると思いきや、何時ぞやの毒舌チャイナ娘だった。なんでこんなところにこいつが……?


「また会ったネ。えっと……雑巾?」


「その覚え方は如何なものかと思うのですが!? 私の名前はミルクですから!」


「あ〜そうそう、そんな名前だったヨ。それと……」


 ルールーはこっちの方を見つめて――いや、シフォンの顔を見つめると、顔色を青白くさせて苦い表情を浮かべた。


「なんで変態メイドがここにいるネ……」


「私がウンターガングの出身だからに決まってるじゃないですか。あの時の衝撃、今でも鮮明に覚えていますよルールーさん。何なら今ここであの決闘の続きをしても私は一向に構わな――」


「というかビャクト、お前ここの町の出身だったのネ。それにその左腕は何ヨ?」


「あ〜……これはだなぁ……」


 ウンターガングに帰って来てからというものの、左腕は包帯で処置を施しているも、一向に回復の気配が見受けられなかった。粉砕骨折しているのだから当たり前なんだが。


 治療魔法を扱える奴がいれば助かるものの、何でもルティーナの話によれば、治療魔法を扱える者はこの世に指で数えられる人数しか存在しないとのことらしく、かなりの遠出でもしない限り回復は見込めないんだとか。つくづく厄介な怪我をしてしまったものだ。


 それにルティーナの口振りからして、魔法に関して全知全能であるルティーナであろうとも治療魔法は扱えないっぽいし、大金叩いて遠出するしかすぐに治せる手段がない。そもそもこの怪我で冒険者登録できるのかすら怪しいって話だ。


 ルールーに事実を話すわけにもいかず、どう誤魔化してこの場を凌ごうかと思い悩んでいると、また何かを企んだ笑みを浮かべながらルティーナが近付いて来た。


「これは所謂、名誉の負傷というやつよ。そういえば治してあげていなかったわね」


「…………は?」


 さらりとそんなことを言って来ると、ルティーナは俺の左腕を両手でギュッと掴んで来て、淡い緑色の光が左腕を包み込んだ。


 そうしていること約二十秒。光が消えると否や、左腕に感覚が戻った。


 試しに掌を開いて閉めてを繰り返してみる。


 ……うん、完全に治ってますねこれ。


 俺は目くじらを立てながら、額と額がぶつかる距離までルティーナに詰め寄った。


「お前も治療魔法使えるんじゃねぇか! なんで放置してた? この怪我を見ておきながらなんで黙り込んでやがった!?」


「ダーリンから治療してくれと言われていなかったからだけど?」


「今も言ってなかったろ! それに普通はこんな怪我見たら治してあげようという思いやりに心動くもんだろ!」


「それはダーリンの言う常識化での話じゃない。私が普通じゃないってことくらい、ダーリンが一番分かってくれていると思っていたのだけれど」


 ついに自分が常識外れであることを認めやがったよ! 今更だけども!


「まぁまぁ良かったじゃないかヨ。結果オーライってやつネ」


「んの野郎……。お前ロクな死に方しねぇぞ……」


「そうでしょうね。きっと私は地獄に堕ちるわ」


「そんなことないですよルティーナさん。少なくとも、善行を成す者は救える余地有りと見定められるものです。私達の中で地獄に堕ちそうな人を述べるとすれば、ピノさんくらいなものですよ」


「……やっぱ私の扱いだけ酷くね?」


 犯罪に手を染めることしかして来なかったんだし、ミルクの言い分は最もだ。むしろこれで地獄に堕ちない方がおかしい。


「こほんっ……。そろそろ本題に入らせてもらっても宜しいでしょうか?」


 騒ぎ立て過ぎていたせいか、ルールーの隣でずっと黙り込んでいた女性がわざとらしく咳を立てると、周りが空気を呼んで話を中断した。


「一応勤務中ですよルールーさん。新人だから多少のミスは許されるとはいえ、ご自分の立場を考えて意識してください」


「悪かったヨ。でも反抗的なことを言わせてもらうと、逆にリティアは頭固過ぎヨ。もっと柔軟になるべきネ」


「上司には敬語と“さん”を付けてください」


「……人の揚げ足ばかり取るのも宜しくないネ」


 ルールーとは相反する堅物キャラ。黒髪のストレートに、軽装備の鎧に身を包み、黒縁眼鏡を掛けた若い大人の女性。いかにも学級委員長、または生徒会長というあだ名が相応しい外見だ。


「申し遅れました、私の名前はリティアと言います。ギルド総本部にて、調査隊兼冒険者管理部に所属している者です」


「ちなみにルーは最近ギルド総本部からスカウトされて、今はリティアの部下として働いてるネ」


「スカウト? 本部から直々にか」


「そうネ。魔王の幹部の一人を倒したという実績が認められたみたいで、是非本部の隊に所属して欲しい言われたヨ。本部に入れば金に困ることもないし、各地を巡り歩けるから強い奴とも出会える。私にとって一石二鳥ね」


「ふーん……」


 なるほど、あの幹部はルールーが倒したことになっているのか。それはなんとも好都合な話だ。


 ドラゴンとまではいかないだろうが、魔王の幹部を倒したという実績も十分目立つだろうし、本当は俺が倒したという事実は闇の中にあればいい。


「それで、なんでギルド総本部の人間がこんな辺鄙な町に来てんの?」


「先程にも言った通り、私達は冒険者管理部にも所属しています。言い方を変えれば、試験官のような役割を担っているということです。本日はその件でこの町を訪れたというわけです」


「つまり、ステータスチェックじゃ私達が判断できないから、こうして貴女達が足を運んだということかしら?」


「本来はビャクトさん一人を見定めるために参ったのですが……。リィアさんの話によれば、他の皆さんもステータスチェックじゃ判断できないとお聞きしました。なので今回は全員を一度にテストさせて頂きます」


「テストを行うことは分かりましたけど、それはどういった内容なんでしょうか?」


「ハッハッハッ! そんなの決まり切ってるネ!」


 高らかに笑い上げるルールーは両手の指の骨を鳴らして、目の前に獲物を見つけたかのような鋭い視線を送って来た。


「冒険者になる前提条件は戦闘力があるかどうかネ。つまり、私達と模擬試合をするってことヨ」


「模擬試合……ムフフッ……」


 試合という言葉に静かに興奮するシフォン。既に試験という言葉は頭の中からすっぽ抜けていると見た。


「例年冒険者稼業で生活費を稼いでいる方は減少の一途を辿っています。ですが、実力の無い者が冒険者になったところで、無駄な被害が出ることは必然の理。だからこうして私達のような試験官という役割を持った者がいるんです」


「要は、私達に実力を示せってことネ。勝ち負けはともかくとして、私達に実力を認めさせることができれば問題無しヨ。無論、そっちが勝てば問答無用で合格ネ」


 至って単純明快な試験形式だ。魔物相手に実戦形式だと思い込んでいたが、これなら安全かつ確実に冒険者の権利を会得できそうだ。


 ……俺個人の話だが。


「取り敢えず、まずは広い場所に移動しましょう。ここでは器物損害の被害が及びそうですから」


「なら町の中央にある広場なんてどうでしょうか? あそこなら大勢の人達の前で醜態を晒――一番広い場所なので手合わせには持ってこいかと」


「ならさっさと移動するネ。うずうずして仕方無いヨ」


 と言いながら俺を一点に見つめて来るルールー。


 お前の試合は私が受け持つと、その目が物語っていた。




〜※〜




 大きな時計塔が目立つ中央広場。ここに来ると、何時ぞやの変態怪盗騒動のことを思い出してしまう。


 受付場で俺達が試験を受けることをこっそり聞いていた奴がいたのか、既に広場に先回りしていた野次馬達が待機していて、噂も町中に拡散されて大勢の見物客で密集していた。


 この町の住民の暇人率が高い件について町長に申し立てたいところだが、その町長すら見物客に混じっている始末だ。


 活気があるのは良いことなんだろうが、正直鬱陶しいと思ってしまう。


「人通りの少ない場所でやりたかったのに……。こんな大勢の場で戦えないんですけど俺」


「やむを得ないですよビャクト様。それに冒険者として活動するということは、それなりの実力があると立証するようなものですし、避けては通れない道だと思いますよ」


 珍しく正論を言われてしまう。


 かと言ってこの人数は大分気が引けるのも事実。一体どうしたものか……。


「試験形式は一対一で……と言いたいところですが、訳あって私達は次の目的地に急がなくてはなりません。ですので、私が同時にお相手させて頂きます」


 試験官の二人とある程度距離を取ったところで、自分の実力に自信満々な発言をされた。余程腕に覚えがあるようで。


「ちょいちょい、それは流石に私達のことを甘く見過ぎっしょ。一方的なリンチとか好みじゃないんだけど」


「同感ネ。しかもそれだと私の出番ないヨ。ビャクトは私が受け持つから、リティアは他の三人の相手をするネ」


「仕方無いですね……。それでは、ルールーさんはビャクトさんの相手を宜しくお願いします」


「よっしゃ! 思惑通りネ!」


「そういうことは口に出さずに頭の中だけで止めておいてください」


 勝手に話が進行していく。本気でこの三人を同時に相手にするつもりかあの人?


 誰一人としてまともな感性持ってない変態ばかりだが、実力に関しては決して貧弱というわけではない。むしろ曲者揃いと言った方が正しい。


 それだけの腕前を持っているのか、はたまた口達者なだけの堅物キャラか。お手並み拝見させていただこう。


「じゃ、まずはお前ら相手してもらえ。手を抜いて返り討ちに遭うのだけは止めろよ」


「返り討ち? ないない、ありえないって〜。そもそもあんな眼鏡女子一人くらい、私一人でも事足りるし〜」


 こうも分かり易くフラグを立てる馬鹿が身近にいることに不満が増幅。結果が見え透いてしまった。


「ならまずはピノ一人に戦ってもらいましょうか。私とシフォンは様子見ってことで」


「私としては囮などに利用して欲しいんですが、致し方ありませんね。先手はピノさんにお譲りします」


「うぇっへっへっ〜。あの生真面目な顔を崩してやるぜ……」


 やる気満々……と言うより、辱める気満々なご様子の変態。


 本来ならばピノを応援すべきなんだろうが、ここは是非ともリティアさんに一発喝を入れてもらいたい。


「私は三人同時にと言ったのですが……まぁ良いでしょう。それでは早速始めたいと思います」


 リティアさんは腰に差した銀色のレイピアを引き抜くと、切っ先をピノに向けるようにして剣を構える。


「先手はお譲り致します。何処からでも掛かって来てください」


「余裕だね! ならお望み通りに!」


 ピノが単身駆け出すと、リティアさんは目を細めてピノの動きを見据える。


「私に先手を譲ったのは愚策なり! くらえ!」


 ピノは短パンのポケットに手を突っ込むと、ひらひらと揺れ動く布切れ――もとい女性物のパンツを取り出した。


 例の如く、そのパンツは奇妙な光沢がこべり付いていた。懲りないなあいつも……。


(イー)(アール)(サン)! 煌めけ、“ディンスワップ”!」


 パンツが紫色に光り輝き、ピノの切り札である強制物々交換魔法が発動――するに思われた。


「……あり?」


 発動するはずの魔法が発動せず、呆けた顔で唖然とするピノ。


 そんなピノを見計らい、リティアさんが一気に距離を詰めて来た。


「あぶっ!?」


 胸元目掛けて神速の突きが繰り出されるも、ピノは咄嗟に後ろ腰の短刀を引き抜いて、ギリギリのタイミングで刃の腹の部分で受け止めた。


 しかしその受け方は愚策。レイピアの本筋はその軽さ故、突きの連打に長けているのだから。


 目にも止まらぬ突きの嵐がピノを襲い、全て捌こうとするもその速度に反射神経が追い付かず、身体の至る所に猛攻の乱撃が炸裂した。


「ぐぇぇぇ……」


 情けない声と共に地を這いずりながら吹き飛ばされて来た。言わんこっちゃない。


「な、なんで発動せぇへんねん……。意図してないわぁこの展開」


「これでも調査部の身ですから、情報収集の方に関しては自信がある方でして。無論、貴女のこともよくご存知ですよ。過去にセクハラで世を騒がせ、何故か死んだこととされている元変態怪盗。見た目の特徴からして、貴女がそうであると確定していました」


「……やっべ」


 まさかの正体筒抜けという。これって洒落になっていないんじゃ?


「ご安心ください。話は全て総本部長から聞いております。世間に公表するつもりはありませんし、今ここで捕まえるつもりもありません」


「あっ、そうなの? なら良いんだけど――」


「ですが……。貴女のして来たことは立派な犯罪です。その罪を償うこともしようとせず、今度は冒険者の資格を得ようとしている。何かを企んでいることは自明の理。試験は贔屓せずに行いますが、そんな貴女を合格させるつもりは毛頭ありません」


 眼鏡の奥からギロリと鋭い目付きでピノを睨み付ける。


 その真面目さ故に、個人的にピノの所業を許すつもりがないんだろう。当然と言えば当然の反応ではある。


 でもこっちは今後の生活が掛かってるんだ。一人でも試験に不合格になれば、必然的に俺達にも被害が及ぶ。それだけは何としても避けねばならぬ道だ。


「……すいません、私一人じゃ無理そうなんで手伝ってください」


 先程までの威勢の良さは何処へやら。実際に手合わせしてリティアさんの強さを体感したからか、すっかり萎縮してしまっている。


「私一人でどうにかなるとか言ってなかったかしら?」


「だって強いんだもんあいつ! 私の切り札が通じない時点で、今の私は反射神経が取り柄なだけの変態だよ!」


 潔い我こそは変態発言。実に清々しい。


「というかさ……。私の魔法が発動しなかったってことは、あの人って今もしかして……」


 ジーッとリティアさんの下半身を見つめるピノ。


 改めて思い返すと、確かにそうだ。スワップが発動しなかったということは、等価交換の対象が無かったということになる。


 ……人は見掛けによらないんだな。


「誤解しているようですが、私はノーパン主義というわけではないです。貴女の魔法の対策として、意図的に穿いていないだけですので」


「ということはつまり、あの鎧を引き剥がすことができれば……」


 ピノの脳内で妄想が膨らみに膨らみ、興奮余りに気色悪い笑みで顔面崩壊していた。


「ぜってぇ剥がす!! 行くぞ二人共ぉ!!」


「「…………」」


「……あり?」


 ピノのテンションについて行けずに見て見ぬフリをするチームメンバー。


 ……無理かもしれないこの試験。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ