何気ない平和なひと時
「うぁっ……あぁっ!」
突如聞こえた艶かしい声に眼が覚める。
「いやっ……やっ……んぁっ……」
その声は寝ている俺のすぐ横から。誰が何をしているというのか。
「んん……ぁぁ……んっ!」
ちなみにこの声は聞いたことがある。よく聞き覚えのある声だ。喘ぎ声であろうとも、誰なのかということはすぐ分かる。
「やんっ……んっ……あぁっ……」
「…………」
右に首を傾けて様子を伺ってみると、頬を赤らめて身悶えしているミルクの姿が目の前にあった。
「あっ!……あぁっ!……んっ!」
特に何もされていないはずなのに、ぷるぷると肩や手を震わせて盛っている……ように見える。
「あっ……あぁっ!……あっ! あっ! あっ!……」
そろそろ絶頂に辿り着きそうなのか、喘ぎ声のボリュームが一際大きなものになっていく。
そしてミルクは――
「ギャァアァァァッ!?」
近所迷惑であろう断末魔の悲鳴を上げた。
「うるせぇぇぇ!!」
目覚めの悪さによって怒りが有頂天にまで引き上げられ、ベッドの上から思い切り蹴り飛ばした。
ミルクは「ぎゃふっ!?」と間抜けな声を上げて床に転げ落ちると、寝癖でボサボサになった髪を掻きながらむくりと起き上がって来た。
「ふぁぁ……。おはようございますビャクト様……」
「おはようございますじゃねぇよ! 一人であんあん喘いでると思ったら急に叫び出しやがって!どんな夢見たらそんな反応できんだよ! そもそもなんでお前が俺の横で寝てんだ!」
「ふぇ……? ふぁぁ……」
まだ半分寝惚けているのか、こくんこくんと首が秒針を刻んでいる。
「いだだだだっ!?」
眠気覚ましにアイアンクローで顔の骨を少し軋ませると、パッチリと目が見開いて一気に覚醒した。
「よし、起きたな」
「いや起きましたけども! せめてもう少し優しく起こしてくれても良いのではないですか!?」
「黙らっしゃいクソ女神。そんなことより、いつの間にか俺のベッドに潜り込んで寝ていた経緯を教えろ」
「俺のベッドと言いますが、本来はリィアさんのベッドなのでは?」
「人の揚げ足を取ろうともせんでえぇわ」
「あ、はい……。経緯と言われましても、他に寝る場所が思い付かなかったからなんですけどね」
嘘だ。こいつはこの家の世話になり始めてから部屋を一つ与えられているのだから、当然自室にはベッドがある。
「適当な嘘吹いてんじゃねぇ。お前にゃ自分の部屋があるだろうが」
「……ピノさん達に占領されてしまいまして、寝床のスペースが無くなってしまったんです」
「占領ってお前な……」
この家の二階は俺、ミルク、そして家主のリィアさんの部屋の三つしかない。
一階には部屋になるような場所がないので、家がないピノとルティーナもこの家のお世話になっている状態だ。
そこで問題なのが寝床の確保場所だ。
まともに寝られる場所は二階にしかないので、ピノとルティーナは必然的に誰かの部屋の世話になるしかなかった。
物置部屋なら二部屋ほどあるのだが、埃っぽいとのことでピノとルティーナは断固として拒否。そこで選ばれたのが他でもない、ミルクの部屋であった。
人数分の布団はあるし、寝床のスペースに関しても問題無い。だから占領されるなんてことはないはずだが……。
「ほら、今日は冒険者登録しに行く日じゃないですか。だから夜中にシフォンさんが泊まりに来ていたんですよ。ビャクト様は昨日早寝していたので知らなかったと思いますけど」
「あ〜、それでシフォンもお前の部屋で寝ることになって、お前の寝床が無くなってしまったと」
「そういうことです。理解して貰えましたか?」
「いや全然」
「……ビャクト様って実は天才に見える馬鹿だったりしますか?」
再びアイアンクロー発動。ミルクの顔の骨が更に軋む音を掻き鳴らす。
「いだだだだっ!? 嘘です冗談ですごめんなさいでしたぁ!」
謝ると同時に離してやる。相も変わらず言葉を選ばぬクソ女神め。
「お前って日に日に顔面の骨硬くなってきてねぇか? 気付いたら握り潰し辛くなってんだけど」
「ど、どうでもいいですよそんなことは。それよりも、なんで今の話で理解してくれてないんですか? 分からない部分なんて無かったと思うんですが……」
「話の内容は分かったよ。ただ、そこでお前が何故俺の元を訪れるのかが理解できねぇんだよ」
「え? むしろビャクト様以外に頼れる人なんていないじゃないですか」
「リィアさんがいるだろ。常識的に考えて普通はそっちに甘えるだろ」
「それはそうですけど、ビャクト様が極力リィアさんには迷惑掛けるなって言ってたじゃないですか。だからビャクト様を頼ったんですよ」
「そりゃ言ったにゃ言ったが……」
信用し尽くされているのか、それとも俺を男として見ていないのか、はたまた“そういうこと”に警戒心が無いだけの馬鹿なのか。こいつのこういうスペックは未だ計り知れん。
「今後は自分の身が一番安全であろう選択を選ぶようにしろ。いいな?」
「はい……?」
いまいちピンときていないご様子。うん、もう放っとこう。
支度を済ませて一人先に一階の方に降りてリビングにやって来ると、既にパーティーメンバー達が席に座って朝食を戴いていた。無論、作ったのはリィアさんだ。
「おはようございますビャクトさん。お先にご飯の方を頂いていました」
「…………」
「はぅっ……。朝から汚物を見るような目を向けてくれるだなんて、ありがたき幸せ! これだけでお米三杯分イケます!」
興奮してご飯を食べる速度が加速するドMメイド。
本当にこいつが四人目のパーティーメンバーに収まってしまったのかと思うと涙が出そうになる。
ゲームで決着つけたのだから文句の付けようがないのだけれど、やっぱり納得したくない俺がいる。
「今日は朝からご機嫌斜めかいビャクト。しょっちゅう眉間にシワ寄せてても得しないぞ〜」
「きっと朝から何かあったのよ。例えば、真横で寝ていた美少女が発情していたと思いきや唐突に奇声を上げ出して、その喧しさに血管がブチ切れそうになったとか」
「何となく勘付いてはいたが、やっぱお前の仕業かよ!」
「何の話かしら? 私はただ、熟睡していたミルクの元に昨晩こっそり訪れて、想い人に性感帯を弄られていると思っていたらその正体はエイリアンだった、という夢を見られる魔法を掛けてあげていただけよ」
「下手すりゃトラウマになる夢じゃねぇか! 打たれ弱いんだからあいつに悪戯仕掛けるのは程々にしろ!」
「あら、ミルクの身の心配をするだなんて珍しいわね」
「常識的に考えて言ってるだけだ馬鹿が!」
魔法の使いどころがズレた魔女。こいつにゃ今まで色んな魔法を見せられてきたが、他にどれだけの数の魔法を扱えるのか。宝の持ち腐れもいいところだ。
俺も席について朝食に手を付け始めた頃、二階の方からミルクが慌ただしく降りて来る音が聞こえて来た。
「皆さんおはようございます! いやぁ、朝から物凄い夢見ちゃって大変でしたよ。どんな夢を見たのかは全然覚えていないんですけどね」
忘れてるのかよ。変なところで逞しいな。
「フフッ、それは良かったわね。覚えていない方が良いことも世の中には沢山あるものよ」
どの口が言いやがるのか。こいつの神経の図太さには度々呆れてしまう。
「あっ、ごめんミルク。ミルクの分のご飯も私食べちった」
「えぇ!? 酷いですよピノさん! なんでそんなことするんですか!」
「それはほら、周りの人が食べてる物って美味しそうに見えるじゃん? 要はその原理と一緒よ」
「私まだ手も付けていないんですけど!?」
意外と食い意地が張っているピノにより、朝食を失ってしまうミルク。
涙目になってしょんぼりしていると、チラリと物欲しげな目でこっちを覗いて来た。
「じ〜…………」
「…………」
無視して黙々と食べ物を口の中に運んでいると、とぼとぼ歩いて近付いて来て、すぐ側まで来て立ち止まった。
「……ビャクト様。私のご飯が食べられてしまいました」
「ふーん」
「……お腹空きました」
「……で?」
「よ、良かったらビャクト様が作ってくれないかなぁ〜、なんて……」
「…………」
「うぅ……お腹空いたよぉ……」
「…………ハァ」
一通り朝食を食べ終えて箸をテーブルの上に置く。
「十分だけ待ってろ」
「っ!」
ショボくれた顔をパァっと明るくさせるミルク。
最早反応が犬だ。見えない尻尾がぱたぱた動いているのが見えるかのようだ。自覚があるのか無いのか……いや、無いか。
冷蔵庫の中身を確認しつつ、調味料も取り出して即座に調理に取り掛かる。
ちなみにキッチンの利用は以前にリィアさんから許可を貰っているので、食材等々を使うことに躊躇う必要性は皆無である。
「ほら、できたぞ」
宣言通りのぴったり十分後。ピノ達が食べている物とはまた違ったメニューを差し出し、食事の場を整えた。
「ありがとうございますビャクト様!」
「笑ってる暇があったらとっとと食べなさい」
「はい! 頂きます!」
幸せそうな顔で朝食にありつくミルク。美味そうに食い物食べるんだよなぁこいつ……。
「「「…………」」」
何となくミルクが朝食を食べている姿を見つめていると、今度は朝食を食べ終えている他の三人がジッと見つめて来ていた。
「何だ変態共。変態が移るから気安くガン見しないでくんない?」
「驚きました。ビャクトさんって料理上手だったんですね」
「ちょい待ちシフォン。驚くのは無理もないけど、目を付けるところはそこじゃない」
「え? そうなんですか? でも他に何かありますか?」
「あるわね。追求しておくべきことが明確に一つだけ」
「何の話をしてんだよ……」
「いやさぁ、ぶっちゃけたこと言っちゃうけど……」
ピノはチラリとミルクを一瞥すると、ジトっとした目で俺をまた見つめて、
「ビャクトってミルクだけ贔屓目で見てるよね」
理解に苦しいコメントを投げ掛けてきた。
「お前の言ってることがまるで理解できないんだが。いつものことだけどよ」
「ならもっと分かり易く言うと、ミルクに対しては甘いよねって言ってるんだよ」
「はぁ……?」
余計に訳分からなくなった。なんでそういう話になるのか。
「何をどう見たら俺がこのポンコツに甘くしていると? むしろ雑に扱ってるという自覚があるんですが」
「ダーリン気付いていないの? 貴方、ミルクから頼まれたことは愚痴を漏らしながらも殆ど聞いてあげているのよ?」
「……偶然だろ」
「いやいや偶然じゃ片付けられる量じゃないっしょ。ミルクがビャクトに頼み事するところなんてかなり見てるわけだし」
「そういえばそうですね。ここ数日ビャクトさんとミルクさんのやり取りを見掛けることが多々ありましたが、噂通りの仲の良さでした」
俺にとってその噂は悪評でしかないんですけどね。
「ビャクトさんは否定しているみたいですけど、本当は付き合っていたりするんですか? パーティーメンバーに隠し事なんてしなくて良いですから、正直に答えてください」
「だから違うと何度も言ってるだろうが! 根も葉もない噂を鵜呑みにするな!」
「でも実際仲は良いじゃん。流石にそこは認めてるでしょ?」
「良くねーよ! こいつが一方的に縋り付いて来てるだけだ!」
「でもそんなミルクを本気で突き放そうとはしない……。つまり、ダーリンはMだったのね」
「M……? Mと言いましたか今!? そうだったんですかビャクトさん!? も〜、そんなことなら早く言ってくれれば良かったのに〜! なら今後は一刻も早くドMに昇格できるよう私が直々にレクチャーを――」
「話逸れるから黙ってろクソメイド」
「迷わず一蹴! その勢いの良さが良いっ!」
パタリと上半身がテーブルの上に倒れるシフォン。飽くなき執念のドM話など聞く耳持たん。
「で、ぶっちゃけどうなのよビャクト? 好きなんか? そこの銀髪美少女好きなんか? おぉ?」
「お前マジで止めろそのおっさん臭いノリ。張っ倒したくなる」
「まぁまぁそんなことは置いといて。で、どうなのよ? 好きなの? 愛してるの?」
今までこういう話は控えていたというのに、なんで今日に限って恋バナに興味を示すのか。変態なんだから色恋にうつつを抜かす必要ないだろうに。
ただ、ここで下手にはぐらかせば、後でまた散々弄られるのが目に見えている。
ここは敢えて思っていることを洗いざらい話しておこう。
「……最初はど直球で嫌いだったな。身勝手だし、すぐ弱音吐くし、散々迷惑掛けて来るし、ロクな奴じゃねぇよ」
「バッサリ言うのね。それで?」
「ただ最近はまぁ……こいつなりに色々と頑張ってはいると思ってるよ。ひいこら言いながらも町内クエストを途中で投げ出したりせずに最後までやり通したり、家事を覚えるために影でこっそり練習してたり、努力家であることに関しては嫌いじゃねぇ」
「本人の前でそういうネタばらししちゃうんかぃ」
「飯に夢中になってるから聞こえてねぇよ。単細胞だからな」
チラリと視線を送ってやると、ミルクはこっちを見ながら首を傾げて、すぐにまた朝食を食べ始めた。
「俺はこいつが頑張ってる姿を見ているから、多少我が儘を言われても嫌々聞いてやってるだけだ。もし駄々捏ねるだけの馬鹿だったとしたら、それこそバッサリ切り捨ててるっての」
「なるほどねぇ……。で?」
「あァ?」
「ミルクのことは女の子として好きなの? 嫌いなの? なんか答えをはぐらかされてるようにしか聞こえないんだけど」
「んなこと知らんがな。そもそもこいつをそういう目で見たことねぇよ」
「へぇ……。なら、ミルクを女の子としては見ているのかしら?」
「何だその質問。他にどう見ろってんだよ」
「……フフッ」
何を思ってか、ニヤリと笑うルティーナ。
「何笑ってんのお前。キモいっつーか怖いんだけど」
「以前ミルクから聞いた話なのだけど、何でもダーリン、ミルクを女として見ていなかったみたいじゃない? その時の頃と比べると、ダーリンもミルクに対して丸くなったのね……と思っただけよ」
「丸くなったも何も、俺は元々大人しい人間だっつの」
「「……え?」」
「何言ってんのこいつ」みたいな反応を示すピノとシフォン。
「その妄言何も面白くないよビャクト。冗談はその顔だけにしてよ」
「どういう意味だこの野郎」
「いつもピノさんやルティーナさんに怒鳴り散らしているのに、それで大人しいなんて言われても説得力に欠けると言いますか……。私としてはもっと強く攻め立ててくれた方が嬉しいんですけどね。むしろそこに手癖足癖の悪さが加われば尚更――」
「お前は黙ってろっつったろクソメイド。その口ホチキスで固定すんぞ」
「そのホチキスという物は分かりませんが是非!」
実際にやったら痛いじゃ済まないというのに、無知無謀な変態ってどうかしてる。
「そもそも俺がいつもうるさいのはお前らのせいだろうが。毎日飽きもせずに奇行に走りやがって、少しは大人しくできないのか」
「失敬な。私のは奇行じゃなくて習慣だよ。ほら、私ってセクハラしないと死んじゃう人間じゃん?」
「世間にとっては害悪極まりない習慣だな」
「私は気分屋だからその日その日でやりたいことが変わるのよ。毎日であるよりはマシだとは思わないかしら?」
「まぁ最近は夜に襲って来ないようになったし、お前は比較的大人しい方……とでも言うと思ったか魔女が。お前の奇行が一番怖いわ」
「わた――」
「奇行の塊が弁解できると思うなよ」
「ついに発言権すら剥奪ですか。その非情さがまた素晴らしい!」
「とにかく、俺が毎度うるさいのはお前らが発端だからな。少しでも申し訳ないと思ってんなら自重しろ」
「じゃあ問題無いや。悪いとか一切思ってないし」
「右に同じよ」
「つまりは更に私が暴走すれば、今まで以上のお仕置きをしてもらえるということですね!ムフッ、ムフフッ……」
「何なのお前ら……」
反省の色無し。常日頃から使っている『自重しろ』という言葉だが、耳が腐るほど言っても無駄らしい。
「ご馳走様でした〜」
与太話に時間が割かれていると、ミルクが一品も残さずに朝食を食べ尽くしていた。
良い食べっぷりだ。その細い身体の何処に吸収されているのやら。
「ミルクの場合は胸だと思うわよ」
「心を読むな!」
油断も隙もあったものじゃない……。
「皆さん、先程から楽しそうにお話していますね。どんな話題で盛り上がっているんですか?」
「ビャクトがミルクにどれだけ欲情してるかって話だよ」
「欲情してんのはお前の方だろうが! いい加減なこと言うな!」
「むしろ一切欲情してないビャクトの方が頭おかしいと思うけどなぁ。寝て起きたら美少女が隣で寝てるとか、私だったら起こさないように脱がせに掛かってるところだよ」
そういうことを真顔で言えるこいつの神経を疑う。
「ピノさんのセクハラ話はどうでもいいとして、本当はどんなお話を?」
「……ミルクって私にだけ当たりキツくね?」
それだけのことを過去にしたのだから自業自得である。
「本当はダーリンの恋バナよ。貴女のことが好きなのか嫌いなのか問い掛けていたところなの」
「え!? 私ですか!?」
興味津々な反応を示してワクワクしながら俺を見つめて来る。
「それでそれで? ビャクト様はなんと答えていたんですか?」
「好き嫌いはともかく、ミルクさんのことを女の子としては見ているようですよ」
「それは大きな進歩ですね! 最初は足枷としか思われてませんでしたから!」
そりゃ今も思っていることなんだが。
「それと、ミルクさんの頑張り屋なところを褒めていましたよ。影でこそこそ家事の練習をしていたことも見抜いていたようです」
「いやまぁ、観察眼の鋭いビャクト様のことだからいつかはバレると思っていたんですけどね。何も見られていないと思っていましたが、実は気遣ってくれていたんですねビャクト様」
「……偶然だ」
「あっ、デレた。ぷぷっ〜、ビャクトのデレとか可愛くね〜」
反射的にピノにアイアンクローを仕掛けようとしたが、咄嗟にサッと避けられてしまう。無駄にフットワークの軽い奴だ。
「でも実際にダーリンは面倒見が良いと私も思うわ。なんだかんだ言っても私達のために色々とやってくれているもの」
「洗濯、掃除、料理をしているところは毎日見掛けるね。最早お母さんじゃん」
「何度か夕食をご馳走になりましたけど、食事バランスを考えたメニューですよね。私にだけは骨っ子一本でも良いと言っても、逆に料理の量を足してくれるくらいですし」
「そうでしょうそうでしょう。口が悪いところはありますけれども、基本的にビャクト様は思いやりのあるお方なんです。私は最初から知っていましたけどね!」
誇らしげに「えへんっ」と胸を張るミルク。本来それは俺が取るべきアクションなのでは?
「良かったなぁビャクト。お前はいつか良い嫁になれるよ」
「誰が嫁だ。むしろ俺が嫁を貰いたいわ」
「ここに一人立候補者がいるのだけど」
「クソビッチはこっちから願い下げなんで」
「夜伽の腕には自信があるわよ?」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「ちなみにビャクトさんの女性の理想像って何ですか?」
「それをお前らに教える義理はねぇ」
「黒髪ストレートの笑顔が素敵な清楚系和服美少女、だそうよ」
「お前そろそろ本気で黙らせんぞ?」
「なら口を閉じる代わりにテレパシーで会話するわ」
「だからそういう問題じゃねぇんだよ! もういいだろ与太話は! 時間経ったしそろそろ行くぞ!」
「あっ、逃げた」
一人先にそそくさと家を出て行く。
何だか妙なひと時を過ごしてしまった。どいつもこいつも小馬鹿にしやがって、近いうちに必ず報復してやる。
……今晩のメニューは少し豪華にするか。




